だいぶ前に、西荻窪の深夜食堂『最後に笑え』で、若い女性客とお話しさせていただいたことがある。
その方は、女性ひとりで大阪・西成区の安宿に宿泊するツワモノで、女性6名用のゲストハウスに泊まったこともあるらしい。
昔よりは治安がマシになったとはいえ、西成はやはり西成である。見知らぬ5人との相部屋なんて、私でもおっかない。
そんな女傑が教えてくれた、西成区のおススメ飲食店こそが、今回の『近所のおばはん』である。
奇抜な屋号に反し、店主夫妻は猟師の資格を持っており、猪肉や熊肉などのジビエ料理を提供している。
他店では食べられないメニューと、愉快な店名に興味を惹かれ、今から6年前、2018年の夏に初訪問。
最寄り駅は地下鉄の花園町だが、私は新今宮駅周辺のホテルから徒歩で向かった。
しばらくすると、「近所のおばはん」の文字が記された、真っ赤なファサードを発見。
※上記画像は2022年に撮影
入店すると、「いらっしゃい」と声がかかる。どうやらこの方が女性店主のようだ。
店名から、上沼恵美子みたいな、いわゆる「ナニワのおばはん」を想像していたが、見た目はごく普通の女性である。
ただし、店内はかなり奇抜であり、壁にはシカの首のはく製があり、
カウンターには大量のイモリが生息しているケースと、
マムシだかなんだかわからんが、ヘビを漬けた酒瓶が複数置いてある。
圧倒されつつも、イモリケースそばの席に座り、とりあえずビールを注文。
ワンオペの女性店主に、初めて来たこと告げると、東京モンの私に対しても、丁寧に応答してくれた。
そんな店主を、私は「女将さん」と声掛けし、常連客は、「なおちゃん」と呼んでいた記憶があるが、
今回ブログではあえて、店名と同様「おばはん」と記させていただく。
メニュー表を眺めると、「イモリの唐揚」などに混ざり、「ハンバーグ」といった普通の商品も記されている。
他店で飲み食いしてきたので、おつまみは上記2品のみをオーダー。価格はどらちも500円。
イモリはこのケース内のを調理するんですか? という私の質問に対し、おばはんは、
「そやで。生きてるヤツを捌いて揚げるんや」と「せやけど、内臓は抜くから苦味はないで」と解説してくれて、
撮影はしていないが、実際にまな板の上で捌く様子も見せてくれた。
その後、エビセンと一緒に、揚げたイモリが提供された。
苦味はないとはいえ、グロテスクな見た目にビビりつつ、かじってみたところ、おお、確かにクセはない。
かつて、イモリの黒焼きは身体にいいとされてきたが(迷信説もあり)、直前まで生きていたイモリの唐揚げも、精がつきそうだ。
続いて、おばはんはハンバーグの調理にかかる。ジビエではなく牛と豚の合い挽きのようで、注文後にお肉をこねて成型。
数分後、居酒屋というか、レストランで出てきそうな立派なひと皿が登場。
ハンバーグにハシを入れると、肉汁がドバーと飛び出す。このクオリティで500円とは驚きである。
当然ながら味もいい。というか、この年関西で食べた料理では、ここのハンバーグが一番ウマかった。
猟師の顔を持つおばはんだが、調理師としても一流なのであった。
舌鼓を打ったところで、目の前のヘビが入った瓶を改めて見てみると、小さな穴が開いており、「さわるな」の注意書きも。
理由をたずねたところ、「中のヘビ、まだ生きてんねん。穴は呼吸用や」だって。
「もうそのヘビは大丈夫やろうけど、元気なうちは指入れたら噛まれることもあるで」うわっ、おっかない!
