硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-27 21:01:52 | 日記
彼女の言う神の計画の前に無力な僕達はいったい何者であったのだろうか。何者かもわからない僕達は何処へ向かえばよいのだろうか。滅びが定められたものであるなら、人類が長い年月を掛けて築き上げてきた世界は幻想でしかなく、滅び去った世界こそが真に調和した秩序ある美しい世界といえるのかもしれない。
しかし、僕を信じて必要としてくれている彼女を護ることが、僕の生まれてきた意味であり、生きている意味だと分かったのだから、神の創造物である僕達の魂から湧きおこった意志は、彼女が問い続けている「摂理」なんじゃないかと思った。
そして、なによりも、自身にしがみついていれば傷つくこともないけれど、勇気を出して一歩踏み出せば、失敗も多いけれど、未来は開けてゆくのだと気づいた。

僕は、深く深呼吸をして、自分を取り戻すと、涙を流している彼女を励まさなければと、思わず口にしたけれど、

「もう泣かないで。僕には愛と勇気があるからなんとかなるよ。」

と言う、恥ずかしくなるくらい幼い言葉だった。こんな時、気の利いた事を言えればいいのにと後悔したけれど、意外にも、彼女は、くすっと笑い「まるで、アンパンマンね」と言った後、彼女が難攻不落だった理由を知った。

「やっぱり、あなただった。」

「僕 ?」

「そう。私の救い主・・・。私も君の事が好きだったんだよ。入学式の時、大勢の人の中で、あなたを見つけた時からずっと。」

「ずっとって・・・。」

「ずっとだよ。」

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-26 20:56:38 | 日記
「なに!! なに!!」

後ろで彼女が叫ぶ。ミラーをちらりと見るが小さくてよくわからない。しかし、予想だにしない事が起こっているのは分かった。不安が心を支配してゆく。ハンドルを持つ手も震えていた。

「きゃぁあああああ!」

僅かな時差と共に、爆発の波動と爆風が僕らを襲い、大型地震のように激しく足元が揺らいた。前方の視界が歪んでみえるほど、直進する事がままならなくなった。
ブレーキを掛けながら、シフトダウンして、ふらつくバイクを必死にコントロールする。何度もこけそうになりながら、揺らぎが止まった高速の路肩にバイクを停止させて走り抜けてきた道を見ると、東京は炎と黒煙で覆われていた。それは、何処かのお寺で観た地獄絵図のようだった。

彼女を見ると、ぽろぽろと涙をこぼしていた。クールで預言者と呼ばれていても普通の女の子だ。彼女が抱いていた不安や辛さは、どれほどだったろうか。

「・・・大丈夫? 怪我ない? 」

「・・・うん。大丈夫。」

頭上を轟音と共に戦闘機の編隊が音速で飛んで行った。終わりの始まりを始めた「使者」を止める為なんだろうけれど・・・・・・。

「・・・じゃぁ、行くね。」

それ以上、掛ける言葉が見つからない。こんな状況では返す言葉が見つからなかった。
あの平凡で荒野を彷徨い歩くような日々を送っていた東京が、戦場と化している。重火器の破裂音が煙で覆われた空に響いている。みんな無事だろうか。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-25 18:20:02 | 日記
バイクは勢いあまって、フロントタイヤが空を向いた。後部座席の彼女はびっくりして「きゃっ! 」と、言って、僕の身体にしがみつく。その瞬間、背中に柔らかな胸のふくらみと鼓動が伝わってきてドキドキしたけど、二人乗りのライディングは思ったより難しいし、タンデム走行を楽しむ余裕もなかった。

「彼女を護らねば! 」

自分に言い聞かせ、渋滞気味で流れの悪い山下通りを南下し、都市高速環状線に上がった。

しばらく行くと、港区方面の空に、SF映画やアニメでしか見られないような、この世のものとは思えないフォルムをした怪物が光の翼を広げて浮かんでいるのが見えた。周りの車のドライバーもその光景に驚いていた。
―もう一刻の猶予もない。僕は咄嗟に走行ラインを側道へ移し、車の横を突っ切って中央高速へ進路をとった。すると彼女が大きな声で「どこへ行くの!!」と、言った。

「わからない! とにかく、東京を離れる! 」

ノープランだったけれど、中央高速を下ってゆけば、僕の生まれ育った町という選択もある。
しかし、そこで気が付いた。彼女の両親は大丈夫なんだろうかと。

「ねぇ! 君のご両親は大丈夫なの! 」

「大丈夫! 両親はイギリスだから! 」

少しびっくりしたけれど、それなら問題はない。

アクセル全開のままで、ひたすらに中央高速を下っていると、右に高尾山が見えてきた。ここまでくればと安心かなと思った次の瞬間、耳をつんざくような音と共に、周りの景色が真っ白になった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-24 21:46:51 | 日記
グズグズしている彼女に駆けよると、ツナギを少し強引に引っ張り上げて、彼女の腕を袖に通すと、「なんなのこの服。ゴワゴワして着心地悪くて仕方がないわ。」と、ダボついた両腕を広げてぼやいた。

「文句言うんじゃありません。ほら。こっち向いて。ジッパーをあげるから。」

僕は、信じられないくらい大胆になっていて、何のためらいもなく彼女の肩を掴むと、僕の方に振り向かせ、ダボダボのつなぎのジッパーを首まで上げた。

「これで良し! 」

そう言うと、彼女は、「君、本当は私の下着観たでしょ? 」と問い詰めてきた。
少しめんどくさくなった僕は、「パンツなんか見てもなんとも思いません! 」と、ぶっきらぼうに答えると、彼女は「あなた!それはそれで、失礼よ!! 」と、赤面してむきなった。

誰も知らない彼女の表情が露わになってゆく。僕だけしか知らない彼女がここにいる。僕はとてもうれしかった。なんて言っている場合じゃない!

「これ持って! 」

彼女にリュック渡すと、勘がいいのか、何も問わずに自分のカバンを無理やり僕のリュックに押し込め背中に背負った。
見慣れないツナギ姿の彼女。一緒にバイト出来たら楽しいだろうなと思いながら、彼女にヘルメットを渡すと、ぎこちなさそうに髪を後ろに流しヘルメットをかぶった。
僕はバイクにまたがり、祈る様にセルモーターを回すと、機嫌のいい愛車は一発でエンジンに火が入り、いつでも、発進できる状態になった。

「乗って!」

軽く頷いた彼女は、勢いよく車高の高いオフロードバイクの後ろに飛び乗ると、僕の背中をたたき、「足!足! 足はどこに載せるの! 」と叫んだ。
彼女はバイクを知らない人だったのだ。僕は慌てて折畳まれた小さなステップを指差して、「それを倒して! 」と叫ぶと、「わかった! 」と言って、手でステップを倒し、足を乗せると「いいよっ」と言って背中を叩いた。

「しっかりつかまってて! いくよ!!」

気合の入った僕はスロットルを全開にしてクラッチをつないだ。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-23 21:34:41 | 日記
階段を駆け下り、息を切らして、駐輪所に辿り着くと、僕は肩に掛けたリュックからバイト用のツナギを無造作に取り出して、彼女に差し出した。

「これを着て。」

すると、彼女はうろたえながら、

「ええっ。此処で着替えるの!!」

と、拒否反応を起こした。

「そんなわけないじゃん! その上から着て! 」

少し焦っていたから、少し強い口調で言い放ってしまったが、それがよかったのか、強気だった彼女が、急にしおらしくなって、「えっ・・・。スカートの上から履くの? 」
と、しょぼんとしながらつなぎを観た。クールなイメージからは想像できないくらいの愚図愚図ぶりを見て嬉しくなったけれど、事態は急を要している。

「いいから早く!  」

「わかったわよ。 」

彼女がぎごちなさそうに、ツナギを着ている間に、僕は駐輪場の隅に放置された埃まみれのバイクに駆け寄って、バイクと共に残されたヘルメットを拝借した。

被ってみると、埃っぽい。けど、贅沢は言ってられない。シールドを上げ、振り返ると、彼女はまだスカートをたくし上げてツナギに足を通しているところだった。

細い脚から見える下着。彼女と目が合う。すると、すかさず、

「あっ。今見たでしょ!下着見たでしょ! 」

と、叫んだ。

「見てない!見てない! ほら早く! 」

うやむやにするわけではないが、なんとなくごまかしてしまった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-22 17:58:09 | 日記
このまま手をこまねいていても、何も変わらないし、何も始まらない。もし、僅かでも生き延びれる可能性があるなら、前に進むしか道はない。

「一緒に逃げよう!! たしかに、明日はないかもしれないけど、君となら何とかなりそうな気がするんだ! 」

気持ちが高揚している。しかし、彼女は、まだ戸惑っていて「でも・・・。」と、言ってうつむいてしまった。すると、光の束が眩しいほどに発光した。このままでは駄目だ。僕は、覚悟を決めた!

「今の僕には、逃げる事しかできないけれど、でも、何もしないで終わったら、君の言う魂が後悔する! それに、僕は今迄にウソは一回しかついてないし、人を傷つけた事もなく真面目に生きてきた。もちろん女の子と付き合った事もない! だから、都に入れないわけがない!!」

自分で何を言っているんだろうと思いながらも、この状況を何とかしようと必死になっていた。すると彼女は顔を上げ「うん!」と言って立ちあがった。

「行こう!」

手を差し伸べると、彼女は僕の手をきゅっと握った。


「走れる? 」

「うん! 」

僕らは駐輪場に止めてある僕のバイクに向けて走った。逃げた所でどうなるか分からないのは、僕も彼女も重々承知している。けれど、だれも予測できない未来に、0ではない可能性に人生を賭することは、何もしないよりましだと確信していた。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-21 20:54:50 | 日記
それは、観たこともない物体で、UFOなのかと思ったが、高速移動するわけでもなく、風に流されている大量の風船のようにも見えた。

「うん。見える。あれはなんなの? 」

「あれが・・・。アーダル・・・」

アーダルが何を意味するのかは分からなかったけれど、彼女の悲しそうな横顔を見たら、それが、『始まり』であるという事は理解できた。
僕は茫然自失に陥って、その行方を眺めていたら、同じ球体が多方面から漂ってきて、次第に一点に集まり始めた。
メールの着信音が鳴り、急いで携帯を取り出すと、友田から、「おめでとう! まさに、奇跡がおこったな」と祝福してくれていた。しかし、喜んではいられない。
大きくなってゆく光の束を写メにとり、「彼女は、これから起きる滅びは、神の意志だといっている。とにかく東京から逃げろ。」とメールした。

光の束が膨れ上がり、なにかの形になりつつある様子を見ながら、これからどうすればいいか考えていた。彼女の預言に従うのなら僕達は滅びを受け入れるしかない。でも、本当に受け入れるだけが幸福なんだろうか。
けれど、まだ滅んではいないし、滅ぶまでには時間がある。僕が一歩前に進めば、必ず何かが始まるはずだ。
「あの・・・。」

「なに。」

僕はベンチから立ち上がると、意を決し、気持ちを言葉にした。

「逃げよう! 」

「えっ。」

今まで平然としていた彼女が戸惑っていた。急に逃げようだなんて言われたら、誰だって戸惑うだろう。でも、今、彼女にそう言えるのは僕だけなのだ。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-20 20:40:12 | 日記
そんな表情もするんだぁと思って、おもわずにやけてしまいそうになったが、そこはぐっとこらえて、ちょっとすまして答えてみた。

