どうもこんばんは~。みなさま、今日も一日お疲れさまでした! そうだいです。
最近、私の住んでいる千葉は暑かったり涼しかったり、晴れたりどしゃ降りになったり、毎日のお天気がめまぐるしく変わっております。まさになんちゅうか、夏と秋とがせめぎあっているっていう感じですねぇ。いろいろあった2012年の夏が去っていくのはさみしくもあるような、ホッとする部分もあるような。とにもかくにも、体力的にしんどいこときわまりない猛暑が終わりを告げそうなのはありがたいです。今年もシャワーと水風呂と扇風機にはたいへん助けられました……みんな、よくやってくれた。ありがとう! あ、あと、今年から参入してくれた冷却ジェルシートくんも、ありがとう。クールだったね!
さて、そんなこんなで「なぁ~つのおぉ~わぁ~りぃ~♪」をことあるごとに感じてしまう本日9月3日。私は東京の千駄ヶ谷に行って、友だちと一緒に、私の大好きな画家さんの個展を観に行ってまいりました。
さやか 個展 『超、ちょう、ありがとう!!』 9月3~14日開催 場所・千駄ヶ谷 ギャラリー・エフ
ギャ~! 行ってよかったのは当たり前。目の前に大好きなお方による、本物のお仕事の数々が!!
JR千駄ヶ谷駅から歩いて5分ほど、ビルの地下にあるギャラリー・エフは展示スペースが5メートル四方ほどの非常にひかえめな空間だったのですが、その壁には所せましと、さやか先生による最近の絵画作品が23点も展示されていました。なんというはなやかさ!
さやか先生の作品世界の魅力は、やっぱりその色彩感覚の絶妙さと、描かれている人物の魅力にあるんじゃないでしょうか。
まず色彩感覚というところから言うと、さやか先生の世界は「鮮やかさ」と「淡さ」、「原色」と「中間色」、「洋」と「和」のあいだをひじょ~に自由自在に行き来している軽さというか、フットワークのよさがあるんですよね。いや、まぁフットワークというとまだまだイメージが重たくて、羽根を広げて空を飛んでいる鳥か蝶のかろやかさ、とたとえたほうがいいでしょうか。
私が最初にさやか先生の存在を知ったのは、去年だったかおととしだったかに、岩井志麻子の小説をあらかたざっと読むブームが到来して、新潮文庫版の長編『べっぴんぢごく』(文庫版は2008年出版)のカヴァー絵を見てビビッときたときでした。
当時の私は結局、岩井志麻子という小説家は、人間の人生のある劇的な瞬間をとらえる才能に長けた短編小説向きな「写真家」気質であって、起承転結のある長いリズムを持った長編小説をつむぐ「映画監督」的な部分はあんまり得意じゃないんじゃなかろうか、という結論をもってブームを終焉させました。なんか、力を入れているらしいシーンの描写はものすんごい迫力があっていいんですけど、いっつもどの作品でも、これといったインパクトのある締め方をしていないような気がするんですね。「みんな不幸になりましたとさ。ハイおしまい。」みたいな、セックスのあとに無言でそれぞれ服を着だすみたいなぬるっとした終わり方しかなくないっすか!? そういった点からも、岩井さんがフィクション小説よりもエッセイに比重を移していくようになっているのは当然のことだと思うんです。
ところがこの、さやか先生がカヴァー絵を担当した『べっぴんぢごく』は、私が唯一、岩井さんの作品の中で非常におもしろいと感じたフィクション小説でした。女性の「美醜」と「愛憎」という、岡山いわいパークお得意のテーマを取り上げていながら、ある一族の百年の歴史という枠におさめることによって、単なるスナップショットの羅列ではない、「血縁」というどうしようもないつながりによるひと続きの物語として見事に成立しきっていたのです。まだピンピンしている妙齢の女性をつかまえて言うのもなんですが、この『べっぴんぢごく』は、小説家・岩井志麻子の最高傑作と断言してよろしい作品だと思います。
んで、んで! 話が岩井志麻子にそれすぎてしまいましたが、その『べっぴんぢごく』の表紙をかざったのがさやか先生の絵なのでした。
明治にはじまり平成に終わる、岡山県山間部のある名家の物語らしく、表紙にうつっているのはひとりの和服を着た少女。黒いきものに紫の帯、橙の帯締めに空色の下ひもというなかなかアグレッシブな配色なのですが、全体を少女自身の真っ白な肌の色と、あられもなくはだけたふとももの下にしかれている桃色の腰巻きの2色が引き締めています。
こうやって色の紹介だけをすると、やけにカラフルな印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、こういったいろどりを、あくまでも「淡く」彩色しているのがさやか先生ならではの筆致でして、純和風の『べっぴんぢごく』にあわせて、「ブラック」というよりは「鴉の濡れ羽色」、「パープル」というよりは「ゆかり色」、「ピンク」というよりは「桃色」、というように実にバランスの取れた前に出すぎない色彩になっているのが非常によかったんです。惚れたねぇ~、この1枚で!!
