〜人はなぜ人を殺すのか―。
河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。
第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。「BOOK」データベースより
町田康作品初読です。まぁ、こんなに小説で笑ったのは初めてかも?
この物語は、明治時代に実際に起こった大量殺人事件に基づいて描かれています。
主人公の城戸熊太郎は、大量殺人事件の主犯なんですが、幼い頃から、同じ郷里出身の「楠木正成の生まれ変わりや!」と信じるオモロイ少年でした。
しかし、同じ村の悪ガキどもとの遊びの中や、大人等から、何とも言えぬ距離感、疎外感を覚えながら育ちます。
そんな生い立ちの中で、熊太郎は決定的な事件を起こしてしまいます。
その事件を起こしてしまった(と思い込んでいただけ?)ことによって、後々の人生が、とんでもない方向に転がっていきます。
熊太郎は、とても思弁的(経験によらず,思考や論理にのみ基づいているさま)な男です。
ある出来事が起こると、熊太郎の頭の中で、考えが「グルグル〜グルグル〜」と回って、「沸々沸々・・・」と沸き上がってきて、その思いを上手く言葉や行動にすることができないんですね。
そして、ある時は、人から自分がどのように見られているかが、人一倍気になって、エエ格好しいの振る舞いをしてしまい、かえって事態を悪くしたりしてしまいます。
ホンマに不器用で不細工で綻びだらけの人生です。
そんな熊太郎の人生は、悪い方悪い方に・・・、下に下に・・・、底やと思ったら、まだ底があった・・・、みたいな下り坂の人生です。
でも、そんな熊太郎にも救いがあって、生涯の相棒となる弥五郎との出会いや、心から欲した女性・縫との結婚など、どうしようもない熊太郎の人生に光が射すときがありました。
小説全般にわたって、独特の河内弁が満載で、話す言葉や人の振る舞いに、軽妙な雰囲気が溢れています。河内弁のテンポのよさと、しょうもないやりとりや仕草に思わず「プッ」と吹き出します。
特に野犬に襲われるところ、牛を養生講に連れていくところ、奈良の大仏殿前の鹿たち・・・。
熊太郎と動物達との触れ合いの場面では声を出して笑いました( ^∀^)
熊太郎は、決して悪人ではなく、むしろ善人であります。
でも、周りにいる、姑息な狐や古狸のような悪人に騙され、罵られ、侮られ、屈辱にまみれてしまいます。
最後には、最愛の妻・縫にさえも裏切られ、ボロボロになって、行き場、生き場を失ってしまった熊太郎は、とうとう重大な決断をしてしまいます。
「殺す殺す殺す殺す殺す!」
5月25日、楠木正成の命日に、相棒の弥五郎と凶行におよび、10人の命を奪って、そして金剛山中に籠ります。
弥五郎との逃亡生活の中で、熊太郎は、またぞろ、自己批判、自己反省を繰り返し、自分自身を呪ってしまい、悶々と負のスパイラルに陥り、最後には「あかんかった」と一言呟いて自害してしまいます。
この「あかんかった」の一言に熊太郎の36年の人生が集約されており、「足掻いて、抗って、もがいて、苦しんで・・・何度も何度も、『真っ当な道を歩こう・・・、人生をやり直そう・・・、』としてきたけれども、結局、最後の最期まで『あかんかった』んや俺は」という虚しさが、涙を誘います。
世の中に、他人から理不尽な扱いを受けて、結果として理不尽な凶行におよんでしまったという事件は数えきれないほど溢れています。
熊太郎の起こした事件は裁かれるべき残忍な凶悪殺人事件ですが、熊太郎の胸の内を思うと、ある意味では熊太郎も被害者なのかも知れません。
いずれにしても、680ページにわたる長編小説を飽きることなく読ませる町田氏の筆力と巧みな河内弁の使い方には感服しました。
★★★★4つです。
河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。
第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。「BOOK」データベースより
町田康作品初読です。まぁ、こんなに小説で笑ったのは初めてかも?
この物語は、明治時代に実際に起こった大量殺人事件に基づいて描かれています。
主人公の城戸熊太郎は、大量殺人事件の主犯なんですが、幼い頃から、同じ郷里出身の「楠木正成の生まれ変わりや!」と信じるオモロイ少年でした。
しかし、同じ村の悪ガキどもとの遊びの中や、大人等から、何とも言えぬ距離感、疎外感を覚えながら育ちます。
そんな生い立ちの中で、熊太郎は決定的な事件を起こしてしまいます。
その事件を起こしてしまった(と思い込んでいただけ?)ことによって、後々の人生が、とんでもない方向に転がっていきます。
熊太郎は、とても思弁的(経験によらず,思考や論理にのみ基づいているさま)な男です。
ある出来事が起こると、熊太郎の頭の中で、考えが「グルグル〜グルグル〜」と回って、「沸々沸々・・・」と沸き上がってきて、その思いを上手く言葉や行動にすることができないんですね。
そして、ある時は、人から自分がどのように見られているかが、人一倍気になって、エエ格好しいの振る舞いをしてしまい、かえって事態を悪くしたりしてしまいます。
ホンマに不器用で不細工で綻びだらけの人生です。
そんな熊太郎の人生は、悪い方悪い方に・・・、下に下に・・・、底やと思ったら、まだ底があった・・・、みたいな下り坂の人生です。
でも、そんな熊太郎にも救いがあって、生涯の相棒となる弥五郎との出会いや、心から欲した女性・縫との結婚など、どうしようもない熊太郎の人生に光が射すときがありました。
小説全般にわたって、独特の河内弁が満載で、話す言葉や人の振る舞いに、軽妙な雰囲気が溢れています。河内弁のテンポのよさと、しょうもないやりとりや仕草に思わず「プッ」と吹き出します。
特に野犬に襲われるところ、牛を養生講に連れていくところ、奈良の大仏殿前の鹿たち・・・。
熊太郎と動物達との触れ合いの場面では声を出して笑いました( ^∀^)
熊太郎は、決して悪人ではなく、むしろ善人であります。
でも、周りにいる、姑息な狐や古狸のような悪人に騙され、罵られ、侮られ、屈辱にまみれてしまいます。
最後には、最愛の妻・縫にさえも裏切られ、ボロボロになって、行き場、生き場を失ってしまった熊太郎は、とうとう重大な決断をしてしまいます。
「殺す殺す殺す殺す殺す!」
5月25日、楠木正成の命日に、相棒の弥五郎と凶行におよび、10人の命を奪って、そして金剛山中に籠ります。
弥五郎との逃亡生活の中で、熊太郎は、またぞろ、自己批判、自己反省を繰り返し、自分自身を呪ってしまい、悶々と負のスパイラルに陥り、最後には「あかんかった」と一言呟いて自害してしまいます。
この「あかんかった」の一言に熊太郎の36年の人生が集約されており、「足掻いて、抗って、もがいて、苦しんで・・・何度も何度も、『真っ当な道を歩こう・・・、人生をやり直そう・・・、』としてきたけれども、結局、最後の最期まで『あかんかった』んや俺は」という虚しさが、涙を誘います。
世の中に、他人から理不尽な扱いを受けて、結果として理不尽な凶行におよんでしまったという事件は数えきれないほど溢れています。
熊太郎の起こした事件は裁かれるべき残忍な凶悪殺人事件ですが、熊太郎の胸の内を思うと、ある意味では熊太郎も被害者なのかも知れません。
いずれにしても、680ページにわたる長編小説を飽きることなく読ませる町田氏の筆力と巧みな河内弁の使い方には感服しました。
★★★★4つです。