ビールも2本飲み終えたので、せっかくなので、透明だった焼酎がだいぶ色づいた、瓶のお酒を飲ませてもらうことに。
ビール中瓶も、ハンバーグと同様500円だったが、ヘビ酒は700円くらいだったはず。
まあ、生きたヘビのエキスが抽出されたお酒なのだから、値が張るのも当然だ。
味の方は、焼酎に獣臭を加えたようで、ちょっとクセがある。滋養強壮効果を期待し、一気に飲み干した。
こちらのお店は、イモリやヘビだけでなく、生きたスッポンも仕入れており、
おばはんがわざわざ見せてくれた。バタバタと手足を動かす、元気なスッポンである。
サービス精神旺盛な、おばはんとの会話が楽しく、ビールをさらに追加してしまった。
ただ、おばはんは初見の私には普通に対応していたが、常連客には「ナニ言うとんじゃアホ」「やかましいボケ」などと、関西弁で罵り放題。
こういう発言を耳にすると、やっぱりナニワのおばはんだなあ、と思ってしまう(笑)。
言葉はキツイが、それが客との親密さを表しており、聞き苦しいどころか、むしろ心地良く、意外と長居してしまった。
その後はコロナ禍もあり、西成に行く機会がなかったが、2022年、甲子園出場を決めた母校野球部を応援するため、4年ぶりに関西へ。
近所のおばはんにも、ようやく再訪できたが、お店入口には「準備中」の札が。
しかし、店内では飲んでるお客さんがいるので、ドアを開けてみたところ、入店を許された。
おばはん曰く、「メンドくさいから、いつも準備中にしとるんや」だって。
それでも、常連らしき客が次から次へとやって来て、おばはんの罵倒も絶好調で、店内は賑やかである。
4年ぶりに来たことと、前回は元気なスッポンを見せてもらったことを申告したら、「今はもうスッポンはやめた」と返答。
その理由は、「ある日、一匹どっか逃げてもうたんや。何万円もの損やで」。イキが良すぎるのも困ったものである(笑)。
相変わらずおばはんのハナシは面白く、ついつい酒がススム。
ただし、この日も難波『カツヤ』のカツカレーなど、既に2軒で飲み食いしていたので、注文したおつまみは一品だけ。
その前に、メニューを撮影したので掲載する。こちらはドリンクと定番のおつまみ。
他にも料理はたくさんあり、さらにホワイトボードにも日替わりメニューがある。
上記メニューの右側が、鹿、ハクビシン、猪などのジビエを含む、こちらのお店ならではの希少商品。
その中から私は、「鹿の焼き肉(タレ)」1600円を注文。
数分後、玉ねぎと一緒に炒められた、鹿の焼き肉が登場。
数粒散りばめた赤い実も、確かおばはんが採集したものだったはずだが、名称は忘れてしまった。
鹿の肉は結構硬く、噛み応えがあった。タレのせいで臭みなどは感じず、牛肉に近い味か。
おばはんは、狩猟についても語ってくれたが、猟には銃、網、罠などを使い、それぞれ資格が必要だそうだ。
猪や鹿は頭が良く、自分の縄張りに人間が侵入したことを、匂いや地面のちょっとした変化で察知するそうで、
我々素人が罠を仕掛けても、まずかからないらしいし、一度人間の存在を察した地域には、しばらく近付かないらしい。
もちろん、捕らえた肉も素人が処理すると、臭みが残ったり硬くなったりする。
私が食べた鹿肉も、こうして料理になるまでに、相当な手間がかかっているようなので、感謝して味わったよ。
そして昨年の夏も、我が母校野球部が甲子園に出場したので、私も2年連続で関西に行き、近所のおばはんに寄った。
3度目の訪問では、瓶ビールや「ウーロン割」450円の他、以前も頼んだ景気づけのヘビ酒と、
日替わりメニューの「アライグマの肉豆腐」をオーダー。500円くらいだったかな。
近所のおばはんでは、アライグマ料理を複数提供しているのだが、店内の一角には、あらいぐまラスカルのグッズが置いてある(笑)。
アライグマの肉は、脂身が多かったが、醤油ベースの甘辛出汁や、豆腐と一緒に食べると美味しい。
調理を終え、客席で休憩しているおばはんに、相変わらず忙しそうですね、と声をかけると、
「夜はええけど、最近はランチの時間に他の人にお店を貸しててな、その準備もあって忙しいねん」とのこと。
間借り営業で、別の方がバターチキンカレーを提供しているそうで、私が興味を示すと、おばはんが「よかったら食べる?」だって。
カレーがあるんですか? と聞いたら「あるもナニも、作ってるの私やから」。えっ!?