さて、それから数年後。
私が再びさやか先生の絵に出会ったのは2011年、私が愛してやまない小説家・辻村深月先生の長編小説『本日は大安なり』のハードカヴァー版を手に入れたときでした。
実は当初、この本を手にとったとき、私は『べっぴんぢごく』と『本日は大安なり』それぞれのカヴァー絵の画家が同一人物だという事実にすぐには気づきませんでした。
『べっぴんぢごく』は先ほど申し上げたとおりの「和風えろちっく」主体だったわけなのですが、『本日は大安なり』はタイトルどおり現代の結婚式場が舞台となっているため、全体に舞い散る赤い花びらや飛び交う白い鳩、ウエディングケーキやかじりかけの真っ赤なリンゴといったキーワードを背景にして、いかにも結婚式におもむくといった感じのドレスを身にまとった若い女性が正面向きに立っているという構図になっています。つまりは全体的に明るい「白」や「赤」といっためでたいことこの上ない「洋風ポップ」なイメージになっているわけなんですね。しかも、『本日は大安なり』のカヴァー絵は今回の個展でも展示されていたのですが、表紙のサイズだけではおさまらない非常に大きなつくりになっていて、ちょうど裏表紙にまわった折り返しの部分に、この『本日は大安なり』本来の主人公であるはずの少年がちょこっと描かれているのがとってもいい配置になっています。この少年の、蛭子良収のマンガの登場人物なみにテンパッている表情が実にいいです。
最初のうちは私も、まさかこの絵のぬしがあの『べっぴんぢごく』も描いているお方だとはつゆとも知らずにフツーに「いい絵だなぁ。」なんて思っていたのですが、眺めているうちに、絵の中の「ある一部分」に明らかな既視感があることに気がつきました。デジャ・ヴュってやつよ!
それはも~あなた、ここ! 「女性のくちびる」!! あっ、ちょっとみなさん、引かないでください。
だって、ホントにそうなんだからしょうがない。「あざやかさ」と「淡さ」、「洋」と「和」、「めでたさ」と「淫靡さ」というふうにあらゆる点で対照的だった『本日は大安なり』と『べっぴんぢごく』は、その世界に生きている人物の「くちびるのプリッと感」という唯一のポイントによって見事にリンクしていたのです。点と点とが線でつながったァ!!
これはもしや!! あわてて本棚から『べっぴんぢごく』を引っぱりだした私は、それぞれのカヴァー絵を担当した人物の名前を確認して「やっぱり……」という結論に至ったわけだったのです。どっちも、「さやか」というお人が描いてた!
