医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

非貫壁性の心筋梗塞は早期に風船・ステント治療をしなくても予後は同じ

2007年04月05日 | 循環器
ふ~ 相変わらず忙しい毎日です。更新が遅れがちで申し訳ありません


心筋梗塞は、心臓の筋肉の厚み分すべてが傷害される貫壁性と、障害が内側だけに留まり障害が外側に及ばない非貫壁性に分けることができます。もちろん非貫壁性の方が障害は軽いわけです。貫壁性か非貫壁性かは心電図で見分けることができます。

日本では心臓の血管が詰まっていたり、極度に狭くなっている場所を見つけた場合には、非貫壁性であっても直ぐに風船・ステント治療をすることが多いのですが、非貫壁性の場合に直ぐに治療することが有益であるのかが、これもやはり日本ではなくアメリカで検証され先月「Lancet」に発表されました。

Long-term outcome after an early invasive versus selective invasive treatment strategy in patients with non-ST-elevation acute coronary symdrome and elevated cardiac troponin T (the ICTUS trial): a follow-up study.
Lancet. 2007;369:827.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

心電図で非貫壁性であると確認され、さらに心筋が傷害された時に心筋から血液中に漏れるトロポニンTという物質が0.03μg/L以上に上昇していることが確認された1,200人が研究対象となりランダムに以下の二群に分けられました。18歳以下、80歳以上は対象から除外されました。

「早期に風船・ステント治療をする群」では診断がついた24~48時間後以内に風船・ステント治療を行い、「早期に風船・ステント治療をしない群」では診断がついても風船・ステント治療を行わず薬物治療を続けて、十分な薬物治療でも頑固な胸痛が残る場合、血圧や脈が不安定な場合、退院前の運動負荷テストで大きな虚血領域が認められる場合に限り48時間以降に風船・ステント治療を行います。

薬物治療の内容は両群で違いはありませんでした。3年間両群の予後を比較した結果、全ての原因による死亡、心臓病による死亡、狭心症による再入院に両群で差は認められず、心筋梗塞の発症はむしろ「早期に風船・ステント治療をする群」で多くなりました(18.3% vs 12.3%、p=0.002)。また、治療を行うことに関連した心筋梗塞の発症(治療用の風船が治療箇所の手前で擦れたためにそこで後に心筋梗塞が発症したなど)は「早期に風船・ステント治療をする群」で2倍多くなりました(12.0% vs 6.1%、p=0.0002)。

つまり、非貫壁性の心筋梗塞の場合には早期に(それが夜中であった場合、あえて緊急に)風船・ステント治療をしなくても、十分な薬物治療でも頑固な胸痛が残る場合、血圧や脈が不安定な場合、退院前の運動負荷テストで大きな虚血領域が認められる場合に風船・ステント治療を48時間以降にしても患者さんの予後は同じということです。

この研究の中で「早期に風船・ステント治療をする群」で詰まっている血管が再開通した割合は76%と日本と比較して悪いのですが(おそらく日本では95%以上でしょう。日本人は風船治療が上手だからです)、一方、この研究の中で「早期に風船・ステント治療をしない群」での再開通はたった40%であり、そういう悪い条件と比較してもこういう結果が出ているのですから、「76%しか再開通していないからこういう結果になった。95%以上の再開通率なら早期に風船・ステント治療をした方がいいだろう」という解釈は推測にすぎず、それを証明するには日本で同じ研究を行い、その結果を待たねばなりません。


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コメント (1)
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