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立原正秋『きぬた』1976・文春文庫-凛としたこころの父親を描く

2024年10月25日 | 小説を読む

 2018年のブログです

     *    

 またまた本棚の隅っこに古い小説を見つけ出して、読んでしまいました。

 立原正秋さんの『きぬた』(1976・文春文庫)。

 じーじがまだ大学生の頃の本です(当時からこんな暗い小説を読んでいたんですから、やっぱりかなりネクラの大学生だったんでしょうね)。

 内容を一言で紹介するのはとても難しい小説で、あらすじもあえて書きませんが、生きる道に迷った男性とそれに翻弄される女性たち、そして、それらを静かに見守る主人公のこころの父親を描く、といったところでしょうか。

 もっとも、端正で、正確で、美しい日本語で知られる立原さんの小説ですので、登場人物の造形や内面描写はしっかりしていますし、男女の愛憎や親子の確執が描かれていても、底流には美しさへの希求が流れていて、読後感は悪くありません。

 立原さん独特の醜いものへの容赦のない切り捨てはありますが、一方で、弱きものへの心温かさも厳然として読み取れます。

 この小説、今回、久しぶりの再読でしたが、とてもおもしろく読めて、2日で読んでしまいました。 

 若い頃にはおそらく読めていなかった箇所も、この年になってようやくわかるようになったというところが結構あったように感じました。 

 凛としたこころの父親、というのは、主人公が育ったお寺の寺男をしていた老人のことで、この小説の真の主人公ではないかとじーじには思えます。

 お寺経営に走る実父とは対照的に、生きる道に迷った主人公を温かい眼で見守り続ける姿はとても素敵です。

 こういう男性像に若い時に憧れてしまうと、じーじのようにその後の人生で苦労をすることになりかねませんので、要注意です。

 しかし、きっと、こんな道を求めて、じーじはこれからも歩んでいくのだろうな、という悪い予感(?)もしています。

 この年になっても、そう思えるくらいのいい小説を再び読めて、幸せな2日間でした。           (2018. 10 記)

 


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