これによって、私の「さやか先生ゾッコンLOVE 体制」は江戸幕藩体制なみに磐石のものとなったのですが、その後も、今回の個展にいたるまでにいろんな局面でさやか先生のことを思い起こさせる出来事は続きました。
改めて認識してみると、実はさやか先生のカヴァー絵は本屋さんのいたるところで見つけることができるのですが、そんな中でも、特に河治和香という作家さんの時代小説『紋ちらしのお玉』(2010年 角川文庫)のカヴァー絵には目を見張ってしまいました。
いやぁまず、江戸時代を舞台とした小説だということで、描かれている女性(お玉さん)のまとっている着物の見事な濃淡のグラデーションも素晴らしいんですが、なにがいいって、その表情!!
にんともかんとも、的確に文字で言いあらわせないのが実にもどかしいのですが、いい顔してるんだなぁ~、特にその、眉にうっすら浮かんだ、さざ波のような微妙なゆれ!
「あきらめ」、「自嘲」、「幸福」、「野心」、「過去」、「哀愁」……そして、「色気」!!
すばらしい。即座に「お玉さん、なにがあったんすか!?」と話が聞きたくなる表情をしているのです。無言でいながら、ここまで言葉豊かな、そのかんばせ! グッと人の心をわしづかみにする「大江戸ファム・ファタール」ですね。
まいっちゃったねぇ、どうにも。ともあれ、カヴァー絵になっている小説の内容の出来いかんは別にして、私は現時点ではこの『紋ちらしのお玉』の絵がいちばん好きです。他の絵もみんな好きなんですけど、頭ひとつぬきんでているんですなぁ。
こんな新発見もあって、もっと好きになったさやかワールドだったのですが、具体的に私と今回の先生の個展とが結びつくきっかけとなったのが、もうひとつの奇跡的な出来事。
最近そ~と~久しぶりに会うようになった大学時代の友だちが、さやか先生とも友だちだった! イッツァ、ミラコ~。
これにはたまげたぜ……今年2012年になって久しぶりに会った友だちと、それまでのそれぞれの生活も含めてあれこれ話をしていたら、その友だちに、数年前に同じ場所で働いて以来のつきあいが続いている画家の女性がいるという話になったのです。
「へぇ~、どういうお名前なの? その方。」
なにげなく質問した私は、友だちの答えを聞いて思わず、飲んでいた無農薬コーヒーを噴きだしてしまいました。
「さやかっていう名前でやってるよ。」
オイィイ!! そのお方、あたくし大ファンよォ!
驚くべきことでした。だって、2012年になってその友だちと連絡を取らなかったら、そして、それぞれの近況をたっぷり話してなにげなく「絵を描いている友だち」という交友関係に話題が触れられなかったら、つまるところさやか先生の個展の存在を私が知ることもなかったかもしれないのですから……人生はふしぎな出逢いの連続ですよねェ。
とにかく、そのさやか先生のファンだということを友だちにまくしたてた私は、ついでに『本日は大安なり』を通じて同じく大好きな辻村深月先生のオススメもしておきつつ、どうにかしてさやか先生にお会いできるチャンスはないものかと打診を続けていたのでした。そして、今月の千駄ヶ谷のギャラリーでおこなわれる個展の情報を聞きつけて、それが現実のものとなったわけなのです。なんたる光栄!!
あと、もうひとつのうれしい出来事として、「さやか&辻村深月」という私にとっての最強タッグが、今年6月に刊行された角川文庫版の短編集『ふちなしのかがみ』で再び組まれたことも見逃せませんね。
これはもともと2009年にハードカヴァー版が出ていたのですが当時はさやか先生のカヴァー絵ではなく、文庫化に際して新たにさやか先生の作品が表紙を飾ることとなりました。
『ふちなしのかがみ』のさやかワールド……これは、いいですね。ポップ&インモラル、プリティ&デンジャラス!!
