落合順平 作品集

現代小説の部屋。

デジブック 『かかし祭り・第1部』

2012-10-08 17:25:15 | 現代小説
デジブック 『かかし祭り・第1部』

恒例の案山子祭りがやってきました。
今年も、ユニークな案山子コンクールのはじまりです。
まずは、前半部分をごらんください。


「舞台裏の仲間たち」(45) 第二幕・第二章 「突然の台湾進出は」

2012-10-08 10:27:46 | 現代小説
アイラブ桐生Ⅲ・「舞台裏の仲間たち」(45)
第二幕・第二章 「突然の台湾進出は」



 自動車関係のプラスチック製品を主に生産している順平の会社では
取引先の一つに、急成長を遂げている本田工業(現・ホンダ)の一次下請けの
上位にいる外注部品工場が有りました。
この外注部品工場が、東南アジアへの本格的な進出の足掛かりとして
台湾にある現地会社との合弁手続きを開始しました。



 会社の主力製品は、車のシートやライト周辺の部品です。
これらの仕様を台湾と中国の現地需要に育て上げるために、新規に金型を開発するという
要請が順平の会社に舞い込んできました。
数度の打ち合わせの後に亀田金型が、現地進出の第一号として、
台湾に乗り込むことが決定しました。


 新鋭機械の相次ぐ導入で、支援する地元の銀行からも、
『これ以上は無理』との制限を受け、運転資金にも行き詰まっていた亀田社長が
追加融資付きという優遇条件に、いち早い決断をくだした結果です。
大まかな方向性が決定されたその事前協議の帰り道、ハンドルを握る順平が
助手席で汗をぬぐっている亀田社長に声を掛けました。



 「社長、大英断ですね。
 大丈夫ですか、台湾とは言え相手は中国人たちです。
 メイドイン・チャイナといえば、
 模倣や盗作ありの、仁義なき世界と言う評判もあります。
 かなりの覚悟で乗り込む必要がありますからねぇ」



 「うん、すべて覚悟のうちだ。
 こちらの金融機関では、慨にうちは見放されている状態だ。
 台湾進出の追加融資策はうちにとってはありがたい。
 こうなればもう、前に進むしかあるまい
 大変なことは承知の上で、台湾でひと花咲かせるのも悪くないだろう、
 第一、むこうはいまだに公娼制度が残っている国だ。
 女も買いたい放題だ、
 それを考えれば、悪くない話だろう、
 え、順平君」



 「社長は好きですからねぇ、そういうのが。」



 「英雄色を好むと言って、
 男が物事を成し遂げる裏側に、常に女はつきものだ。
 ましてや、台湾は50年間も日本が植民地支配を続けてきた
 歴史を持っている国だ。
 やり遂げて見せるさ・・・・
 これでうまくいけば、うちは海外でもやっていけるようになる。
 順平君、
 足がかりは我々でしっかりと造ろうじゃないか。
 金型もすでに、東南アジアから全世界を目指して
 海外進出をなしとげていく時代だ。
 あと10年もしたら、中国本土にどでっかい
 金型の工場を建ててやろうじゃないか。
 人口が10億人以上も居る中国は、
 これからの世界経済のキーワードになるはずだ」



 「たしかに、台湾進出を足がかりに
 本格的に中国進出を画策している企業は多いようですね。
 中国市場が開放されれば、たしかにかつてない規模の世界が開けます。
 壮大な計画になります・・・・」



 「男の夢は、でっかいほうがいい。
 しっかりと足元を築いておくから、あとから
 ゆっくりと現地視察に来てくれよ。
 大歓迎するからさ」



 「もう、向こうで成功したような口ぶりですね。」




 「当り前さ。
 国内で、今までさんざん苦労をして
 油汗を流しながら資金繰りを繰り返してきたんだ。
 これさえうまくいけば、そいつからも一遍に解放されるんだ。
 上手くやってのけるさ。
 第一、向こうに行けば、国産メーカーのNCやマシニング・センターが、
 関税の優遇と国策のために、国内価格の半額以下で導入が出来るんだ。
 夢みたいな、工場設備が完成をする。
 まさに、トントン拍子の青写真そのものだ。
 そう思うだろう、君も」



 「そうですね」と頷いたものの、一方で、
そんなに上手くいくだろうかといぶかっている自分がいることに、
なぜか、順平は気がついていました。



 しかしこの時代の海外進出は、
すでに一部の大企業からさらに下部へと、その広がりを見せはじめました。
一次や二次の下請け企業をはじめ、町工場まで巻き込んでの
海外移転が、よく有る海外事業ひとつとして本格化をしてきたのです。
今回のケースもよくある町工場の、海外進出という話の一つに過ぎません。


■NCマシンとマシニング・センターについて。


 NCとは。

 数値制御工作機械のことでNCマシンともいい、
従来の手で操作する工作機械に対して、数値情報(coded data)で
操作される工作機械のことをいいます。

 工作機械のNC化は、
1960年代に日本が世界に先駆けて開始し、
その成功で、その後の世界のNC工作機械市場の大部分を制覇しました。
機械装置のNC化には、それに適したアクチュエーターとセンサー、
ならびに制御装置の開発が必要でした。

 その後に、マイクロプロセッサやマイクロコンピュータが
制御部分の主要部として取り入れられると、高精度加工の大衆化と非熟練化が促進され、
生産技術に大革命をもたらしました。
また、その技術は初期の産業用ロボットや
その他のメカトロニクス機器に応用されるとともに、
生産技術全般の高度化をもたらし、70年代から80年代の
日本の産業躍進の原動力にもなりました。


 最近注目される技術としては、曲面加工の際に、
従来では階段状に駆動していたのを、なめらかな曲線で駆動する技術が
開発されたこともあり、広範な応用が期待されています。



 

 マシニング・センター [machining center] とは

 加工物の穴あけ、ねじ立て、面取り、中ぐり等の
複数の加工が可能なNC工作機械のことで、「MC」と省略をされています。
複数の加工は、NC工作機械の側面や背面に多種類の工具をストックし、必要に応じて
選択して自動的に工作機械にセットできることによって可能となっている機械です。


この装置は、工具自動交換装置と呼ばれており、
わが国の技術によって開発された世界に誇れる工作機械です。
無音化が求められる潜水艦の、スクリューの複雑な曲面加工を可能にした
自動機械としても、全世界で一躍有名になりました。





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