萩原浩『明日の記憶』(光文社文庫)
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記憶というのは自我なんだ。読んでいる途中でそう思った。
どんな人でもなる可能性がある。淡々と、時にはギャグも交えながら書かれているが、記憶がなくなるという恐怖は半端ではなく本当に恐ろしい。数十年連れ添った妻との関係が壊れていく。娘の旦那、娘の名前・顔さえも思い出せなくなる。そして徐々に自我さえ失われていく。
こんな恐怖を乗り越えるには、心のそこから愛しあう経験を共有している奥さんの存在あるいは旦那さんの支えしかないのではないか。そうした人でさえ困難なのではないかとも思う。しかし、どうしたって周囲の本当に近い存在の人しか支えることはできないだろうと思う。
自我がなくなっても肉体が存在し続ける限り、人間は生きていくことしか道は残されていない。