「うん。僕が上京してきて、最初にできた友達だからね。でも、もうすでに君と会っているなんて想ってもみないだろうなぁ。」

「そうね。だったら、預言者は僕の目の前にいて、ほんとうだよって、言っていると、返信してあげたらいい。」

「そうだね。嘘をついて安心させても、誰の為にもならないしね。じゃあ、そうするね。」

微笑む彼女にドキドキしながら、これから始まるであろう終わりの日に、人生で最高の時間を過ごしているなんて、なんて日だっ!、って思いながら、彼女の言った通りにメールを送ると、驚くほど速く返信があり「ウソだろ。ウソに決まっている。いや、そもそも預言者といる事の方が疑わしい。真実なら写メを送れ。」との文面に、おもわず爆笑した。

「どうしたの ?」

「いやね、君と一緒にいる事が信じられないだって。だから証拠の写メを送れだって。」

「じゃあ、ペアで撮っておくってあげようよ。」

「ええっ。」

「ちょっと貸してみて。」

ためらいのない彼女に戸惑いながら、携帯を渡すと、慣れた手つきでカメラモードに切り替え、腕を精いっぱい伸ばすと、僕の顔に顔を近づけた。彼女の髪からすごくいい匂いがして頭がくらくらした。

「表情が硬い! ほら笑って。はい。」

シャッターを切ると画像をすかさず保存し、「これを送ってあげなよ。」といって携帯を返してくれた。
そこには爽やかに微笑んでいる彼女と、ゆるみきった顔をしている僕が写っていた。早速メールに添付し送信すると、

「ねぇ。あれって、君にも見えてるかな? 」

そう言う彼女の指差す方向を観ると、オレンジ色に発光した小さな球体の束が、空に漂いながら、都心部へゆっくりと渡っていっていた。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-19 20:20:24 | 日記
「あのっ。一つだけ・・・、聞いていい? 」

「なに? 」

「その計画は絶対に回避できない事なの?」

僕の質問があまりにも稚拙だったからなのか、彼女はしばらく黙って考えた後、例えで示された預言を語った。

「すべてに汚れたもの、憎むべき事と偽りとを行う者は決して都に入れない。子羊のいのちの書に名が書いてある者だけが入る事ができ、それ以外の者は火の池に投げ込まれるの。」

「それは、つまり、汚れてなくて、憎むべき事と偽りを行っていなければ、助かるってことなの? 」

「・・・わからない。」

すると、突然携帯が鳴った。慌ててライダースジャケットのポケットから取り出すと、友田からメールだった。件名は「真実を確かめろ。」

「ちょっとごめん。」

メールを開くと「バイト先で変なうわさが飛び交っている。非現実的な案件であるが、確かめるだけの価値がありそうだ。無論、これは預言者を尋ねなければならないというミッションを含んでいる。」と、記されていた。さらにメールに張り付けられたリンクをクリックすると、そこには彼女が言っていたような事が記されていて、Twitterでは、これから起こるであろう事を茶化すモノも多く見受けられた。

画面を見つめ、しばらく考えていると、彼女が「どうしたの? 」と、心配そうに言った。こういう時、あまり深刻になってもダメなのかなと考えた僕は、冗談交じりに

「いや、友達がね。バイト先でも君の言うような事がうわさになっていると言っていて、これは、接点を持つ、いいきっかけになる。だから、それをきっかけに真意を聞いて来いと。」

と、答えると、彼女は「いい友達だね」と、言って優しい笑みを浮かべた。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-18 20:23:41 | 日記
「ごめんなさい。でも僕は君と違って懐疑主義者だから、正直な所、神の存在は分からないんだ。けれど、今の僕は、君を信じることが出来る。君が語る運命なら受け入れる。単純に、ただそれだけなんだ。これは、理屈じゃないんだよ。」

