かぐや姫に取り付けたカメラのモニター。そこに映る月の中でひときわ目立つ地形がある。「虹の入り江」。餅搗きうさぎの胴体にあたる雨の海から、北西に入り込んだ直径260キロの円弧だ。
17世紀、ヨーロッパのの天文学者達は月の海が地上の天気を左右すると考えていた。だから月の海は天候にちなんだ名が多い。コンパスで引いたような美しい円弧に「虹の入り江」の名が与えられたのはこの頃かもしれない。
その虹の入り江が夜明けを迎える。朝日に映える入り江のほとり。もし僕が月に行けたなら、このほとりに立って昇り来る太陽を眺めたい。ただ、月は自転が遅い。地球なら2分で終わる日の出が1時間も掛かる。しかも、空気の無い月では日の出は赤くない。突き刺すような薄黄色だ。
虹の入り江から南へ1130キロ。雨の海を渡り切って嵐の大洋に入ると、月面で最も美しいクレーター「コペルニクス」に出会う。中学生のとき、僕が初めて憶えた月の地名だ。このクレーターは、月の海が冷えて固まったあと隕石の衝突によって出来た。だから海の上に噴石の飛び散った跡が残る。今から40億年も昔のこと。