政府が年内に予定する「国家安全保障戦略」の改定に向けた提言を自民党安全保障調査会がまとめた。抑止力強化を名目に事実上、軍事大国を目指すよう促し、周辺国の警戒と軍拡競争を招きかねない内容だ。平和憲法の理念を損なわぬよう政府に重ねて求めたい。
提言は、敵基地攻撃能力を「反撃能力」と改称して新たに保有▽国内総生産(GDP)比2%を念頭に防衛費を五年以内に大幅増額▽侵略を受けている国に対する幅広い装備品の移転−が柱だ。
いずれも歴代内閣が自制してきた内容で、実行に移せば安保政策を大幅に転換することになる。
反撃能力と改称しても相手国領域内でミサイル発射を阻む能力は変わらず、先制攻撃の意図を疑われるのは避けられない。攻撃対象に「指揮統制機能等」を明記したことは、他国の政権中枢攻撃も辞さないとの挑発にもなる。
そもそも陸地や海中を移動するミサイル発射地点の動きを事前に察知する情報能力を、日本独自で整備できるのか。現実味に欠ける提言と言わざるを得ない。
防衛費の増額も同様だ。
GDP比2%に増やせば年十兆円を超え、米中に次ぐ世界三位になる。自衛官のなり手が不足する中、増強する装備を使う人員の確保は可能なのか。財源も示しておらず、ロシアのウクライナ侵攻に便乗した軍拡要求は、与党として無責任のそしりは免れまい。
防衛装備品の移転対象を、紛争当事国にも広げ、品目も拡大すれば、紛争を助長しないか。
戦後日本は平和憲法の下、非軍事分野での国際貢献を重ね、国際社会で大きな信頼を得てきた。ウクライナのゼレンスキー大統領も先の国会演説で、日本には武器提供を求めてはいない。
自民党提言は「専守防衛の考え方の下で」としつつ、必要最小限度の防衛力は「時々の国際情勢」に応じて決めるという。情勢変化を理由に防衛力を増強すれば、歴代内閣が堅持してきた専守防衛が骨抜きになりかねない。
安保戦略改定の必要があるなら自民党にとどまらず、国会を含めて幅広く意見を聞き、透明性のある手続きで進めねばならない。
専守防衛に徹し、軍事大国にならなかった平和国家の歩みが国際社会で高い評価と尊敬を得た、との現行戦略の記述は妥当であり、変えるべきではない。
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