蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アンビシャス

2023年11月04日 | 本の感想
アンビシャス(鈴木忠平 文藝春秋)

エスコンフィールド球場を企画し、建設地を決めるまでの経緯を、日ハム事業統括部長の前沢賢、副部長の三上仁志、招致側の北広島市の企画財政部長の川村裕樹を中心に描く。

日ハムの決算資料によると、2024年上半期のボールパーク事業の事業利益は63億円で会社全体の1/4を占める(ボールパーク事業は上期偏重なので、全期では比率が下がる)ので、エスコン建設(事業費600億円)は今のところ事業としても大成功。今後さらに周辺整備が進み、球団の成績がもっと良くなれば、日ハム(という上場企業)の大黒柱になりそうな勢いである。

しかし、人口数万人、札幌市からのアクセスがイマイチ、北広島市にスタジアム建設と聞いて「え、またカープ球場作り直すの?」と一報を聞いたとき(私が)勘違いしたくらいの知名度の自治体が50年間放置してきた森を600億円で開発しようというのだから、度胸があるというのか、無茶というのか・・・「人を怒らせる天才」と称された前沢さんの独創(というか独走?)がなければ、決して実現しなかったであろう、まさに奇跡のプロセス。
前沢さんは、最初にスタジアム新設&移転を提案したときは経営から相手にもされず、いったん日ハムを退社して出戻りだというのだからすごい。それをサポートした元オーナーの大社さん(創業者の甥で養子)はじめ、日ハムという球団というか会社には、新規事業への挑戦というスピリッツが宿っているんだろうなあ。

ちょっと前のNHKの番組「サラメシ」でエスコンおよび北広島市役所が取り上げられていた。残念ながら前沢さんは登場しなかったが、川村さんが出演。昼食は長年、奥さんが握るジャンボオニギリと決めているそうで、忙しくても3分で食べられるのがいいらしい。高卒(高校時代、公立校の4番で甲子園出場)ながら市長の右腕となって、これまた普通ならビビってしまいそうな構想を実現させた人、とは思えない穏やかな表情が印象的だった。提案書の中の手書きの構想図もよかった。
ちなみにエスコンの社員食堂はとても立派だった。

「嫌われた監督」で有名になった著者のパッションを感じさせる筆致は本作でも健在で、ノンフィクションとは思えない、結果がわかっていてもハラハラドキドキさせてくれる展開が素晴らしかった。
ただ、(「嫌われた監督」でもそうだったが)作品全体の基調として、ちょっと悲壮感が漂いすぎているような気がしないでもない。本作の素材は明るい話なので、もう少し幸福感??を高めてくれるような書き方がよかったかな。
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家康の選択 小牧・長久手

2023年11月04日 | 本の感想
家康の選択 小牧・長久手(鈴木輝一郎 毎日新聞出版)

小牧・長久手の戦いを描く。
信長・秀吉・信玄を天才と評価し、これと比して家康を合戦上手だけが取り柄の凡庸な武将とするのは、よくある筋書きで、本作もそれに沿っている。
織田信雄もある種の天才(何度も戦の総大将になってその度に敗れるが、なぜか江戸時代まで生き延びる)だとするのは異色だし、単純な猪武者として描かれることが多い森長可(鬼武蔵)を有能すぎる武将と設定しているのも珍しい。著者が、昔、この二人を主人公にした作品を出している影響だろう。

家康は幼少から人質に出され、父には捨て殺しにされそうになり、母とは同居しなかったこと等から、肉親の情がない、というか理解できない、という設定は面白かった。だから妻や息子を自害させても平気だし、家族より自分を担いでくれる重臣たちの機嫌を取ることに熱心だったし、秀吉の妹や実母を人質に貰っても価値を感じなかった・・・というのは確かにそうだったのかも、と思わせてくれた。

合戦シーンがあまり描写されないのが残念。

阿茶局って侍装束で合戦にも参加していたっていうのは、知らなかったなあ。
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ゴジラ ー1.0

2023年11月04日 | 映画の感想

ゴジラ ー1.0

1945年、日本近海中に生息していた怪獣ゴジラは恐竜並みの大きさだったが、核実験の放射能の影響で巨大化し、東京に上陸する。整備不良と偽って特攻を逃れて帰郷した敷島(神木隆之介)は、同居する典子(浜辺美波)とその連れ子?の生活費を稼ぐために危険な機雷掃海に従事するうち、東京に接近するゴジラを牽制する任務に付くことになるが・・・という話。

 

もし、「シン・ゴジラ」を見ていなかったら、私の中の歴代1位の怪獣映画になる秀作。

 

最大の見どころはゴジラが銀座を破壊するシーンで、確かに良く出来ていて不自然な感じは全くない。おきまりの、ヒロイン(浜辺美波)にゴジラが眼の前にまで迫るシーンもいい。

しかし、「シン・ゴジラ」の主役があくまでゴジラであったのに対して、本作では銀座シーン以外のゴジラはやや精彩を欠いている、というかサプライズがない。よくできているんだけど、「シン・ゴジラ」で感じたワンダーが、ちょっと足りないんだよね。

 

それとは対照的に、軍艦や航空機のCGがとてもよかった。というか手間を惜しまずに作られている、という感じがした。

やられメカの重巡高雄、主役といっていい駆逐艦、そして、そうきたかの震電、どれも作り物とは感じさせないリアルさがあった。高雄との戦闘シーンをもう少し長くしてもらいたかったなあ。(しかし、高雄の20センチ砲を至近距離で受けたら、いくらゴジラでも真っ二つだわな・・・いくら何でも初めてのる戦闘機を自由自在に操縦できんわな・・・などと野暮なことは言ってはいけない)

そして本作最大のスペクタクルは、駆逐艦のすれ違いシーン(だと、私には感じられた)。

同じCGチームによる「アルキメデスの大戦」の海戦シーンもよかったが、さらに進化している。同チームによる砲戦(日本海かユトランドあたり)映画を見てみたいなあ。なんとなく、続編があったら、次は陸上自衛隊の出番になりそうな気がするが・・・

 

博士役の吉岡秀隆がよかった。

 

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