硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

スプリンター。

2017-09-10 22:22:55 | 日記
朝刊の一面に大きな見出し。「桐生 9秒98」 

日本選手もいよいよ9秒台に突入し、東京オリンピックでのメダルも夢ではなくなるかもしれません。

桐生選手と彼を支え続けたトレーナーさんの努力を記事を通して知り、本当に凄いなと感動。そして、スプリントの記事を読む度に個人的に思い出すのは中学の同級生。

記憶は鮮明で、その同級生に質問した事まで忘れることが出来ない。


「彼」との出会いは中学生で、印象は、影の薄い目立たない言葉数も少ない少年で、気の合う人とだけと学校生活を共にするような人だった。

そして僕とは、2年生で同じクラスになり、共通の友達を通して少し会話する距離であったが、衝撃の日は突然やってきたのでした。

体育の授業で100メートル走をすることになった。当時の僕は運動が苦手だったので、「走る」という事が本当に嫌だった。そして、クラスの中には、女子にモテモテの陸上部のエースもいて、コンプレックスの塊のような僕は、走る事がいっそう嫌だった。

多くの男子はスポーツ系のクラブに入っていたので、100mをガンガン走ってゆく。僕は帰宅部の勉強もスポーツもあまり得意じゃない集団の中で冗談を言いながらその姿を眺めて気持をごまかしていて安心していたが、その中に彼もいた。

陸上部のエースがスタートラインにつき、スタートの合図とともに走り出すと女子から声援が上がる。帰宅部の仲間は「○○は昔から女子からモテてたんだよ」という情報を得て、ああそうなのかぁと納得。悔しいけれど、走る姿もかっこいい。

次第に僕の番が回ってきて、懸命に走るのだけれど、走る姿も重く、陸上部のエースとは雲泥の差。嫌な思いを引きずり2本目の為に再びスタートラインまで歩きながら戻っていると、彼がスタートラインについていた。手足は長いけれど体の線は細くひ弱そうだったから、僕と同じくらいのタイムなんだろうなと彼を観ていた。

スタートのホイッスルが鳴る。すると、彼はその長い手足を軽快に動かし、どんどん加速してゆく。呆気に取られているとあっという間にゴール。
体育の先生からタイムが報告されると、陸上部のエースより早かった。男子から「おおっ」という声が出る。

僕の身体に衝撃が走り、これはどういうことなのか彼と共通の友達から事情を聴くと、

「あいつ、小学校の頃から足だけは抜群に早かったんだ」

と言った。朝夕とひたむきに練習している陸上のエースより早いなんてどうなっているんだろうかと彼の才能に嫉妬、興奮し、どう頑張っても速く走れない僕は、走り終わった彼に駆け寄り、「どうして陸上部に入らないの。もったいないじゃないか」と、聞いた。

すると彼は、

「だって、練習はえらいし、(疲れるし)おもしろくないから(今思うと、おそらく上級生より速く走れてしまったがためにいろいろ苦労があったのだろう)」

と言った。

僕は、「もったいないなぁ」と言ったきり、それ以上の質問は出来なかった。でも、彼の走りと彼の気持ちは強烈な印象を与えた。

才能があっても上手く表現できない人、才能に嫉妬し、つぶしにかかる人がいた為に才能が開花しなかった人に出会ったことがあるけれど、彼もその一人で、今思い返しても凡人の僕からすれば本当に惜しい才能の持ち主であった。

その後も彼の走る姿は体育祭のみでしか見ることが出来なかったが、陸上のエースのように黄色い声援は飛ばないけれど、その速さはエースと変わりなかった。

桐生選手は環境と才能と努力によって、潜在能力を爆発させた。その先を行くにはさらなる努力が必要となるだろう。プレッシャーも大きくかかるだろう。

だからこそ、東京五輪まで怪我をせず、楽しんで走っていてほしいと思う。