自己と他者 

自己理解、そして他者理解のために
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白石一文氏と乙一氏の本

2007-08-26 09:51:59 | 小説

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白石一文著 『見えないドアと鶴の空』光文社文庫

霊能あり、不倫あり、障害あり、仏教思想ありなどいろいろなテーマが上手に物語を形成して面白い。人生について考えさせられる文章が豊富。

これでこの著者の文庫については全て読んだ。長編作品は、どれもすごくいい本だった。

p130 「どんな大切な関係であっても、その大切さはそれが終わったあとでしか知れない。なぜなら全ての人間関係は必ず滅する運命にあり、だからこそ人間は常に新しい関係への期待を捨てることが出来ないからだ―」

p166「どこへ人間は行くのか。何をなすべきやということを本当に知りえたものだけがこの地上において生まれた喜び、生きていることの喜びを感ずるのです。しかもその、人生の意味を知らせてくれる真理というものは、どこにもある。道はまことに近きにある。ただ心なきものは、ちょうど匙がスープの味を永遠に知ることのないように、人生の中にいて人生の味と価値がわからないで死んでしまう。法然上人の言われた通り、月影の至らぬ里はなけれどもながむる人の心にぞ住むのです。」(もとは、友松円諦『法句経講義』(創元社から))

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Dvc00066 乙一『失われる物語』(角川文庫)

56ページに見事にまとめられた「Calling You」を読んだ。構成がうまい。

「失われる物語」喧嘩ばかりするようになった頃、僕は、トラックに突っ込まれるという事故に遭い、その結果、右腕の感覚以外全てを失った。妻は毎日先が見えぬ看病を続け、ある日から指で夫の腕をなぞり、日々の状況を右腕を通じて伝え始める。さらに妻はピアノが得意で、夫の右腕を鍵盤代わりに弾き、夫はそれを通じて、妻の愛情や自分が立たされた絶望的な状況など、それまで感じたこともなかった感情がこぼれだし、抱きしめ、苦悩し、その結果・・・・。