硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「犬を飼うという事」  4

2013-09-30 16:50:57 | 日記
 夕飯を食べ終わりお茶を飲んでいると、お母さんが僕の足をつついてきて小さな声で「あの話!」と言ってきた。僕は緊張して、なかなか言い出せなかったから、お母さんが後押しをしてくれた。

「あのね。むつきから少しだけお話があるから聞いてあげてほしいの。ほら、むつき。」

僕は、勇気を出して父さんに言った。

「犬がほしいんだけれど、だめかな?」

「犬かぁ。うーん。」と、言って腕を組み唸った。それを見たお母さんは、

「私も犬好きだし、前に何度も話をしているし、むつきも、もう6年生なんだし、そろそろいいかなって思うの。」

静かに聞いていたお父さんは、大きくうなずいて、

「むつきの気持ちはわかったよ。そうだね。前から犬を飼うって言う話もしていたし、いい事と悪い事も判るようになってきたしね。でも・・・。」

そう言って、お茶を飲んで、しばらく手に持った湯飲みを見ていたお父さんは、

「じゃあ問題です。犬を飼うことで大切な事ってなんだかわかる?」と、言った。

僕は突然の問題にびっくりして「えっ!なにかあるの?」と、言うだけで精一杯だったから、隣にいるお母さんに助けてもらおうとお母さんを見ると、ニコニコしながらお父さんを見ていた。

僕は思わずお母さんに「同盟の約束!」と、小さな声で言ったけど、お母さんは笑顔で、

「それは、むつきへの問題だよ。むつきが答えないとね。」と言って、助けてくれない。

「この問題が解けないと、我が家で犬は飼えません。さぁ。がんばって考えましょう。」

お父さんはそう云って笑った。僕は少し悔しくなって

「その問題ってそんなに大事な事なの?犬を飼うだけの事じゃない!」

と、言ってしまった。そうするとお父さんは真面目な顔をして

「いいかいむつき。この問題は犬を飼う人にとってとても大切な事なんだよ。もちろん犬にとっても大切な事なんだよ。だからこれが判らないと犬は飼えない。」

と、きっぱりと言ったから、僕は何も言えなくなってしまった。するとお母さんは、

「むつき。それは本当に大切な事なの。この家に犬が来るか来ないかは、あなたの答えにかかってる。がんばってね。」

と、言った。それを聞いていたお父さんも、

「期限はないから、じっくりと考えていいよ。もちろん友達に聞いても、本で調べてもいい。ただし、お母さんに聞いてはいけません。なぜなら、お母さんは答えを知っているからです。なるべく、自分の力でその答えを探すんだよ。」

と、優しく言ってくれた。僕は安心して

「わかったよ。答えを見つけてみるよ。」

そう言うと、隣にいたお母さんは小さくうなずいて僕の頭をなでてくれた。

「犬を飼うという事」  3

2013-09-29 07:57:42 | 日記
 午後7時をすぎたころ電話が鳴った。電話に出たお母さんは、うれしそうに返事をしていた。きっとお父さんからの電話だ。

「うん。わかった。もうすぐ着くのね。夕飯できてるから。まってるね。気をつけて帰ってきてね。」

電話を切ったお母さんは僕の方を見るなり、

「むつき、お父さんもうすぐ帰ってくるよ。今日はがんばろうね。」と、励ましてくれた。

僕は「うん!」と、うなずいたけれど、上手く話が出来るかとても心配だった。お父さんは優しくて好きだけれど、曲がった事がとても嫌いだから、頼みごとをする時はとても緊張する。

その理由は、僕が幼稚園に通っていた頃に、どうしてもほしいゲームがあって、何度頼んでも買ってもらえなかったから、そのゲーム機を持っている友達にどうしたら買ってもらえるのか聞いたら「おもちゃ売り場の前でゲームがほしいって大きな声で泣いて言えば買ってくれるよ」と、教えてくれたから、そのままやってみた。そうしたらお父さんは、

「周りの人に迷惑がかかっているのがわからないのか!」

と、怒って僕のほっぺたを叩いた。その時、お母さんは僕を抱きしめて、

「痛かった? ごめんね。でもね、むつき。お父さんの言った事は間違ってないの。父さんも、本当はむつきの事、叩きたくなかったんだよ。わかってね。」

と、慰めてくれた。それ以来、お父さんから怒られたことはないけれど、お母さんが優しくしてくれなかったら僕はきっとお父さんもお母さんも嫌いになっていたと思うほどの出来事だった。

しばらくすると、「ただいま」とお父さんの声がした。
お母さんは玄関まで迎えに行き、いつものように「お疲れ様」とお父さんに言っている。お父さんもいつものように「ありがとう」といっている。「お疲れ様」「ありがとう」それが二人の合言葉のようになっていて、かっこいい。

しばらくして、着替えを済ませたお父さんは食卓へやってきて、「いやぁ、今日も美味しそうだね。」と、言った。お母さんはとても嬉しそうだ。お父さんは手を合わせ「いただきます。」と、お母さんに言うと、僕もおかあさんも「いただきます。」と言ってご飯を食べた。

こうして僕の家の夕食が始まる。お父さんが、

「これ、美味しいね。」

と、言うとお母さんはうれしそうに料理の説明を始めた。それを聞いているお父さんは「うん、うん。手が込んでるね。」と、言いながらうなずいている。

そして、お父さんは「やっぱり、お母さんは凄いね。」と言い、僕もそれを真似して 「お母さんは凄いね。」と言うと、

「そうでしょう。」

と、いってお母さんは得意げに笑った。その時、僕はお母さんが風邪で寝込んだ時のことを思い出した。

お母さんの代わりにご飯を作るお父さんが僕に向かって、

「料理って意外と大変なんだよ。好きなものばかり食べていたら、体が弱くなってしまうんだ。だからお母さんは僕たちの体のことも考えて嫌いな物でも食べられるようにいつもいろんな料理を作ってくれているんだよ。それを忘れてはいけないよ。」

そう言って、料理の大変さを教えてくれた事がある。だからお父さんはいつもご飯を作ってくれるお母さんに「ありがとう」と言っているんだなと思った。

「犬を飼うという事」 2

2013-09-28 17:09:04 | 日記

「ただいまぁ。おかあさん。」

僕はお母さんのいるキッチンへ走って行った。

「お母さん。あのね。今日ね。学校でね。次郎君がね。犬を飼うんだって言ってたんだ。でね。だからね。僕もね。犬を飼いたいんだけれど。駄目かなぁ。」

と、言ってみた。すると、お母さんは夕飯のしたくを止めて話を聞いてくれた後に、

「そうねぇ。でも、次郎君が飼うからむつきもって言うのは、おかしいとは思わない? お母さんも犬は好きだからむつきの犬を飼いたいと言う気持ちはすごくわかるけれど、やっぱり、お父さんも良いといわないといけないと思うの。だって三人で暮らしているんだから、ちゃんと話し合わないとね。」

と、なんだか納得がいかない返事だったから、

「じゃあ、お父さんに話してみていいって言ったら犬を飼ってもいいんだね。」と、言ってみると、

「もちろん。でも・・・。少しお父さんを説得するのは難しいかもしれないわね。」と、またあまりいい返事をしてくれなかった。

それってどういうことだろう? と、思った僕は「ひょっとしてお父さんは、犬が嫌いなの?」と、聞くと、お母さんは、

「嫌いってわけでもないみたいだけれど、何かあるみたいよ。結婚する前に聞いた話だから、はっきりと覚えていないけれど。」

と、答えてくれたけれど、よく分からない。でも、お父さんと話さなければ犬はやってこないと思った僕は、

「でもさ、前にも『犬を飼おう』って話をしていたよね。どうして、話だけで止めちゃうの?話しているだけじゃ犬は飼えないと思うよ。」

そう言うと、お母さんは少し困った顔をして、

「・・・そうだわね。ごめんね。」

そう言って、まな板の上の切りかけたにんじんをじっと見た。そして僕は何かを考えるお母さんの顔を見ながらその続きを待っていたら、顔を上げて、

「うん。むつきの言うとおりだわ。話をしていて、そのまま何もしないってだめだわね。じゃあ、今晩お父さんと話をしてみない?」

と、言ってくれた。うれしくなった僕は、

「うん!話をしてお父さんにもわかってもらおうよ。」

と、言うと、お母さんは「じゃあ、同盟の握手。」と言って手を伸ばした。僕は夕食の支度で少し冷たくなったお母さん手をぎゅっと握って、

「約束だよ。」と言うと、お母さんは

「いっしょうけんめいに話したら、お父さんもわかってくれると思うわ・・・。お母さんはね、お父さんのそうゆうところが好きなのよ。」

そう言って、少し照れながらまた夕食の支度を始めた。すっかり安心した僕は、食器棚にしまってあるお菓子に手を伸ばそうとしたら、お母さんが、

「それよりむつき。学校から帰ったら手を洗ってうがいをしなさい。それから鞄をかたつける。わかった?」

いつも言われていることを今日もまた言われてしまった。僕は「はぁーい」と返事をして洗面台へと向かった。

「犬を飼うという事」 1

2013-09-27 16:11:14 | 日記
小学生最後の年。僕は一つの問題に突き当たっていた。それは、とても難しい事だから、いつか分かる日が来るまで、そのままにしておこうと思ったほどだ。

