医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

ベータブロッカーの内服は虚血性心不全の予後を改善する

2005年07月11日 | 循環器
それではLancet. 1997;349:375からベータブロッカーについての報告です。
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★☆☆)

心筋梗塞などで心臓全体に十分な血液と栄養が行き渡らないと、心臓の動きが悪くなり心不全という状態が起きます。心不全では全身や肺から心臓に戻ってきた血液がその先に送り込めないので全身や肺に血液がうっ血します。肺にうっ血すれば酸素を十分に取り入れる事ができなくなり死亡してしまいます。この報告はカルベディロール(商品名アーチスト)というベータブロッカーが心筋梗塞などの虚血性(血液不足)で発症した心不全にどれだけ効果的かを調べたものです。

対象となったのは415人の患者で、カルベディロールを内服する群(207人)と内服しない群(208人)とに分けられました。全体の90%の患者さんは以前に心筋梗塞の既往があり、42%が心不全により過去に入院していました。内服から12カ月後に心臓の大きさと駆出率(心臓が血液を送り出す能率の指標)と運動能力(坂道をどれだけ走ることができるか)が調べられました。

その結果、心臓の大きさは非内服群がほとんど変わらなかったのに対して内服群で1.7mm減少しましたが(小さくなる事は良いことです)統計学的に差はありませんでした。駆出率は非内服群がほとんど変わらなかったのに対して内服群で5.3%改善しました。内服群で運動能力の改善は認められませんでしたが、19カ月間の追跡調査で、非内服群で131人の方が心不全で入院あるいは死亡したのに対して、内服群ではその数は104人と有意に少なくなりました。

以前スタチンのところでお話したように、カルベディロールを内服していても104人の方が入院あるいは死亡したという観点ではそれほど劇的な改善という訳ではありませんが、割合を計算してみると、非内服群131/208=63%、内服群104/207=50%と13%の患者さんがこの薬で助かっている事になります(スタチンの場合はこの割合は数%です)。さらに本研究でわかるのは、虚血性心不全の場合では運動能力とその患者の予後はあまり関連がないという事です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする