は~いどうもこんにちは! そうだいでございます~。
いや~関東は涼しくなった涼しくなった。本日土曜日の千葉は、本当にすごしやすいステキな秋の休日になりました。っつってもまぁ、私はこれからふつうに働きに行くんですけどね……土日があまり関係ねぇ!
え~、さっそくズババンと本題に入ってしまいますが、先週に実家の山形県山形市に帰省してきまして、そのついでに話題のあの映画、実写版『るろうに剣心』(監督・大友啓史 主演・佐藤健 134分)を観てきたぞ、というお題でございます。
いや~なんだか、今日22日時点でのニュースによりますと、観客数200万人突破の興行収入25億円越えだとか。公開から1ヶ月ほどたつのに勢いはいまだおとろえず、かっ飛ばしてますなぁ!!
山形の映画館はねぇ~、ホントにきれいなのよね。私が行ったのは JR山形駅ちかくのシネコンだったんですけど、とっても快適に楽しんでまいりました。
実写映画版『るろうに剣心』、おもなスタッフ&キャスティング情報はこんな感じです。
監督 …… 大友 啓史(『ハゲタカ』『龍馬伝』)
脚本 …… 藤井 清美(『豆富小僧』)・大友啓史
音楽 …… 佐藤 直紀(『ALWAYS 三丁目の夕日』『龍馬伝』)
緋村剣心 …… 佐藤 健(23歳)
神谷薫 …… 武井 咲(18歳)
相楽左之助 …… 青木 崇高(むねたか 32歳)
明神弥彦 …… 田中 偉登(たけと 12歳)
高荷恵 …… 蒼井 優(27歳)
鵜堂刃衛 …… 吉川 晃司(47歳)
斎藤一 …… 江口 洋介(44歳)
戌亥番神 …… 須藤 元気(30歳)
斬鋼線の外印 …… 綾野 剛(34歳)
武田観柳 …… 香川 照之(46歳)
山県有朋 …… 奥田 瑛二(62歳)
ってなわけで、さっそく単刀直入に感想を言いますと、
やっぱり、おもしろかったね!
お話の展開、登場人物のキャラクター、舞台の背景美術やロケーション、そして俳優陣の演技。すべてが非常に正攻法で理想的な「娯楽映画」になっていたんじゃないでしょうか。だいたい2時間15分、だれることもなくとっても楽しく観ることができました。
前にも言ったように、この実写映画版は、泣く子も黙る天下の『週刊少年ジャンプ』で一時代を築いた時代劇バトルアクションマンガ『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』(原作・和月伸宏 1994~99年連載)の内容のうち、ごく序盤のエピソード群「明神弥彦編」「斬左編」「黒笠編」「高荷恵編」(第1~30話)あたりをリミックスしたような流れになっています。
つまりは、いかにも実写映画版の第1弾といった空気を読んで、非常にオーソドックスに主人公・緋村剣心の壮大なるサーガの「とっかかり」だけを描いたものになっているわけです。
ご存知の通り、原作『るろうに剣心』はざっくりまとめてしまいますと、それら明治10年代の日本の新首都・東京で剣心の周囲に主要なレギュラーキャラクターが集まっていく総称「東京編」を第1部とするのならば、剣心にとって最大最凶のライヴァルともいえる名悪役・志々雄真実(ししお まこと)一派との全面対決を熱く描く「京都編」をへて、幕末にみずからが犯した人斬りの闇に剣心が向き合い、過去にとらわれるか未来へあゆんでいく新生の道を選ぶかの岐路に立つ「人誅(じんちゅう)編」をもって一巻の終わりとする3部作構成になっています。
したがって、連載終了からゆうに10年以上も経過しているのに今なお語り継がれる『るろうに剣心』の魅力の核心ともいえる、アクションマンガとしての頂点をむかえた「京都編」や、緋村剣心の贖罪の物語の終結をつづる「人誅編」は、今回の実写映画版ではまったく描かれておらず、そういう意味では、この映画は多くの原作ファンにとっては、まさしく「えっ、まだ始まったばっかなのにおしまい!?」な内容になっていると思うんです。
その点、確かに私そうだいも、映画を観るまでには、
「ええ~……武田観柳がラスボスって。『スーパーマリオ』で言ったらノコノコ級の敵じゃん! おもしろいのか?」
という危惧を少なからずいだいてしまっていたのですが、映画本編を観終わって、その思いはまったくの杞憂であったことに安堵いたしたのでありました。いや、やっぱ武田観柳は小物だったんですけど。
現実に大ヒットを記録している今回の実写版『るろうに剣心』のいいところを一言で要約してしまいますと、こういうことになるかと思います。
「原作の肝をガッシリつかんでたら、大胆なアレンジ&お遊びもオールオッケー!!」
これですねぇ。「原作の肝」というのは、言うまでもなく主人公である剣心の「暗い過去」のことだと思います。明治時代という、名目上「いくさのない」時代を生きる者として、剣心は幕末の「伝説の人斬り・緋村抜刀斎」というおのれの前身をひた隠しにして飄々と流浪の旅を続けていこうとします。しかし、そんな剣心の過去を知る人物や、強者が弱者を踏み潰していく変わらぬ社会の構造が、いやおうもなく剣心を闘いの世界に引きずり込んでいってしまうわけなのです。
つまり、『るろうに剣心』の世界は「闘いたくないでござる……」という剣心を、他のいろんなキャラクターたちがあっちからこっちから引っぱりまわして「オレと闘え!」「いや、ワシと闘え!!」「剣心、闘わないで~!」とイジりたおしていくという、「血なまぐさいモテ期」の克明なる記録となっているのです。う~ん、にんともかんとも『ジャンプ』だわ。
そういう点で、なにはなくともドカンと「主人公は緋村剣心です!!」という存在感を物語の中心にすえて、主役の佐藤健くんへのピントをまったくブレさせなかった大友監督の視点は大正解だったと思います。
「忘れたい過去を背負う男」がいるというポイントさえつかんでいたら、『るろうに剣心』は少々のアレンジが加わっても十二分に『るろうに剣心』たりえる、ということを雄弁に証明しているのが今回の実写映画版だったと思うんだなぁ。
さて、じゃあその一方で、私から見た実写映画版の「大胆なアレンジ&お遊び」というものはどんなものだったのかといいますと。
ざっと以下の通りになりますでしょうか。
1、緋村剣心のキャラクターが原作よりも若くなり、「かげのある薄気味悪い青年」になっている
2、原作ではまだ登場していないはずの斎藤一が、警視庁の警部として物語に深く関わってくる
