人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

ホセ・クーラとロベルト・アラーニャ / Jose Cura and Roberto Alagna

2017-09-08 | 同僚とともに



今年(2017年)7月に、ロンドンのロイヤルオペラでトゥーランドットのカラフに出演したロベルト・アラーニャ。実はこのプロダクションは大変な長寿で、ホセ・クーラも2008、9年に出演しています。

アラーニャ夫妻がカラフとリューで出演したこの舞台は、ネットで公式に公開されたので、ご覧になった方も多いかと思います。
一方のクーラの舞台は、残念ながら録画も録音も見当たりません。写真もごくわずかです。

今回は、このプロダクションに出演した際のクーラの写真を紹介しつつ、クーラとアラーニャについてとりあげてみたいと思います。

これまでのクーラと同僚についてとりあげた投稿(ホロストフスキー、マルセロ・アルバレス)もお読みいただければうれしいです。





《 2人の歩み 》

――シチリア移民の家庭、フランス生まれのアラーニャ

ロベルト・アラーニャは、1963年6月生まれ。
イタリア・シチリアからの移民の両親のもと、フランスのパリ郊外の出身だそうです。




――レバノン、イタリア・フランス移民のルーツ、アルゼンチン生まれのクーラ

クーラは1962年12月生まれですから、半年ほどクーラの方が早いですが、現時点(2017年9月)では同じ54歳です。
祖父母がレバノン、イタリア・スペインからの移民のルーツをもつ両親、アルゼンチンのロサリオの出身です。
アラーニャもクーラも、どちらもラテンの血を引く、イタリアのルーツをもつ移民の一家という点で、共通していますね。




――若くから歌ってきたアラーニャ、指揮者・作曲家志望のクーラ

2人とも、家族が音楽好きで、幼いころから音楽に囲まれ、親しみながら育ったことでも同じようです。
アラーニャは、フランス版ウィキペディアによると、何人かの音楽の教師との重要な出会いがあったようですが、ほぼ独学で歌を学び、22歳まで実際にパリのキャバレーで歌っていたそうです。家族を支えるということもあったのでしょうか。

クーラは、指揮者・作曲家が幼いころからの夢で、12歳から作曲、15歳から合唱団の指揮者として活動し、大学でも指揮と作曲を専攻しました。しかし当時のアルゼンチンは軍事独裁政権下で、民主化後も経済的な混乱が続いたために、指揮者や作曲家として食べていくことは難しく、25、6歳から、歌手として本格的な活動をはじめました。ストリート・ミュージシャンとしてお金を稼いだ経験もあるそうです。1991年にイタリアに移住しています。

音楽への歩みは対照的ですが、それぞれ様々な人生経験と苦労を経たのちに、歌手としての国際的なキャリアに踏み出しました。
重要な契機となったのは、アラーニャは1988年のルチアーノ・パヴァロッティ国際声楽コンクールの優勝、クーラは1994年のプラシド・ドミンゴ主宰のオペラリア優勝だったようです。


《 異なる個性、近年は同じ役柄も 》

その後、世界各国の歌劇場にデビューし、現在まで活動してきた2人ですが、2人は声質も歌唱スタイルや個性も大きく異なっています。
もともとリリックな声、ロマンティックな歌唱のアラーニャ、そして強く暗い声、ドラマティックな歌唱スタイルのクーラ。当初はレパートリーもかなり違いましたが、近年ではアラーニャが、次々に重い役柄に挑戦しているので、カラフをはじめ、オテロ、カニオ、サムソンなど、長年クーラが歌ってきた役柄のほとんどをアラーニャもレパートリーにしているようです。

2009年にはニューヨークのメトロポリタン歌劇場で、カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の同じプロダクションを、それぞれ月替わりで演じたこともありました。残念ながら両方とも動画を見ることができません。同じ2009年に2人が歌った「衣装をつけろ」を、アラーニャはオランジュの舞台の動画を、クーラはメトロポリタンですが音声だけのものを。

Roberto Alagna | Ext. I PAGLIACCI (Orange 2009)


Jose Cura 2009 "Recitar! ... Vesti la Giubba" Pagliacci


声も歌い方もかなり違いますね。私の印象としては、暗い声で、より演劇的なクーラ、明るい声で、より歌唱的な(こういう言葉があるのかわかりませんが)アラーニャ、という感じがします。


