「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

少なくとも滂沱の涙は?『スワンソング』by大崎善生

2017年08月08日 | 小説レビュー
~携帯もメールもなかったあの頃、僕たちの恋は強く激しく深かった。
それでも気づくことができなかった。彼女が心の底で、哀しく美しい歌をうたい続けていることを―。
同じ職場で結婚秒読みの僕と由香の前に現れた、アルバイトの由布子。
ラスト1ページまで突き抜ける哀しみのラブストーリー、大崎“恋愛”小説の最高峰。「BOOK」データベースより


う~ん・・・。僕は大崎善生氏のファンです。『パイロットフィッシュ』を読んで、「一目惚れ」ならぬ「一読惚れ」でした。そして『アジアンタムブルー』で少し評価が下がり、『聖の青春』で、「この人は、どういう作者なんやろ?」と、評価が上がりました。

そして、話題の『スワンソング』です。図書館で借りたのですが、わざわざ帯封が表紙の裏に貼り付けてあり「児玉清氏激賞!押し寄せる清々しい感動の大波に、滂沱の涙を流した」等々すごい絶賛の言葉の数々でした。

「これは期待せずにいられない!」と意気込んで読み始めました・・・、が、何とも感情移入できない登場人物だらけで、特に主人公の『良ちゃん』の不甲斐なさには辟易としました。

3年間付き合った、良く出来た美人の彼女と結婚秒読み段階までいきながら、同じ職場で働くアルバイトの可愛い女の子に惹かれ、ちょっとしたきっかけから恋に落ちていきます。

まぁ、その気持ちもわからんでもないですが、結果として二人の女性を不幸にしてしまう、この『良ちゃん』のダメ男ぶりには、全く共感できません。

そして、ストーリー的にも「う~ん・・・。こうなるまでに、由香も由布子も、脱出することが出来たのでは?」と思えるところも多くあり、伏線の回収も出来ていません。

最後の最後で、『良ちゃん』だけが報われたような?救われたような?清々しいエンディングを迎え、「あぁ~良かった良かった(^_^)」と一瞬騙されそうになりましたが、改めてよく考えてみると、「こんなダメ男が二人の女性から死ぬほど愛されて、さらに一人だけ生き残って、成功を遂げて良いのか?」と、腹立たしくなります。

大崎善生氏の恋愛感には、『愛と美と死、犠牲と闇と憂い』等が多く描写されています。

また、シャガールの絵画のくだりで、「人生を美しく彩るものがあるとすれば、それは愛である」というフレーズは、とても良いですね。

美しい情景や感情表現が出てくる反面、鬱屈した救いようのない気持ちになることもしばしば・・・。筆者の狙いがどこにあるのか?なかなか難しいです。

まぁ、こういうところが、大崎善生氏の評価を分けている所以かもしれません。

★★★3つです。