蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ヴィオラ母さん

2023年12月17日 | 本の感想
ヴィオラ母さん(ヤマザキマリ 文藝春秋)

テルマエ・ロマエで有名な漫画家の著者の前半生の自伝。プロの演奏者だったシングルマザーの母:リョウコの思い出話が中心。リョウコは深窓の令嬢といった感じの育ちだったが、音楽で生きることを決め二人の娘を育てながら北海道で暮らす。札幌のオーケストラに所属していたためだが、その他に寒い気候が好き、自然や動物が好きだったためでもあったという。

日経の土曜版には、家庭向け?の内容を特集した?別冊があるが、ここに「食の履歴書」という、有名人の思い出の食事をテーマにしたインタビュウ記事がある。著者の回がとても面白かったのが読んだきっっかけ。その記事の冒頭、夕方がきて友達は親が迎えにきたりして家に帰るが、著者と妹はずっと二人で遊んでいた(母が仕事で家にいないため)、というツカミが特に印象的だった。

多分、第三者的に見れば、リョウコさんはチャーミングな女性で、父親が異なる二人の娘を自分だけで育てあげたのだから、良き母だったのだろう。でも著者の中のイメージ(というか幼い頃の記憶)では、モンスターのようなものとして脳内に刻まれているようだ。本書には何箇所かマンガも挿入されていて、その中に登場するリョウコさんの姿が、蓬髪の間から目をギラつかせているまさに怪物のようなものであることがその何よりの証左のように思えた(本書に収録されている写真、特に表紙に掲載されたものを見ると、とてもそんなモンスターのような人には見えないが・・・)。

イタリアに留学していた著者が未婚の母となって子供を日本に連れ帰ったとき、リョウコさんは「仕方ないね。孫の代まではアタシの責任だ」と言ったそうで、これが本書で最も印象に残ったセリフ。
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いとみち

2023年12月15日 | 映画の感想
いとみち

青森の女子高生:相馬いと(駒井蓮)は、祖母のハツエに教えられて三味線の名手になったが、本人はそれがあまりうれしくなくて日常生活に閉塞感を持っていた。それを打ち破るべく、市街地のメイド喫茶で働き始めるが・・・という話。

いとの父親:耕一(豊川悦司)は、方言や民俗の研究をする大学教授という設定だし、キャストも青森出身の人が多くて、セリフの多くが方言。ネイティブ(祖母役の人など)がしゃべるシーンは時々意味がとれないことも。
方言や三味線の存在感が本作のテーマなのだが、メイド喫茶の方も、客や従業員の実態?を紹介していてけっこう面白かった。特に店長役(中島歩)がいかにもそれらしく見えた。
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プロミシング・ヤング・ウーマン

2023年12月15日 | 映画の感想
プロミシング・ヤング・ウーマン

元医大生のキャシー(キャリー・マリガン)は、夜ごとバーで男を誘っては、男がコトに及びそうになるとソデにして侮辱する行為を繰り返していた。在学中に友人のニーナが同級生のアルにレイプされた後自殺したことに起因して男性社会への復讐を企てていたのだった。カフェでバイトしているキャシーのもとに、医大の同級生医ライアンが偶然訪れ、やがて二人はデートをするようになるが・・・という話。

この作品はレンタルビデオ屋の年間ランキング上位だった(から見てみた)し、米国での評価も非常に高いらしい。
うーん、しかし、主人公の復讐行動が非現実的(映画みたいにうまくいかない)のような気がするし、うまくいったとして、フラレた男の方もそこまでショックを受けるものだろうか??

そこは、まあ、エンタメとして理解するとして、その流れでいくなら、バットエンディングじゃなくて、カタルシスを感じさせてくれるようなものにしてもらいたいなあ、と思った。
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首(映画)

2023年12月11日 | 映画の感想
首(映画)

荒木村重が謀反を起こし有岡城に立てこもるあたりから始まり、山崎合戦のあたりまでを描く。信長が、自分の息子は頼りない、自分の後を襲う者は部将の中から選ぶ、と言い出し、秀吉や光秀が色めき立つ、というヤク◯映画のような設定が主軸になっている。

あらゆるレビュウで述べられているように尾張弁?全開で、本当に狂っているとしか思えないような異色の信長の迫力がすごすぎて、他の役者やストーリーがかすんでしまう。それを演じているのが加瀬亮という、イメージとしては真面目て寡黙なイメージがある役者さんであるというのも、意外感をかきたてている。このキャスティングと役柄設定が監督によるものなのだとしたら、それだけでこの映画は成立してしまいそうだ。

私はほぼ尾張弁?ネイティブなので、信長のセリフは理解できたが、そうでないと、一部何をいっているかわからないのでは?と思うほど。しかし、信長以外の人はほぼ標準語?。
信長のアブノーマルさを際立たせるためなのか、あるいは方言まるだしでしゃべっていいのはタイショウである信長だけ、という設定なのだろうか?
しかし、いちおう格としては信長とならぶ家康(小林薫)だけは思いっきり三河弁にしてもらいたかったかな。(隣同士でも尾張弁と三河弁はけっこう差がある)

監督は、編集するとき、自分自身とか曽呂利新左衛門役の演技をみて「まずいな、これは」とか思ったりしないのだろうか?それとも秀吉登場シーンはすべてコントなんだ、ということなのだろうか?
戦国に生きた武士の美意識の典型と言われる清水宗治(荒川良々)の切腹シーンも笑っていいシーンなのか迷ってしまった。しかし、キャスティングからしてもギャグシーンなんだろうなあ??
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飛び立つ季節

2023年12月09日 | 本の感想
飛び立つ季節(沢木耕太郎 新潮社)

国内旅行エッセイ第2弾。
コロナ禍の最中に執筆されたので、旅にいくのにもいちいち言い訳をしているのだが、ごれがなんとも著者らしくない。まあ、当時の世間の雰囲気を思い出すと、著者はよくても編集者が許してくれなかったのかも。

旅行エッセイといっても、著者もおとしだし、「深夜特急」みたいなダイナミックな経験を記すのは望むべくもない。

16歳のころ、著者は初めての一人旅をしたそうで、今でいう青春18切符みたいな旧国鉄の周遊券を握って東北を一周したらしい。本書ではそのころ訪れた先を再訪している話が多かった。
秋田の寒風山に登る途中、ダンプの運転手が便乗させてくれ、帰り道でもまた同じダンプに乗せてくれたそうである。(「旅のリンゴ」)
降りるとき、運転手はリンゴを1個くれたそうで、これが妙に心強く(食べるものがなくなったらそのリンゴを食べればよい、と思えたらしい)、その後、旅立つときにはザックにリンゴを入れておくのが習慣になったそうだ。

「いつか棚」は、いつか読もうと思っている積ん読本を並べておく棚のこと。私も似たような発想で本をよりおけているが、「いつか棚」の本はいつまでたっても読まれないのが常。
しかし、著者はその中の一冊「江戸近郊ウォーク」を読み、三番町から(自宅近くの)九品仏まで歩いてみたという。同書は江戸時代後期の武士;村尾嘉陵の徒歩旅行エッセイ(の現代語訳)で、著者がたどったコースは往復だと50キロくらいあったそうで、村尾は当時72歳だったそう。昔の平均寿命が低いのは乳幼児死亡率が高いからで、大人になった人はそれなりに長生きしたものらしいが、それにしても元気な人だったんだなあ。
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