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2017年を迎えました。皆様にとって、健康で実りある年となることをお祈りいたします。
ホセ・クーラは、新年にあたって、フェイスブックにメッセージを掲載しました。トップに掲載した画像の左側のイラストをそえて、以下のような内容でした。
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“2016年は世界にとって本当に厳しい年だった。2017年も、すべての面でさらに厳しくなりそうだ...。
しかし、もし、善良な人々が力を合わせれば、ダメージを最小限に抑えることができる!
この友好関係を求める私たちすべては、手をつなぎ、前に足を踏み出そう! Peace and Love! ”
一般的なあいさつや、祝賀気分ではなく、社会的なメッセージを込めているところが、クーラらしいです。
さて、今年は、クーラにとって、本当に挑戦の年、アーティストとしての新しい地平をまたひとつ拓く年になると思われます。
●ワーグナーに初挑戦の年
今年はじめてのオペラ公演は、2月の19、22、25、28日、モンテカルロ歌劇場です。
演目は、ワーグナーのタンホイザーのタイトルロール。クーラにとって、はじめてのワーグナー挑戦となります。
しかも、めずらしいパリ版フランス語上映。もちろん新プロダクションです。
→ 詳しくは、ブログの記事 「(緊急告知編) 2017年 ホセ・クーラ ワーグナーのタンホイザーに初挑戦」を
モンテカルロ歌劇場HPより
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――ついに実現するワーグナーでのデビュー(2016年9月のリエージュでのインタビューより再掲)
Q、2007年のインタビューでは、2010年にコンサート形式でパルジファルを歌うと聞いたが?
A、私はドイツ語を怖れ、自分のスコアを知っていたが、コンサート形式なら可能だろうと思い、受け入れた。しかしコンサートは残念ながらキャンセルされた。
Q、ついに2017年2月に、モンテカルロでワーグナーのタンホイザーにデビューするが?
A、タンホイザーは、偉大で、巨大な、非常に難しい役柄であり、私は怖ろしく怯えていることを告白しなければならないが、もし私がマスターしていない言語でそれを解釈しなければならないならば、それは単に不可能だっただろう。少なくとも、フランス語版のおかげで、私はワーグナーを歌うことができる。
Q、このフランス語版タンホイザーのプロジェクトはどのように始まった?
A、私がヴェルディのオペラ、スティッフェリオのためにモンテカルロ歌劇場に行った時、Jean-Louis Grindaは、タンホイザーのパリ版をやりたがっていた。彼が私に提案し、私はやりたかったと答えた。そして、それがフランス語で正式に書かれた唯一のワーグナーであるので、私の唯一のワーグナーへの挑戦となるだろうと思う。
Q、言語だけでなく、長さも問題になる?
A、私はタンホイザーと苦闘している。キャラクターのなかに意味を見いだすために、多くの労力を費やす。音楽が展開するにつれて、つぎつぎ現れ、3秒で表現されている可能性すらあるメッセージをつかみとるために。
レトリックはワーグナーのスタイルの一部であり、その音楽の美しさは信じられないほどだ。しかし、イタリアオペラのリズムに慣れ、「リアリズム」の演技のなかにいる人間には、多くの思考が必要であり、私はバランスを見つける必要がある。
●はじめての英語のオペラ、ブリテンのピーター・グライムズの主演・演出
もうひとつの大きなチャレンジは、5月にドイツのボン劇場で、初めてのブリテンのオペラ、ピーター・グライムズに、演出・舞台デザインと主演でのぞむことです。長年、やりたいと願ってきたピーター・グライムズがはじめて実現します。しかも演出も。
重責ですが、大変な喜びだと思います。
ボン劇場のHPより、日程
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キャスト、スタッフ
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――最大のチャレンジ、ピーター・グライムズ(同じく、2016年9月のリエージュでのインタビューより再掲)
Q、2016-17シーズン中のもう一つの冒険、20世紀の英語のオペラで歌い、演出する?
A、ピーター・グライムズは、私のキャリアにおける最大のチャレンジ。
私はいつも、これを歌うことが夢だと言い続けてきたが、ボン劇場の人々が、私のインタビューでそれを読み、私を雇った。そしてまた、私は誘惑に抵抗できなかったために、演出もおこなう。
ブリテンにおいて、私はほとんどゼロからスタートする必要があり、特に美学、言語、音楽、30年の歌のキャリアの後に、これは非常にリフレッシュになる。
台本は本当に信じられないすごさ、素晴らしいスコア、音楽とアクションとの間の結びつきは総合的で、私自身にとっては、ワーグナーよりも、はるかに快適な方法だ。このプロジェクトは、私の情熱を大いに鼓舞してくれる。
Q、ホセ・クーラにとって、残っている探求は?
A、私のキャリアにおいては、私を魅了し、最も喜びを与えてくれるキャラクターにアプローチし、そして、私が快適に感じ、人びとに何らかのおもしろいものを提供できる場所で過ごすことができた。アーティストとして幸運である場合、期待にこたえ、妥協を受け入れず、自分自身に対して厳しくあることが不可欠だ。
私は、歌手として夢見たすべてをやることができた。まだピーター・グライムズが残っていたが、今シーズン、歌えることになった。成熟した役柄のためには、何年もかかる。明らかに、成熟度の点では、最初のピーター・グライムズは、250回演じたオテロのようにはいかない。だから私は、かなりの時間をかけて、ブリテンの英雄を解釈することができるよう願っている。
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いつも好奇心とチャレンジ精神をもち、リスクを恐れず、新しいこと、おもしろいこと、価値あることを求めて、歩み続けるクーラ。
それぞれの挑戦が、成功し、豊かな経験と成果をもたらしてくれることを願うばかりです。
この他、2017年のスケジュールについては、スケジュールを紹介した以前の投稿、そしてクーラの公式カレンダーをご参照ください。
●ナレーターに初挑戦
チャレンジといえば、昨年、クーラは、ドキュメンタリーのナレーターの仕事でもデビューしました。
それは、イタリアの有名な高級赤ワイン、アマローネのワイナリーをとりあげたドキュメンタリーの、スペイン語版のナレーションです。
アマローネは、クーラが最初に欧州に移り住んだヴェネト州ヴェローナ近郊で生産されているそうです。クーラの好きなワインの1つでもあるとのこと。
ワインづくりの地道で丹念な手仕事の伝統は、クーラとも共通するものを感じます。
ナレーターデビューを紹介したクーラのFB
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動画の初めの方と、終りに近い部分で流れるスペイン語のナレーションがクーラです。YouTubeより
Masi. El Sabor del Tiempo de A. Segre
ドキュメンタリーの監督は、アンドレア・セグレ。移民問題など取り上げた映画で、たいへん評価の高い監督で、社会学者だそうです。
移民を迎え入れ、民族や人種による差別を乗り越えた寛容で民主的な社会を探求する監督が、イタリアの土壌に根差した食文化、伝統と熟練の技で守り続けられているワイン醸造のドキュメンタリーを手掛けているというのは、たいへん興味深く、示唆に富むことのように思います。
それぞれの民族、地域の、良い伝統文化を大切にし守るということと、他民族、移民を受け入れ、共存するということは、決して矛盾するものではないのだといことを伝えようとしているように思われます。
クーラ自身もアルゼンチンから、1991年にヴェローナに移住してきました。当時イタリアで移民排斥の勢力が伸長し、やむなくフランスに移り住んだ経験をインタビューで語ったこともあります。そういうクーラが、このヴェローナ近郊で生産されるワインのドキュメンタリーでナレーターをつとめたことに、私は少し胸が熱くなりました。
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