★松田ひろむ氏Facebookより(2024年10月21日知る)
-加藤知子さんより句集『情死一擲』(ジャブラン)をご恵送いただいた。第4句集であるが、まずは句集名に驚かされた。1955年生れ、熊本県生れ、熊本市在住の方である。「豈」「連衆」同人。「We」代表。
この「情死」とは神風の変(乱ではないという)と西南の役は、文学的には「情死」であると、あとがきにある。
タイトルは、集中の<首筋に情死一擲の白百合>によるという。
最初の一句は次の句であるが、どれもただものでない刺激的なもの。久しぶりに、どきどきさせられる句集に出会った。
暗きより青きへそそるチューリップ 6
春落葉なだれてなみだ発電所
そして、巻末は「神風連」の章。
宇気比(うけい)にかけ志士冴え返る水鏡 139
「うけい」とは古語で、ここでは誓約のこと。
千手観音一手は白し曼殊沙華 145
亂ならず變または戀帰り花
とつづき、最後は
もうよかろう最期は情死帰り花 152
西南の柱春灯かきむしる
百花のバラッド歌うたいに語らしむ
で結ばれている。「もうよかろう」は、西郷隆盛の最後の言葉とされているもの。
- しばらくは、この句集の興奮のままでいたいものである。
一読をお勧めする。ISBN978-4-906703-84-5
(追記)
この句集の跋は竹岡一郎(「鷹」同人・第34回現代俳句評論賞受賞者)、彼はこの跋を書かれた直後の6月21日に急性大動脈解離で急逝されている。60歳。これは、ふらんす堂、筑紫磐井のブログによるが、本書はどこまでも衝撃的である。
★松田ひろむ facebookより(10月31日知る)
加藤知子さんの句集『情死一擲』に感激したところ、さらに彼女から『櫨の実の混沌より始む』(ジャプラン)と『たかざれき』(弦書房)の2冊と「We」17号、18号をご恵送いただいた。」第2句集、第3句集である。
『情死一擲』の興奮さめやらぬままに、『櫨の実の混沌より始む』を読む。
どれも刺激的な句が多い。跋は竹本仰(「海程」)氏。
句集名は〈還暦や櫨の混沌より始む〉による。「櫨の実の混沌」とはハゼの実から採れる木蠟を指しているのだろうか。木蠟は和蝋燭や軟膏の基材となる。櫨の栽培は鹿児島はじめ九州に多い。「櫨の実の混沌」の具体的なイメージは小生には定かにならない。櫨の実は歳時記にあるものの実作例は少ない。〈櫨の実の枯れて足垂る受難像〉(水原春郎)、〈櫨の実の乾ぶ筑前国分寺〉(松本学)、〈櫨の実を風鳴らし過ぐ殉教碑〉(藤崎美枝子)は、やはり九州であろう。ちなみに藤崎美恵子さんは1987年(昭和62年)福岡市文学賞受賞者(72歳)である。
実母の介護から始まった彼女の句業は、第一句集『アダムとイブの羽音』(ジャプラン)に詳しい。
そして母を見送り、この第二句集となった。遅い俳句の出発といっても、数年ごとに句集を刊行する意欲はどこから来るものであろうか。
「ただごと」ばかりといっていい昨今の俳句、俳壇であるが、ここには、俳句として書かなければならない思いがぎゅっと詰まっている。
ひめしゃら木肌モディリアーニの首こんな 6
反戦な子宮から地球初明り 10
太腿の内に汗搔く憂国忌 17
戦いに征かないさくら征くさくら 27
半次郎以蔵彦斎(げんさい)冬薔薇 35
原発に恋し火傷し鳥帰る 47
除染とふわたくし抜けて洗ふ髪 57
原子炉のくがだちめけば花の冷え 119
行水やさよならだけが祖国愛 143
二次会はパリで逢引き神隠し 152
以上のように、チェックした句も多い。「あとがき」で彼女は金子兜太の<華麗な墓原女陰あらわに村眠り〉をひく。
確かに兜太的な技法も十分に駆使している。それに加えてエロスを底流に、兜太が秩父なら、彼女は熊本的あるいは水俣的な屈折した民俗の匂いが濃厚である。
小生の知っている「海程」の誰彼の都会的な雰囲気は、ここにはまったくない。これは褒め言葉である。
まずはこの第二句集である。つぎは第三句集『たかざれき』を秘密の扉を開くように読んでみよう。
(松田さんから、彼のFacebookからの引用・転載は自由と聞いています)
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松田ひろむ氏とはお顔もお声も全く存じあげない方だったが
同じ現代俳句協会会員で、『現代俳句』の巻末にある結社紹介の欄で
「鴎座」代表の方とあったので、
ご高覧頂きたく送らせていただいた次第。
そうしたら、思いがけずFacebookでご紹介いただいたようで
見ず知らずでも俳句だけで繋がれる俳縁とは凄い。
これだから、俳句はやめられない!
俳句を読んでいただけるだけでうれしいのに
評まで送ってくださり、かつSNSで紹介していただけるなんて
とても光栄なことです。
やはり、俳人にとって
良くも悪くも読者がいるというのは
とても励まされるものです。
松田ひろむさん、
ありがとうございました。