アブラゼミの羽化

夕方の散歩から帰った“いえびと”が、胸のポケットからガサゴソと何やら取り出しました。
羽化直前のセミです。
孫が同居しているわけではないから、私に羽化を見せるために連れ帰ったのだと思います。
しかし羽化は昆虫にとってとても大事なことで、うまく大人になれるかどうか、一生のうちの大勝負だと思うのです。
すぐに「外に出して土の上に置くように」と言いました。


ところが妻の言うことは聞かないのがかっこいい男だと勘違いしている“いえびと”は、何と私が作ったアートフラワーの茎にくっつけちゃったのです。
私はガッカリしましたが、もう逆らわないことにしました。


その後私は自分の部屋でテレビを見ていたのですが、１時間経って見に行ったら、セミの重みで茎がしなり、最初とは逆向きになってしがみついていました。


それから２時間、セミのことはすっかり忘れてテレビを見ていたら、“いえびと”が呼びにきました。
「もう羽化しちゃったよ」


時間は午後１０時。


緑を帯びた白い翅が透き通って綺麗です。
でもこのまま朝までこの格好だと思うので、私は観察なんかしないで寝たい。


それでも１時間後に見に行ったら、翅がだいぶ黒くなっていました。


それから１時間後の１２時には、体全体が黒くなってきました。
でももう付き合いきれないから寝ます。


翌朝６時少し前、家の中をセミが飛んでいる音が聞こえてきました。
すぐに家の中で一番明るい障子にぶつかり、下に落ちてしまいました。
「生きているかしら、大丈夫かな」と心配しながら障子を開け、ガラス戸を開け、網戸を開けました。
セミはすぐに明るい戸外に飛び出して行き、姿が見えなくなりました。


生き延びて子孫を残して欲しいと願っています。
あと１週間の命ですもの。
アートフラワーの額には、セミの抜け殻が残ったので、今もそのままにしてあります。