お店を貸すだけでなく、調理までおばはんが担当し、「別の方」は販売するだけらしい。変わった間借り営業である。
そこそこ満腹だったが、せっかくなのでいただくことに。
数分後、パンを添えられた「バターチキンカレー」が出てきた。価格は確か1000円。
バター由来のマイルドなカレーで、鶏肉は柔らかく煮込まれ、パンとの相性も良好。
狩猟もできて、料理も美味しく、少々口は悪いが、竹を割ったような性格の方で、
先述したが、私は実際には「女将さん」と呼んでいたし、おばはんよりも、そちらの呼び名の方がふさわしい女性である。
そもそも、なぜこの店名にしたのか気になったので、本人にたずねてみた。
「私はな、こういう性格だから、絶対に客と揉めるって、開業前に旦那に言われたし、私自身もそう思った。でな、警察沙汰になったとき、
捕まった相手が、“どこで揉めた?”って聞かれて、“近所のおばはんで”答えるの相当恥ずかしいやろ思って、この名前にしたんや」とのこと。
過去に警察沙汰になったことがあるのかは不明だが、私の訪問時は、タチの悪い客を見たことはない。
今年は、母校が地区予選で敗れ、関西及び近所のおばはんには行けずじまい。
つい先日、冒頭で名前を出した『最後に笑え』へ飲みに行き、マスターの吉田さんと、例の女性客や近所のおばはんについて語っていた。
マスターがスマホで、お店の近況を検索していたところ、「あれっ、近所のおばはん閉店してる!」と教えてくれた。
お店インスタグラムを見てみると、確かに「12月15日で都合により近所のおばはん閉店させて頂きました 11年間有難う御座います」の投稿が。
常連客は知っていたのかもしれないが、私にとっては突然の閉店で、ファンとしてショックである。
関西では、毎回あちこちで食べ歩き、こちらに空腹で来たことはなかった。
お店インスタグラムの説明では、「春は山菜取り夏は釣り秋は畑仕事の手伝い冬は狩猟をしています」と記してあり、
狩猟が解禁される冬シーズンは、獣肉も美味しくなる時期らしく、
「ウチに来るなら冬がおススメよ」とおばはんには言われていたが、高校野球がない冬は、関西に行く機会がなかった。
一度でいいから、冬場に空腹で、可能ならば友人たちと複数人で、ジビエだけでなく普通の料理も、片っ端から注文してみたかったな。
最後に、閉店を発表したときのインスタ投稿を、スクショして転記。
旦那さんは初めて見たが、確かに猟師っぽい貫禄がある。
再び何らかの形で、お店が復活してくれることを願いつつ、ひとまずは、
女将さん、旦那さん、11年間にわたる『近所のおばはん』の営業、お疲れさまでした。
またいつか、お目にかかれたら幸いですし、その日が来ることを祈念いたしております。
近所のおばはん
大阪府大阪市西成区鶴見橋1-4-14
地下鉄花園町から徒歩約1分、南海電鉄萩之茶屋駅から徒歩約5分、新今宮駅からは徒歩約13分 ※食べログの「新今宮駅より徒歩7分」は無理
営業時間 夕方から0時くらいまで(と聞いた)
定休日 不定休
※文中のとおり、2024年12月15日で閉店なさいました
その方は、女性ひとりで大阪・西成区の安宿に宿泊するツワモノで、女性6名用のゲストハウスに泊まったこともあるらしい。
昔よりは治安がマシになったとはいえ、西成はやはり西成である。見知らぬ5人との相部屋なんて、私でもおっかない。
そんな女傑が教えてくれた、西成区のおススメ飲食店こそが、今回の『近所のおばはん』である。
奇抜な屋号に反し、店主夫妻は猟師の資格を持っており、猪肉や熊肉などのジビエ料理を提供している。
他店では食べられないメニューと、愉快な店名に興味を惹かれ、今から6年前、2018年の夏に初訪問。
最寄り駅は地下鉄の花園町だが、私は新今宮駅周辺のホテルから徒歩で向かった。
しばらくすると、「近所のおばはん」の文字が記された、真っ赤なファサードを発見。
※上記画像は2022年に撮影
入店すると、「いらっしゃい」と声がかかる。どうやらこの方が女性店主のようだ。
店名から、上沼恵美子みたいな、いわゆる「ナニワのおばはん」を想像していたが、見た目はごく普通の女性である。
ただし、店内はかなり奇抜であり、壁にはシカの首のはく製があり、
カウンターには大量のイモリが生息しているケースと、
マムシだかなんだかわからんが、ヘビを漬けた酒瓶が複数置いてある。
圧倒されつつも、イモリケースそばの席に座り、とりあえずビールを注文。
ワンオペの女性店主に、初めて来たこと告げると、東京モンの私に対しても、丁寧に応答してくれた。
そんな店主を、私は「女将さん」と声掛けし、常連客は、「なおちゃん」と呼んでいた記憶があるが、
今回ブログではあえて、店名と同様「おばはん」と記させていただく。
メニュー表を眺めると、「イモリの唐揚」などに混ざり、「ハンバーグ」といった普通の商品も記されている。
他店で飲み食いしてきたので、おつまみは上記2品のみをオーダー。価格はどらちも500円。
イモリはこのケース内のを調理するんですか? という私の質問に対し、おばはんは、
「そやで。生きてるヤツを捌いて揚げるんや」と「せやけど、内臓は抜くから苦味はないで」と解説してくれて、
撮影はしていないが、実際にまな板の上で捌く様子も見せてくれた。
その後、エビセンと一緒に、揚げたイモリが提供された。
苦味はないとはいえ、グロテスクな見た目にビビりつつ、かじってみたところ、おお、確かにクセはない。
かつて、イモリの黒焼きは身体にいいとされてきたが(迷信説もあり)、直前まで生きていたイモリの唐揚げも、精がつきそうだ。
続いて、おばはんはハンバーグの調理にかかる。ジビエではなく牛と豚の合い挽きのようで、注文後にお肉をこねて成型。
数分後、居酒屋というか、レストランで出てきそうな立派なひと皿が登場。
ハンバーグにハシを入れると、肉汁がドバーと飛び出す。このクオリティで500円とは驚きである。
当然ながら味もいい。というか、この年関西で食べた料理では、ここのハンバーグが一番ウマかった。
猟師の顔を持つおばはんだが、調理師としても一流なのであった。
舌鼓を打ったところで、目の前のヘビが入った瓶を改めて見てみると、小さな穴が開いており、「さわるな」の注意書きも。
理由をたずねたところ、「中のヘビ、まだ生きてんねん。穴は呼吸用や」だって。
「もうそのヘビは大丈夫やろうけど、元気なうちは指入れたら噛まれることもあるで」うわっ、おっかない!
