蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

2023年11月12日 | 本の感想
道(白石一文 小学館)

唐沢功一郎の妻:渚は、娘の美雨が交通事故で亡くなった後、鬱病になり自殺をはかる。その後、妹の碧が同居して治療を続けたが回復せず、二度目の自殺を試みる。功一郎はかねてから考えていたある秘策を実行することにする・・・という話。

著者の作品は、過去1作しか読んだことがないが、人生の意味を問うような純文学に近い作風なのかな、というイメージがあった。
しかし、本作はSF的要素を本格的にとりいれ、主人公の功一郎は頭脳明晰で二枚目で仕事ができて社長のお気に入りでもちろんモテる、という島耕作みたいな設定にして、スイスイ読み進めるテンポのよさがあって、エンタメとしてよくできていると思えた。

功一郎は食品の品質管理のエキスパートなのだが、冒頭からいきなり製品への異物混入事件の顛末を細かく描写し、「これは一体なんの話なの?」と読者に興味を抱かせるツカミが、うまいなあ、と思わせた。
この最初の10ページくらいを書店で立ち読みしただけで、続きを読みたくて仕方なくなってしまった。

実際、功一郎の職業が何であっても、本作の筋立てとはほとんど関係ないのだが、品質管理というあまり馴染みがない仕事の内容を詳述することで、現実離れしたストーリー展開をリアルな世界につなぎとめる効果があったように思えた。
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炯眼に候

2023年11月12日 | 本の感想
炯眼に候(木下昌輝 文春文庫)

信長の様々なエピソードを新たな切り口で解釈する短編集。

「偽首」、「軍師」は桶狭間と長篠の謎解き。信長が気候観測に長けていた、というのは昔からよく聞く説だが、竹中半兵衛を絡ませた所が新しい。ただ、ちょっと現実離れした感じ。
「弾丸」は杉谷善住坊の信長狙撃の謎解き。杉谷善住坊の子孫への取材を元にしているものの、動機が「ありえねー」感じかな。
「鉄船」は石山本願寺戦で毛利水軍に完勝した謎解き。これは納得性があった。毛利水軍を圧倒した鉄船がその後二度と現れなかった理由が「なるほど」と思わせた。
「鉄砲」は長篠の三段撃ちの謎解き。これは読んでいる途中、もっとも謎解きへの期待が高まったが、結末は正直期待はずれで、「それは当たり前すぎませんか?」と思えてしまった。
「首級」は本能寺で信長の首が見つからなかった謎解き。謎解きはトンデモだったが、小説としては面白かった。長編にできそう。

本書の解説にもあるように、信長ほどありとあらゆる面から研究され、物語化された武将はいないだろう。秀吉、家康、義経、竜馬などと比べても圧倒的な差があると思う。
ために、信長を材料にすると本書のように多少突飛な発想をしないと二番煎じになってしまいそう。
なので、謎解きがトンデモだ、なんて腐すのは見当違いで、トンデモを、それでもそれらしくまとめてエンタメにできていると思う。
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