言葉に力がこもっているのが自分でもわかった。その想いが彼女にも伝わったのか、こわばっていた表情は次第に柔らかくなっていった。

「理屈じゃない・・・か。私には・・・、そういう曖昧な思考はなかった。でも、そう言われて、不思議と安心を得たわ・・・。皆からは、どう映っていたのか分からないけれど、言葉を聴いてからずっと不安だったの。誰にも告げられず、誰も救う事も出来ず、このまま滅んでしまってもいいものかと。」

僕をじっと見つめる彼女。すごくドキドキした。でも、もし、預言通りなら、明日の今頃はこの屋上から見る風景一帯は焼きつくされていて、すべての人がこの世から居なくなるかもしれないのだ。だったら、僕が今やるべきことは一つしかない。

「僕は・・・、君の事が好きでした。」

「好きでした? 」

「うん。もう明日と言う日がないのなら、気持ちを伝えるだけで十分だからね」

「君は面白い事を言うね」

彼女はそう言うと小さく笑った。

これから起こる滅びがどんなものなのか想像できないけれど、僕らには、運命を受け入れるべきなのか、抗うべきなのか、考える余地が残されている。それは、問い続けていた問題に解を出し、預言に不安を抱いている彼女を救う為の選択でもあった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-17 22:26:23 | 日記
「僕は君の事を信じる。君が選ばれし者なら、それは神の啓示なんだと思う。」

「本当に?本当にそう思ってくれるの? 」

「うん。」

「じゃあ、私が今、抱えている話を聞いてもらえるかな? 」

「もちろん。何でも言ってみて。信じるから。」

僕は、彼女の気持ちに応えようと、頑張って返事した。すると、彼女は大きく深呼吸した後、信じられないような言葉を発した。

「この屋上から見える風景。もうすぐ一面灰になってしまうの。」

最初、上手く理解できず、「うん。うん? 」と、曖昧に返事してしまったが、それが、聖書の「黙示録」である事に気づいた。

「信じがたいでしょうね。でも、もうすぐ使者が現れて、すべてを焼き尽くすの。」

彼女の言葉に、驚きはしたが、来るべき時が来たのだったら、僕は、預言者の後に続き、荒れ野を歩み続けるしかないと思った。

「・・・聖書で言う所の滅びの日が来るんだね」

「・・・そういう事になるかな。君は信じれらる? 」

「うん。君がそう言うのなら」

「なぜ、どうしてそんなに簡単に受け入れられるの? もう、死んじゃうかもしれないんだよ。怖いとは思わないの? 」

「怖くないと言えばうそになるけど、それが、運命なら仕方がないと思うんだ」

「仕方がないって・・・・・・。沢山の人達が突然消えてしまうんだよ。それが、分かっていてもどうする事も出来ないんだよ。無力な私に、なぜ、こんなことを告げるのだと思う ? それが、運命だから ? 簡単に言わないでよ! 」

眼に涙をためて、自身の運命に向き合う彼女。それに対して、僕は何もできないし、それを自覚していた。だから、当たり障りのない言葉で取り繕っても、彼女の心には届かないと思ったが、二人の友の助言を思い出し、素直な気持ちを伝えようと頑張った。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-16 20:57:24 | 日記
僕は失望させてしまったんじゃないかと思って、「ごめん。」と謝ると、彼女は、「やっぱり・・・そう思うのね。」と言って、悲しげにうつむいた。
こんな事態は初めての経験だったから、彼女の次の言葉を待つしか術がなかった。
二人の間にはまた沈黙の時間が訪れた。僕は手をぐっと握りしめ、どうするべきか、とんな言葉を掛ければ最良なのかをひたすら考えた。しかし、考えるだけで、どうする事も出来ない僕を察してくれたのか、彼女は顔をあげると穏やかに語り始めた。

