テスラは国内でも存在感を増す
脱炭素の実現に欠かせない電気自動車(EV)が大きく伸びる鍵の1つは、バッテリーに使うリチウムの確保といわれる。米EV大手テスラを筆頭に、世界の自動車メーカーが調達先の開拓にしのぎを削っている。いまのままの生産体制では急増する需要に追いつかなくなるとの予想もある中で、最近、効率的に生産する新しい技術が注目され始めた。
「ゲームを変える可能性のある技術」。米証券大手ゴールドマン・サックスは4月のリポートで、新技術をこう評価した。原油の分野で米国のシェール石油が供給を伸ばしたように、リチウムも生産量を倍増させることができ、プロジェクトの収益も改善できるのだという。
リチウムの生産はこれまで鉱石から採掘するか、塩湖や地層の中の塩水から精製する方法が主流だった。ところが、塩水を利用する方法では、巨大な池にためた水を自然に蒸発させるのに長い時間がかかるため、大量生産が難しく、世界の需給が逼迫する一因になっていた。
新技術は「直接リチウム抽出法(DLE)」と呼ばれる。単純化すると塩水をフィルターや吸着膜を通しリチウムを抽出する。従来の方法に比べて、精製にかかる時間を大幅に短縮することができ、コストを削減することや、環境破壊、汚染を減らすこともできるという。
米国地質調査所はこの技術によって、リチウムの世界の埋蔵量の7割を掘り起こすことができるとみている。DLEを使った商業規模のプロジェクトは2025年に稼働を開始し、世界の供給の10%以上を担うとの見方もある。
DLEの活用に向け、電池メーカーや自動車メーカーは動き出している。欧米メディアによると、主要産地のチリでは、EV電池向けリチウム大手の米アルベマールがDLEを使い採掘事業を拡張する見通し。米ゼネラル・モーターズ(GM)は4月、DLE技術を持つスタートアップ企業の米エナジーXと提携した。争奪戦になりつつあるリチウムの確保に先手を打つ。
50年に温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指すうえで、EVの普及が原油の需要を減らす切り札とみられている。普及を進めるうえでのリスク要因は、リチウムのほか、銅やニッケルなど不可欠な金属が十分に確保できない事態だと考えられている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、17年から22年の間に世界のリチウムの需要は3倍に増えた。リチウムは主要産地がオーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンに偏っていて、一気に生産を増やしにくい状況にあった。新技術の実用化で生産効率を改善し、増産に道筋をつければEVの普及に弾みが付くことにつながりそうだ。
(シニアライター 山下真一)
[日経ヴェリタス 2023年8月13日号掲載]
日経記事 2023.08.15より引用