その僕を悩ませた問題の始まりは、クラスで大人気の「犬が主役のテレビドラマ」の話題からだった。

休み時間に、僕たちは「あの犬、可愛いんだよね。」とか「本当に人の話がわかるのかな。」とか「あんな犬がいたらいいなぁ」とか、話していると、二郎君が少し自慢げに、

「今日、俺の家に犬がくるんだぜっ。」と言った。

驚いた僕たちは、「ええっ!ほんとに!」と、大きな声で言うと、周りにいた人達が「何々?」といって僕らの所に集まってきたから、

「次郎君の家に犬がくるんだってさ。」

と、みんなに伝えると、だれからともなく、「どんな犬なの」と、聞きはじめた。

たちまち話題の中心となった次郎君は「どうしようかなぁ」と言って、なかなか話そうとはしない。じれったくなったみんなは「早く教えろよー。」と二郎君に言っていると、クラスの女子の中で人気者の唯ちゃんが、僕らの方にやってきて、

「ねぇ。次郎君。どんな犬なの?」

と、話しかけてきた。すると次郎君は一度「う~ん。」と考えてから、

「ミニチュア・ダックスフンド!。」と、自慢げに答えた。

その犬はテレビに出ている犬と同じ種類だったから、みんなが「いいなぁ。」と、言ってうらやましがっていた。

でも、吉行君だけはとても冷静で「でもさ、その犬ってとても高いんじゃない?」と次郎君に尋ねると、二郎君はうれしそうに、

「うん。でも誕生日だから、お父さんもお母さんも「いいよ」って言ってくれたんだ。」
と、答えた。

それを聞いたみんなはまた、「いいなぁ。」と、言って次郎君をうらやましげに見ていた。そして唯ちゃんも、「私もほしいなぁ。ねぇ、今度、私にも見せてくれない?」と、言って次郎君と楽しそうに話していた。

僕は時々犬を飼いたくなって、お母さんにお願いするのだけれど、その度に上手くごまかされて、いつの間にか忘れてしまうのだけれど、次郎君と楽しそうに話す唯ちゃんをそばで見ていたら、また、「僕の家にも犬がいたらなぁ。」と、言う気持ちがわいてきた。

でも、お母さんはどうして話をごまかしちゃうんだろう。かといって「だめ」って言っているわけでもないし、本当はどう思っているのかな。これは、ちゃんと話してみなければ、わからなさそうだ。そしたら、今度こそ本当に犬を飼ってもいいって言う事になるかもしれない。そう思った僕の頭の中は犬の事で頭が一杯になって勉強どころじゃなくなっていた。

「どうしようかなぁ。先に誰かから子犬をもらって『子犬をもらったから』と言ってみる。でもこれじゃぁ、『返してきなさい。』と言われてしまうなぁ。『拾ってきた。』と言っても、拾ってくるんじゃありません。」て、言われそうだしなぁ。『もらってくださいと言われたから飼っていい?』と、言うのも、きっとだめそうだなぁ。やっぱり、家で飼うんだから、まず、お父さんとお母さんに相談しないといけないかなぁ。」

そうやって色々考えていたら、如月先生が、「次のところを田辺君、読んでください。」
と、僕を当てた。でも、僕の頭の中は犬の事だけでいっぱいになっていたから、おもわず

「犬飼っていい?」

と、答えてしまった。そうしたらクラスのみんなから笑いながら、

「むつき~。何寝ぼけているんだよぉ。」と、冷やかされてしまい、先生も少し困った顔をして、

「犬を飼いたい気持ちはよく分かったから、どこから読むのか佐藤さんから教えてもらいなさい。」

と、言われとても恥ずかしくなって汗をいっぱいかいてしまった。

六限目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。僕は、早くお母さんに話したくて、そわそわしながら帰りのあいさつを待ちかまえていた。

帰り際に先生が、「帰りは寄り道せずに真直ぐ家に帰るようにね。」と、言っていたけれど、そんなことおかまいなしに、「先生さようなら。」と挨拶をしてダッシュで教室を出ようとしたら、

「田辺君。そんなに急がなくてもご両親に話できるでしょう。」

と、先生から言われてしまい、みんなからも

「むつきはあわてすぎぃ~。」と、笑われてしまったけれど、わき目も振らず教室を飛び出し全力で家まで走った。足も軽く、もう犬を飼ってもいい気分になっていた。

はじめに。

2013-09-27 15:56:57 | 日記
いつも閲覧していただきありがとうございます。これから始まる物語は、6年ほど前に某出版社の公募の児童文学部門に出品したものです。もちろん、何の賞も得ることなく終わっています。だから、とても恥ずかしいものなのですが「他の物語を読んでみたいと」いう温かなコメントを頂けたので勇気をもって掲示してゆこうと決心しました。

物語は、小学生の少年が「犬を飼うこと」について考えてゆくというテーマで進行してゆきます。

つたない文章ではありますが最後までお付き合いしていただければ幸いです。


彼岸花。

2013-09-22 20:30:31 | 日記
夕方散歩に出た。日中は夏日であったが、日が西に傾くと幾分か涼しくなり、歩いていても心地よい。

田舎道を歩いてゆくと稲刈りが終わった田圃のほとんどは次の季節に備えて起こされていた。

土手の草も田圃の持ち主によって刈られているが、この時期の草刈りは少し特徴があって、すべての人ではないけれども、草刈りをする際、彼岸花を残して草を刈っている傾向が多くみられ、残された彼岸花は間違いなく彼岸位になると赤い花を咲かせているのである。