3、斎藤一と緋村剣心との関係が原作ほど近くない
4、武田観柳が薬物中毒の完全な「狂気の人」になっている
5、鵜堂刃衛(うどう じんえ)・戌亥番神(いぬい ばんじん)・外印(げいん)が武田観柳に雇われた刺客という立場になっている
6、戌亥番神(いぬい ばんじん)と外印(げいん)のキャラクター設定が原作とまるで違う
これらの他にももちろん、今回の2時間ちょいの上映時間にまとめるために、「明神弥彦の初登場エピソード」「比留間喜兵衛・伍兵衛兄弟」「原作で武田観柳が雇っていた四乃森蒼紫(しのもり あおし)率いる元・江戸幕府御庭番衆」といった重要な諸要素がまるごとカットされているといった、原作との大きな相違もありますね。
ただし、こうずらずらっとならべると直接の原作となったマンガ(コミックス版1~4巻にあたる)からずいぶんと離れた内容になっているようにも感じられるのですが、実はよくよく見てみますと、
「原作の浦村警察署長=映画の斎藤一」
「原作の鵜堂刃衛+四乃森蒼紫=映画の鵜堂刃衛」
「原作の武田観柳+比留間兄弟の剣術道場地上げエピソード=映画の武田観柳」
「原作の元御庭番衆・式尉(しきじょう)=映画の戌亥番神」
「原作の元御庭番衆・般若(はんにゃ)=映画の外印」
といったように、だいたいの主要エピソードが「原作と違うキャラクター」によってほぼカヴァーされていることがわかります。具体的ないれものは違っているものの、今回の映画がしっかり原作の骨子をおさえている流れになっているということがわかりますね。上でいう5、や6、のアレンジがまさにこういうことです。
でも、戌亥番神と外印は気持ちいいくらいに別人でしたね……まぁ、おもしろかったからいいですけど。剣心と外印のバトルはスピーディでよかったなぁ。
全国にそれぞれ2、300人くらいはいるんじゃないかと勝手に私がふんでいる戌亥番神ファンと外印ファンは、やっぱ怒ってるのかな。でも、本来この2人が活躍する「人誅編」を映像化するにあたってこんな変更がほどこされた、ということでもなくあくまでも特別出演のような扱いなので、それほど大きな改変のように見えないのが、今回の映画の巧妙なところですね。これで鵜堂刃衛や相楽左之助に同じようなアレンジがあったらいけないわけです。
逆に、今回の映画で目立った活躍の場が用意されなかった明神弥彦と浦村署長(演・斎藤洋介)は、ちょっとふびんなくらいに影が薄かったですね……特に斎藤さんはあれ、別に斎藤さんじゃなくてもよかったっつうか、浦村署長自体いなくてもよかったんじゃない!? 無念なるかな斎藤洋介さん、別の「斎藤さん」を演じる「洋介さん」に出番をまるっと盗られてしまいました。
でも、鵜堂刃衛に襲撃されて死屍累々となった警察署の惨状を見て鎮痛な表情を浮かべる斎藤洋介さんのたたずまいは、すばらしかったね……だって、「オレも20年前には『帝都大戦』っていうヒドい映画でこんな目に遭ってたもんだ。」というペーソスがハンパないんです。実に味わい深いお顔。
じぇんじぇん関係ないですけど、実家に帰ったときにやっと観た NHK朝ドラの『梅ちゃん先生』、あれ、南果歩さんが基本的にモンペに割烹着姿の役で出てたでしょ?
いつ、ふすまをガラッとあけて将校マントの加藤保憲(演・文句なしに嶋田久作)が出てきて、果歩さんが「加藤……!!」ってつぶやいてサイキックウォーズを展開するのかと思って、身がまえちゃったよ。そう感じたのは私だけじゃないはずです……たぶん。
話を元に戻しまして、原作と実写映画の相違点をひとつひとつ見ていきましょう。
1、に関しては、なんと言っても佐藤健くんの持つ雰囲気を重視したというか、実際に若い俳優さんが緋村剣心を演じるにあたってムリのない範囲で主人公を演じてみたらこうなった。こういうことになるんじゃないでしょうか。
私の感覚では、原作の緋村剣心は物語の時点(1878年)で数え年30歳ということもあり、暗い過去を背負いつつも、おもてむきは明るい微笑みをたやさない、ちょっと抜けたところもある気のいいお兄さんといった印象がありました。
でも、映画版の健くんはもっと幕末の記憶を「切り離せないもの」としてすぐ近くにおいているイメージがあって、ふだんからちょっと怖い雰囲気をおびているんですね。もちろん笑うときはさわやかに笑うし「おろ?」とトボけたりもするんですが、次の瞬間にでも「人斬り抜刀斎」に戻ってしまうような冷たさがかなり色濃く残っているです。
そのへんは、二面性を使い分けなければならない健くんの演技力の限界ということも、もしかしたらあるのかも知れませんが、私としてはそれ以上に、あの NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)で、史実の「人斬り以蔵」こと岡田以蔵の役を生々しく演じきった健くんを剣心役に抜擢した大友啓史監督の意図的な演出であるような気もするんです。
つまり、実写映画版『るろうに剣心』の緋村剣心は、原作マンガの緋村剣心と同じかそれ以上に、「もし『龍馬伝』の岡田以蔵が明治維新後も生き延びていたら……?」というあたりの想像を強くかきたてるキャラクターになっていたような気がするんですね。
そして有名な話ですが、原作マンガの中で作者が最も強く岡田以蔵のイメージを投影させた登場キャラクターは、実写映画版での事実上のラスボスとなった鵜堂刃衛です。
緋村剣心と鵜堂刃衛が「伝説の人斬り」という同じ根っこを持ちながらも、明治という新時代をまったく違った哲学に基づいて生きているという構図は原作でもしっかり描かれているのですが、実写映画版もまた、『龍馬伝』という経験をへてこの対比をきわめて明瞭にクローズアップしているわけなのです。やっぱりここでも、映画は原作にちゃんとよりそっている! グッジョブ!!
余談ですが、おおもとの『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』や実写映画版の「パラレルワールド」として現在連載されている和月先生おんみずからによる新シリーズ『るろうに剣心 キネマ版』では、緋村剣心は基本的に襟巻き(マフラー)を巻いているというファッション上のちょいアレンジがあるのですが、これはやっぱり、『龍馬伝』の岡田以蔵の襟巻き姿をフィードバックさせたもんなんじゃないでしょうかねぇ。考えすぎかしら?
