人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

ホセ・クーラ フェイスブックでファンの質問に答える(3) / Jose Cura answered the questions of his fans

2017-01-26 | ファンの質問に答えて



ホセ・クーラの、フォロワーからの質問に何でも答えてくれるコーナー「QUIZ ME ABOUT...」紹介、今回で3回目、これでとりあえず最後です。
これまでのは → (1)  (2)

今回は、若い歌手からの質問に対するアドバイス、ここには日本の学生さんからの質問もあったようです。
そして、クーラのつよい信念でもある、オペラ歌手における演技と歌唱の切り離せない関係性、などに関する回答を紹介したいと思います。

いろいろなインタビューでも繰り返し語られているテーマではありますが、ファンの質問にたいして、直接クーラが自身がフェイスブックに書き込んだ回答ですので、いっそうリアルで、率直な内容になっているのではないかと思います。

繰り返しますが、語学力不足のために、誤訳やニュアンスの違いがあるかと思います。非力ゆえご容赦いただくとともに、直接、クーラのフェイスブックの2016年6月頃のポストをご覧いただきますようお願いします。


**************************************************************************************************************************

――若い人からの質問に対して

Q、高音を歌う前に、私は怖がってしまう。 あなたはその気持ちとどうやって戦う?また母音をうまく歌えないが、どのような訓練方法が良い?

A、このための近道はない。テクニック!


Q、優れた声と堅実なテクニックを持った若い才能ある人々が、オペラ歌手としてのキャリアをスタートさせるための助言は?

A、(すでに一定の準備ができた段階であることを確認したうえで)私は当たり前の助言をするつもりはない――エージェントを探す、オーディションを受ける、等々。それはあまりにも当然で、あなたはすでにそうしていなければならない。

私はあなたに、私が非常に若い時に先生が与えてくれたのと同じ、現実的なアドバイスだけをしたい――“すべてのお金を1頭の馬だけに賭けてはいけない..."。

この仕事は、以前のようではなくなっている。ある面では、人間的な質の要素における衰退のため、ある面では分配されるべきケーキの部分(予定されていたお金としてのスポンサー、公的助成)が以前より小さくなったために。そして、それに比例して、汚い貪欲さは増大している...。

最終的には、夢を追い求めるのを止めずに、あなたの夢のため、頑張り、激しくたたかえるように自分自身を準備しよう!

しかし、注意が必要だ――あなたは蜃気楼のうしろで人生すべてを浪費したくはない。
ある時点で、もしあなたが、正直なところ、自分を"そのもの"にすることができないと分かった時には、小規模な劇場、脇役、合唱団など、いつでも、芸術の業界の非常に優れたプロフェッショナルになることができる。

誰もがスターであることを「運命づけ」られているわけではない。..
同様に、すべてのいわゆる「スター」が、そうみなされるに値するというわけではない...。





――声のコンディション、年を重ねた将来のこと

Q、声の状態によって、あなたのパフォーマンスは左右される?


A、歌手は声だけではない。歌手の楽器は全身だ。
例えば、しばしば起こることだが、私には背中の痛みがあり、私のエネルギーは痛みによって消耗してしまう。
したがって全体としては、忘れられないほどの公演はごくわずかだ。経験とテクニックは、そうした悪い時に対処するためにある。
しかし、私が身体的にも精神的にも、最高の状態にある時には、花火だ。 あなたが知っているように。


Q、あなたはテナーからバリトンに変わる?そういう人をどう思う?

A、おかしな話だ!これまでも、時が来たら、ソプラノはメゾに変わってきた。また、いつも、そうするテノールはいた。
しかしドミンゴがそれをすると、誰もが、彼が最初にやったと思う...。
私は何度も言ってきたが、それぞれのアーティストは、彼/彼女が最高だと信じている方法で作品を発表する権利がある。
聴衆は、それに従うか、否かについて、同じ権利を有する。


Q、あなたは65歳や75歳でまだ主役をやっていると思う?

A、私は、自分は出演をしていると思う。
ストップ。私が何を演じるのか、もしかすると、テナー、バリトン、バス、または歌を歌わずに演じる・・それはわからない。
それは私の体の年齢の重ね方しだいであり、またケアの仕方、遺伝にも左右される。これまでのところ、私は白髪ではあるが、残りの部分については不平を言うことはできない。私の顔にはしわはなく、声にも...。





Q、常にキャラクターの描写に全力をあげているが、オペラでの演技に対するあなたのアプローチは?

A、私のモットーは、ドラマの俳優は俳優であり、歌手は歌手、しかし、オペラのパフォーマーは(そう呼ばれる人ではなくて、本当の)は驚異的な存在である ―― オペラ歌手は、俳優のように良い演技者であり、偉大な歌手のように良い歌手にならなければならず、両方のものが組み合わさった時、比類のない驚きが生まれる。

問題は、今日において、誰かを俳優と呼ぶように(現代の映画の技術のおかげ)、同様に、オペラを歌う人はオペラ歌手だという事実だけにもとづいて、誰かをオペラ歌手と呼んでいること...(ため息!)。

ノー。
オペラを歌う人は、オペラ歌手、そうだ。しかし、たとえ彼が世界で最高の歌手であっても、オペラ・パフォーマーではない。
メロドラマ(音楽のドラマ)を専門とする、歌手・俳優として等しく優れているのが、オペラ・パフォーマーだ。
我々がこの定義を受け入れる時、我々はたぶん、前に進むだろう。

私の演技方法が嫌な人もいる。彼らは、私が歌と同じように演技を重要視していることが受け入れられないために...。
これへのコメントはない――気づいてくれてありがとう!

