まわる世界はボーダーレス

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シェイクスピアとミルトン・グレイザー

2020-07-09 18:52:32 | 広告

6月26日の91歳の誕生日の日に亡くなったグラフィック・デザイナー、ミルトン・グレイザー氏については、このブログの「デザインは死せず - Milton Glaserよ永遠に」で触れましたが、"I 💗NY”のデザインで有名な人です。それ以外に、ボブ・ディランのポスターや、ニューヨークマガジンのデザインなど優れた仕事をしていますが、じつは、シェイクスピア関係の作品も多く残しています。

トップの画像がそうなんですが、これは全部、ミルトン・グレイザーが描いたシェイクスピアの顔です。Theatre for a New Audienceという、主にシェイクスピア作品を上演している劇場のブランディングのために描かれたもので、こんなポスターとして使われたりしました。



さらに、こんな講演のポスターもあります。



こんな動画もありました。ミルトン・グレイザーが、シェイクスピアを描きながら、絵を描くことについて語っています。



「描くことは、物事を見ることだ」と彼は語ります。最近のアートスクールでは、コンピュータの技術を習得するために、絵を描くということが犠牲になっているが、これは問題だなどと語り、お金を稼ぐことには直結しないけれど、人間にとってとても大切なことだというような事を語ります。そして最後のほうで、「実物のシェイクスピアに会った人はいないので、どのように描こうか、それは自由」とか、「正確に描くことは意味がない。もちろん正確に描くことは学ばないといけないが、絵の表現としては正確さは重要ではない」ということを語っています。非常に示唆に富む言葉ですね。

彼はこの劇場のグラフィックとは別に、シェイクスピア作品の書籍デザインもしています。例えば、こちら。



「真夏の夜の夢」ですね。そしてこちらも。



「マクベス」です。他の作品も色々あるのですが、こんなトートバッグにもなっていました。



「ハムレット」です。

私も大学生の頃は、シェイクスピア劇を上演する劇団に入っていて、いくつかの作品で舞台に立ちました。「真夏の夜の夢」、「十二夜」、「ロミオとジュリエット」は原語で上演し、「ベロナの二紳士」は日本語で上演しました。勝手に翻案し、脚本も自分で作り、二つの役で舞台にも立ちました。関東シェイクスピア劇連合というのが当時あって、その年の作品賞を受賞したのを思い出しました。

大学時代、一緒にやっていた劇団仲間が、やがて、プロになります。それが今、俳優として活躍している吉田鋼太郎君で、蜷川幸雄さんの後を継いで、シェイクスピア作品全作品の上演の最後の仕上げに取り組んでいます。今年、コロナで途中で中止になってしまいましたが、「ヘンリー八世」まで上演されました。後少しです。

ミルトン・グレイザーが関わっていたTheatre for a New Audienceという劇場の存在も、蜷川幸雄さんが目指したシェイクスピア全作品上演というのと共通のものを感じますね。だからこそ、ミルトン・グレイザーがより身近に感じられてしまいます。

シェイクスピアも、ミルトン・グレイザーのデザインも時代を超えて、人々に影響を与え続けています。

ミルトン・グレイザーのインタビュー映像はいくつもあるのですが、こちらのインタビューが彼の考え方を端的に述べているのでご紹介しておきます。Yiying Luという女の子の質問に、彼が答えるという形になっていて短くまとまっています。



おじいちゃんが、小さな女の子に人生の極意を語っているような雰囲気ですね。簡単に補足しますと、「人生で重要なことは、名誉でも、お金でも、評判でもない、そんなのは糞食らえだ。大切なのは、自分の周りの大切な人との関係をきちんと持つこと。ロジックと直感のどちらが大事か?それは直感。ロジックは人間が作り出した些細な物。直感の方がはるかに重要。テクノロジーか経験か?経験は大切。アフリカの人だったか、自分の国では I Love Youという表現がない、と言う。じゃあどうやって愛していると言うことを伝えるのかと聞いたら、彼は、I See Youと言うんだと教えてくれた。Seeと言うのは、人間の身体を通しての経験だ。それが大事なんだね。そして最終的には、真実をどのように理解するか、それが人生の課題なんだよね」という感じになります。

なんか深いですね。ミルトン・グレイザーは、グラフィック・デザイナーというだけではなく、思想家であり、人生の先生ですね。
ご冥福をお祈りします。




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