エスコンフィールド球場を企画し、建設地を決めるまでの経緯を、日ハム事業統括部長の前沢賢、副部長の三上仁志、招致側の北広島市の企画財政部長の川村裕樹を中心に描く。
日ハムの決算資料によると、2024年上半期のボールパーク事業の事業利益は63億円で会社全体の1/4を占める(ボールパーク事業は上期偏重なので、全期では比率が下がる)ので、エスコン建設(事業費600億円)は今のところ事業としても大成功。今後さらに周辺整備が進み、球団の成績がもっと良くなれば、日ハム(という上場企業)の大黒柱になりそうな勢いである。
しかし、人口数万人、札幌市からのアクセスがイマイチ、北広島市にスタジアム建設と聞いて「え、またカープ球場作り直すの?」と一報を聞いたとき(私が)勘違いしたくらいの知名度の自治体が50年間放置してきた森を600億円で開発しようというのだから、度胸があるというのか、無茶というのか・・・「人を怒らせる天才」と称された前沢さんの独創(というか独走?)がなければ、決して実現しなかったであろう、まさに奇跡のプロセス。
前沢さんは、最初にスタジアム新設&移転を提案したときは経営から相手にもされず、いったん日ハムを退社して出戻りだというのだからすごい。それをサポートした元オーナーの大社さん(創業者の甥で養子)はじめ、日ハムという球団というか会社には、新規事業への挑戦というスピリッツが宿っているんだろうなあ。
ちょっと前のNHKの番組「サラメシ」でエスコンおよび北広島市役所が取り上げられていた。残念ながら前沢さんは登場しなかったが、川村さんが出演。昼食は長年、奥さんが握るジャンボオニギリと決めているそうで、忙しくても3分で食べられるのがいいらしい。高卒(高校時代、公立校の4番で甲子園出場)ながら市長の右腕となって、これまた普通ならビビってしまいそうな構想を実現させた人、とは思えない穏やかな表情が印象的だった。提案書の中の手書きの構想図もよかった。
ちなみにエスコンの社員食堂はとても立派だった。
「嫌われた監督」で有名になった著者のパッションを感じさせる筆致は本作でも健在で、ノンフィクションとは思えない、結果がわかっていてもハラハラドキドキさせてくれる展開が素晴らしかった。
ただ、(「嫌われた監督」でもそうだったが)作品全体の基調として、ちょっと悲壮感が漂いすぎているような気がしないでもない。本作の素材は明るい話なので、もう少し幸福感??を高めてくれるような書き方がよかったかな。