この光景はこの時期になると必ず観られ、自然の偉大さを感じると共に、田舎ならではの情緒を感じるのであるけれど、高齢化している町では農業の担い手も減っているので、当たり前だったこの風景をいつまで見続ける事が出来るだろうかと思ったりもしたけれど、それもこの町の宿命なのかなと感じたのです。

不思議な出来事。

2013-09-18 08:04:01 | 日記
とても暑い日の正午。出勤前に冷たい飲み物とおやつを購入する為コンビニに立ち寄った。
僕は「ウーロン茶」と「かっぱえびせん」を手にレジに並ぶと、その先のフードコートで食事を摂っている人物と目があった。その人も僕をじっと見ている。これは、たしかに、どこかであっている人なのだ。しかし、考えてもなかなか出てこない。

それでも、レジでお金を払っていたら、いきなり記憶が蘇ってきた。社会に出て初めての職場で、15年近く前に工場で一緒に作業をしていた人物であった。その人は人材派遣で来ていて、その当時の僕は不思議と正社員の人たちよりも、その人たちとの中に溶け込んでいて、いろいろと話もしたり、仕事を頼んだりもした。それなのに肝心の名前が出てこないのである。

これでは声もかけられぬと思いつつ店を出て、車に向かう際、見間違えでないかもう一度確認しようとウインドウ越しにフードコートを見ると、一番奥のテーブルでアイスクリームを食べている女性の姿が目に入った。

おやっと思いよく見ると、10年ほど前に付き合っていた女性の友達がアイスクリームを涼しげに食べていた。
奇麗な人だったので、その時の彼女は僕に合わせると取られるのではないかとすごく警戒しながら紹介された人であった。
それ以来、3人で何度か食事もして、結婚した際は新居にもお邪魔したほどであるから見間違いはない。(その後3か月で離婚してしまったというエピソードがさらに彼女を印象付けたのです。)

彼女の名前はすっと出てきたが、声を掛けるにも時間も無かったので、そそくさとコンビニを後にした。

しかし、声を掛けられずとも記憶の底から蘇ってくる人物との再会は不思議と嬉しいものである。

(その後、名前を思い出せました。とてもすっきりしました。)

不思議な出来事。

2013-09-17 08:52:46 | 日記
僕の家の裏の換気口の上に燕の巣があって、この一つだけは落とさずにそのままにしてある。

そのせいかもしれないが、毎年5月ごろになると我が家にやってきては、新しい生命をはぐくんでいる。僕の家では半野良猫という立場の猫が3匹いるのだけれど、半野良であるので、自分より小さな生き物に対して狩を楽しむ行動がある。だから燕もその対象になるのだけれど、当の燕ときたら、時頼低空飛行をして猫を威嚇するのであるが、よく観ているとからかっているようにも見えた。猫の方もジャンプして前足を器用に使い捕まえようと何度も試みるが、さすがにこれは無理だと思ったのか、次第に狩る事を諦めて、燕が飛んできても知らぬふりを決め込んでいた。

燕は悠々と換気口の上で雛を育て、暇を見つけてはつがいで電線に止まったり屋根の上でさえずったりしていた。

8月の中頃の早朝、燕が窓の近くで少しうるさい位にさえずっているが聞こえ、うっすらと体が覚醒し出した。しかし、夜明け前の眠りと言うのは気持ちがいいもので、目を覚ますのももったいないと思いそのまま床でその燕のさえずりをしばらく聞いていると、「もう、南に帰ります。」という言葉が頭の中に響いた。「えっ」と驚いたが、不思議と「そうか、そうか、もう帰るのかぁ」と思い、また眠りについた。

起きてから、変な夢を観たものだと考えていた。いつものようにパソコンに向かった後、朝食を食べ、外に出てまだ暑さが残るお日さまを浴びて背伸びをする。そして早朝に体験した不思議な夢みたいなものを思い出し辺りを見回すと、いつもなら電線や屋根にいる燕の気配がなくなっていた。
たまたまだろうと思い、2,3日気をつけて観察したが、もう燕は何処にもいなかった。

「敬老」に思う事。

2013-09-16 19:39:47 | 日記
近年、世の中は年を取る事を否定している風潮であるような気がします。特にアンチエイジングという言葉はそれを顕著に表しているように思います。
もし、その潮流が支流となった場合、高齢者というフレームは破たんし、いずれ敬老という言葉も死語になるのではと思う。

それが、今の時代を生きる人の希望であったとしたら、大変明るい話題であるけれど、若さを保ったまま生き続ける事が条件となります。

もし、仮に若さを保ったまま生き続ける事ができるならば、いつまでも人生を謳歌できる事になる。まさに夢物語です。しかし、それは若者から無条件に「敬われる」立場になる事を自ら放棄するという事でもあるし、若者と対峙し続けなければならないという事でもあります。そう考えるとけっこうしんどいですね。

そして、不老不死というのは所詮、夢物語でしかないので、身体の変化と精神のギャップに苦しむ事になるのではと思う。

私は年を取らない。年を重ねる事を否定する。という考え方はいつまでも若々しさを保つ一つの秘訣であると思うけれど、そこに生じる苦痛に耐え、精神と肉体との境界に折り合いをつける事の出来る人のみがその境地に至れる気がします。

そのような事が出来ない凡人の僕は、自然に老い、自然に若者から敬われる立場になるのは、悪い事でないとかんがえます。また、心から敬われるように年を重ねられれば、なお良いと思うのです。

これは、介護という仕事を通して見つけた一つの答えなのです。どうでしょうか?

