★原発事故を予言した広瀬隆氏が再び警告の本を緊急出版・・・「日本列島の全原発が危ない!」
「3.11」の約半年前に地震による原発事故が迫っていると著書で警鐘を鳴らした作家・ジャーナリストの広瀬隆さんが今、改めて原発の危機を“予言”している。
いわく「私の予感はいつも当たってきた」──。
「自然の脅威を忘れてはいけない。 巨大地震が次々に起こる過去の歴史について調べれば調べるほど、そう思います。
そこに54基もの原発を建て、人類が経験したことのない原発4基同時事故から学ぼうとせず、安倍政権は原発再稼働を推し進めている。
このままいけば巨大地震がきて、末期的な原発の大事故が起こる。
この予感が外れるよう祈りますが、今まで私の予感はいつも当たってきたので、本を出版して、大声で警告することにしたのです」
そう語る広瀬隆さんはこのほど、『広瀬隆 白熱授業 日本列島の全原発が危ない!』(DAYS JAPAN)を緊急出版した。
「気象庁や多くの地震学者は、将来の大地震について『おそれがある』『可能性がある』と控えめな発言でごまかすから、大被害が出る。
地震発生のメカニズムを学び歴史を振り返れば、『大地震は絶対に起こる』と確信を持って言える。
これは予言ではなく、科学的な警告です。
『絶対に起こる』前提で、しっかりと備えを固めて、初めて被害を最小限に抑えられる」
2010年8月、世界各地で頻発する大地震を受けて、『原子炉時限爆弾──大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)を著した。
大地震によって原発が過酷事故を起こし、地震災害と放射能被害が複合的に絡み合う「原発震災」の危機が迫っている、と警鐘を鳴らした。しかし、大きな反響を呼ぶことはなかった。約半年後、「3.11」の惨事が起こった。
同じ轍(てつ)は踏まない。
新刊はB5判のオールカラー。 今年4月の東京・中野での講演を基に、3部構成で168枚もの図表を使い、平易な言葉で書いた。
多くの人に原発の危険性を理解してほしい、という祈りが込められている。
本の冒頭は「超巨大活断層『中央構造線』が動き出した!」。
再稼働した愛媛・伊方原発と鹿児島・川内原発で「近く大事故が起こると直感した」理由として、16年の熊本大地震の話から書き起こす。
「震度7を2回(16年4月14日と16日)も記録した熊本大地震は、余震が伊方原発の目の前の大分県と川内原発近くの鹿児島県に広がり、九州縦断大地震と呼ぶべきもの。
多くの余震も含めて地図にプロットしてみると、すべて中央構造線に沿っている。日本一の超巨大活断層、中央構造線がついに動き始めた」
広瀬さんは西日本の原発大事故がもたらす被害の大きさについて、こう話す。
「台風は西から東へ偏西風の流れに沿って進みますが、原発の大事故のときに放射能が流れやすい進路も同じ。
福島第一原発の事故で出た放射能は8割が太平洋に落ちたと見られています。
残り2割でも深刻な被害が出ている。
川内原発と伊方原発から偏西風の向きに放射能が流れれば、日本列島全域が汚染される。
川内原発の事故のシミュレーションによれば海洋汚染は九州の西から瀬戸内海に広がり、対馬海流や黒潮に乗って日本近海の海が広範囲にわたって汚染されます」
日本列島では、大地震や火山の噴火が相次ぐ「激動期」と「平穏期」が交互に続いてきた。
広瀬さんは中央構造線が動いた地震の例として、400年ほど前の豊臣秀吉の時代の「慶長三大地震」を紹介する。
1596年9月1日の愛媛県の伊予地震から大分の豊後地震、京都の伏見地震と、中央構造線に沿って大地震が立て続けに発生した。
「5日間で400キロにわたる中央構造線が動いた巨大連続地震ですが、それだけで終わらなかった。9年後に南海トラフが動く慶長東海地震・南海地震があり、その6年後には東北地方の海底で超巨大地震の慶長三陸地震が起き、津波の大被害をもたらした。
東海地震・南海地震がいつ起きてもおかしくない今、順序が違うだけで400年前と同じ巨大連続地震が始まっているように見えます」
巨大地震が発生するのは活断層が明らかになっている地域だけではない。
造山運動によってできた成り立ちを考えると、「日本列島は『断層』と、地層がひん曲がった『褶曲(しゅうきょく)』のかたまり」と広瀬さんは説く。
