本のタイトルと目次の各章につけられた美しい単語からイメージしていた物語とは大きく異なり、骨太の歴史小説であった。諸田玲子さんの『お順』や玉岡かおるさんの『負けんとき』と同じように、歴史の教科書には載っていないが、幕末から明治にかての激動の時代をたくましく生きぬいた一人の女性にスポットがあてられている。
主人公である中島歌子という歌人についての知識は持ち合せていなかった。不勉強だったのかと娘が使っていた「新・国語要覧」(大修館書店)を開いてみた。明治の文学~近代短歌の部分では「明治の歌壇は、明治20年代までは伝統的歌風の流れをくむ桂園派の支配下にあったが、その旧態依然の歌風を刷新しようとして、明治二六年に落合直文が浅香社を組織した時から、革新の気運は次第にその強さを増してゆく。・・・」とあり、与謝野鉄幹、晶子など明治26年以後の歌壇については詳しい解説があるが、それまでに活躍した中島歌子の名前はない。かろうじて、樋口一葉の解説の中に、その名を見ることができた。「樋口一葉は、東京府の官吏樋口則義の次女として生まれた。本名なつ。則義は勤めのかたわら、金融などにも関係していたので家計は楽だった。一葉は著名な歌人中島歌子の歌塾萩の舎で歌を学んだが、父が事業に失敗、病死したため、生活は窮迫した。一葉は洗濯・針仕事で生計を支えたが、萩の舎同門の三宅花圃が『藪の鶯』を刊行して作家として立ったことに刺激されて、流行小説家半井桃水に弟子入りした。・・・・・」 三宅花圃も小説では重要な役回りをもっている。
また、物語のおもな舞台は幕末の水戸藩である。この水戸藩についても私の知識は乏しい。御三家、水戸光圀、大日本史、尊皇攘夷、桜田門外の変など断片的な単語しか浮かばない。『江戸300藩の意外な「その後」』(PHP研究所)でも「尊皇攘夷の火付け役だったが政変そっちのけで内乱に専心」という見出しがつけられ、内乱の概要が記された後に「・・・水戸藩の内乱は長引き、本来なら尊皇攘夷派の先駆けとして長州藩同様に重要な役割を担ったであろうところを、内政だけで手いっぱいとなり、表舞台に出ることなく維新を迎えたのだった。」と締めくくられている。
『恋歌』はこの水戸藩の内乱を幹にして、明治初期に華やかに生きた歌人・中島歌子の奥にあるものをあぶりだしている。どんどん作中に引き込まれていくのはいつもの通り。半分を過ぎてからラストまでは一気に読んでしまった。布石から最後の寄せまで憎いばかりの構成であった。中身を詳しく紹介することはひかえたい。是非、興味があれば一読を!
『恋歌』というタイトルに関連する部分だけ
「恋することを教えたのはあなたなのだから、どうかお願いです、忘れ方も教えてください。
君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ 」
主人公である中島歌子という歌人についての知識は持ち合せていなかった。不勉強だったのかと娘が使っていた「新・国語要覧」(大修館書店)を開いてみた。明治の文学~近代短歌の部分では「明治の歌壇は、明治20年代までは伝統的歌風の流れをくむ桂園派の支配下にあったが、その旧態依然の歌風を刷新しようとして、明治二六年に落合直文が浅香社を組織した時から、革新の気運は次第にその強さを増してゆく。・・・」とあり、与謝野鉄幹、晶子など明治26年以後の歌壇については詳しい解説があるが、それまでに活躍した中島歌子の名前はない。かろうじて、樋口一葉の解説の中に、その名を見ることができた。「樋口一葉は、東京府の官吏樋口則義の次女として生まれた。本名なつ。則義は勤めのかたわら、金融などにも関係していたので家計は楽だった。一葉は著名な歌人中島歌子の歌塾萩の舎で歌を学んだが、父が事業に失敗、病死したため、生活は窮迫した。一葉は洗濯・針仕事で生計を支えたが、萩の舎同門の三宅花圃が『藪の鶯』を刊行して作家として立ったことに刺激されて、流行小説家半井桃水に弟子入りした。・・・・・」 三宅花圃も小説では重要な役回りをもっている。
また、物語のおもな舞台は幕末の水戸藩である。この水戸藩についても私の知識は乏しい。御三家、水戸光圀、大日本史、尊皇攘夷、桜田門外の変など断片的な単語しか浮かばない。『江戸300藩の意外な「その後」』(PHP研究所)でも「尊皇攘夷の火付け役だったが政変そっちのけで内乱に専心」という見出しがつけられ、内乱の概要が記された後に「・・・水戸藩の内乱は長引き、本来なら尊皇攘夷派の先駆けとして長州藩同様に重要な役割を担ったであろうところを、内政だけで手いっぱいとなり、表舞台に出ることなく維新を迎えたのだった。」と締めくくられている。
『恋歌』はこの水戸藩の内乱を幹にして、明治初期に華やかに生きた歌人・中島歌子の奥にあるものをあぶりだしている。どんどん作中に引き込まれていくのはいつもの通り。半分を過ぎてからラストまでは一気に読んでしまった。布石から最後の寄せまで憎いばかりの構成であった。中身を詳しく紹介することはひかえたい。是非、興味があれば一読を!
『恋歌』というタイトルに関連する部分だけ
「恋することを教えたのはあなたなのだから、どうかお願いです、忘れ方も教えてください。
君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ 」