これはまさしく、今ならどこの書店に行っても文庫本コーナーに平積みになっているはずなので、まだ観ておられない方は是非とも一見していただくことをおすすめしたいのですが、タイトルの「かがみ」を意識してか、ひとりの少女の姿が鏡にうつって2人ぶんの像に見えているような構図が描かれています。ところが、よくよく細部を見てみると「1人が2人に見えている」とは言いがたい要素もチラホラ見えていて、これは……という幻想的な気分におちいってしまう奥深さがあるのがステキですね。
ん~、これはエロい! 観れば観るほどエロい!! なにがエロいってあーた、私がかつて『べっぴんぢごく』や『本日は大安なり』で目を奪われてしまった「女性のくちびる」が、他ならぬ彼女自身のくちびると重なりあっているのです! なんじゃぁあこらぁア!!
なんということなのでしょう。ここでのさやかワールドは、すでに過去の『べっぴんぢごく』のときにみたような、ふとももや腰巻きといったもののあからさまなエロさとは比較にならないレベルに昇華していってしまったのです。
おそるべきことや……こんな表紙、私が老中・松平定信やったら即刻出版差し止めでさやか先生は手鎖モノやで……なんで関西弁なんかはよう知らへんけど。
果たして、この『ふちなしのかがみ』で見せたさやかさんのエロティシズムが「裏」なのか「表」なのかはわかりませんが、今回の個展『超、ちょう、ありがとう!!』は、全体的にピンクや空色が大胆におどるポップな作品がにぎやかに配置されたとっても元気な展示になっていました。小説家のカヴァー絵を担当することの多い先生なので、テーマは現代ものから江戸ものまで幅広いのですが、どの作品でも登場人物、小道具のすみずみにいたるまでエネルギーが満ち満ちているのには驚きました。
たとえば、単行本や文庫本のカヴァーならばそれなりに納得のいく配色もされて世に出るわけなのですが、月刊誌の連載小説の挿絵になってしまうと、絵を表現するにはちょっと条件のよくない単色印刷になってしまうし、その雑誌を本屋さんが並べているうちに購入した人の目にしかつかない作品になってしまうわけなのです。
ところが! そういう作品にもさやか先生はちゃ~んと全力を注いでカラー彩色をほどこしていたりして、原画の状態でならべれば他の表紙絵とまったく遜色のない素晴らしさになっていたりするのです。要するに、プロの仕事っていうものは、採算や力加減を度外視したところに本当の輝きが生まれるんじゃないんだろうか、なんてことも感じてしまいました。才能ってやっぱ、セーブしようとしてセーブできるもんじゃないのね。出るもんは出るうちに出しとく! そういう豪胆さをさやかさんの作品の中に見たおもいでした。
そして、私は少なからず緊張しつつ、個展初日ということで在廊されていた、さやか先生ご本人との対面にのぞんだわけだったのですが……
とにかく明るい方でした。まさしくほんとに、来た人全員に「超、ちょう、ありがとう!!」と言ってまわっておられそうな、元気いっぱいで、若く、ステキな、美しい女性だったのです。
いや~……意外と予想外だったりして。なんてったって、最初に拝見した作品が『べっぴんぢごく』だったものなので、もっと作品だけにエネルギーのはけ口を求める感じの、辛酸なめ子さんみたいな落ち着いた方かと思ってました。
陽気な方だったね……だとすれば、現在のポップな画調はそのまんま、ご自身の充実ぶりを如実に反映しているのでしょう。
ギャラリーを訪れたお客さんも本当に多くてにぎやかで、展示されている作品にふさわしく元気いっぱいな個展初日になったようにお見受けいたしました。
これからも、さやかワールドのさらなる発展に注目していきたいです。
現時点では明るい色調のポップさがさらに奔放に、さらに豊かに広がっているわけなのですが、明るい世界が強くなると同時に、『ふちなしのかがみ』に見られるような「エロスの闇」もそれに比例して濃密になっていくわけで、またどういった「ド肝を抜く」新作が拝見できるのか、今から楽しみで夜も眠れません。
まずはさやか先生、個展初日お疲れさまでした! 14日の最終日まで、いろんなファンの方々に会ってエネルギーをもらってくださ~い。
最近、私の住んでいる千葉は暑かったり涼しかったり、晴れたりどしゃ降りになったり、毎日のお天気がめまぐるしく変わっております。まさになんちゅうか、夏と秋とがせめぎあっているっていう感じですねぇ。いろいろあった2012年の夏が去っていくのはさみしくもあるような、ホッとする部分もあるような。とにもかくにも、体力的にしんどいこときわまりない猛暑が終わりを告げそうなのはありがたいです。今年もシャワーと水風呂と扇風機にはたいへん助けられました……みんな、よくやってくれた。ありがとう! あ、あと、今年から参入してくれた冷却ジェルシートくんも、ありがとう。クールだったね!