「いいよ。余りにも突拍子なことだものね・・・。たしかに、私は、みんなから預言者と呼ばれているけれど・・・。」

「うん。」

「自分でも、よくわからないのよ。ただ・・・。」

「うん。」

「幼児の頃は見た夢が何度か現実になった事があって・・・。それが成長するにつれ夢ではなく、声・・・言葉として私に誰かが語りかけてくるようになった。そして、それは次第に“喩“で表現されるようになり、私自身もその言葉を持て余すようになったの。」

「うん。」

「それを、預言というのかもしれないけれど、“喩“だと、上手く解釈できず、私なりの解釈で事態を回避させてみようと試みてはみるんだけれど、かえって気味悪がられてしまうの。でも、予言が当たってしまった時、皆は驚愕する。それがとても辛かった。」

僕は、彼女の話に頷くしかなかった。でも、辛そうに語る彼女を見て心から信じようと思った。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-15 17:48:01 | 日記
二人の間に沈黙が流れる。僕は缶コーヒーを飲みながら、何を話せばいいのか必死で考えていた。すると、彼女は唐突に「ここに座っていい?」と僕の左隣を指差した。突然の事に戸惑いながら「あっ、どうぞ。」と返事をすると、静かに椅子に座った。いつも遠くから見ている君がこんな間近にいる。そう思うだけでドキドキしたけれど、この後の展開を考えなければ、行き詰ってしまうと思って、なんとか言葉をひねり出した。

「えっとぉ。これは、どういう事なんでしょう。」

「どういう事? ただ座っているだけよ。」

「確かにそうなんだけど・・・。」

戸惑いつづける僕に彼女はさらに追い打ちをかけ、

「君って、私の事ずっと前から見てたよね。気付いてないと思ってた? 」

「えっと・・・。」

再び言葉に詰まる。悟られまいと注意を払っていたつもりだったけれど、すでに感づかれていた。どうしようもなくなった僕は、友田の言葉を思い出し、素直になろうと決めた。

「・・・どれくらい前から気付いてたの?」

「目が合った事あったでしょ。あれからよ。」

驚きの連続である。自体は予想をはるかに超えてくる。もしかしてこれも預言なのかもしれないと思った僕は遠まわしに聞いてみる事にした。

「ひょっとして、僕が今日此処へ来る事も知っていた?」

すると、彼女はクスクス笑い、「さすがにそんな能力はないわ。もし、その能力があったなら、最大限に使って要領よく生きてるわ。」

と、言った。それは、友田の情報通りだった。そう思った僕は、ちょっと調子に乗って、

「じゃあ君が預言者と呼ばれるゆえんは?」

と、聞くと、やはりというか、預言者と言う言葉に鋭敏に反応した彼女は、僕を睨んで、「あなた。私が預言者と呼ばれる事に興味があるの?」と、静かに拒絶した。


「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-14 22:28:32 | 日記
「え~と。君はとても優秀な人で、多くの男達からの交際の申し込みをすべて断り、危機迫る人達には、救いの言葉で救済を図った預言者であると。」

黙って僕の話を聞いていた彼女は、大きくため息をつき「・・・そう。」と言って表情を曇らせてしまった。
こういう時、どんな言葉を掛ければいいのか分からなかったから、ただ「ごめん。」と、あやまると、彼女は、「なにも気にする事はないよ。」と言って微笑んだ。
傷つけたかもしれないのに、ごめんしか言えなかった僕に対して、やわらかく接してくれた。
きっと、彼女の本質はクールとか切れ者と言うより、普通に優しい人なんじゃないかと思えたから、今感じている事を素直に言葉にしてみた。

「でも、不思議だよ。今日は、偶然時間が空いて、ここへ来て、君とどうすれば接点ができるか考えようと思っていた処だったんだ。で、偶然にもこうやってチャンスが訪れた。今日はラッキーデーかもしれない。」

