木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

足を洗うの語源

2015年09月14日 | 江戸の話
「足を洗う」の語源としては、「修行僧が外の修業から寺に帰ったあと、足をあらって世俗の垢を落とす行為」から来ているとの説明が多い。
間違ってはいないと思うのだが、江戸時代の人々が「足を洗う」の語からまっさきに頭に思い浮かべたのは、仏教ではなく、「儀式」のことだった。
遊郭を出る遊女も、出る際に「儀式」を行ったが、これも僧を真似ていたのではない。
では、本当の「儀式」は何かと言うと、人別帳から帳外(人別帳から名前を外されること)となっていた者が、再び人別帳に名前を載せてもらい、常人に戻る際に行う際に行う儀式である。
復帰を希望する無宿者の親類縁者は、乞食頭の車善七に願い出て、町奉行所に人別帳への再記載届けを出してもらう。
もちろん、けっこうな金は掛かる。
所定の金額は決められていなかったが、そうやすやす納められるような額ではなく、儀式を行えるのは縁者に裕福な者がいる者であった。
金が支払われると、浅草の乞食小屋のある空き地で「儀式」が行われる。
空き地には水の入ったたらいと、湯の入ったたらいが用意される。
を行う者は、まず水の入ったたらいで身体を洗い、次に湯の入ったたらいで身体を洗う。
用意された衣服に着替え、車善七が型どおりの検分を行い、常人に戻ったことを宣言して、乞食の人別帳から名前を消す。
これが江戸時代の「足を洗う」の意味であるが、いまではほとんど語られることがない。

「時代劇のウソ・ホント」笹間良彦(遊子館)


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