さて、そんなこんなで「なぁ~つのおぉ~わぁ~りぃ~♪」をことあるごとに感じてしまう本日9月3日。私は東京の千駄ヶ谷に行って、友だちと一緒に、私の大好きな画家さんの個展を観に行ってまいりました。
さやか 個展 『超、ちょう、ありがとう!!』 9月3~14日開催 場所・千駄ヶ谷 ギャラリー・エフ
ギャ~! 行ってよかったのは当たり前。目の前に大好きなお方による、本物のお仕事の数々が!!
JR千駄ヶ谷駅から歩いて5分ほど、ビルの地下にあるギャラリー・エフは展示スペースが5メートル四方ほどの非常にひかえめな空間だったのですが、その壁には所せましと、さやか先生による最近の絵画作品が23点も展示されていました。なんというはなやかさ!
さやか先生の作品世界の魅力は、やっぱりその色彩感覚の絶妙さと、描かれている人物の魅力にあるんじゃないでしょうか。
まず色彩感覚というところから言うと、さやか先生の世界は「鮮やかさ」と「淡さ」、「原色」と「中間色」、「洋」と「和」のあいだをひじょ~に自由自在に行き来している軽さというか、フットワークのよさがあるんですよね。いや、まぁフットワークというとまだまだイメージが重たくて、羽根を広げて空を飛んでいる鳥か蝶のかろやかさ、とたとえたほうがいいでしょうか。
私が最初にさやか先生の存在を知ったのは、去年だったかおととしだったかに、岩井志麻子の小説をあらかたざっと読むブームが到来して、新潮文庫版の長編『べっぴんぢごく』(文庫版は2008年出版)のカヴァー絵を見てビビッときたときでした。
当時の私は結局、岩井志麻子という小説家は、人間の人生のある劇的な瞬間をとらえる才能に長けた短編小説向きな「写真家」気質であって、起承転結のある長いリズムを持った長編小説をつむぐ「映画監督」的な部分はあんまり得意じゃないんじゃなかろうか、という結論をもってブームを終焉させました。なんか、力を入れているらしいシーンの描写はものすんごい迫力があっていいんですけど、いっつもどの作品でも、これといったインパクトのある締め方をしていないような気がするんですね。「みんな不幸になりましたとさ。ハイおしまい。」みたいな、セックスのあとに無言でそれぞれ服を着だすみたいなぬるっとした終わり方しかなくないっすか!? そういった点からも、岩井さんがフィクション小説よりもエッセイに比重を移していくようになっているのは当然のことだと思うんです。
ところがこの、さやか先生がカヴァー絵を担当した『べっぴんぢごく』は、私が唯一、岩井さんの作品の中で非常におもしろいと感じたフィクション小説でした。女性の「美醜」と「愛憎」という、岡山いわいパークお得意のテーマを取り上げていながら、ある一族の百年の歴史という枠におさめることによって、単なるスナップショットの羅列ではない、「血縁」というどうしようもないつながりによるひと続きの物語として見事に成立しきっていたのです。まだピンピンしている妙齢の女性をつかまえて言うのもなんですが、この『べっぴんぢごく』は、小説家・岩井志麻子の最高傑作と断言してよろしい作品だと思います。
んで、んで! 話が岩井志麻子にそれすぎてしまいましたが、その『べっぴんぢごく』の表紙をかざったのがさやか先生の絵なのでした。
明治にはじまり平成に終わる、岡山県山間部のある名家の物語らしく、表紙にうつっているのはひとりの和服を着た少女。黒いきものに紫の帯、橙の帯締めに空色の下ひもというなかなかアグレッシブな配色なのですが、全体を少女自身の真っ白な肌の色と、あられもなくはだけたふとももの下にしかれている桃色の腰巻きの2色が引き締めています。
こうやって色の紹介だけをすると、やけにカラフルな印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、こういったいろどりを、あくまでも「淡く」彩色しているのがさやか先生ならではの筆致でして、純和風の『べっぴんぢごく』にあわせて、「ブラック」というよりは「鴉の濡れ羽色」、「パープル」というよりは「ゆかり色」、「ピンク」というよりは「桃色」、というように実にバランスの取れた前に出すぎない色彩になっているのが非常によかったんです。惚れたねぇ~、この1枚で!!