私は言うが、私たちが将来、オペラの公演をしようと望むのなら、私たちは考え方を変えるか、または私たちの芸術の形に別れを告げる。なぜなら、現在の世代の多くの人々、そして将来のほとんどすべての人々が、それを彼らの文化的ニーズのための選択肢とはみなさないだろうから。

イエス。オペラについていく少数派は常にいるだろうが、投資を正当化するのに十分な人ではなく、州政府は劇場への支援を撤回するだろう。また、オペラを愛するためではなく、商業的利益のためにそこにいる私的スポンサーも。

我々は、価格を下げることによって、古典芸術をみんなに届けることについて、たくさん(無駄に何度も)話しあっている。これは役にたたないデマゴギーだ。
オペラ座に行くチケットは、サッカーのチケットよりも安い。つまり、同じレベルの席では、2つの主要チームの試合を見るよりも、ウィーン国立歌劇場に行くほうがはるかに安い。
だから価格は、人々が劇場に行かない理由ではない。退屈、それが多くの場合だ。
楽しい時間を過ごすことができるとわかっているから、レアル・マドリード、バルセロナやバイエルン・ミュンヘンのチケットを喜んで買うのと同様に、ショーにカリスマ的なパフォーマンスが含まれていることを知っているなら、オペラに行くためにもお金を支払うだろう。





Q、あなたは経験したことのないような役柄をリアルに演じるが、役にどうやって接近する?

A、誰もが描写の技術で才能を持っているわけではない。だからこそ、ドラマの俳優は、この才能がないなら、どんなキャリアも築くことはできない。つまり、彼は、まず演劇学校に入ることさえ考えられないだろう。

意外にも、オペラにおいては、ここから問題が始まるのだが、このことは主な懸念ではない。きちんと歌うことができれば、彼らは、ある日、必要な演技のスキルをあなたの頭に入れることができるだろうと期待して、音楽学校に入学が認められるだろう。

間違っている。オペラのパフォーマーとして訓練される学校に入学するための試験は、歌と演技の両方で同じように厳しくなければならない。さもなければ、ふさわしいショーを創る時が来たときに、私たちが知っているあらゆる問題を引き起こし、キャリアの本質がその出発において崩壊する。
そして、オペラのパフォーマーが、まともなダンサー、そして、多くの役で必要な戦いの振り付けなどのために、適切なファイター(主に男性)でなければならないということは言うまでもない。

ここまでは、理想。さて、あなたは私がどうやってやるのかを聞いてきたわけだが?

奇跡はない。俳優の訓練。歌手としてのトレーニング。武道の訓練。基本的なダンストレーニング(たとえダンスが私の得意分野ではないとしても...)、武器(銃、ライフル、剣)の使用法、等々・・。
奇跡も、驚きもない。

そう、才能。才能はいつか木に成長する種。木、自体ではない。
したがって、あなたはそれを植え、水をやり、土壌を豊かにし、間違った枝を切り、葉を健康に保ち、害虫やその他の危険な動物を遠ざけるようにする必要がある(ビジネスにおいては、それが多い――私を信じてほしい)、等々。そして、多分、ある日、あなたはアーティストになるかもしれない。

人々は、なぜそれを、焦らずにすすまなければならないのか、私に尋ねる。なぜキャリアが長いことが重要なのか?
私は答える。「アーティストのプロジェクト」を「熟達したアーティスト」に変えるために、それだけの長さのキャリアが必要だからだ。
これを短くする方法はない。ウィキペディアの解決策もソフトウェアの助けもない。
時間。よく使用され、適切に資本にされた時間。


******************************************************************************************************************


若いアーティストに対して、夢をあきらめないための努力とともに、時には、スターになれないとしても、決断して他の場所で優れたプロフェッショナルになれると、きわめて現実的で、温かい激励をしているのは、またクーラらしいと思います。

指揮者、作曲家をめざしながら、アルゼンチンの軍政後の経済的混乱のなかでは思うようにならず、家族を守り、生きていくために、合唱団やいろんな仕事を経験したクーラ。そして、渡欧して、オペラ歌手として、国際的なキャリアが拓けていくなかで、夢を失わず、努力を続けるなかで、本来の志望であった指揮者、作曲家としての活動の場を得ることができ、そしてさらには演出、舞台デザインなど、多面的な活動を発展させています。

オペラ歌手に求められるのは、単なる歌手でも役者でもなく、歌と演技の両方で卓越したパフォーマーであるというのは、クーラの一貫した信念であり、彼のアーティストとしてのユニークな特質でもあります。長年のキャリアをへて、今まさに、彼自身、成熟したオペラのパフォーマーとして、アーティストとして、結実の時を迎えているように思います。

3回にわたってしつこく(笑)紹介してきましたが、この質問回答コーナーは、昨年の6~7月にクーラのフェイスブック上で取り組まれたものです。私が出した質問にも答えてもらえたということもあり、私には本当に楽しく、興味深い企画でした。クーラ自身も大いに楽しんで回答を書いてくれたようです。
また開設された時には、ぜひ、これを読んでくださった皆さんも、質問を寄せて、クーラとの対話を楽しんでみてはいかがでしょうか。







*写真は2016年ドブロブニク・サマーフェスティバルの報道などからお借りしました。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする