医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

株式会社の調剤薬局に吸い込まれる医療費

2010年04月29日 | 薬・総合
先日、軽いアトピー性皮膚炎がある息子に薬を処方しました。成人に使える抗アレルギー薬のうち小児にも使える薬は限られていて、どれが小児に使えるか調べて確認しました。治療の中心となるステロイドの塗り薬は薬によって強さが違いますので、専門家ではない私は専門書を調べながらの処方でした。時間にして5分ぐらいかかったと思います。

さて、病院の会計に行き支払った金額は、410円。領収書には、再診料700円と処方料680円の合計1,380円の3割と書いてありました。

処方箋を院外の薬局に持って行きました。待合室に置いてあった新聞の1面と2面の見出しを見ている間に薬はまとまったので、時間にして3分ぐらいでした。支払った金額は、5,090円。領収書には調剤技術料2,890円、薬剤管理料300円、そして薬代13,760円の合計16,950円の3割と書いてありました。

私ごとで恐縮ですが、先日私は歯の詰め物が脱落してしまい30年ぶりに歯科医にかかりました。お恥ずかしい話ですが、なにせ30年ぶりの歯科医受診ですから、診療代がいくらぐらいなのか見当もつきませんでした。自費負担分で5,000円~10,000円ぐらいだと予想した私は、それまで5,000円しか入っていなかった財布に10,000円札を足しました。

歯科医は詰め物の奥が虫歯になっていないかレントゲン写真を2枚撮り、虫歯になっていない事を確認後、丁寧に充填物を詰めレーザー照射で硬化させました。その後、充填物の高さがかみ合わせに合うように何度も確認して削りました。最後に歯科衛生士が他の歯の表面に付着している茶渋なども綺麗にクリーニングしてくれました。歯科医と歯科衛生士が何度も交代しますが、20分はかかったと思います。

会計で請求された金額は1,610円でした。

「せ、せ、千 六百 十円? 安すぎる、何かの間違いではないか」

領収書には初診料1850円、歯冠修復・欠損補綴料2960円、画像診断550円、合計5,360円の3割1,610円と書かれてあります。

まとめてみます。
病院
(再診料)700円これは病院の事務員の人件費、建物・電子カルテ設備の償却に充てられるようなものでしょう。
(処方料)680円これは私に対する技術料かつ他の従業員の人件費のようなものです。

薬局
(薬剤管理料)300円
(調剤技術)2,990円これらは人件費、薬剤師の技術料でしょう。

歯科医
(初診料)1,850円これは人件費、建物・診療チェアの償却に充てられます。
(歯冠修復・欠損補綴料)2,960円これは歯科医の技術料でしょう。
(画像診断)550円これはレントゲン装置やフィルム代に充てられます。

私がいろいろ考えて処方した料金が5分で680円(もちろん私のふところには直接入りません)、歯科医が丁寧に治療してくれた料金が20分で2,960円、薬剤師が医師の発行した処方箋を見ながら間違いのないように薬剤を提供した料金が3分で3,290円です。

薬剤師もいろいろと反論はあると思いますが、3カ所を比較する限り病院と歯科医の料金が安すぎると思いませんか?

これでは開業医の先生方が、採算ギリギリなのがよく分かります。それに対して株式会社の調剤薬局はどんどん増えています。

歯科医の場合は、橋本龍太郎の歯科医師会への巨額ヤミ献金事件に対する懲罰の意味もあり、技術料が大幅に下げられたのです。

自分が実際に3カ所を同時に体験してみると愕然としてしまいました。医療費は今、なにか得体の知れない株式会社に飲み込まれようとしているのではないかと。

医療費の一部が、それもかなりの額が売上高を棒グラフにしているこういう株式会社の利益になり、役員の報酬になり、社員の給与になり(もはや薬剤師ではなく社員である)株主に配当されているのは、たとえ資本主義の原則に則っているとはいえ、何か間違っている気がします。

株式会社という立場であるならば、できるだけ利益を上げなければならないので、「お変わりありませんか?」「はい」という会話だけで以前お伝えした「特別指導加算」がなされてしまうのは目に見えています。

個人で経営している薬局であれば、そういう会話だけで特別指導加算をするのはためらわれると、薬剤師個人の良心に照らして判断する事も可能でしょう。

2003年度の国民医療費約32兆円のうち保険薬局に支払われた費用は3兆9千億円で、前年度から医薬分業が広く行われた結果、薬局への支払いが1兆円増え、その分のみ国民医療費は増加してしまいました。これは厚労省が薬局の経営に配慮した結果、病院内の調剤報酬より院外薬局の調剤報酬の方が高く設定されたためです。


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10 コメント

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Unknown (千早忠如)
2013-04-09 10:58:58
通りすがりさま
このコメントを読まれるかどうか分かりませんが…

多くの医師が、制度の趣旨についての理解や大局観を持たず、この記事のようなステレオタイプな意見を持つことは珍しいことではありません。こういった意見はある意味、人間の持つ原始的な感情に起因するものです。

一方で、医療制度は特定の層に対する満足感のために存在する訳ではありません。制度の歪みや運営上の問題は少なくなるよう、常に働きかけが必要です。

国民の多くは、自由主義経済を礼賛するテレビ・新聞等のメディアに相当程度引きずられる傾向がありますし、医師会は会員の求心力を保つため、ポジショントークに偏らざるを得ず、詭弁からは逃れられません。
このような現状から、問題点について発言する動機を持ちやすいのは、現行制度によって割を食う薬剤師や勤務医師といった層になります(労働制度の問題と同様の構図です)。

しかしこういった悶着に関わらず医学は進歩しますし、財政バランスも都度変化します。医療者は本来、専門職として時代に合致した医療の姿について提言を行う義務があると私は考えます。

通りすがりさまのように、自らの専門知識と良心において積極的に発言されることを嬉しく思います。
このブログ主のsecondopinionさまにおかれましては、恣意的な医療情報に傾斜しないその見識眼を、広く医療全体に向けられることをお願い致します。
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Unknown (通りすがり)
2013-03-24 22:02:12
追加です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa03/1-9.html
平成15年度の薬局調剤における薬剤料の割合は、厚生労働省によるとおよそ70%でした。
最低でもその分は国民医療費の増額には影響しない項目のはずです。
薬価差益は薬局に入るようになりますが、主題とは関係ありませんしね。
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Unknown (通りすがり)
2013-03-24 11:33:23
少し昔の記事へのコメントになりますが、私も考えが偏重しすぎてると思いますね。
平均料金などに関しては上の方が述べてるので触れませんが、かね同意です。

料金の比較で、病院側は再診料を「施設や事務員などの料金」と考え、処方料のみを考えるのはおかしいのではないでしょうか。
再診とはあくまで医師の診察行為の為の技術料であり、国が施設維持のために設けた項目ではないと思いますが。
薬局も施設の維持や減価償却費、事務員の人権費などは当然かかっており、それは技術料から切り崩すことになります。

>前年度から医薬分業が広く行われた結果、薬局への支払いが1兆円増え、その分のみ国民医療費は増加してしまいました

とありますが、現在の調剤は73%が薬剤料です。(すいません、2003年当時はわかりませんが)
薬剤費の払い先が変わる分、院外処方で薬局への支払いが増えるのは当然です。
1兆円薬局への支払いが増えたということは、代わりに約7000億円+病院での調剤報酬分、病院の入院外医療費への支払いが減り、トータルは1兆円増えるはずもない計算になります。
それなのに、医療費の伸び1兆円全て薬局の増収というような表記をするのはおかしいのではないでしょうか。

これはついでですが、時間を基準に考えていますが、「アトピーの専門家でないので専門書を見た」と加えたのに「色々考えて5分に対して薬局は3分」とするのはいかがなものでしょうか。
もちろん専門外の領域を調べて処方するのは当然必要だと思いますが、不慣れなケースでかかった時間を比較要因に持ち出すのは不適当だと思います。
例えば軟膏混合に不慣れな薬剤師が、30分かけて混合して薬を出せば、値段的にも満足なのでしょうか。

現状の医薬分業に多くの問題を抱えていることは確かだと思います。
双方の立場があり難しいとは思いますが、論じる時は偏重なしの考えが少しでもできるよう、お互い努力はしていけたらと思います。
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Unknown (千早忠如)
2013-02-21 23:31:51
secondopinion様、コメント有難うございます。
表題変更のご対応、感謝致します。

再度、このようなことをお伝えするのは非常に心苦しいのですが、あなたが先のコメントで自らの趣旨としておられる内容は、この記事から読み取ることは一般的には不可能です。誤解を生まないように表題を変更されたとのことですが、もし医療の制度について相応の理解があるとの前提でいえば、それは意図的な曲解と指摘せざるを得ません。

他の記事を幾つか読ませていただきましたが、このブログがネットで時折見かけるエセ医療ブログではなく、フラットな視点とバランス感覚に優れた人物が書いたものであることはよく分かります。

失礼ながら、これまでの経験やプライド、自らが持っているヒエラルキーで目を曇らせるべきではありません。

医療者には根本的に良心が必要だと、私は思います。

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Unknown (secondopinion)
2013-02-20 17:41:59
千早忠如様、貴重なコメントありがとうございました。
「個人で経営している薬局であれば、そういう会話だけで特別指導加算(3年前の話で現在は存在しませんが)をするのはためらわれると、薬剤師個人の良心に照らして判断する事も可能でしょう」と以前書きましたように、私の趣旨は調剤費が「株式会社」に吸い込まれてしまうのは問題ではないかと示したつもりです。

つまり、これでは医療費が株式会社の社長や取締役に流れてしまい、薬剤師のインセンティブが減ってしまうのではないかということでもあります。

今後誤解が生まれないように、題を「株式会社の調剤薬局に吸い込まれる医療費」に変更いたしました。

さらに、「売上高を棒グラフにしているこういう株式会社」のリンク先が削除されてしまっていたので、新しくリンクし直しました。
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Unknown (千早忠如)
2013-02-19 13:01:43
たまたま拝見しました。

例示しているケースに問題があります。

薬局の料金は高額の例
病院の料金は低額の例

を提示しています。

薬局の技術料は平均して2000円弱です。個人医院ではの診察料は4~5000円、病院では5000円~8000円が平均でしょう。
だからこそ、勤務医師年収1400万、開業医(ただこれは収支差額ですが)2500万、薬剤師年収500万となっている訳です。

意識して極端な例で、薬局バッシングをされようとしているなら、おやめ下さい。
もし上記のような事実を知らずに書かれたのであれば、正しい知識をもって頂けるとありがたいと思います。


言論サイトBLOGOSにて、千早名にて時々コメントしています。よければいらっしゃって下さい。
医療系の方の意見も多いですよ。
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不動在庫 (Unknown)
2010-09-19 22:32:48
どこの薬局もチェーンがあると思わないでほしい。
患者の要望で買った薬がデッドになり経営圧迫してます。
それに薬剤師の知識に基づき相互作用など監査しているので、知識分のペイが支払わせてもしかるべき。
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薬価差益 (某歯科医)
2010-07-22 10:41:08
薬価差益なんて存在自体おかしいでしょ。
我々は薬価+消費税で購入していますよ。
不動在庫?2年も?
チェーン店同士で整理していますよね?

「いつもと同じお薬です」の一言で調剤技術料247点薬学管理料34点を2週間ごとに支払ってます。
ジェネリックにしてもらうと薬価以上の加算が付いたりして
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Unknown (totoro)
2010-07-20 09:28:34
日本薬剤師連盟のロビー活動が載っていました
http://www.yakuren.jp/modules/news/
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Unknown (nohmin)
2010-07-13 23:33:58
調剤技術料からは薬剤師の人件費だけでなく薬剤費もフォローしてもらわないと経営が成り立ちませんよ。
現在薬剤の仕入れ値は薬価のおよそ10%OFF、薬を売るときには消費税は取れないのに、仕入れには消費税がかかるため実質5%しか薬価差益がありません。
最近のジェネリック推進もあって薬価差益の絶対額自体も圧縮されています。
そして何より、100錠仕入れたら100錠売れる一般販売業とは異なり、100錠仕入れて絵も14錠しか使われないまま不動在庫になるということが日常茶飯事なのが薬局です。
そういう部分を無視して論調を単純化しすぎです。
また、日薬にロビー活動の実力などないことも併記しておきます。


追伸
特別指導加算などという点数はもはや3年も前になくなりましたよ。
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