蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

比ぶ者なき

2021年04月10日 | 本の感想
比ぶ者なき(馳星周 中公文庫)

天皇家と婚姻関係を持ち、政治力でしきたりを変更して藤原家の女を皇后にし、藤原家の永遠の繁栄を目指した藤原不比等の生涯を描く。

持統天皇以降のわかりにくそうな天皇家をめぐる皇族や重臣の動向を、古代史に興味が薄く不比等の業績を全く知らなかった私でも、容易に理解できるくらいに整理された筋書きは見事でとても読みやすい。

ただ、会話部分が非常に多くて、どうも登場人物に厚みがないというか共感しにくかったような気がした。

伝来の慣習法みたいなものを強引かつ恣意的に変更していく不比等の政治力は圧倒的。軍事力を背景にしているわけでもなさそうなので、他人をコントロールするパワーみたいなものが凄かったのだろうか。本書では将来を見通した謀事を仕掛ける能力が抜群だったということになっていた。
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日本史サイエンス

2021年04月10日 | 本の感想
日本史サイエンス(播田安広 講談社ブルーバックス)

著者は船舶設計者。技術者の視点から、元寇の撃退要因、秀吉の中国大返し成功の原因、戦艦大和の存在意義を分析する。

元寇については、主として日本に侵攻した船の構造を想像することで、侵攻軍は大陸で怖れられたほどの戦力は保持しておらず、博多から一夜にして撤回した理由を推理していて納得性が高かった。

中国大返しは、ロジスティクスの側面からして秀吉軍の主力が山崎にまでたどりつくことは不可能として、秀吉ら将帥クラスだけが船で移動し、京都近辺の大名を掌握して光秀に勝利したとする。うーん、これ(天王山で秀吉直轄軍はほとんど戦闘していない)って割とよく聞く謎解きのような気もするけど・・・

大和については、そのスペックは当時としてはやはり圧倒的で、運用(艦隊護衛や対空戦闘に使う等)を積極的に行えば、十分な戦力になったとしている。

以下、終章より引用
「鎌倉武士も、秀吉も、当事者たちは自身がおかれた状況をリアルに認識していました。鎌倉武士はなんとしても国を守るため、武士の身上どおり「一所懸命」に、命がけの集団騎馬突撃で戦いました。秀吉にしても、天下を取ろうという一念から、なりふりかまわず野心を露わにし、リスクを冒して機動作戦を敢行しています。(中略)
彼ら自身はけっして奇跡や伝説を頼んだわけではなく、リアルな現状認識にもとづいて、難局を打開するために目的に向かってもてる力を集中させたのです。
ところが、これらの例とは様相を異にしているのが、第3章で検証した戦艦大和です。難局ということでは、米国と戦うのは鎌倉武士や秀吉以上の困難でした。それが敗因と言ってしまえば身も蓋もないのですが、そうであったとしても、当時の軍人たちには「一所懸命」さが足りなかったように思われるのです。」

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本郷界隈 街道をゆく37

2021年04月10日 | 本の感想
本郷界隈 街道をゆく37(司馬遼太郎 朝日新聞社)

東京の文京区を中心とした地域を歩いて、加賀藩・水戸藩邸、鴎外、漱石、一葉などのゆかりの地をしのぶ内容。

本郷って今だと都心のど真ん中という感じなんだけど、江戸時代だと府内の境界線だったそう。
むしろそういう境目の地域だったからこそ、歴史に名を残す人が多くかかわったのかもしれない。

「街道をゆく」シリーズはおおよそ半分くらいしか読んでいない。老後の楽しみ?の一つだったのだけど、そろそろ本当に老後になりつつあるので、未読のものを中心に読んでいこうと思いつつ、本書は再読だったことに最初の30ページあたり(加賀屋敷)で気が付いた。でも、やっぱり面白いよね。
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株式市場の本当の話

2021年04月03日 | 本の感想
株式市場の本当の話(前田昌孝 日経プレミアシリーズ)

著者は日経新聞で30年くらい一貫して株式関係の記事を書いてきた。日経は署名記事が多いので、私も著者の名前はおなじみなのだが、ちょっと斜めから見た皮肉な感じの内容が多かったような印象。
本書でも、バフェット流運用、日本の投信運用・販売環境、GPIFや日銀ETF買いのガバナンス、ESG投資などについて、批判的な視点で評論されている。特に個別の投信の実名をあげて批判しているのは、日経の記者として大丈夫(投信の運用や販売会社は日経の大手の広告主)なの?と心配になってしまった。
しかし、取材やデータのまとめ方(自作の図表を多用しているが著者の自慢の一つ)は丁寧に行われていた。特に東芝の議決権行使問題の裏側なんかは、どこでも読んだことがないくらい詳細で、興味深く読めた。
以下、印象に残った記述。
●スペイン風邪の時のアメリカ市場通りに動くとして、2020年3月の16552を日経225の一番底とすると、そこから2年後に3万円に到達し、さらに4年後に1.6万円まで下がる。

●バークシャーの保有銘柄で最も儲かったのはアップル。有名なコカ・コーラの5倍くらい儲かっている。

●金融庁がNISAの投資例で仮定している投資利回り3%は低そうに見えるが、実際には達成は容易でない。

●1989年末の国内上場全銘柄のうち2020年も上場を維持している銘柄は1368。このうち、税引配当を再投資したとしても880銘柄が元本割れ。592銘柄は半分以下。ただし全銘柄に等金額投資したとすると元本を5割近く上回る。これは大きく値上がりした銘柄のおかげで、10倍以上になった銘柄あ26あった。
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魔聖の迷宮

2021年04月03日 | 本の感想
魔聖の迷宮(五代ゆう ハヤカワ文庫)

グインサーガ続編3作目。
栗本グインが終わった、ヤガにおけるエピソードの続き。「七人の魔導師」に登場した下っ端?魔導師(なぜか本書においては彼らは「魔術師」と呼ばれていたが・・・)が総登場する。
いずれも(下っ端とはいえ)「七人の魔導師」では強力な魔力を持っている実力者のはずなのだが、本書ではホントにしょうもない(というか普通の人間みたいな振る舞いをする)役回りになっていて、ヒロイックファンタジーとしての品格?が落ちてしまったなあ、という感じだった。
イエライシャもグラチウスみたいに、普通のオジイサンっぽくなっちゃってたしなあ。残る品格はロカンドラスくらい??
個人的に「七人の魔導師」が栗本グインのベストな刊だと思っているので、なおさら残念・・・。
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