映画 「風立ちぬ」

2013-09-15 07:50:10 | 日記
上映前にいくつかのテレビ局の特集を観て、監督本人が感動したというのを知って、どんな作品になったのかとドキドキしていました。また、滝本美織さんがゲストで出演された番組では、短くまとめられた映画紹介の後、滝本さんが目頭にいっぱい涙をためていたのを観て、それほど感動するのかと期待感が大きく膨らんだのですね。

作品は期待を裏切ることなく素晴らしいものであったけれど、困った事に観終わった後、前頭葉のあたりがずっとしびれているんです。今迄の映画なら、その後、ご飯を食べたり本屋で立ち読みしたりしたら、すぐに日常に戻ってゆくのですが、なかなかしびれが取れない。訳がわからず、「これはなんだろう」と自問自答していて思いついたのは、鑑賞する立ち位置。

今振り返ってみると「トトロ」の頃は、なんとなく「テレビ」を何かをしながら、ちらちらと見ている感じなんですね。それで作品を重ねるうちに「テレビの前」、劇場前のモニター、観客席の後ろの方、観客席の中ほどの席、そしてようやく舞台の最前列で役者の息遣いや躍動感を感じながら物語を観る事が出来るようになった感じなのではと思ったのです。
それでも、舞台上までには、ずいぶんと距離があることも分かりました。

そして、一番印象に残ったのは、物語そのものではなく、僕の目の前を通って行った20代前半のカップルの女の子が「なんだかよくわからなかったね。」と彼氏に言っていた事なのですね。(笑)
彼女も、もしかしたら「分かる時」がやってくるかもしれないし、分からないまま過ぎてゆくかもしれない。でも、「そういう作品」なのだと、深く理解したのです。

宮崎駿さんが描いた堀越二郎の物語。物語の形として「夢の中」が鍵となっているので、エンディングも抽象的な形をとっており、その後どう転じていったのかは鑑賞者にゆだねられている形をとっているように思います。
そうなると、その後どうなったのかやっぱり気になるところですね。(笑)

あとがき

2013-09-13 17:22:32 | 日記
「耳をすませば」彼と彼女のその後。最後まで読んでいただきありがとうございます。
この映画が再放送をされるたび、「二人はこの後どうなったのかぁ」と思っていたのですが、時を経て、このような形でその続きを作ってしまうとは夢にも思いませんでした。

32歳の雫さんと天沢君を描くにあたり配慮したのは、この作品の監督である近藤善文さんの描かれた世界観を崩さずに成長した彼らの物語を語る事が大切な条件なのかなと思ったところです。

しかし、読んでくださっている方の中には「耳すま」ファンの方もいらっしゃって、こんなの「耳すまじゃねえよ」と思われている方もいるかもしれません。そう思われたならばそれは僕の力量不足ございます。本当にごめんなさい。

それから、この物語を進めている間に、コメントを下さった方がいらっしゃいました。
とても嬉しく思い、物語を進める上で大変励みになりました。どういった方法でお返事をさしあげてよいのか分からないので、この場を借りてお礼を申し上げます。

拙い文章で読みにくい所も多々あったと思いますが、最後まで忍耐強くお付き合い戴きありがとうございました。
ブログは、日常的なものに戻りますが、そちらも、時々観に来ていただければ幸いです。

話を作って行く上で、影響されないように控えていた「風立ちぬ」。これから観に行こうと思います。楽しみだなぁ。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  最終話

2013-09-13 17:08:24 | 日記
12月。クリスマスカラーに飾られた街は華やかさと年末の慌しさを醸し出していた。
食材の買い物を済ませ、家に戻ると早速「手紙」の翻訳の仕上げに取り掛かった。
ルイーゼさんが想いをつづった手紙は、翻訳を進める私の価値観や常識を覆し、深い感動を与えた。

「うん。これでいい・・・。ようやく出来たわ。」

私は間違いがないかもう一度最初から読みなおすことにした。

「愛する司朗へ。」

「今、私はこの手紙があなたのもとに届く事を強く願いながらペンをとっています。

司朗が突然帰国を余儀なくされた後、私の心には淋しさと悲しさが残りました。それはどうやっても埋める事の出来ない感情でした。何通か日本に向けて手紙をさし上げましたが、返事が返ってこない所から、あなたも大変な境遇に置かれているのだと察していました。

でも、悲しみに耽っているほど時代は私達に優しくありませんでした。貴方も知っている通り、私の父はアーリア人でしたが母はユダヤ人であった為、私達家族は国から避難するしかありませんでした。後に、水晶の夜と呼ばれた悪夢の翌朝、役所勤めの父はその情報をいち早く知り、その日の内にビザを取得し、その夜限られたものだけをカバンに詰めて列車に乗りました。SS等による厳しい検閲も父が上手くかわしてくれたので、イタリアのジェノバから船に乗って、上海と言う所に辿り着きました。しかし、そこに待ち受けていたのは想像を絶するひどい生活環境でした。それでも父と母と私は生き延びるため、家と職を探して助け合いながらなんとか生きていましたが、環境の悪さと疲労から母が体調を崩し医者に頼らなければならなくなって困っている時、私の職場先で上海に駐屯している日本人の軍医さんと知り合いました。私はあなたから教わったつたない日本語で母の病状を告げると、快く診てくださいました。あの頃の日本兵のイメージは良いものではありませんでしたが、彼だけは別でした。きれいなドイツ語を話し、どんな状況でも知性を正しく働かそうと心がけていた方でした。 母が回復に向かう頃、少しだけお話した事があって、私がどうして日本語が話せるのかと尋ねられたので、司朗の事を話すと彼は大変驚いていて、学生時代、司朗に大変お世話になった人だったということが分かりました。その時私は運命とは不思議な縁で繋がっているものなのだなと思いました。軍医の彼は困りごとがあれば何でも言ってきてくださいと言ってくださったので、その事を父に話すと、親戚がアメリカに渡っているから、アメリカ行きのビザを取得して、親戚を頼ることはできないだろうかと言う事になりました。その頃私達に住むゲットーには多くのユダヤ人が住んでいて、多くの人達がアメリカ行きを望んでいました。でも、時代が時代であった為ビザの発行も簡単に取得できるものではありませんでした。
でも、彼は何とかしましょうと言って、苦心してビザを発行してくれるように色々な方に頼んで頂けました。 そのおかげで私達家族は、無事アメリカに渡る事が出来ましたが、アメリカと言う国はあなたの日本と戦争を始めてしまった。
胸が張り裂けそうな思いでした。そして、もうあなたに逢える事はないんだと、その時思ってしまったのです。今思えば愚かだったのかもしれませんね。

ひどく長い戦争がようやく終結した後、私はアメリカで知り合った男性と結婚しました。そして、子供も2人もうけて幸せな日々を送れるようになり、生活にも余裕ができた頃、ドイツに旅行で訪れました。父と母はドイツ旅行なんてと強く反対をしていましたが、私にはどうしても行かなければならない理由があったのです。

家を飛び出す時、私は慌てて「アンネローゼ」を布でくるみワイン用の木箱に入れ、庭先の木の下に穴を掘って埋めてきたからです。私は故郷をめぐる旅をしながらも司朗との約束を果たす為、生家を尋ねました。家は跡形もなく無くなっていましたが、庭先の木だけはしっかりと根を張り、更に大きく伸びていて、新しい葉をつけていました。
記憶をたどり、土を掘り返すと、「アンネローゼ」が美しさを保ったまま気の箱の中で眠っていました。
主人は驚いていましたが、私の大切な宝物である事を伝えると理解をしてくれて、無事「アンネローゼと共に帰国できたのです。
しかし、「アンネローゼ」と「男爵」の秘密は私しか知り得ない事なので、新しい箱を買ってきて、あなたに手紙をしたためて、また眠らせてしまいました。それは私が亡くなった時、私の子供達、孫達が気づいてくれて私の遺志を汲んでくれるだろうという未来に、二人の再会を託す事にしたからなのです。

長くなってごめんなさい。でも、あなたと再会できなかった言い訳をどうしても綴っておきたかったのです。これで、赦してもらえるとは思いませんが、もし天国であったらまた、あの時のように私を優しく抱きしめてください。

貴方と行ったケルン大聖堂やノイシュヴァンシュタイン城。ライン川の畔。そして帰国直前に、私が子供のように駄々をこねてお願いをした、アールベルグ・オリエント急行に乗ってスイス旅行したときの事。
すべての出来ごとが昨日のように思い出されます。貴方と過ごしたあの短い月日は、今も「アンネローゼ」と共にあります。司朗、本当にありがとう。今でも貴方を愛しています。」

「ルイーゼ・フリードリッヒ」

手紙を読み終え、二人を見つめると何か話しかけてきた様な気がした。
 
耳をすますと、それはたしかに「ありがとう」と聞こえた。私は嬉しくなって、

「お礼を言わなければならないのは私だよ。ありがとうね。貴方達の物語はきっとこの子にも伝えるからね。」と、お腹に手を当てて返事をすると、冬の低い雲の切れ間から光が差し込み二人のエンゲルス・ツィマーが美しく光かがやいた。

                       おしまい。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  66

2013-09-12 07:58:06 | 日記
夕子に家まで送ってもらい、さっそく新聞を見るとテレビ番組欄に天沢という文字を見つけた。録画しておこうかとも思ったけれど、それよりも、優一が赦してくれるなら一緒に観よう決めて夕飯の準備にかかった。

午後9時になる頃インターフォンが鳴った。優一が帰ってきた。

「おかえり」

「ただいまぁ。いやいや今日は疲れたよ。」と言って、奥の部屋に着替えに行った。

その間に、おかずを温め直して、食卓に並べていると、彼は席に着くなり「今日、中学校が同じだった天沢がテレビに出るんだってさ。」と言ってびっくりした。

「営業に出てる時、コンビニに寄ったらさ、中学の時の野球部だった安部にあって、それで色々と話してたら、同じ中学だった天沢がテレビに出るって話になったんだよ。」

「へぇえ。」

「天沢って言ったら、雫と噂になってた奴だろ。ちょうど今からじゃないか。観てみようよ。」

「うん。」

予想外の展開になったけれど、彼の意見に同意してご飯を食べながら番組を観る事にした。
そこに映し出されたのは、彼の生い立ち、イタリア、イギリスでの修行時代、師匠と呼ぶ人へのインタビュー、バイオリン制作学校での出来事、オーストリアへの移住、奥さんとの出会い、ウィーンの工房の出店の苦労話等が要約されて伝えられていた。
私は、彼と文通をしていた頃の様子を懐かしく思い出していたが、優一は

「夢をかなえたんだ・・・。すごい奴だったんだなぁ。」と、しきりに感心していた。

番組が終盤になると、彼がバイオリンを調整している姿が映し出された。その後ろでは天沢君の携帯の待ち受け画面で見た綺麗なブロンドの女性が微笑んでいた。インタビューアーが天沢君に「何か演奏して頂けますか?」と聞くと、「僕の腕ではなんだから。」と彼は照れ臭そうに彼女を手招きしてなにか耳元で何か囁いた。

奥さんは天沢君からバイオリンを手渡されると、軽やかに音を奏で出した。その時私はその曲が何という曲であるのかが分かった。超絶な技巧で奏でられるバイオリンの前奏が終わると、突然、天沢君が演奏に合わせて歌いだした。

ひとりぼっち、おそれずに、生きようと夢見てた
さみしさ 押し込めて、強いじぶんを、まもっていこう
カントリーロード この道 ずっとゆけば あの街に 続いている
気がする カントリーロード

「天沢君のバカ。」

私は涙がこぼれないように必死でこらえていたら、隣で優一が「なんでクラシック引かないんだろうね。しかも天沢の歌声入りってねぇ。番組がもりあがらないじゃないか。」と、ぼやいた。そのぼやきがあまりにも可笑しく聞こえたから笑った拍子に涙がこぼれた。
それを見た優一は、「涙が出るくらい可笑しかったかぁ? 」と、またぼやいた。
私は、このささやかな幸せを噛みしめた。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  65

2013-09-11 06:16:18 | 日記
お店につくと、翠さんとスタッフの女の子が出迎えてくれた。お店の中のテーブルはほとんどお客で埋まっていた。

夕子は翠さんじっと見ると、「あれっ・・・。翠?」というと、翠さんも「えっ。原田先輩。なんで!!」と二人して驚いていた。どうやら大学のテニス部の先輩と後輩だったようで、久しぶりの再会に互いの健闘を讃えつつ、とても喜んでいた。

お店の雰囲気はあの頃の地球屋の面影を残していて、見覚えのあるアンティークもいくつかお店に彩りを添えていた。
私達は杉の宮の街が見渡せる窓際の席に案内され腰を掛けると翠さんは簡単にメニューの紹介をして厨房に戻って行った。

夕子は可愛らしい表紙のメニューを開いてさっと見ると「これでいいんじゃない?」と言って、本日の御勧めとコーヒーを指差した。私もそれに同意しスタッフさんにオーダーした後、

「そういえばさ、あなたの好きだった天沢君。今日テレビに出るんだよ。」と、言った。

驚いた私は「えっ、どうして。」尋ねると、何処で見つけたのかを説明してくれた。

「ネットでたまたま見つけたんだけど、プロフェショナルの流儀って番組あるでしょ。あれに天沢君が取り上げられたんだよ。どこかで見た名前だなと思ってあらすじを読んで気がついたんだ。でも、驚いちゃった。彼って、今では有名なバイオリン製作者なんだってね。」

「うん。中学生の時からの彼の夢だったんだ。」

「雫、逃がした鯛は大きかったね。」

「鯛ねぇ。」そういって苦笑いをした。

「あれっ、後悔してないの」

「うん。ぜんぜん。」

「ええっ。私なら後悔しちゃうけれどなぁ。写真を見たけれどカッコよかったしね。」

「でもね。私では彼をあそこまで連れて行ってあげられなかったと思うんだ。」

「へぇ。 なにかあったの? 雫にしてはかっこいい事言うじゃない。」

「あっ。なに。ひどいそれ。いつまでもぐずぐずしてられますか。」

「おおっ。余裕だね。」

「・・・えっとね。実は私も報告しなければならない事があるのね。」

「なになに。改まって。」

「私ね。おなかの中に赤ちゃんがいるの。」

「えええっ!」その驚きはお店に響いて皆が一斉にこちらを見た。

「嗚呼。ごめんなさい。」席を立って、皆に頭を下げる夕子。かなり焦っている感じだった。目の前の水を飲んで落ち着きを取り戻すと、

「そう。それで、何カ月なの? 」

「ついこの間検診に行ったらおめでたです。て、言われてね。まだ2ヶ月なんだけど。」

「旦那さんはしっているの? 」

「う、うん。もちろん話したよ。とても喜んでた。」

私は、優一の事も話しておかなければならないと思って思い切って告白した。

「あのね、夕子もう一つ言わなければならない事があるのね・・・。」

「ええっ。今度は何? ちょっと待って気持ちを落ち着かせるから・・・。」

「うん。」

水を飲んで、ゆっくりと深呼吸をする夕子。こういう所も変わらないなと思った。

「はい。どうぞ。いいわよ。いってみなさい。」

「私の主人はね。杉村優一君なの。」

「はぁ~! 今日はどうなってるの。おどろくことばかりだわ! でもどうしてそうなったの?」

私は優一との再会と結婚に至った経過を包み隠さず夕子に話した。すると、

「もっと早く言ってくれればよかったのに。」と、言った後、「雫って意外ともてるのね。なんだか悔しいわ。」といって笑っていた。その時、私の心の霞が少しずつ晴れてゆくような心持がして、とても清々しかった。

「雫も一時の母になるんだね・・・。おめでとう。ほんとうによかったわね。 そうだ! 今日は雫と私の新たなる未来への出発を祝おうではないか!! 」

丁寧に入れられたコーヒーが届くと、「ふむ。今日の所はこれで乾杯しよう。」と、夕子が言うと私も「うん。」と言って、コーヒーカップを合わせ小さな声で「乾杯」と、言った。

出された料理は感動的に美味しく、美食家を語る夕子も「翠、なかなかやるなぁ」と唸っていた。その夜私達は大いに満足し、忙しそうに働いている翠さんに「また来るね。」と挨拶して店を出た。

新しい始まりを迎えた「地球屋」は、温かい人たちに包まれていて本当に幸せそうだった。


耳をすませば。彼と彼女のその後  64

2013-09-10 08:12:35 | 日記
独和辞書を片手に翻訳を開始してから半月が流れた。北国からは初雪の知らせも届き、また寒い季節が訪れようとしていた。
私は相変わらず平凡な日常を送りながら、手が空いた時に少しずつ翻訳作業を進め、残りわずかとなったある日、一通のメールが舞い込んできた。宛名を見ると「北翠」とあった。

メールを開けてみると「オープンにこぎ着けました。本日17時よりプレオープンいたします。ご友人をお誘いの上ご来店ください。」と、記してあった。

「友人かぁ。」

真っ先に浮かんだのは夕子だった。家庭の事情が事情なだけに連絡を取るのを控えていたけれど、とても心配していた。簡単に用件をまとめ思い切ってメールを送って見ると、すぐに「いいよ。じゃあ迎えに行くよ。」と快い返信メールが届いた。

約束の時間になると夕子が迎えに来てくれた。相変わらず時間に正確である事に感心すると、「雫が少しルーズなのよ。」と、手厳しくつっこまれた。相変わらず美しい夕子は元気そうであった。
真っ赤な夕子の車の助手席に乗り、ナビゲーションを担当しつつ、おしゃべりをしていると、夕子は禁断の話題をさらりと話し始めた。

「ほら、以前、彼ともめた話しをしたでしょう。あれね、ようやく決着がついて、離婚が成立したのよ。結婚式も大変だったけど、それ以上に離婚ってパワー使うものね。おかげで5キロもやせちゃったけど、ダイエットとしては成功だったわ。」

「ええっ。離婚しちゃったの?」

「うん。一度気持ちが離れてしまうと、どうあがいても駄目ね。互いに思いやる事が出来なくなるんだもの。 ほら、別れ話で愛情の「愛」がなくなったから言う人いるでしょう。彼もそれを言ったのね。その時ね、これは嘘だと思った。気持ちが離れたら、愛情は無くなるものよ。まぁ彼の場合本当に愛情があったのかってことも疑わしいけど・・・。ただ、相手を傷つけたくないし、自分も罪悪感に苛まれたくないから、そう言う都合のいい嘘をつくのよ。 それが分かった時、気持ちが一気に引いちゃってね。」と、いって笑った。

そこに至るまでには、色々な葛藤もあっただろう。でも、すごくさばさばと語るその様子を見て安心した。