《 ロンドンのカラフ 》

ロンドンのトゥーランドット、今年のアラーニャの舞台は録画がネットで放送されたので、ご覧になったかたも多いかと思いますが、クーラ出演の舞台は、残念ながら録音も録画もありません。いくつかネット上から写真をお借りして紹介します。

●アラーニャのカラフ











現在ではロンドンの舞台動画は見ることができないようですので、2012年これもオランジュの舞台からアラーニャの「誰も寝てはならぬ」を。
"Nessun dorma" Roberto Alagna HD720



●クーラのカラフ











クーラのロンドンでの録音は見当たりませんので、2014年、同じオランジュの野外劇場ですがコンサートでのクーラの「誰も寝てはならぬ」を。
Jose Cura 2014 "Nessun dorma" Turandot


ロンドンのアラーニャのカラフと、他の舞台でのクーラのカラフを聞いて比べた感想としては――リューへのきめ細かな愛情表現(相手が奥さんだからなおさら?)、丁寧でやさしい印象、トゥーランドットへの愛を表現しているアラーニャのカラフに対して、クーラの方は、傲慢で権力志向、父やリューへの思いも浅薄で、トゥーランドットを力で組み伏せようとするカラフ。ある意味で正反対、オペラのドラマの解釈の違いにもとづいているのでしょう。歌唱スタイルや声も違い、好みも分かれるところと思いますが、それぞれに魅力があります。
クーラのカラフも、同じロンドンの舞台の録画で観てみたかったと思いました。
 

《 アラーニャの温かい人柄――クーラの紹介したエピソードより 》

同じテノールというと、ライバル関係のように考えられるかもしれませんが、実際は、忙しく世界を飛び回るオペラ歌手同士、劇場で顔を合わせれば、終演後に一緒に食事に行ったりする、と以前クーラはインタビューで語っていました。テノールはそれぞれ主役のことが多いので、共演機会はあまりないと思いますが、公演期間中に同じ劇場で会うこともあるのでしょう。

次の画像は、以前クーラが自分のFBに、アラーニャの温かい人柄を示すエピソードを紹介したものです。

2013年9月、ウィーン国立歌劇場でオテロに出演したクーラ。イアーゴはロールデビューのホロストフスキー、デズデモーナはアニヤ・ハルテロスという豪華メンバーでした。この公演時、クーラは持病の腰痛・背中痛が発症して、非常に苦しみながらキャンセルせずに舞台をつとめていたようです。そしてその楽屋を訪問したアラーニャ。以下、クーラのコメントを紹介します。





――クーラのFBのコメントより

「あなたたちの多くはすでに、私がウィーンのオテロの最初の公演中に、ひどい背中の痛みに苦しんでいたことを知っている。
私のいつもの、ばかばかしい脊椎のトラブルは、ショーの2時間前に私を襲った。私は文字通り、2つに壊れるようにして歌った。
ロベルト・アラーニャは公演中で、彼は舞台の前と後、両方にあいさつを言いに来た。彼は本当にナイスガイで、私たちはそれぞれのキャリアの初期から、良き同僚だった。

14日(2013年9月)、ロベルトは私に、その日を思い出させた―― 2006年に私たちが一緒に日本に行って、プロモーション写真の撮影のためにポーズをとり、彼が私を地面から持ち上げたときのことを。そしてオテロの終演後、彼は、私を家に運んであげると申し出た・・。"なんて優しい"、私は言った。 "でも、あなたはずっと若かったし、私ももっとずっと軽かった... !!!"。

実際あったこととして、この有名な写真を見つけたので、それを共有したいと思った!」


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2006年にボローニャ歌劇場の来日公演で、アラーニャ、ファン・ディエゴ・フローレスとともに来日した時の写真ですね。
クーラの来日は、今のところ、この時が最後となっています。
この3人で雑誌の表紙も飾っていますね。




アラーニャとクーラ、50代半ばとなり、それぞれ円熟の時を迎えています。精力的にオペラ、コンサートに出演し、レパートリーを広げ、世界各地の歌劇場で活躍し続けているアラーニャ。ワーグナーのローエングリンにデビュー予定という情報も入ってきました。一方、本来の志望である指揮、作曲活動や演出に軸足を移しつつ、ワーグナーのタンホイザーや英語オペラピーター・グライムズなどの新しい挑戦を続けるクーラ。2人とも自分のルーツ、母国の音楽の紹介にも熱心に取り組んでいます。
個性やキャリアの方向は違いますが、それぞれユニークで尊敬すべきアーティストとして、それぞれのめざす道をつきすすんでいってほしいと思います。




コメント (2)
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