古文書を読もう!「水前寺古文書の会」は熊本新老人の会のサークルとして開設、『東海道中膝栗毛』など版本を読んでいます。

これから古文書に挑戦したい方のための読み合わせ会です。また独学希望の方にはメール会員制度もあります。初心者向け教室です。

太祇句集 翻刻3 夏

2017-01-09 11:41:33 | 炭太祇

不夜菴太祇発句集

         夏

 

162  物かたき老の化粧や衣更

163  いとをしい痩子の裾や更衣

164  綿脱ておます施主有旅の宿

165  かしこけに著て出て寒き袷哉

166  行女袷著なすや憎きまて

167  能答ふわか侍や青すたれ

168  盗れし牡丹に逢り明る年

                    原画 早稲田大学古典籍

169  猫の妻かの生節を取畢(をわんぬ)

170  相渡る川のめあてや夏木立

171  甘き香は何の花そも夏木立

172  高麗人の旅の厠や夏木立

173  孑孑やてる日に乾く根なし水

174  景清ハ地主祭にも七兵衛

     呑獅参宮を送る

175  餘花もあらむ子に教へ行神路山

176  西風の若葉をしぼるしなへかな

177  ミしか餘や今朝関守のふくれ面

     ある人のもとにて

178  めかしさよ夏書を忍ぶ後向

179  青梅のにほひ侘しくもなかりけり

180  抽でゝ六め勝けりな寺若衆

181  青梅や女のすなる飯の菜

182  傘焼し其日も来けり虎か雨

                   原画 早稲田大学古典籍

 

183  さミたれの漏て出て行庵かな

184  つれつれに水風呂たくや五月雨  

185  帰来る夫の咽ぶ蚊やりかな

186  蚊屋に居て戸をさす腰を誉にけり

187  事よせて蟵へさし出す腕かな

188  蚊屋くゝる今更老の不調法

189  やさしやな田を植るにも母の側

190  早乙女や先へ下りたつ年の程

191  蚊屋くゝる女は髪に罪深し

192  蓴菜やしるよししける水所

     閨 怨

193  飛蛍あれといわむもひとりかな

194  三布に寐て蚊屋越の蚊に喰れけむ

     御退位きのふありてけふハ庭上の御規式の跡拝し 

     奉るとてミなつとひまふのほるを聞て

195  蚊屋釣て豊に安し住る民

                   原画 早稲田大学古典籍

 

196  蚊屋釣るや夜学を好む真ツ裸 

197  蚊の有に跨るふりや稚かほ

198  蚊遣火もミゆ戸さゝぬ門並ひ

199  下手伸せて馬もあそぶや藤の森

200  妾か家ハ江の西にあり菰粽

201  武士の子の眠さも堪る照射かな

202  月かけて竹植し日のはし居かな

203  しらて猶余所に聞なす水鶏かな 

204  妾人にくれし夜ほとときす

205  追もとす坊主か手にも葵かな

206  葵かけてもとるよそめや駕の内

207  碓の幕にかくるゝ祭かな

208  低く居て富貴をたもつ牡丹哉

209  こゝろほと牡丹の撓む日数かな

210  門へ来し花屋にミセるぼたん哉

211  切る人やうけとる人や燕子花

                   原画 早稲田大学古典籍

 

212  深山路を出抜てあかし麦の秋

213  麦秋やにでて行く馬鹿息子

214  笋を堀部安兵衛や手の功

215  筍のすへ筍や丈あまり

216  白罌粟や片山里の濠の中

217  牡丹一輪筒に傾く日数かな

218  麦打に三女夫並栄へかな

219  さつき咲く庭や岩根の黴なから

220  濡るともと幟立けり朝のさま 

221  くらへ馬顔ミへぬ迄誉にけり

222  なくさめて粽解くなり母の前

223  物に飽くこころ恥かし茄子汁

224  列立て火影行鵜や夜の水

225  舟梁に細きぬれ身やあら鵜共

226  いて来たる硯の蠅ま一つかみ

227  ひとくゝる縄も有けり瓜作り

                  原画 早稲田大学古典籍

 

228  姫顔に生し立けむ瓜はたけ

229  盗人に出合ふ狐や瓜はたけ

230  二階から物いひたけや鉾の兒 

231   あふきける団を腕に敷寐かな

232  書すてし歌もこし折うちハ哉

233  風呂布のつゝむに余る団かな

234  蟵こしに柄から参らすうちハかな

235  扇とる手へもてなしのうちハかな

236  貯ふともなくて数あるあふきかな

237  雷止んて太平簫ひく涼かな 

238  蠅をうつ音も厳しや関の人

239  夜を寐ぬと看る歩ミや蝸牛

240  有侘て這ふて出けむかたつふり

241  怠ぬあゆミおそろしかたつふり

242  引入て夢見顔也かたつふり                   

243  折あしと角おさめけむ蝸牛  

                    原画 早稲田大学古典籍

 

244  水の中へ銭遣りけらし心太

245  もとの水にあらぬしかけや心太

246  蚊屋釣てくるゝ友あり草の庵

     偶 成

     よしハら鳥のよしとおもへハ

          これも鳴音のあらきやうきやうし

247  気のゆるむあつさの顔や致仕の君

248  世の外に身をゆるめゐる暑かな

249  めてたさも女は髪の暑サかな

250  あつき日に水からくりの濁かな

251  朝寐してをのれ悔しき暑さ哉

252  病て死ぬ人を感ずる暑哉

253  色濃くも藻の干上るあつさかな

254  釣瓶から水吞ひとや道の端

255  虫ほしや片山里の松魚節

     かこつことある人へ

256  来し跡のつくか浅まし蝸牛

                   原画 早稲田大学古典籍

 

257  草の戸の草に住蚊も有ときけ

258  水練の師は敷草のすゝミ哉

259  空をミてすゝみとる夜や宿直の間

260  前鬼にも吞せて行や薷散

261   川狩や夜目にもそれと長刀

262  あしらひて巻葉添けり瓶の蓮

263  蓮の香や深くも籠る葉の茂

     寄蓮恋

264  蓮の香の深くつゝミそ君か家

     百圃より東寺の蓮贈られて

265  先いけて返事書也蓮のもと

266  たつ蝉の声引放すはずみかな

267  沢瀉や花の数そふ魚の泡

268  かたひらのそこら縮て昼寐かな

269  昼顔や夜は水行溝のへり

270  夕㒵やそこら暮るに白き花

                   原画 早稲田大学古典籍

 

271  夕顔のまとひもしらぬ垣根かな

272  白雨や戸さしにもとる草の庵

273  ゆふたちや落馬もふせく旅の笠

274  白雨やこと鎮めたる使者の馬

275  橋落て人岸にあり夏の月

     琴泉と東寺へ蓮見によりて酔中の吟

276  引寄て蓮の露吸ふ汀かな

                    原画 早稲田大学古典籍

 

※ 以上夏の句 117句終わります。版本は巷間に流布して広く読

  まれたのですから、当時の人々は現代人が新聞を読むように読 

  んでいました。しかし現代人には読めなくなっています。古文書

  の解読と俳句の鑑賞の二つながらを意識して掲載しました。