ちょっととびますが、実は1、と好対照なおもしろさがあるのが4、の相違点で、こっちはといいますと、『龍馬伝』で明治時代のビジネスマンとして最大級の成功をおさめた実業家・岩崎弥太郎の役を演じた香川照之さんが、『るろうに剣心』では成功から一転して薬物と誇大妄想の世界のとりことなってしまった実業家・武田観柳を演じているのがとってもおもしろいです。ここでもまた、原作にはなかった「もし『龍馬伝』の岩崎弥太郎が途中でトチ狂ってドロップアウトしてしまったら……?」という ifが楽しめるというわけなのです。
この「頭のおかしい武田観柳」というアレンジはまさしく「演・香川照之」という前提があったからこそのお遊びでありまして、原作では確かに底の知れないすごみはあったものの、いちおうビジネスマンとしてのまっとうさは残していた観柳。実写映画版では、完全に考え方の破綻した散財好きの大金持ちというていになっていて、はっきり言って剣心がどうにかしなくても遠くない未来にお縄になることは目に見えているぶっ壊れようになっていましたね。私は基本的にオーバーな演技に酔っている時の香川さんは嫌いなのですが、この武田観柳役の香川さんはいくところまでいっちゃっている狂気とユーモアが同居していてよかったです。「人の家めちゃくちゃにしやがってェ!!」
またしても余談なんですが、今回の実写映画版で武田観柳の豪奢な邸宅の外観として撮影に使用された白亜の洋館は、鳥取県鳥取市に現存している重要文化財の「仁風閣(じんぷうかく)」というとてつもない建物です。これは1907年に当時の皇太子殿下(のちの大正天皇)の行啓にあわせて建造されたものだとか。私も10年くらい前に実際に行ったことがあるんですけど、いい建物でしたよ! もちろん、内装は映画とはまったく違う落ち着いたものでした。
東京のど真ん中にこんなレベルの邸宅をかまえる武田観柳の財力! 具体的にどんな半生を歩んできたのかがほんとに気になります。
さて、相違点の2、は一見するといかにもファンサービスのみのアレンジのようにも見え、斎藤一を原作ほどに剣心にからませると容量オーバーになってしまうため、「幕末期に斎藤一が緋村抜刀斎を見たのは鳥羽・伏見合戦のときだけ」ともとれる演出がほどこされるなどの3、の判断がとられたとも解釈できるのですが、これによって映画の前半部分で、原作にはなかった「斎藤一と武田観柳との対面」というシーンが展開されることとなりました。
なんと!! 斎藤一と武田観柳!?
これは、いいね……幕末ファンにとってはたまんない取り合わせです。
まず斎藤一さんのことをおさらいしてみますと、この方は言わずと知れた歴史上の実在人物で、『るろうに剣心』の舞台となっている明治11(1878)年の時点では実際に警視庁の警部として働いていました。ついでに言うと、その前年の1877年には、2~9月に九州地方南部で勃発した「日本史上最後の内乱」ともいえる西南戦争にれっきとした軍人として従軍していました。ガチの侍だ!
そしてもっと大事なのは、彼が幕末期に本物の武士以上に武士だったと畏れられた、あの実戦治安維持集団「新撰組」の「三番隊組長兼副長助勤」であったということです。し、し、新撰組の中核幹部!!
斎藤一自身は江戸(東京)の出身だったと推定されているのですが、明治に入ったあとは青森県で妻子をもうけて「藤田五郎」と名を改めており、1874年に東京に移住して警視庁に身をおくという経歴をたどっていました。幕末に佐幕派の最前線に立っていた人物が、明治には新政府側の「いち公僕」として働いている……非常に興味深い人生ですね。
斎藤一という人物は、いわゆる新撰組の「結成メンバー」ともいえる2代目局長・近藤勇と副長・土方歳三を中心とした「試衛館の顔ぶれ」とは微妙に距離を置いた関係にあったため、それこそ「隠れた名キャラクター」という位置にいたようなのですが、1990年代に巻き起こった他でもない「るろ剣ブーム」によって、原作の中で架空のキャラクター以上に強烈な魅力をもった活躍をみせた斎藤一は驚異的な人気を手に入れることになりました。いまや彼は、「近藤・土方・沖田」というビッグ3に肉薄する知名度を誇る存在になっているのです! ちなみに、2005年の NHK大河ドラマ『新選組!』で斎藤一役を演じていたのはオダギリジョー。さらにちなみに、「しんせんぐみ」の漢字は「新選組」でも「新撰組」でもどっちでもよろしいようです。本人たちがどっちの字も使ってたから。我が『長岡京エイリアン』では、なんとなくかっこいいので「新撰組」で統一しています。
今回の実写映画版では江口洋介さんでしたが、明治11年当時の斎藤一は数え年35歳と、まだまだ若い男ざかりでした。でも、40代の江口さんも充分に若いですからいいキャスティングでしたね。
また話がずれますが、その一方で山県有朋役を演じていた奥田瑛二さんは、演技が老けすぎてませんでした? だって、当時の山県有朋さんは数え年41歳よ!? あんな老いぼれにはなってないはずなんですが……奥田さんは60代とはまったく思えない外見なのに、なんでわざわざジジイな演技をするんでしょうか。ちょっと実写映画版の山県は、登場する意図のよくわからない不明瞭な人物になっていました。
それはさておき、そんな実在人物の斎藤一に対して、陰険で危険な極悪商人となっていた武田観柳のほうはといいますと、彼自身はもちろん『るろうに剣心』オリジナルのキャラクターなのですが、作者の和月先生によると明確にモデルとなった人物が実在していました。
その人物とは、「新撰組五番隊組長兼副長助勤・武田観柳斎」。う~ん、「斎」がついてるかついてないかの差だけね。
まさしく、肩書き上は斎藤一とまったく同等の幹部クラスだった武田観柳斎! ところが、現在に流布しているイメージというか人気は、はっきり言いまして斎藤一とは天と地ほどの落差のあるものになっていると申し上げるほかありません。全国からかき集めれば130人くらいいるかもしれない観柳斎ファンのみなさま、ごめんなすって!
出雲国(現在の島根県東部)の藩士の身分に生まれた観柳斎は、文久3(1863)年の冬、2代目局長・近藤勇体制になったばかりの新撰組に入隊した時点では脱藩した浪人だったのですが、江戸時代に軍事学の基本として重んじられていた「甲州流軍学」をマスターしたインテリ派ということで、近藤局長からは新撰組全体の軍事教練を任されるかたちで優遇されていました。おそらくは、出世栄達ののぞめない下層武士や、そもそも武士でさえない身分出身の隊士も多かった新撰組の中では、観柳斎の「正式な藩士の家柄」という血筋も軍学の知識も、集団のステイタスを向上させるものとしてともに重要視されていたのではないでしょうか。ちなみに、斎藤一は藩士よりも下の下級武士「足軽」の出身です。
余談ですが、彼のいかめしい「武田」という姓は甲州流軍学のあがめる戦国大名の「甲斐武田家」にあやかった完全なペンネームで、本名は「福田広」でした。ふつ~!!
ところが、組内での自らの高い地位の保持に強く執着していたと言われる観柳斎は、必要以上に近藤局長にとりいったために近藤独裁体制を強化させてしまう側の代表になってしまい、結果としては斎藤一も含めた多くの幹部たちの不平不満と対峙する立場になってしまいました。
それに加えて時がたち、攘夷や倒幕といった戦争の可能性が現実味を帯びてくるにしたがって、300年ちかい過去の戦争術を理想的に整理した内容だった軍学の実用性は徐々に疑問視されるようになり、のちに新撰組が、ボスである江戸幕府に右ならえで最新式のフランス式戦術を導入するにいたって、観柳斎の人望と存在感は決定的に喪失されることとなりました。
そして最終的には、彼が江戸幕府の最大の仮想敵ともいえた薩摩藩に内通しているという情報が近藤局長の耳に入ることとなり、最後の頼みの綱だった局長の命によって、武田観柳斎は慶応3(1867)年6月22日に他の新撰組隊士の手にかかって粛清されてしまいました。生年が不明であるため、観柳斎の具体的な享年は明らかになっていません。
こういった形でたった3、4年ほどの在籍期間ではありましたが、観柳斎が死んでからわずか数ヵ月後の10月に江戸幕府の大政奉還が起きているため、まさしく新撰組の黄金期を支えていた幹部のひとりだったことには間違いがないでしょう。
ただし、暗殺されたために本人に関する信頼できる証言が少ないことも事実で、結果として観柳斎は、現在では「人望がない」「古い知識をかさに着た傲慢な性格」「保身のために新撰組の分裂をまねいた小物」「男色家」といったマイナスイメージにまみれてしまっています。男色家っていうのはさすがに、根拠のない後年の創作らしいんですけど。
大河ドラマの『新選組!』での武田観柳斎にはやや同情的な解釈がほどこされており、八嶋智人さんが「生きかたのヘタな小人物」といった観柳斎を味わい深く演じていましたが、やっぱり「新撰組隊士らしくないだめんず」というイメージには揺るぎがないわけなんですね。
さて! そんな武田観柳斎をモデルにして誕生した武田観柳であります。
もちろん、明治時代にいちおう大成功した実業家である武田観柳に、観柳斎のような「もと新撰組幹部」という過去はないのですが、映画の前半で、謎の連続怪死事件やアヘン密売のにおいをかぎとった斎藤一警部が、邸宅の大庭園でくつろぐ観柳と初対面するシーンの2人の表情は、単なる「刑事と商人」という構図だけではないような、実に意味深な「間」があったわけなのです。な、なんか過去にあったのか?
もし、もしこの武田観柳が「暗殺されたはずの観柳斎の生き延びた姿」だったのならば……
史実の武田観柳斎粛清の実行犯は明らかにはなっていないのですが、当時そういった隊内の「ダーティワーク」を一手に引き受けていたとも言われる斎藤一その人であった可能性も濃厚だといわれております。
実写映画版という思わぬかたちで実現した、「斎藤一と武田観柳の出会い」! 何度も言いますが、武田観柳は武田観柳斎ではありません。しかし、歴史ファンが思わずニヤリとしてしまうサービスにも目を配る余裕を持っているのが、今回の実写版『るろうに剣心』のすごみなのです。
う、うっわ~! 例によって今回も文量がとんでもないことに!!
この他にも、「武井咲と青木崇高がいい」「斎藤一の得意技・牙突の使いみちがもったいないにも程がある」「蒼井優のまゆげがヘン」などと語りたいポイントは無数にあるのですが、とにかく総じて「おもしろかった!」という一言にまとめさせていただきたいと思います。
最後に、この実写映画版は、続編が制作される可能性が非常に高いと思われます。というか、私としては大友啓史監督と佐藤健くん以下のレギュラーキャスト陣続投による次回作「VS 志々雄真実一派編」がめちゃくちゃ観たいです!
ということなので、私そうだいによる、大河ドラマ『龍馬伝』をもとにした、次なる実写映画版『るろうに剣心 京都編』の勝手すぎるキャスティングプランを構想しておしまいにしたいと思います。異論反論、アタリマエ~♪
大予想!! 実写版『るろうに剣心 京都編』の希望こみこみキャスティング案(『龍馬伝』ぎみ)
宿敵・志々雄真実 …… 大森 南朋
志々雄の愛人・駒形由美 …… 真木 よう子
志々雄十本刀筆頭・瀬田宗次郎 …… 神木 隆之介
志々雄十本刀・佐渡島方治 …… 田中 哲司
志々雄十本刀・沢下条張 …… 伊勢谷 友介
志々雄十本刀・本条鎌足 …… 水野 美紀
志々雄十本刀・悠久山安慈 …… 角田 信朗
志々雄十本刀・魚沼宇水 …… 北村 有起哉
志々雄十本刀・刈羽蝙也 …… 渡辺 いっけい
志々雄十本刀・破軍甲の才槌 …… 田中 裕二(爆笑問題)
志々雄十本刀・破軍乙の不二 …… 要 潤
志々雄十本刀・丸鬼の夷腕坊 …… マツコデラックス
旧御庭番衆京都探索方筆頭・柏崎念至 …… 近藤 正臣
旧御庭番衆頭領の孫娘・巻町操 …… 工藤 遥(モーニング娘。)
緋村剣心の師匠・比古清十郎 …… 藤岡 弘、
逆刃刀の刀工・新井青空 …… 瑛太
ど~ですかみなさん!! 志々雄真実一派が異常に楽しそうでしょ!? こんなのがフルメンバーで1本の映画におさまるわけがないと。
もう志々雄真実は大森南朋さんでいいって! さわやかお兄さんのヒース=レジャーだってあんなジョーカーやっちゃったんですから、南朋さんだってできる。まっとうに松田龍平とか、ありきたりすぎてダメでしょ!? ここは一発、「いやに所帯じみた志々雄真実」でいきましょう。
観たい、狂おしいほどに観たい!! 大友監督、健くん、期待してま~っす☆
いや~関東は涼しくなった涼しくなった。本日土曜日の千葉は、本当にすごしやすいステキな秋の休日になりました。っつってもまぁ、私はこれからふつうに働きに行くんですけどね……土日があまり関係ねぇ!