ビールも2本飲み終えたので、せっかくなので、透明だった焼酎がだいぶ色づいた、瓶のお酒を飲ませてもらうことに。
ビール中瓶も、ハンバーグと同様500円だったが、ヘビ酒は700円くらいだったはず。
まあ、生きたヘビのエキスが抽出されたお酒なのだから、値が張るのも当然だ。
味の方は、焼酎に獣臭を加えたようで、ちょっとクセがある。滋養強壮効果を期待し、一気に飲み干した。
こちらのお店は、イモリやヘビだけでなく、生きたスッポンも仕入れており、
おばはんがわざわざ見せてくれた。バタバタと手足を動かす、元気なスッポンである。
サービス精神旺盛な、おばはんとの会話が楽しく、ビールをさらに追加してしまった。
ただ、おばはんは初見の私には普通に対応していたが、常連客には「ナニ言うとんじゃアホ」「やかましいボケ」などと、関西弁で罵り放題。
こういう発言を耳にすると、やっぱりナニワのおばはんだなあ、と思ってしまう(笑)。
言葉はキツイが、それが客との親密さを表しており、聞き苦しいどころか、むしろ心地良く、意外と長居してしまった。
その後はコロナ禍もあり、西成に行く機会がなかったが、2022年、甲子園出場を決めた母校野球部を応援するため、4年ぶりに関西へ。
近所のおばはんにも、ようやく再訪できたが、お店入口には「準備中」の札が。
しかし、店内では飲んでるお客さんがいるので、ドアを開けてみたところ、入店を許された。
おばはん曰く、「メンドくさいから、いつも準備中にしとるんや」だって。
それでも、常連らしき客が次から次へとやって来て、おばはんの罵倒も絶好調で、店内は賑やかである。
4年ぶりに来たことと、前回は元気なスッポンを見せてもらったことを申告したら、「今はもうスッポンはやめた」と返答。
その理由は、「ある日、一匹どっか逃げてもうたんや。何万円もの損やで」。イキが良すぎるのも困ったものである(笑)。
相変わらずおばはんのハナシは面白く、ついつい酒がススム。
ただし、この日も難波『カツヤ』のカツカレーなど、既に2軒で飲み食いしていたので、注文したおつまみは一品だけ。
その前に、メニューを撮影したので掲載する。こちらはドリンクと定番のおつまみ。
他にも料理はたくさんあり、さらにホワイトボードにも日替わりメニューがある。
上記メニューの右側が、鹿、ハクビシン、猪などのジビエを含む、こちらのお店ならではの希少商品。
その中から私は、「鹿の焼き肉(タレ)」1600円を注文。
数分後、玉ねぎと一緒に炒められた、鹿の焼き肉が登場。
数粒散りばめた赤い実も、確かおばはんが採集したものだったはずだが、名称は忘れてしまった。
鹿の肉は結構硬く、噛み応えがあった。タレのせいで臭みなどは感じず、牛肉に近い味か。
おばはんは、狩猟についても語ってくれたが、猟には銃、網、罠などを使い、それぞれ資格が必要だそうだ。
猪や鹿は頭が良く、自分の縄張りに人間が侵入したことを、匂いや地面のちょっとした変化で察知するそうで、
我々素人が罠を仕掛けても、まずかからないらしいし、一度人間の存在を察した地域には、しばらく近付かないらしい。
もちろん、捕らえた肉も素人が処理すると、臭みが残ったり硬くなったりする。
私が食べた鹿肉も、こうして料理になるまでに、相当な手間がかかっているようなので、感謝して味わったよ。
そして昨年の夏も、我が母校野球部が甲子園に出場したので、私も2年連続で関西に行き、近所のおばはんに寄った。
3度目の訪問では、瓶ビールや「ウーロン割」450円の他、以前も頼んだ景気づけのヘビ酒と、
日替わりメニューの「アライグマの肉豆腐」をオーダー。500円くらいだったかな。
近所のおばはんでは、アライグマ料理を複数提供しているのだが、店内の一角には、あらいぐまラスカルのグッズが置いてある(笑)。
アライグマの肉は、脂身が多かったが、醤油ベースの甘辛出汁や、豆腐と一緒に食べると美味しい。
調理を終え、客席で休憩しているおばはんに、相変わらず忙しそうですね、と声をかけると、
「夜はええけど、最近はランチの時間に他の人にお店を貸しててな、その準備もあって忙しいねん」とのこと。
間借り営業で、別の方がバターチキンカレーを提供しているそうで、私が興味を示すと、おばはんが「よかったら食べる?」だって。
カレーがあるんですか? と聞いたら「あるもナニも、作ってるの私やから」。えっ!?
