蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

私たちはどこから来て、どこへ行くのか

2024年05月24日 | 本の感想
私たちはどこから来て、どこへ行くのか(森達也 筑摩書房)

ノンフィクション作家で映画監督の著者が、進化や宇宙論の先端的科学者に人間の起源と将来についてインタビューした記録。この手の本は対談っぽくまとめられるのが普通だと思うが、本書は著者が対談中のインタビューイーの様子を描写しているのが特徴。

昔から、進化の原因は突然変異だ、という説は、「わからないからそういうことにしておこう」みたいな臭いがして、疑わしく思っていた。本書によると、近年は構造主義生物学というのがあって、一個の遺伝子が機能や形態を決めるのではなく、多くの遺伝子の順列組み合わせによって合成されるタンパク質が決まるという仮説が力を得ているそうで、なるほど、こちらの方が科学っぽいなあ、と思った。

量子のふるまいと人間の心のふるまいはにている、量子の不思議な性質は心の性質と似ている、というのも面白い。
不確定性原理や量子論の研究者には東洋哲学に傾倒している人が多い、
般若心経の「色不異空 空不異色 色即是空 空即是色」が仏陀の「この世においては物質的現象には実体がないのであり、実体がないからこそ、物質的現象であり得るのである。実体がないといっても、それは物質的現象を離れてはいない。また、物質的現象は、実体がないことを離れて物質的現象であるのではない」という論理に依拠している・・・等々

私の著者に対する勝手なイメージとしては、左系でコワモテの反権力なジャーナリスト、みたいなところだが(すみません・・・)、インタビューを受ける人も似たようなものらしく、皆インタビューが進むにつれてリラックスしたムードになったらしい。多分、筑摩の人の紹介で受けざるを得なかったのだろう。本作はそんな世間のイメージとはかけ離れた内容で、かつ、著者の専門外の問題についてかなり勉強した上で臨んでいることがわかって、印象が相当に変わった。

セントラルドグマ、人間原理、アポトーシス、インテリジェントデザイン説、インフレーション宇宙なんて用語が、かっこいい。
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春期限定いちごタルト事件

2024年05月24日 | 本の感想
春期限定いちごタルト事件(米澤穂信 創元推理文庫)

同じ高校の一年生の小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、とにかく目立つのがいやで、二人で協力して穏やな小市民として生きていこうとしている。しかし、小鳩は推理好き、ネタバレ披露が大好きというウラの性格を抑え込むことができず、小佐内にも秘密の性格があって・・・という話。小市民シリーズ第一作。

いわゆる日常の謎タイプの連作集なのだが、ほのぼのとした謎の裏には著者らしい恐ろしげな真相があるのでは?と期待したが、そういうのはなかった。もしかしてシリーズの次作以降にあるのかもしれない。
「おいしいココアの作り方」は、タイトル通りの内容なのだが、謎にけっこう強度があって、かつ、手がかりも完全に開示され、それなのに謎解きが鮮やかでよかった(著者としてはこれが一番面白いと言われては不本意かもしれないが・・・)。

本作は初版2004年の文庫書下ろし。いまや斯界の大家といえそうな著者はまだデビューしたてで、多分当時はラノベ系と見られていたと思う(本作の解説もラノベ評論家?の人)。
文庫の裏表紙にある紹介文の最後には「新鋭が放つライトな探偵物語」とある。なんとなく、リスペクトが薄いような・・・再版を重ねているみたいなので、紹介文も書き換えた方がいいんじゃないかなあ。
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