え~、さっそくズババンと本題に入ってしまいますが、先週に実家の山形県山形市に帰省してきまして、そのついでに話題のあの映画、実写版『るろうに剣心』(監督・大友啓史 主演・佐藤健 134分)を観てきたぞ、というお題でございます。
いや~なんだか、今日22日時点でのニュースによりますと、観客数200万人突破の興行収入25億円越えだとか。公開から1ヶ月ほどたつのに勢いはいまだおとろえず、かっ飛ばしてますなぁ!!
山形の映画館はねぇ~、ホントにきれいなのよね。私が行ったのは JR山形駅ちかくのシネコンだったんですけど、とっても快適に楽しんでまいりました。
実写映画版『るろうに剣心』、おもなスタッフ&キャスティング情報はこんな感じです。
監督 …… 大友 啓史(『ハゲタカ』『龍馬伝』)
脚本 …… 藤井 清美(『豆富小僧』)・大友啓史
音楽 …… 佐藤 直紀(『ALWAYS 三丁目の夕日』『龍馬伝』)
緋村剣心 …… 佐藤 健(23歳)
神谷薫 …… 武井 咲(18歳)
相楽左之助 …… 青木 崇高(むねたか 32歳)
明神弥彦 …… 田中 偉登(たけと 12歳)
高荷恵 …… 蒼井 優(27歳)
鵜堂刃衛 …… 吉川 晃司(47歳)
斎藤一 …… 江口 洋介(44歳)
戌亥番神 …… 須藤 元気(30歳)
斬鋼線の外印 …… 綾野 剛(34歳)
武田観柳 …… 香川 照之(46歳)
山県有朋 …… 奥田 瑛二(62歳)
ってなわけで、さっそく単刀直入に感想を言いますと、
やっぱり、おもしろかったね!
お話の展開、登場人物のキャラクター、舞台の背景美術やロケーション、そして俳優陣の演技。すべてが非常に正攻法で理想的な「娯楽映画」になっていたんじゃないでしょうか。だいたい2時間15分、だれることもなくとっても楽しく観ることができました。
前にも言ったように、この実写映画版は、泣く子も黙る天下の『週刊少年ジャンプ』で一時代を築いた時代劇バトルアクションマンガ『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』(原作・和月伸宏 1994~99年連載)の内容のうち、ごく序盤のエピソード群「明神弥彦編」「斬左編」「黒笠編」「高荷恵編」(第1~30話)あたりをリミックスしたような流れになっています。
つまりは、いかにも実写映画版の第1弾といった空気を読んで、非常にオーソドックスに主人公・緋村剣心の壮大なるサーガの「とっかかり」だけを描いたものになっているわけです。
ご存知の通り、原作『るろうに剣心』はざっくりまとめてしまいますと、それら明治10年代の日本の新首都・東京で剣心の周囲に主要なレギュラーキャラクターが集まっていく総称「東京編」を第1部とするのならば、剣心にとって最大最凶のライヴァルともいえる名悪役・志々雄真実(ししお まこと)一派との全面対決を熱く描く「京都編」をへて、幕末にみずからが犯した人斬りの闇に剣心が向き合い、過去にとらわれるか未来へあゆんでいく新生の道を選ぶかの岐路に立つ「人誅(じんちゅう)編」をもって一巻の終わりとする3部作構成になっています。
したがって、連載終了からゆうに10年以上も経過しているのに今なお語り継がれる『るろうに剣心』の魅力の核心ともいえる、アクションマンガとしての頂点をむかえた「京都編」や、緋村剣心の贖罪の物語の終結をつづる「人誅編」は、今回の実写映画版ではまったく描かれておらず、そういう意味では、この映画は多くの原作ファンにとっては、まさしく「えっ、まだ始まったばっかなのにおしまい!?」な内容になっていると思うんです。
その点、確かに私そうだいも、映画を観るまでには、
「ええ~……武田観柳がラスボスって。『スーパーマリオ』で言ったらノコノコ級の敵じゃん! おもしろいのか?」
という危惧を少なからずいだいてしまっていたのですが、映画本編を観終わって、その思いはまったくの杞憂であったことに安堵いたしたのでありました。いや、やっぱ武田観柳は小物だったんですけど。
現実に大ヒットを記録している今回の実写版『るろうに剣心』のいいところを一言で要約してしまいますと、こういうことになるかと思います。
「原作の肝をガッシリつかんでたら、大胆なアレンジ&お遊びもオールオッケー!!」
これですねぇ。「原作の肝」というのは、言うまでもなく主人公である剣心の「暗い過去」のことだと思います。明治時代という、名目上「いくさのない」時代を生きる者として、剣心は幕末の「伝説の人斬り・緋村抜刀斎」というおのれの前身をひた隠しにして飄々と流浪の旅を続けていこうとします。しかし、そんな剣心の過去を知る人物や、強者が弱者を踏み潰していく変わらぬ社会の構造が、いやおうもなく剣心を闘いの世界に引きずり込んでいってしまうわけなのです。
つまり、『るろうに剣心』の世界は「闘いたくないでござる……」という剣心を、他のいろんなキャラクターたちがあっちからこっちから引っぱりまわして「オレと闘え!」「いや、ワシと闘え!!」「剣心、闘わないで~!」とイジりたおしていくという、「血なまぐさいモテ期」の克明なる記録となっているのです。う~ん、にんともかんとも『ジャンプ』だわ。
そういう点で、なにはなくともドカンと「主人公は緋村剣心です!!」という存在感を物語の中心にすえて、主役の佐藤健くんへのピントをまったくブレさせなかった大友監督の視点は大正解だったと思います。
「忘れたい過去を背負う男」がいるというポイントさえつかんでいたら、『るろうに剣心』は少々のアレンジが加わっても十二分に『るろうに剣心』たりえる、ということを雄弁に証明しているのが今回の実写映画版だったと思うんだなぁ。
さて、じゃあその一方で、私から見た実写映画版の「大胆なアレンジ&お遊び」というものはどんなものだったのかといいますと。
ざっと以下の通りになりますでしょうか。
1、緋村剣心のキャラクターが原作よりも若くなり、「かげのある薄気味悪い青年」になっている
2、原作ではまだ登場していないはずの斎藤一が、警視庁の警部として物語に深く関わってくる
3、斎藤一と緋村剣心との関係が原作ほど近くない
4、武田観柳が薬物中毒の完全な「狂気の人」になっている
