このところ財務省の前では、減税や積極財政を求めるデモが続いています。
14日は午後5時ごろからデモが行われ、東京・霞が関の財務省の庁舎を取り囲むように多くの人が参加し、一時は歩道をすれ違うのも難しいような状況となりました。
参加者たちは「財務省解体」と書かれたプラカードを掲げたり、「増税反対」とか「消費税廃止」といった声を上げたりしていました。
参加した人からは「SNSでデモのことを知り若い世代も考えないといけないと思って参加した」といった声や、「デモに来るのは3回目で、毎回人が増えている。所得が低い人たちは大変だ」などという声があがっていました。

財務省は中央省庁の1つで、国の財政政策などを担っています。
東京・霞が関の本省ではおよそ2000人が働き、総理大臣官邸との連絡調整や人事などを担当する大臣官房、予算編成を担当する主計局、税制の企画立案を担う主税局、関税制度や税関業務を担う関税局、国債の発行や国有財産の管理にあたる理財局、為替相場の安定など国際金融を担当する国際局があります。
財務省は、政府の予算編成にあたっては、査定を通じて各省庁の予算配分を差配する権限を持ち、税制にあたっては業界団体などの利害を調整し、毎年の税制改正の取りまとめにもあたることから、政財界に広い人的ネットワークを築き、「官庁の中の官庁」とも呼ばれてきました。
去年12月から「解体デモ」
財務省の前では、以前から一部の人たちが、消費税の廃止や国債の発行をさらに増やして、福祉の充実を求める主張のデモを行っていました。
その後、SNSで「財務省解体」の主張が広がり、去年12月からは「財務省解体デモ」が開催されるようになりました。
「財務省解体」Xでの広がりは

NHKがSNS分析ツール「Brandwatch」でXの投稿を調べたところ、去年10月から今月12日までに「財務省」と「解体」を含む投稿は、リポストを含めておよそ450万件ありました。
投稿は去年11月ごろ、衆議院選挙のあと「103万円の壁」の見直しや財源をどうするのかといった点に注目が集まった時期に広がり始めました。
その後、12月に消費税の廃止などを訴えるグループの女性がXでデモへの参加を呼びかけたのが1つのきっかけとなって、「財務省解体」という主張が徐々に広がりました。
ことし1月末に投稿は急増、さまざまな主張の人たちがデモを行うようになったこともあり、先月21日のデモの翌日には、Xではこれまでで最も多いおよそ33万8000件が投稿されていました。
中には「国民生活を考えず増税しか頭にない」と財務省を批判する内容や、「財務省のせいで生活が苦しい」などと訴える投稿や動画もありました。
実際にデモへの参加を呼びかける人たちはさまざまで、消費税の廃止を訴えるグループのほか、国の新型コロナ対策などに反対してきた政治団体や、保守系の政治団体などがデモの開催を予告したケースもありました。
また、「財務省解体」について拡散されている投稿を分析すると、ロシアを支持するとしているアカウントや、外国人排斥を訴える投稿を繰り返しているアカウント、消費税廃止の主張をしているアカウントなどが上位となっていました。
YouTube再生回数1億7000万回以上
先月下旬にデモが行われた際には、ユーチューバーなどのインフルエンサーがデモについて取りあげて動画が多く拡散し、別のインフルエンサーらがXやYouTubeなどでデモに批判的な投稿を行ったことで「財務省解体デモ」はSNSで広がり続けました。
YouTubeでは「財務省解体」という言葉がタイトルなどに含まれる動画は、去年10月以降今月12日までで4000本を超えていて、総再生回数はあわせて1億7000万回以上に上っています。
また、TikTokでもデモでの演説の様子を投稿した動画が250万回近く再生されるなど、関連する動画はあわせて少なくとも3000万回再生されています。
このうち、最も多く拡散された主張の1つは「日本は財政法4条に縛られていて積極的な国債発行ができず増税ばかりしている」などとするもので、YouTubeでおよそ300万回再生された動画もありました。
日本の国債について、発行残高は増加の一途をたどっていて、財務省によりますと、来年度末には普通国債の発行残高は1129兆円余りにまで膨らむ見通しです。
投稿の中には根拠のない情報や誤った情報などもあり、「財務省に日本国籍の人はいない」などとする誤った情報は、Xで合わせて340万回以上閲覧されています。
また、「トランプ大統領が日本の財務省の解体を発表した」とか、「財務省は世界を支配する闇の組織ディープステートの手先だ」などとする根拠のない情報も複数出ています。
専門家「気持ちくみ上げ粘り強い議論につなげていく必要も」
社会学者でインターネットを通じた運動について詳しい成蹊大学の伊藤昌亮教授は、今回のデモの背景について「ここ20年ほどの間に税金と社会保障の支出が上がり、物価高も起きていて、普通に生活している人も生活が苦しくなってきている。どこにどう文句を言っていいか誰が意向を吸収してくれるか分からない中、SNSで『財務省のせいだ』という非常に簡単な解が与えられ、『あいつらが悪いんだ』ということになっている」と話しています。
そのうえで、「外国人にお金を渡すなという排外主義的な動きや、敵を見つけて攻撃する陰謀論的な側面も含めて危険な部分は大きい。その一方で、これまでにない形での財政に関する問題提起にもなりうるので、メディアや政治が切り捨てず、気持ちをくみ上げて粘り強い議論につなげていく必要もあるのではないか」と指摘しました。
「国民負担率」2024年度は45.8%の見込み

財務省によりますと、個人や企業などの所得に対する税金と社会保険料の負担割合を示す「国民負担率」は、今年度は45.8%となる見込みです。
統計を取り始めた1970年度は24.3%でしたが、その後、徐々に負担率は増え、1979年度に30.2%と初めて30%台となり、2013年度は40.1%と40%を超えました。
新型コロナの感染拡大で国民の所得が減少した2022年度は、過去最大の48.4%となっています。
OECD=経済協力開発機構に加盟する38か国のうち、データが把握できる36か国を国民負担率が高い方から並べると、2022年度は日本は24番目になります。
最も高いルクセンブルクは89.4%で、上位にはフランスやオーストリア、フィンランドといった国民の負担が多い分、福祉が手厚いとされるヨーロッパの国が並びます。
一方、日本より負担率が低い国は、韓国が44.8%、アメリカが36.4%、最も低いメキシコが22.7%などとなっています。
歳出が税収を上回る状態続く

日本の財政は、歳出が税収を上回る状態が続いていて、その差額の多くは国債の発行によって賄われています。
普通国債の発行残高は、来年度末には1129兆円にまで膨らむ見通しです。
1990年には160兆円ほどの水準でしたが、2000年代に入ってから上昇のペースが大きくなりました。
社会保障費などの増加や大規模な補正予算の編成で国債の発行が積み重なった結果、この10年ではおよそ1.4倍に拡大しました。
財務省は日本の財政の課題について、中長期な持続可能性への信認を確保しつつ、日本が直面する構造的な課題に的確に対処していく必要があるとしています。
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