新薬の研究開発には莫大な費用がかかり、晴れて商品として市場に出回る時に研究開発費も考慮して薬価が設定されます。そういった先発品も発売から10年たつと特許が切れて、他社が生産できるようになります。その薬剤の薬価は、開発費がかかっていないぶん新薬よりも安くなります。これが後発品(ジェネリック薬品)です。
医者や患者のなかには後発品(ジェネリック薬)が先発品(ブランド薬)に劣ると考えている向きもありますが、先日、日本経済新聞で以下のような記事を読み、私も同感でしたので調べてみました。
「医療関係者の間に後発品に対する不安があるわけですから、その不安を打ち消すだけの十分な根拠に基づいた様々な情報提供が必要です。メーカーだけではなく、旗を振る政府にも責任があります。患者からすれば、安くていいものがあれば、それに越したことはないのですが、通常はそれを選ぶ専門知識がありません。医師や薬剤師が専門家として役割を果たすことも求められます。」
調べてみると、昨年発表された「心血管疾患の治療に関する複数の研究を調べた結果、後発品(ジェネリック薬)が先発品(ブランド薬)に劣っているという証拠はない」という以下の研究論文が信頼できる医学雑誌に載っていました。
Clinical equivalence of generic and brand-name drugs used in cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis.
JAMA 2008;300:2514.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
この研究では1984年~2008年8月に発表された47件(そのうち38件がランダム化試験)の研究のメタアナリシスと、同時期に発表された論評の内容が検討されました。
結果は上の図(左寄りが先発品の方が有効、右寄りが後発品の方が有効です。全ての薬剤で中心の線にオーバーラップしていますので、片方が有効ということはありません)にあるように、βブロッカー、カルシウム拮抗剤、ACE阻害薬、αブロッカーといった高血圧治療薬、心不全や高血圧の治療に使われる利尿薬、血液をさらさらにする抗血小板薬やワーファリン、悪玉コレステロールを低下させる脂質異常症治療薬スタチン、クラスⅠ群抗不整脈薬のいずれも後発品(ジェネリック薬)の効果が先発品(ブランド薬)より劣っているということはありませんでした。
忍容性も同等でした。
また、それにもかかわらず、研究の論評では53%の医者が後発品(ジェネリック薬)に否定的な見解を示していました。
著者らは、研究の結果とその解釈が一致しない理由に「論評では医者の経験的感覚(要するに感情でしょう)の影響を受けている」点と、「論評委員と製薬会社との間の金銭的な関係が論評の結論に影響している可能性が否定できない」と述べています。
また、「後発品(ジェネリック薬)に対する事実無根の不信をこれ以上助長させないために、根拠にのみ基づいて吟味すべきである」と述べています。
私もその通りだと思います。
医者の皆さん、患者に以下の薬を処方するときに「後発品(ジェネリック薬)の効果は怪しいです」なんて言わないようにしましょう。
もう一度、先発品(ブランド薬)と後発品(ジェネリック薬)の効果と忍容性が同等の薬の名前を挙げておきます。
βブロッカー
カルシウム拮抗薬
ACE阻害薬
αブロッカー
利尿薬
抗血小板薬
ワーファリン
スタチン
クラスⅠ群抗不整脈薬
「感情」と「賄賂」で医療をしてはいけませんね←これは論文に紹介されたアメリカ人の医者のことです。
↓「なるほど、ためになった」と思われた方は、ここをぽちっとお願いいたします
今は何位かな?
↓お勧め
予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
医者や患者のなかには後発品(ジェネリック薬)が先発品(ブランド薬)に劣ると考えている向きもありますが、先日、日本経済新聞で以下のような記事を読み、私も同感でしたので調べてみました。
「医療関係者の間に後発品に対する不安があるわけですから、その不安を打ち消すだけの十分な根拠に基づいた様々な情報提供が必要です。メーカーだけではなく、旗を振る政府にも責任があります。患者からすれば、安くていいものがあれば、それに越したことはないのですが、通常はそれを選ぶ専門知識がありません。医師や薬剤師が専門家として役割を果たすことも求められます。」
調べてみると、昨年発表された「心血管疾患の治療に関する複数の研究を調べた結果、後発品(ジェネリック薬)が先発品(ブランド薬)に劣っているという証拠はない」という以下の研究論文が信頼できる医学雑誌に載っていました。
Clinical equivalence of generic and brand-name drugs used in cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis.
JAMA 2008;300:2514.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)
この研究では1984年~2008年8月に発表された47件(そのうち38件がランダム化試験)の研究のメタアナリシスと、同時期に発表された論評の内容が検討されました。
結果は上の図(左寄りが先発品の方が有効、右寄りが後発品の方が有効です。全ての薬剤で中心の線にオーバーラップしていますので、片方が有効ということはありません)にあるように、βブロッカー、カルシウム拮抗剤、ACE阻害薬、αブロッカーといった高血圧治療薬、心不全や高血圧の治療に使われる利尿薬、血液をさらさらにする抗血小板薬やワーファリン、悪玉コレステロールを低下させる脂質異常症治療薬スタチン、クラスⅠ群抗不整脈薬のいずれも後発品(ジェネリック薬)の効果が先発品(ブランド薬)より劣っているということはありませんでした。
忍容性も同等でした。
また、それにもかかわらず、研究の論評では53%の医者が後発品(ジェネリック薬)に否定的な見解を示していました。
著者らは、研究の結果とその解釈が一致しない理由に「論評では医者の経験的感覚(要するに感情でしょう)の影響を受けている」点と、「論評委員と製薬会社との間の金銭的な関係が論評の結論に影響している可能性が否定できない」と述べています。
また、「後発品(ジェネリック薬)に対する事実無根の不信をこれ以上助長させないために、根拠にのみ基づいて吟味すべきである」と述べています。
私もその通りだと思います。
医者の皆さん、患者に以下の薬を処方するときに「後発品(ジェネリック薬)の効果は怪しいです」なんて言わないようにしましょう。
もう一度、先発品(ブランド薬)と後発品(ジェネリック薬)の効果と忍容性が同等の薬の名前を挙げておきます。
βブロッカー
カルシウム拮抗薬
ACE阻害薬
αブロッカー
利尿薬
抗血小板薬
ワーファリン
スタチン
クラスⅠ群抗不整脈薬
「感情」と「賄賂」で医療をしてはいけませんね←これは論文に紹介されたアメリカ人の医者のことです。
↓「なるほど、ためになった」と思われた方は、ここをぽちっとお願いいたします
今は何位かな?
↓お勧め
予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
忍容性も同等でしたので、記事を追加させていただきました。
トータルではこのような結果が出ると想像はできるのですが、個々の製品と比較した場合、多くのメーカーが販売する中に粗悪な製品が含まれている可能性が考えられます。国立医薬品食品衛生研究所の方も、その可能性は認めています。
http://blog.livedoor.jp/dr_forrester/archives/51051427.html
論文のように同等な製品、または粗悪な製品を見極めるデータがほとんどありません。
この点に関して、この論文や先生がお持ちの情報から示唆できるものはありますでしょうか?教えていただけると幸いです。
私はジェネリック推進派でも反対派でもないのですが、「粗悪品」というのは、あくまでもジェネリックメーカーの信頼性の問題であり、私たちが中国のLG製のテレビを選ぶよりはシャープやパナソニックのテレビを選ぶように、ご指摘のようにジェネリックメーカーも信頼性の高い大手メーカーを選ぶことも重要と思われます。
クレメジンとメルクメジンの問題におけるクレアチニン値や、高血圧薬の血圧・脈拍数といった「数値」で監視できるものは、「粗悪品」の鑑別が可能ですが、吸収の違いが抗菌力の違いに影響がある抗生剤などではなかなかその監視が難しいのも事実です。
今回ご紹介した研究の結果からは、ご紹介した薬剤に関しては「粗悪品」でなければ効果は同等ですから、私たちはその結果を受け入れる必要があると思いますし、もし「粗悪品」の問題があるのでジェネリック全体が受け入れられないということになれば、それはLGのテレビが信用できないからシャープやパナソニックのテレビも信用できないという論理展開と同じになってしまうのではないかと思います。
また、以前心臓の血管の細いところは狭いより広げた方がいいという医者の感覚で治療した時代があり、その後の大規模臨床研究で広げなくても薬物療法で同等の効果があることも判明しましたが、それは「(水道管は)狭いより太い方がいい」というような私たちの「日常生活」での感覚を「医療」に持ち込んでしまったための間違いでありました。「医療」においては「日常生活」での感覚で判断し、個々の薬剤の臨床試験の結果を待たずに推測で行動するのは危険であると思います。フレムーブなど、先発品と差が出た薬剤に関してはその結果に従う必要があるのは当然です。
質問1:このスタディはアメリカですよね。ジェネリック医薬品の質は、アメリカと日本で同等として良いでしょうか?
質問2:個人的には、ロキソニンやヒルトニンのジェネリックで、効果が見られなかった症例を経験しています。ロキソニンにおいては、患者が「処方された○○(ロキソニンのジェネリック)が効かなかったのでロキソニンをください」と言ってきました。○○がロキソニンのジェネリックだとは知らなかったそうです。それ以外に、CT用造影剤は、インジェクターとの整合性が不良な場合が多いです。こうした医師の個人的経験は、全て感情で片づけられるものなのでしょうか?効果の違いを証明するだけの症例が集まらないので論文にしにくい面があるとも思います(ジェネリックといっても様々な薬があり、薬局レベルで採用が違うので、医師が把握し辛いこともあります)。
質問3:この論文で紹介された以外の薬でも、同等性を主張されますか?以下のような記事があります。
http://med2008.blog40.fc2.com/blog-entry-383.html
「だが井上副院長は「てんかん患者は、微妙なバランスで発作が起きない状態を保っている場合が多い。血中濃度が、認可範囲内の20~25%違っても、発作や副作用を起こす可能性がある」と懸念する。欧米では後発品への切り替えに伴い、患者の1、2割程度が発作の増加や副作用を経験したとの調査が複数報告されている。」
私は上記のようなことから、ジェネリックを無条件で受け入れられないのですが、「「感情」と「賄賂」で医療をしてはいけませんね」と患者から思われてしまうと思うと、少し悲しいです。
化学的に先発品とジェネリックは明らかに違いが出来ます。近づけることは可能ですが。
kresnikさんご指摘のように、米国と日本ではジェネリックの質が全く違います。米国はその近づける努力を行い、FDAが厳しく査察しているので論文のような結果になるのです。
日本の状況とは全く異なります。
さらに文脈からして「先発品と同じ成分でない成分」とは偽薬のようなものを想定しておられませんか?
ジェネリック薬でも有効成分は同じです。
有効成分は同じですから効果が同程度出るのは当たりまえです。LGのテレビでも番組が見られるのと同じです。
問題なのは微量の不純物や製剤の条件が違うことです。
その不純物がアナフィラキシーを起こしたり、全く溶けない錠剤があったりするのです。
有効性や忍容性だけで結論づけられる問題ではありません。また一報の論文だけで結論づけるのは科学的ではありませんね。同等でないという論文いっぱいありますよ。
この度は貴重なコメントありがとうございました。
ご質問の件ですが、アメリカと日本のジェネリックの質が同じか違うかは、各ジェネリックを比較して、そういう報告を参照にする以外にないのではないかと思います。ロキソニンの例でお示しいただいた効果の差が実感できる薬剤のように、今回の論文で使用されているのは、クレアチニン値、血圧、脈拍、不利益なイベントの数、PT-INRなどで有効性や質の差を監視できる薬剤であり、その他の薬剤にも当てはまるとは主張しておりません。誤解を生んだことをお詫びいたします。その点を強調するように記事を修正いたしました。従いまして「この論文で紹介された以外の薬でも、同等性を主張されますか」というご質問にはあきらかに「主張しません」というお答えです。てんかんの例を挙げておられるように、そういう結果を論文のレベル(統計処理が正しいか、レフリーが審査しているかなど)として情報を蓄積する必要性を感じております。また、「感情」と「賄賂」で医療をしてはいけませんねというのは、この論文の著者であるKesselheim AS氏が指摘しているアメリカの医者のことです。日本の医者はそんなことはないですから、日本の医者を示しているものではありません。
け~ちゃん様
この度は貴重なコメントありがとうございました。
ジェネリック薬を偽薬のようなものと想定はしておりません。「先発品と同じ成分でない成分」とはご指摘のような不純物やコーティングの違いを想定しております。今回の記事では、この論文で検証された以外の薬剤も同等とは主張しておりません。同等でない薬剤の存在も知っています。私はジェネリック推進派でも反対派でもないのですが、私の筆が立たないために「推進派」と誤解を与えてしまいましたことをお詫びいたします。同等でない論文がありましたら、当ブログで紹介したいと思いますので、ご一報いただけましたら幸いです。
この論文は貴重なものだと思いますが、このようなstudyをくぐりぬけた商品だけを別扱いできれば、処方する側として抵抗はありません。まぁ、ジェネリックを売る会社も、そのようなstudyをすれば薬価が上がるので、多分やらないでしょうけれど。
個人的には、このスタディで、効果と忍容性が同等であることが証明されたジェネリックの商品名が知りたいです。同じ薬品のジェネリックといっても、会社によってかなりばらつきがあるように思います。このスタディに組み込まれたジェネリックは大丈夫でも、組み込まれなかったジェネリックは信用する根拠がないと言えるかもしれませんし。
今回のスタディで、抗血小板薬の効果はジェネリックと先発品が同等であるとされていましたが、抗血小板薬とはいいながら、同僚がプレタールでもジェネリックで痛い目にあってます(変更直後、立て続けに3例脳梗塞を再発しました)。目の前の患者さんに処方するとき、どうしてもそうした経験が頭をよぎります。このような経験を得た場合、その次の患者に先発品を使うか、ジェネリックを使うか。悩ましいです。そのジェネリックが、今回のスタディで証明されたのと同じ商品名であれば、杞憂であったとも思えるのですが。個人的な経験も加味して、当面は、やはり先発品を使う予定です(こだわらない薬については、何の抵抗もなくジェネリックを処方しています)。
同等でないことを示す論文は某大学病院薬剤部にいる友人も出していますが、まずは論文ではないですが下記のリンクの内容が興味深いです。
アムロジピンの”添付文書の”内容をまとめたものです。
http://www.watarase.ne.jp/aponet/news/080716.html
AUC だけ取ってみても、
最大 159.01±63.16 から
最小 77.72±18.94
までバラついています。添付文書に書いてあるということは、このデータで承認が取ったと考えて良いと思います。この数字をもって、とても効き目が同等とは思えないですね。
「粗悪」という言葉は適切ではなかったかもしれません。現在の生物学的同等性試験に求められる被研者数では同等と判断されていても、それ以上の数の患者さんに投与されると同等ではなかったり、薬理学的に同等でなかったりする薬のことを意図していました。
いずれにしても、この場で有用な論文情報とコメントが頂けた事に感謝いたします。