5、鵜堂刃衛(うどう じんえ)・戌亥番神(いぬい ばんじん)・外印(げいん)が武田観柳に雇われた刺客という立場になっている
6、戌亥番神(いぬい ばんじん)と外印(げいん)のキャラクター設定が原作とまるで違う
これらの他にももちろん、今回の2時間ちょいの上映時間にまとめるために、「明神弥彦の初登場エピソード」「比留間喜兵衛・伍兵衛兄弟」「原作で武田観柳が雇っていた四乃森蒼紫(しのもり あおし)率いる元・江戸幕府御庭番衆」といった重要な諸要素がまるごとカットされているといった、原作との大きな相違もありますね。
ただし、こうずらずらっとならべると直接の原作となったマンガ(コミックス版1~4巻にあたる)からずいぶんと離れた内容になっているようにも感じられるのですが、実はよくよく見てみますと、
「原作の浦村警察署長=映画の斎藤一」
「原作の鵜堂刃衛+四乃森蒼紫=映画の鵜堂刃衛」
「原作の武田観柳+比留間兄弟の剣術道場地上げエピソード=映画の武田観柳」
「原作の元御庭番衆・式尉(しきじょう)=映画の戌亥番神」
「原作の元御庭番衆・般若(はんにゃ)=映画の外印」
といったように、だいたいの主要エピソードが「原作と違うキャラクター」によってほぼカヴァーされていることがわかります。具体的ないれものは違っているものの、今回の映画がしっかり原作の骨子をおさえている流れになっているということがわかりますね。上でいう5、や6、のアレンジがまさにこういうことです。
でも、戌亥番神と外印は気持ちいいくらいに別人でしたね……まぁ、おもしろかったからいいですけど。剣心と外印のバトルはスピーディでよかったなぁ。
全国にそれぞれ2、300人くらいはいるんじゃないかと勝手に私がふんでいる戌亥番神ファンと外印ファンは、やっぱ怒ってるのかな。でも、本来この2人が活躍する「人誅編」を映像化するにあたってこんな変更がほどこされた、ということでもなくあくまでも特別出演のような扱いなので、それほど大きな改変のように見えないのが、今回の映画の巧妙なところですね。これで鵜堂刃衛や相楽左之助に同じようなアレンジがあったらいけないわけです。
逆に、今回の映画で目立った活躍の場が用意されなかった明神弥彦と浦村署長(演・斎藤洋介)は、ちょっとふびんなくらいに影が薄かったですね……特に斎藤さんはあれ、別に斎藤さんじゃなくてもよかったっつうか、浦村署長自体いなくてもよかったんじゃない!? 無念なるかな斎藤洋介さん、別の「斎藤さん」を演じる「洋介さん」に出番をまるっと盗られてしまいました。
でも、鵜堂刃衛に襲撃されて死屍累々となった警察署の惨状を見て鎮痛な表情を浮かべる斎藤洋介さんのたたずまいは、すばらしかったね……だって、「オレも20年前には『帝都大戦』っていうヒドい映画でこんな目に遭ってたもんだ。」というペーソスがハンパないんです。実に味わい深いお顔。
じぇんじぇん関係ないですけど、実家に帰ったときにやっと観た NHK朝ドラの『梅ちゃん先生』、あれ、南果歩さんが基本的にモンペに割烹着姿の役で出てたでしょ?
いつ、ふすまをガラッとあけて将校マントの加藤保憲(演・文句なしに嶋田久作)が出てきて、果歩さんが「加藤……!!」ってつぶやいてサイキックウォーズを展開するのかと思って、身がまえちゃったよ。そう感じたのは私だけじゃないはずです……たぶん。
話を元に戻しまして、原作と実写映画の相違点をひとつひとつ見ていきましょう。
1、に関しては、なんと言っても佐藤健くんの持つ雰囲気を重視したというか、実際に若い俳優さんが緋村剣心を演じるにあたってムリのない範囲で主人公を演じてみたらこうなった。こういうことになるんじゃないでしょうか。
私の感覚では、原作の緋村剣心は物語の時点(1878年)で数え年30歳ということもあり、暗い過去を背負いつつも、おもてむきは明るい微笑みをたやさない、ちょっと抜けたところもある気のいいお兄さんといった印象がありました。
でも、映画版の健くんはもっと幕末の記憶を「切り離せないもの」としてすぐ近くにおいているイメージがあって、ふだんからちょっと怖い雰囲気をおびているんですね。もちろん笑うときはさわやかに笑うし「おろ?」とトボけたりもするんですが、次の瞬間にでも「人斬り抜刀斎」に戻ってしまうような冷たさがかなり色濃く残っているです。
そのへんは、二面性を使い分けなければならない健くんの演技力の限界ということも、もしかしたらあるのかも知れませんが、私としてはそれ以上に、あの NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)で、史実の「人斬り以蔵」こと岡田以蔵の役を生々しく演じきった健くんを剣心役に抜擢した大友啓史監督の意図的な演出であるような気もするんです。
つまり、実写映画版『るろうに剣心』の緋村剣心は、原作マンガの緋村剣心と同じかそれ以上に、「もし『龍馬伝』の岡田以蔵が明治維新後も生き延びていたら……?」というあたりの想像を強くかきたてるキャラクターになっていたような気がするんですね。
そして有名な話ですが、原作マンガの中で作者が最も強く岡田以蔵のイメージを投影させた登場キャラクターは、実写映画版での事実上のラスボスとなった鵜堂刃衛です。
緋村剣心と鵜堂刃衛が「伝説の人斬り」という同じ根っこを持ちながらも、明治という新時代をまったく違った哲学に基づいて生きているという構図は原作でもしっかり描かれているのですが、実写映画版もまた、『龍馬伝』という経験をへてこの対比をきわめて明瞭にクローズアップしているわけなのです。やっぱりここでも、映画は原作にちゃんとよりそっている! グッジョブ!!
余談ですが、おおもとの『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』や実写映画版の「パラレルワールド」として現在連載されている和月先生おんみずからによる新シリーズ『るろうに剣心 キネマ版』では、緋村剣心は基本的に襟巻き(マフラー)を巻いているというファッション上のちょいアレンジがあるのですが、これはやっぱり、『龍馬伝』の岡田以蔵の襟巻き姿をフィードバックさせたもんなんじゃないでしょうかねぇ。考えすぎかしら?