さて、それから数年後。
私が再びさやか先生の絵に出会ったのは2011年、私が愛してやまない小説家・辻村深月先生の長編小説『本日は大安なり』のハードカヴァー版を手に入れたときでした。
実は当初、この本を手にとったとき、私は『べっぴんぢごく』と『本日は大安なり』それぞれのカヴァー絵の画家が同一人物だという事実にすぐには気づきませんでした。
『べっぴんぢごく』は先ほど申し上げたとおりの「和風えろちっく」主体だったわけなのですが、『本日は大安なり』はタイトルどおり現代の結婚式場が舞台となっているため、全体に舞い散る赤い花びらや飛び交う白い鳩、ウエディングケーキやかじりかけの真っ赤なリンゴといったキーワードを背景にして、いかにも結婚式におもむくといった感じのドレスを身にまとった若い女性が正面向きに立っているという構図になっています。つまりは全体的に明るい「白」や「赤」といっためでたいことこの上ない「洋風ポップ」なイメージになっているわけなんですね。しかも、『本日は大安なり』のカヴァー絵は今回の個展でも展示されていたのですが、表紙のサイズだけではおさまらない非常に大きなつくりになっていて、ちょうど裏表紙にまわった折り返しの部分に、この『本日は大安なり』本来の主人公であるはずの少年がちょこっと描かれているのがとってもいい配置になっています。この少年の、蛭子良収のマンガの登場人物なみにテンパッている表情が実にいいです。
最初のうちは私も、まさかこの絵のぬしがあの『べっぴんぢごく』も描いているお方だとはつゆとも知らずにフツーに「いい絵だなぁ。」なんて思っていたのですが、眺めているうちに、絵の中の「ある一部分」に明らかな既視感があることに気がつきました。デジャ・ヴュってやつよ!
それはも~あなた、ここ! 「女性のくちびる」!! あっ、ちょっとみなさん、引かないでください。
だって、ホントにそうなんだからしょうがない。「あざやかさ」と「淡さ」、「洋」と「和」、「めでたさ」と「淫靡さ」というふうにあらゆる点で対照的だった『本日は大安なり』と『べっぴんぢごく』は、その世界に生きている人物の「くちびるのプリッと感」という唯一のポイントによって見事にリンクしていたのです。点と点とが線でつながったァ!!
これはもしや!! あわてて本棚から『べっぴんぢごく』を引っぱりだした私は、それぞれのカヴァー絵を担当した人物の名前を確認して「やっぱり……」という結論に至ったわけだったのです。どっちも、「さやか」というお人が描いてた!
これによって、私の「さやか先生ゾッコンLOVE 体制」は江戸幕藩体制なみに磐石のものとなったのですが、その後も、今回の個展にいたるまでにいろんな局面でさやか先生のことを思い起こさせる出来事は続きました。
改めて認識してみると、実はさやか先生のカヴァー絵は本屋さんのいたるところで見つけることができるのですが、そんな中でも、特に河治和香という作家さんの時代小説『紋ちらしのお玉』(2010年 角川文庫)のカヴァー絵には目を見張ってしまいました。
いやぁまず、江戸時代を舞台とした小説だということで、描かれている女性(お玉さん)のまとっている着物の見事な濃淡のグラデーションも素晴らしいんですが、なにがいいって、その表情!!
にんともかんとも、的確に文字で言いあらわせないのが実にもどかしいのですが、いい顔してるんだなぁ~、特にその、眉にうっすら浮かんだ、さざ波のような微妙なゆれ!
「あきらめ」、「自嘲」、「幸福」、「野心」、「過去」、「哀愁」……そして、「色気」!!
すばらしい。即座に「お玉さん、なにがあったんすか!?」と話が聞きたくなる表情をしているのです。無言でいながら、ここまで言葉豊かな、そのかんばせ! グッと人の心をわしづかみにする「大江戸ファム・ファタール」ですね。
まいっちゃったねぇ、どうにも。ともあれ、カヴァー絵になっている小説の内容の出来いかんは別にして、私は現時点ではこの『紋ちらしのお玉』の絵がいちばん好きです。他の絵もみんな好きなんですけど、頭ひとつぬきんでているんですなぁ。
こんな新発見もあって、もっと好きになったさやかワールドだったのですが、具体的に私と今回の先生の個展とが結びつくきっかけとなったのが、もうひとつの奇跡的な出来事。
最近そ~と~久しぶりに会うようになった大学時代の友だちが、さやか先生とも友だちだった! イッツァ、ミラコ~。
これにはたまげたぜ……今年2012年になって久しぶりに会った友だちと、それまでのそれぞれの生活も含めてあれこれ話をしていたら、その友だちに、数年前に同じ場所で働いて以来のつきあいが続いている画家の女性がいるという話になったのです。
「へぇ~、どういうお名前なの? その方。」
なにげなく質問した私は、友だちの答えを聞いて思わず、飲んでいた無農薬コーヒーを噴きだしてしまいました。
「さやかっていう名前でやってるよ。」
オイィイ!! そのお方、あたくし大ファンよォ!
驚くべきことでした。だって、2012年になってその友だちと連絡を取らなかったら、そして、それぞれの近況をたっぷり話してなにげなく「絵を描いている友だち」という交友関係に話題が触れられなかったら、つまるところさやか先生の個展の存在を私が知ることもなかったかもしれないのですから……人生はふしぎな出逢いの連続ですよねェ。
とにかく、そのさやか先生のファンだということを友だちにまくしたてた私は、ついでに『本日は大安なり』を通じて同じく大好きな辻村深月先生のオススメもしておきつつ、どうにかしてさやか先生にお会いできるチャンスはないものかと打診を続けていたのでした。そして、今月の千駄ヶ谷のギャラリーでおこなわれる個展の情報を聞きつけて、それが現実のものとなったわけなのです。なんたる光栄!!
あと、もうひとつのうれしい出来事として、「さやか&辻村深月」という私にとっての最強タッグが、今年6月に刊行された角川文庫版の短編集『ふちなしのかがみ』で再び組まれたことも見逃せませんね。
これはもともと2009年にハードカヴァー版が出ていたのですが当時はさやか先生のカヴァー絵ではなく、文庫化に際して新たにさやか先生の作品が表紙を飾ることとなりました。
『ふちなしのかがみ』のさやかワールド……これは、いいですね。ポップ&インモラル、プリティ&デンジャラス!!