すると、今度は「それは、よかったね。」と、言って視線を空へ移した。
ああ、なるほど、これが難攻不落と呼ばれるものなのかと思いながらも、此処で折れてはなるものかと自分に言い聞かせた。

「君は物理学を専攻しているんだってね。特に何を学んでいるの? 」

「摂理。」

「えっ。摂理って。自然界の法則の事?」

「そう・・・。いえ、創造主の計画と配慮の事だよ。」

彼女の答えに少し驚く。

「でも、それなら神学か哲学を専攻した方がいいんじゃ・・・。」

「それも考えたわ。でも、神と私の間に何かが介在すると魂が濁るの。」

「魂が濁る? 」

「そう。言葉は“濁る“と真理から遠ざかるの。どんなに素晴らしい経典でも、読み手が自分にとって都合のいい解釈をしてしまうのと同じように。」

「たしかに。」

「シェークスピアも、言葉は空に迷い、思いは地に沈む。心をともなわぬ言葉が、どうして天にとどこうぞ。と、作中で言わせているわ。」

「シェークスピアかぁ・・・・・・。でも、人が矛盾という価値を内在させているんだから、完璧な世界もないと思うんだけど、それはどう思うの? 」

「確かに、完璧な世界は存在しないわ。アダムとエバが善悪の知識の実を食べてしまったように、プロメテウスは天界の炎を盗んで人に与えたように、揺らぎというものは不可避なもので、すべての人が、天地我と同根、万物我と一体という思想には至らないものよ。それに対し、数字には矛盾も揺らぎもなく、数式とその配列には普遍性がある。だから物理を選んだの。」

「つまり、数字には一貫性がある、だから法則には神が宿っていると。」

「そう。言葉は神と共にあったなら、数字もまた然りだと思うの」

なるほど、これは一筋縄ではいかないわけだ。自身の魂の存在を認め、宇宙や素粒子にその起源を身い出そうとしている彼女の精神はとても繊細でクリアだ。
そして、歪んだ欲望を抱いていると、見透かされると思わずにはいられないほどの、純粋さを持っていて、自信のない僕なんか、相手にされないんだろうなと思ったら、それ以上、言葉が出なくなった。

「巨神兵東京に現る」 僕らのささやかな抵抗。

2020-03-13 21:46:40 | 日記
黒い髪をなびかせながら、まっすぐこっちに向かってくる。
彼女の予想だにしない行動にうろたえていると、目の前で立ち止まり両手を腰に当て硬い表情で僕を見下ろした。
僕らの話が筒抜けになっていたのだろうか。いや、そんなはずはないと思ってはみたが、彼女のうわさ話をしていたのは間違いない。罪の呵責に苛まれ、思わず「ごめん。」と謝ると、彼女は表情をやわらげ、

「あやまらなくていい。それよりもどんな話をしていたのか聞きたい。」

とクールに答えた。僕はこの急展開に驚いたが、「ここが自助力の出しどころなのだ。恥をかくことを恐れるな」と、自分に言い聞かせ、たどたどしい言葉で、彼女の問いに答えた。

「えっと・・・。僕が君を見ていて・・・それに気づいた友達が君の事を色々調べてくれて・・・。そして、どうしたら君と付き合えられるようになるのか、議論していました。」

あまりうまく答えられなかったなと思いながら、彼女の目を見ると、眼鏡の奥のグレーの瞳に圧倒され、すぐに目を逸らしてしまった。

「で、私についてどんな事が分かったの? 具体的に述べよ。」

まるで、先生と生徒のような関係だなと、客観的に捉えることが出来たが、今の僕には彼女の質問に答えてゆく事でしか、先に進める道はなかった。

「いや、・・・具体的と言われても~・・・。よわったな・・・。」

「何を言われても気にしない。もちろん、報復もしないから言ってみて。」

友田と交わした他言無用と言う約束もあり、最初はためらったが、こういう場合ならきっと理解してくれるだろうと思い、白状することにした。