お店を貸すだけでなく、調理までおばはんが担当し、「別の方」は販売するだけらしい。変わった間借り営業である。
そこそこ満腹だったが、せっかくなのでいただくことに。
数分後、パンを添えられた「バターチキンカレー」が出てきた。価格は確か1000円。
バター由来のマイルドなカレーで、鶏肉は柔らかく煮込まれ、パンとの相性も良好。
狩猟もできて、料理も美味しく、少々口は悪いが、竹を割ったような性格の方で、
先述したが、私は実際には「女将さん」と呼んでいたし、おばはんよりも、そちらの呼び名の方がふさわしい女性である。
そもそも、なぜこの店名にしたのか気になったので、本人にたずねてみた。
「私はな、こういう性格だから、絶対に客と揉めるって、開業前に旦那に言われたし、私自身もそう思った。でな、警察沙汰になったとき、
捕まった相手が、“どこで揉めた?”って聞かれて、“近所のおばはんで”答えるの相当恥ずかしいやろ思って、この名前にしたんや」とのこと。
過去に警察沙汰になったことがあるのかは不明だが、私の訪問時は、タチの悪い客を見たことはない。
今年は、母校が地区予選で敗れ、関西及び近所のおばはんには行けずじまい。
つい先日、冒頭で名前を出した『最後に笑え』へ飲みに行き、マスターの吉田さんと、例の女性客や近所のおばはんについて語っていた。
マスターがスマホで、お店の近況を検索していたところ、「あれっ、近所のおばはん閉店してる!」と教えてくれた。
お店インスタグラムを見てみると、確かに「12月15日で都合により近所のおばはん閉店させて頂きました 11年間有難う御座います」の投稿が。
常連客は知っていたのかもしれないが、私にとっては突然の閉店で、ファンとしてショックである。
関西では、毎回あちこちで食べ歩き、こちらに空腹で来たことはなかった。
お店インスタグラムの説明では、「春は山菜取り夏は釣り秋は畑仕事の手伝い冬は狩猟をしています」と記してあり、
狩猟が解禁される冬シーズンは、獣肉も美味しくなる時期らしく、
「ウチに来るなら冬がおススメよ」とおばはんには言われていたが、高校野球がない冬は、関西に行く機会がなかった。
一度でいいから、冬場に空腹で、可能ならば友人たちと複数人で、ジビエだけでなく普通の料理も、片っ端から注文してみたかったな。
最後に、閉店を発表したときのインスタ投稿を、スクショして転記。
旦那さんは初めて見たが、確かに猟師っぽい貫禄がある。
再び何らかの形で、お店が復活してくれることを願いつつ、ひとまずは、
女将さん、旦那さん、11年間にわたる『近所のおばはん』の営業、お疲れさまでした。
またいつか、お目にかかれたら幸いですし、その日が来ることを祈念いたしております。
近所のおばはん
大阪府大阪市西成区鶴見橋1-4-14
地下鉄花園町から徒歩約1分、南海電鉄萩之茶屋駅から徒歩約5分、新今宮駅からは徒歩約13分 ※食べログの「新今宮駅より徒歩7分」は無理
営業時間 夕方から0時くらいまで(と聞いた)
定休日 不定休
※文中のとおり、2024年12月15日で閉店なさいました