これはまさしく、今ならどこの書店に行っても文庫本コーナーに平積みになっているはずなので、まだ観ておられない方は是非とも一見していただくことをおすすめしたいのですが、タイトルの「かがみ」を意識してか、ひとりの少女の姿が鏡にうつって2人ぶんの像に見えているような構図が描かれています。ところが、よくよく細部を見てみると「1人が2人に見えている」とは言いがたい要素もチラホラ見えていて、これは……という幻想的な気分におちいってしまう奥深さがあるのがステキですね。
ん~、これはエロい! 観れば観るほどエロい!! なにがエロいってあーた、私がかつて『べっぴんぢごく』や『本日は大安なり』で目を奪われてしまった「女性のくちびる」が、他ならぬ彼女自身のくちびると重なりあっているのです! なんじゃぁあこらぁア!!
なんということなのでしょう。ここでのさやかワールドは、すでに過去の『べっぴんぢごく』のときにみたような、ふとももや腰巻きといったもののあからさまなエロさとは比較にならないレベルに昇華していってしまったのです。
おそるべきことや……こんな表紙、私が老中・松平定信やったら即刻出版差し止めでさやか先生は手鎖モノやで……なんで関西弁なんかはよう知らへんけど。
果たして、この『ふちなしのかがみ』で見せたさやかさんのエロティシズムが「裏」なのか「表」なのかはわかりませんが、今回の個展『超、ちょう、ありがとう!!』は、全体的にピンクや空色が大胆におどるポップな作品がにぎやかに配置されたとっても元気な展示になっていました。小説家のカヴァー絵を担当することの多い先生なので、テーマは現代ものから江戸ものまで幅広いのですが、どの作品でも登場人物、小道具のすみずみにいたるまでエネルギーが満ち満ちているのには驚きました。
たとえば、単行本や文庫本のカヴァーならばそれなりに納得のいく配色もされて世に出るわけなのですが、月刊誌の連載小説の挿絵になってしまうと、絵を表現するにはちょっと条件のよくない単色印刷になってしまうし、その雑誌を本屋さんが並べているうちに購入した人の目にしかつかない作品になってしまうわけなのです。
ところが! そういう作品にもさやか先生はちゃ~んと全力を注いでカラー彩色をほどこしていたりして、原画の状態でならべれば他の表紙絵とまったく遜色のない素晴らしさになっていたりするのです。要するに、プロの仕事っていうものは、採算や力加減を度外視したところに本当の輝きが生まれるんじゃないんだろうか、なんてことも感じてしまいました。才能ってやっぱ、セーブしようとしてセーブできるもんじゃないのね。出るもんは出るうちに出しとく! そういう豪胆さをさやかさんの作品の中に見たおもいでした。
そして、私は少なからず緊張しつつ、個展初日ということで在廊されていた、さやか先生ご本人との対面にのぞんだわけだったのですが……
とにかく明るい方でした。まさしくほんとに、来た人全員に「超、ちょう、ありがとう!!」と言ってまわっておられそうな、元気いっぱいで、若く、ステキな、美しい女性だったのです。
いや~……意外と予想外だったりして。なんてったって、最初に拝見した作品が『べっぴんぢごく』だったものなので、もっと作品だけにエネルギーのはけ口を求める感じの、辛酸なめ子さんみたいな落ち着いた方かと思ってました。
陽気な方だったね……だとすれば、現在のポップな画調はそのまんま、ご自身の充実ぶりを如実に反映しているのでしょう。
ギャラリーを訪れたお客さんも本当に多くてにぎやかで、展示されている作品にふさわしく元気いっぱいな個展初日になったようにお見受けいたしました。
これからも、さやかワールドのさらなる発展に注目していきたいです。
現時点では明るい色調のポップさがさらに奔放に、さらに豊かに広がっているわけなのですが、明るい世界が強くなると同時に、『ふちなしのかがみ』に見られるような「エロスの闇」もそれに比例して濃密になっていくわけで、またどういった「ド肝を抜く」新作が拝見できるのか、今から楽しみで夜も眠れません。
まずはさやか先生、個展初日お疲れさまでした! 14日の最終日まで、いろんなファンの方々に会ってエネルギーをもらってくださ~い。
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