飛騨の山猿マーベリック新聞

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◆<東京新聞社説>3・11から14年 医療が現地にやって来る

2025年03月09日 17時26分12秒 | ●YAMACHANの雑記帳
東日本大震災は多くの教訓を突きつけました。津波や建物倒壊などによる直接的な死を免れたにもかかわらず、その後の生活で命を落とした「災害関連死」は3800人を超えます。こうした「防げたはずの死」を減らすために必要な策を講ずることも、南海トラフや首都直下など巨大地震への備えとして喫緊の課題と言えます。
 復興庁の資料によると、災害関連死の原因で最多は「避難生活における肉体的・精神的な疲労」でした。体の面では、温かい食事や清潔なトイレ、雑魚寝しないで済むような十分なベッドの確保など避難所の環境改善は今もなお課題です。心の面では、避難生活自体が最大のストレスなのは間違いありませんが、持病がある人にとっては、大半の薬局が津波で流されるなどして閉鎖されたため、手持ちの薬が日々減っていくことへの不安も大きかったそうです。
 この教訓から、宮城県薬剤師会は翌2012年、キャンピングカーを改造し、電子てんびんや分包機を車内に搭載した「モバイルファーマシー(MP)」を開発しました。数百種類の医薬品を積んだ「移動薬局」です。こうした医療とモビリティー(移動手段)の連携は医療MaaS(Mobility as a Service=マース)と呼ばれます。患者が医療機関に行くのではなく、患者のもとへ医療を届ける発想です。

◆能登半島地震でも出動

 各地の薬剤師会や大学が追随してMPを導入、16年の熊本地震では初めて被災地で活動し、脚光を浴びました。現在は全国に20台ほどあり、昨年元日の能登半島地震では13台が出動したそうです。
 岐阜薬科大(岐阜市)からも1月7日に林秀樹教授ら薬剤師3人がMPに乗り込み、駆けつけました=写真、同大提供。大災害時に救急医療の専門家らで編成される災害派遣医療チーム(DMAT)に同行し、避難所を巡回しました。国内外で災害医療経験が豊富な林教授は「MPの到着を知ると被災者の表情が和らぐのが印象的だった」と話します。
 医療MaaSでは「移動診療車」の開発も進んでいます。名古屋市内で今月6~8日にあった日本災害医学会の総会会場では、市内でクリニックを経営する木下水信院長がトヨタ自動車グループなどと開発した車「MedaaS(メダース)」が披露されました。ワンボックスカーを改良して、超音波検査機やエックス線撮影装置、血液分析装置などを搭載。オンラインでの診療や健診が可能です。
 木下院長はかねて医療と情報通信技術(ICT)の融合を模索してきました。MPのように災害時の活動を見据え、企業の出資も受けて25年度中にメダースを現有の2台から6台に増やす計画です。
 ただ、これはMPにも通底しますが、いつ来るか分からない災害に備えつつ、平時に、どう活用するかが、医療MaaSが普及する鍵と言えそうです。岐阜薬科大が全国の薬剤師会や大学を対象にした調査によると、普段の活用が限られることがMP導入に踏み切れない主な理由です。この点は、林教授も、木下院長も、高齢化や医師、移動手段の不足など、地域医療が抱える課題の解決に貢献できないかと考えています。

◆さらにドローンも活用

 医療MaaSの活用には規制の壁があるものの、2人はそれぞれ実証実験を重ねています。木下院長は昨年、兵庫や岡山県の計4市町の過疎地でメダースを使い、地元医師の協力でオンライン診療を実施しました。林教授も、岐阜県の薬局がない山間地にMPを出動させ、厚生労働省の特別な許可を得て、地元住民に調剤する試みをしました。2人ともこれからはドローンに着目しています。
 例えば、医療過疎地にメダースを着け、遠隔地から医師がオンラインで診療。電子処方箋を、これも離れた場所にある薬局やMPに送り、診察が終わるころにはドローンで患者のもとに薬が届く。能登地震では道路の寸断や渋滞が医薬品の供給を妨げましたが、ドローンを駆使すれば、積める量に限りがあるMPとMP間で薬を調達し合うことなども可能です。
 もっとも現時点では、災害時といえども自由にドローンを飛ばせません。さらにオンライン診療は原則としてかかりつけ医が担当、薬局以外での調剤は災害時に限る-などの制約もあります。被災地でも、過疎地でも、人が生きていくために「医療」は欠くことができません。救えたはずの命を真に救えるよう、今後、規制緩和も検討する必要があるでしょう。

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