蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

三井大坂両替店

2025年02月02日 | 本の感想
三井大坂両替店(萬代悠 中公新書)

江戸時代から明治初期まで大坂で貸金業で栄えた両替店の組織や信用調査についての研究成果を記した本。

三井大坂両替店は、大坂と江戸の為替業務(例:大名が大坂で換金した年貢米を江戸に送金する)を担っていたが、幕府の年貢米については、大坂から江戸に送金するまでに90日の猶予が認められており、これを資金源として貸金業を行っていた。本当は禁止行為なのだが、貸金は架空の為替手形を買い取る形式で行うことで黙認されていたという。
元が幕府のカネなので、不良債権になっても訴訟上等で優遇されているというのがミソ。
なんとなく、「おぬしもワルじゃのう〜」っぽい手口なのだが、幕府がなくなるまで咎められることはなかったようだ。

三井に限ったことではないだろうが、当時の昇進は厳格な年功序列で、少年のころに就職?するとずっと住み込みで、独居して結婚が認められるのは中年にさしかかった頃だったそう。もちろん、入社?した全員が勤め上げられるわけではなく、辛くてやめたり、自身の店を興したり、それなりの地位まで昇進すれば暖簾分けのような仕組みもあったらしい。重役クラスになるまでには数人に絞られており、このあたりはちょっと前までに日本企業や役人の出世レースそのものという感じ。

信用調査では、担保価値(主に店舗や居宅の不動産評価)が重視されたが、聞き合わせによる評判(ギャンブル狂だとか遊所通いがひどいとか)も重視されたそう。融資の申し込みのうち、実行されたのはせいぜい2割程度だったらしい。新規の申込みは厳選して得意客を見極め、優良客との継続性を重視していた。このあたりも現代の日本の銀行の姿勢に似たものを感じる。

数百年たっても一商人の信用調査の記録が膨大に残されており解読可能なのだから、やはり紙による記録保存は優れているなあ、と思う。電子データだとそもそも(数百年レベルになると)保存性が怪しいし、それが本物なのかどうかから疑わないといけなくなる。
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