その実証例として、福島第一原発事故の3年前、08年6月に発生したマグニチュード(M)7.2の岩手・宮城内陸地震を挙げる。
「山がまるごと一つ消える大崩落が起こった地震として記憶している方も多いと思います。地震で記録された人類史上最大の揺れとしてギネス世界記録に認定されたこの地震は、活断層が『ない』とされた地域で起こりました。もはや日本に原発を建設・運転できる適地は存在しないということを知らしめたのです」
地震の「講義」は視野を広げて大陸移動説や地球表面を形成するプレートという岩板の動きを解説。ユーラシア・プレートの両端、ほとんど地震が起こらないフランスと韓国で16年にM5超の地震が発生したことも紹介(韓国では今月15日にもM5.4の地震が発生)し、東日本大震災がユーラシア・プレートに及ぼした影響が大きいという。
本では、原発の致命的な欠陥にも言及している。
大地震に襲われた原発が緊急停止しても、電気が途絶えて冷却できなくなれば核燃料の崩壊熱のためにメルトダウンの大事故が発生する。
停止中の原発も決して安全ではないということは福島第一原発の事故で得た教訓だが、広瀬さんは「多くの人は原発敷地内のプールに保管されている使用済み核燃料の危険性に気づいていない」と言う。
福島第一原発事故当時、4号機のプールには1535体の使用済み核燃料が保管されていた。
この使用済み核燃料に含まれる放射能の量は、福島第一原発事故で放出されたセシウムやヨウ素などを含めたすべての放射能の量(原子力安全・保安院推定値)の27倍に相当する天文学的な量だった。
政府が想定した東京都を含む半径250キロ圏内の住民が避難対象となる最悪シナリオは、4号機のプールから放射能が大量に放出されるケースだった。
「使用済み核燃料は原子炉の何十倍もの危険性を持ちながら、何の防護もない“むきだしの原子炉”といえます。
原発が運転中か停止中であるかは関係ない。
使用済み核燃料を抱えている原発は、すべて大地震の危機にさらされている。これが『日本列島の全原発が危ない!』の意味です」
全国の原発から出た使用済み核燃料は青森県六ケ所村にある再処理工場に輸送され、全量再処理される計画だったが、ガラス固化に失敗して操業不能に陥っている。
3千トンのプールがほぼ満杯になったため、各地の原発で保管せざるをえない状態が続いている。
★使用済み核燃料を持っていく先がないため、電力会社はプールの設計変更を行い、ぎゅうぎゅう詰めにし始めた。
燃料棒集合体を収めるラックの間隔を狭める「リラッキング」によって貯蔵量を増やしているのだ。
「これは絶対にやってはいけない。
核爆発の連鎖反応を防ぐ安全対策として、燃料と燃料が一定の距離を保つように設計されていたのです。
リラッキング実施状況を本に掲載しました。
日本中の原発で危険なリラッキングが行われている実態を知ってもらいたい」
本の最後では「使用済み核燃料と再処理工場が抱える『世界消滅の危険性』」と題して、六ケ所村と茨城県東海村にある再処理工場の高レベル放射性廃液の危険性を訴えている。
「二つの再処理工場には、使用済み核燃料を化学溶剤に溶かした高レベル放射性廃液が大量に貯蔵されています。
冷却できなくなると水素爆発を起こすこの廃液が全量放出すれば、福島第一原発事故数十回分に匹敵する放射能が広がり、たちまち日本全土が壊滅状態になる。
そういう危機にあることを認識してください」
1976年、西ドイツ(当時)のケルン原子炉安全研究所が提出した再処理工場の爆発被害予測の極秘リポートには「西ドイツ全人口の半数が死亡する可能性」が記載されていた。
翌年、毎日新聞がリポートを紹介した記事を読み、広瀬さんは原発反対運動にかかわる決意を固めたという。
「何より『知る』ことが大切です。
今回の本は大事故発生時の具体的な対策を行動に移すための緊急の呼びかけです。原発再稼働を推進する人、電力会社の人たちにこそ読んでもらいたい。
一人ひとりの行動が危機を回避する力になるはずです」
(本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2017年12月1日号より