今日は新聞休刊日なので、昨日のコラムの一部を紹介します。
・ 今夏から放映されている「百姓貴族」(BS朝日など)は、農業がテーマの5分間アニメだ。原作漫画の作者は「鋼(はがね)の錬金術師」などで知られる女性漫画家、荒川弘(ひろむ)さん。北海道の酪農・畑作農家に生まれ7年間、農業に従事した経験がある
▲作中では「牛人間」ふうの姿をした荒川さんが、農家の日常や知識、シリアスな課題をユーモアに包みつつ、農家の視点から解説する。酪農ももちろん、題材だ。初回は牛乳の質が牛の飲み水や季節で変わることや、需給調整のため生乳を廃棄する「生産抑制」のつらさを取り上げた
▲その酪農に、かつてない逆風が吹きつけている。ウクライナ情勢の影響や円安で、牛の飼料の輸入価格が高騰しているためだ。貴重な収入源である子牛の売値も暴落した。新型コロナウイルス禍による給食などの需要減に続き、深刻な打撃が追い打ちをかけている
▲中央酪農会議が今年公表した調査結果によると、酪農家の約85%は経営が赤字で、そのうち4割以上が月に100万円以上の赤字だった。全体の6割もが離農を検討したことがあるという
▲危機的状況である。当面の対策は牛乳の値上げだが、飼料の国産シフトや、国産乳製品の支援強化などを求める声もある。長期的施策を考える段階だろう
▲「百姓貴族」では獣害、農作物盗難など、農家の苦労が農作業への愛情や誇りとともに紹介されている。生産現場に関心を深めつつ、私たちの暮らしに直結する課題として受け止めたい、酪農のピンチだ。
・ 作家、星新一さんの『白い服の男』は戦争を憎み、平和を一途(いちず)に願う近未来が舞台である。さぞ穏やかな社会だろう…。星さんの想像は逆である
▼その世界では平和を願うあまり、戦争という概念そのものを消し去ろうとする。戦争の歴史は封印され、戦争と口にしただけで平和の敵として逮捕されてしまう。特殊警察の男が言う。「いかなる犠牲を払っても二度と平和を手放すまい」
▼米国にとってロシアをウクライナから追いやり、かの地に再び平和の灯(あか)りをともすための協力なのだろう。それでも、間違ったやり方で平和を追求し、人々をかえって苦しめる結果となった星さんの小説が頭を離れない。米政府がウクライナに対し、劣化ウラン弾を供与すると表明した
▼その高い破壊力に疑いはない。高熱で戦車の厚い装甲を貫通し内部で爆発。ウクライナの反転攻勢を助けるかもしれぬ
▼その一方で、である。微粒子となったウランが人体に入り込めば、体内被ばくを起こす危険がある。細胞を傷つけ、治療法もない。住民の健康や環境への影響が極めて大きい「もろ刃の剣」であろう
▼ロシアの侵攻を食い止めたい-。ウクライナの願いは理解する。だが、その「弾」は本当に平和をもたらすのかを疑う。ロシアとの戦争が終わったとて、その後に待つのは、体内被ばくという別の「敵」との闘いではないのか。それを恐れる。
▼その世界では平和を願うあまり、戦争という概念そのものを消し去ろうとする。戦争の歴史は封印され、戦争と口にしただけで平和の敵として逮捕されてしまう。特殊警察の男が言う。「いかなる犠牲を払っても二度と平和を手放すまい」
▼米国にとってロシアをウクライナから追いやり、かの地に再び平和の灯(あか)りをともすための協力なのだろう。それでも、間違ったやり方で平和を追求し、人々をかえって苦しめる結果となった星さんの小説が頭を離れない。米政府がウクライナに対し、劣化ウラン弾を供与すると表明した
▼その高い破壊力に疑いはない。高熱で戦車の厚い装甲を貫通し内部で爆発。ウクライナの反転攻勢を助けるかもしれぬ
▼その一方で、である。微粒子となったウランが人体に入り込めば、体内被ばくを起こす危険がある。細胞を傷つけ、治療法もない。住民の健康や環境への影響が極めて大きい「もろ刃の剣」であろう
▼ロシアの侵攻を食い止めたい-。ウクライナの願いは理解する。だが、その「弾」は本当に平和をもたらすのかを疑う。ロシアとの戦争が終わったとて、その後に待つのは、体内被ばくという別の「敵」との闘いではないのか。それを恐れる。
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