ちょっととびますが、実は1、と好対照なおもしろさがあるのが4、の相違点で、こっちはといいますと、『龍馬伝』で明治時代のビジネスマンとして最大級の成功をおさめた実業家・岩崎弥太郎の役を演じた香川照之さんが、『るろうに剣心』では成功から一転して薬物と誇大妄想の世界のとりことなってしまった実業家・武田観柳を演じているのがとってもおもしろいです。ここでもまた、原作にはなかった「もし『龍馬伝』の岩崎弥太郎が途中でトチ狂ってドロップアウトしてしまったら……?」という ifが楽しめるというわけなのです。
この「頭のおかしい武田観柳」というアレンジはまさしく「演・香川照之」という前提があったからこそのお遊びでありまして、原作では確かに底の知れないすごみはあったものの、いちおうビジネスマンとしてのまっとうさは残していた観柳。実写映画版では、完全に考え方の破綻した散財好きの大金持ちというていになっていて、はっきり言って剣心がどうにかしなくても遠くない未来にお縄になることは目に見えているぶっ壊れようになっていましたね。私は基本的にオーバーな演技に酔っている時の香川さんは嫌いなのですが、この武田観柳役の香川さんはいくところまでいっちゃっている狂気とユーモアが同居していてよかったです。「人の家めちゃくちゃにしやがってェ!!」
またしても余談なんですが、今回の実写映画版で武田観柳の豪奢な邸宅の外観として撮影に使用された白亜の洋館は、鳥取県鳥取市に現存している重要文化財の「仁風閣(じんぷうかく)」というとてつもない建物です。これは1907年に当時の皇太子殿下(のちの大正天皇)の行啓にあわせて建造されたものだとか。私も10年くらい前に実際に行ったことがあるんですけど、いい建物でしたよ! もちろん、内装は映画とはまったく違う落ち着いたものでした。
東京のど真ん中にこんなレベルの邸宅をかまえる武田観柳の財力! 具体的にどんな半生を歩んできたのかがほんとに気になります。
さて、相違点の2、は一見するといかにもファンサービスのみのアレンジのようにも見え、斎藤一を原作ほどに剣心にからませると容量オーバーになってしまうため、「幕末期に斎藤一が緋村抜刀斎を見たのは鳥羽・伏見合戦のときだけ」ともとれる演出がほどこされるなどの3、の判断がとられたとも解釈できるのですが、これによって映画の前半部分で、原作にはなかった「斎藤一と武田観柳との対面」というシーンが展開されることとなりました。
なんと!! 斎藤一と武田観柳!?
これは、いいね……幕末ファンにとってはたまんない取り合わせです。
まず斎藤一さんのことをおさらいしてみますと、この方は言わずと知れた歴史上の実在人物で、『るろうに剣心』の舞台となっている明治11(1878)年の時点では実際に警視庁の警部として働いていました。ついでに言うと、その前年の1877年には、2~9月に九州地方南部で勃発した「日本史上最後の内乱」ともいえる西南戦争にれっきとした軍人として従軍していました。ガチの侍だ!
そしてもっと大事なのは、彼が幕末期に本物の武士以上に武士だったと畏れられた、あの実戦治安維持集団「新撰組」の「三番隊組長兼副長助勤」であったということです。し、し、新撰組の中核幹部!!
斎藤一自身は江戸(東京)の出身だったと推定されているのですが、明治に入ったあとは青森県で妻子をもうけて「藤田五郎」と名を改めており、1874年に東京に移住して警視庁に身をおくという経歴をたどっていました。幕末に佐幕派の最前線に立っていた人物が、明治には新政府側の「いち公僕」として働いている……非常に興味深い人生ですね。
斎藤一という人物は、いわゆる新撰組の「結成メンバー」ともいえる2代目局長・近藤勇と副長・土方歳三を中心とした「試衛館の顔ぶれ」とは微妙に距離を置いた関係にあったため、それこそ「隠れた名キャラクター」という位置にいたようなのですが、1990年代に巻き起こった他でもない「るろ剣ブーム」によって、原作の中で架空のキャラクター以上に強烈な魅力をもった活躍をみせた斎藤一は驚異的な人気を手に入れることになりました。いまや彼は、「近藤・土方・沖田」というビッグ3に肉薄する知名度を誇る存在になっているのです! ちなみに、2005年の NHK大河ドラマ『新選組!』で斎藤一役を演じていたのはオダギリジョー。さらにちなみに、「しんせんぐみ」の漢字は「新選組」でも「新撰組」でもどっちでもよろしいようです。本人たちがどっちの字も使ってたから。我が『長岡京エイリアン』では、なんとなくかっこいいので「新撰組」で統一しています。
今回の実写映画版では江口洋介さんでしたが、明治11年当時の斎藤一は数え年35歳と、まだまだ若い男ざかりでした。でも、40代の江口さんも充分に若いですからいいキャスティングでしたね。
また話がずれますが、その一方で山県有朋役を演じていた奥田瑛二さんは、演技が老けすぎてませんでした? だって、当時の山県有朋さんは数え年41歳よ!? あんな老いぼれにはなってないはずなんですが……奥田さんは60代とはまったく思えない外見なのに、なんでわざわざジジイな演技をするんでしょうか。ちょっと実写映画版の山県は、登場する意図のよくわからない不明瞭な人物になっていました。
それはさておき、そんな実在人物の斎藤一に対して、陰険で危険な極悪商人となっていた武田観柳のほうはといいますと、彼自身はもちろん『るろうに剣心』オリジナルのキャラクターなのですが、作者の和月先生によると明確にモデルとなった人物が実在していました。
その人物とは、「新撰組五番隊組長兼副長助勤・武田観柳斎」。う~ん、「斎」がついてるかついてないかの差だけね。
まさしく、肩書き上は斎藤一とまったく同等の幹部クラスだった武田観柳斎! ところが、現在に流布しているイメージというか人気は、はっきり言いまして斎藤一とは天と地ほどの落差のあるものになっていると申し上げるほかありません。全国からかき集めれば130人くらいいるかもしれない観柳斎ファンのみなさま、ごめんなすって!
出雲国(現在の島根県東部)の藩士の身分に生まれた観柳斎は、文久3(1863)年の冬、2代目局長・近藤勇体制になったばかりの新撰組に入隊した時点では脱藩した浪人だったのですが、江戸時代に軍事学の基本として重んじられていた「甲州流軍学」をマスターしたインテリ派ということで、近藤局長からは新撰組全体の軍事教練を任されるかたちで優遇されていました。おそらくは、出世栄達ののぞめない下層武士や、そもそも武士でさえない身分出身の隊士も多かった新撰組の中では、観柳斎の「正式な藩士の家柄」という血筋も軍学の知識も、集団のステイタスを向上させるものとしてともに重要視されていたのではないでしょうか。ちなみに、斎藤一は藩士よりも下の下級武士「足軽」の出身です。
余談ですが、彼のいかめしい「武田」という姓は甲州流軍学のあがめる戦国大名の「甲斐武田家」にあやかった完全なペンネームで、本名は「福田広」でした。ふつ~!!
ところが、組内での自らの高い地位の保持に強く執着していたと言われる観柳斎は、必要以上に近藤局長にとりいったために近藤独裁体制を強化させてしまう側の代表になってしまい、結果としては斎藤一も含めた多くの幹部たちの不平不満と対峙する立場になってしまいました。
それに加えて時がたち、攘夷や倒幕といった戦争の可能性が現実味を帯びてくるにしたがって、300年ちかい過去の戦争術を理想的に整理した内容だった軍学の実用性は徐々に疑問視されるようになり、のちに新撰組が、ボスである江戸幕府に右ならえで最新式のフランス式戦術を導入するにいたって、観柳斎の人望と存在感は決定的に喪失されることとなりました。
そして最終的には、彼が江戸幕府の最大の仮想敵ともいえた薩摩藩に内通しているという情報が近藤局長の耳に入ることとなり、最後の頼みの綱だった局長の命によって、武田観柳斎は慶応3(1867)年6月22日に他の新撰組隊士の手にかかって粛清されてしまいました。生年が不明であるため、観柳斎の具体的な享年は明らかになっていません。
こういった形でたった3、4年ほどの在籍期間ではありましたが、観柳斎が死んでからわずか数ヵ月後の10月に江戸幕府の大政奉還が起きているため、まさしく新撰組の黄金期を支えていた幹部のひとりだったことには間違いがないでしょう。
ただし、暗殺されたために本人に関する信頼できる証言が少ないことも事実で、結果として観柳斎は、現在では「人望がない」「古い知識をかさに着た傲慢な性格」「保身のために新撰組の分裂をまねいた小物」「男色家」といったマイナスイメージにまみれてしまっています。男色家っていうのはさすがに、根拠のない後年の創作らしいんですけど。
大河ドラマの『新選組!』での武田観柳斎にはやや同情的な解釈がほどこされており、八嶋智人さんが「生きかたのヘタな小人物」といった観柳斎を味わい深く演じていましたが、やっぱり「新撰組隊士らしくないだめんず」というイメージには揺るぎがないわけなんですね。
さて! そんな武田観柳斎をモデルにして誕生した武田観柳であります。
もちろん、明治時代にいちおう大成功した実業家である武田観柳に、観柳斎のような「もと新撰組幹部」という過去はないのですが、映画の前半で、謎の連続怪死事件やアヘン密売のにおいをかぎとった斎藤一警部が、邸宅の大庭園でくつろぐ観柳と初対面するシーンの2人の表情は、単なる「刑事と商人」という構図だけではないような、実に意味深な「間」があったわけなのです。な、なんか過去にあったのか?
もし、もしこの武田観柳が「暗殺されたはずの観柳斎の生き延びた姿」だったのならば……
史実の武田観柳斎粛清の実行犯は明らかにはなっていないのですが、当時そういった隊内の「ダーティワーク」を一手に引き受けていたとも言われる斎藤一その人であった可能性も濃厚だといわれております。
実写映画版という思わぬかたちで実現した、「斎藤一と武田観柳の出会い」! 何度も言いますが、武田観柳は武田観柳斎ではありません。しかし、歴史ファンが思わずニヤリとしてしまうサービスにも目を配る余裕を持っているのが、今回の実写版『るろうに剣心』のすごみなのです。
う、うっわ~! 例によって今回も文量がとんでもないことに!!
この他にも、「武井咲と青木崇高がいい」「斎藤一の得意技・牙突の使いみちがもったいないにも程がある」「蒼井優のまゆげがヘン」などと語りたいポイントは無数にあるのですが、とにかく総じて「おもしろかった!」という一言にまとめさせていただきたいと思います。
最後に、この実写映画版は、続編が制作される可能性が非常に高いと思われます。というか、私としては大友啓史監督と佐藤健くん以下のレギュラーキャスト陣続投による次回作「VS 志々雄真実一派編」がめちゃくちゃ観たいです!
ということなので、私そうだいによる、大河ドラマ『龍馬伝』をもとにした、次なる実写映画版『るろうに剣心 京都編』の勝手すぎるキャスティングプランを構想しておしまいにしたいと思います。異論反論、アタリマエ~♪
大予想!! 実写版『るろうに剣心 京都編』の希望こみこみキャスティング案(『龍馬伝』ぎみ)
宿敵・志々雄真実 …… 大森 南朋
志々雄の愛人・駒形由美 …… 真木 よう子
志々雄十本刀筆頭・瀬田宗次郎 …… 神木 隆之介
志々雄十本刀・佐渡島方治 …… 田中 哲司
志々雄十本刀・沢下条張 …… 伊勢谷 友介
志々雄十本刀・本条鎌足 …… 水野 美紀
志々雄十本刀・悠久山安慈 …… 角田 信朗
志々雄十本刀・魚沼宇水 …… 北村 有起哉
志々雄十本刀・刈羽蝙也 …… 渡辺 いっけい
志々雄十本刀・破軍甲の才槌 …… 田中 裕二(爆笑問題)
志々雄十本刀・破軍乙の不二 …… 要 潤
志々雄十本刀・丸鬼の夷腕坊 …… マツコデラックス
旧御庭番衆京都探索方筆頭・柏崎念至 …… 近藤 正臣
旧御庭番衆頭領の孫娘・巻町操 …… 工藤 遥(モーニング娘。)
緋村剣心の師匠・比古清十郎 …… 藤岡 弘、
逆刃刀の刀工・新井青空 …… 瑛太
ど~ですかみなさん!! 志々雄真実一派が異常に楽しそうでしょ!? こんなのがフルメンバーで1本の映画におさまるわけがないと。
もう志々雄真実は大森南朋さんでいいって! さわやかお兄さんのヒース=レジャーだってあんなジョーカーやっちゃったんですから、南朋さんだってできる。まっとうに松田龍平とか、ありきたりすぎてダメでしょ!? ここは一発、「いやに所帯じみた志々雄真実」でいきましょう。
観たい、狂おしいほどに観たい!! 大友監督、健くん、期待してま~っす☆
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