穏やかな夜だった。風もほとんど無い。ダウンジャケットに身を包み、傾きを増して行くはくちょうをのんびりと眺めながら赤道儀のカチカチと言う修正音を聞いていた。赤道儀はらせん星雲を撮影し終え、次の目標を追いかけている。至福の時だった。
とその時、パソコン上のガイド星が急に暴れ始めた。自動追尾のロックが効かないのだ。あわてて撮影を中止し、あちこち点検したが異常は無い。原因不明。已む無く撮影をやめてカメラを望遠鏡から外す。ちょうど空にうす雲が掛かり始めていた。止めろと言うことかな、と無理やり納得してパソコンを閉じた。
頭の真上には秋の天の川。夏に比べるとずいぶん地味だ。最後にこれでも撮ってみるかなと、カメラにレンズを取り付けて赤道儀に載せた。カメラ感度は2500のままで露出1分。淡い天の川がたどれるだろうか。明るい星が少ないために星座を追いにくいが、真ん中の少し上にはアンドロメダの大星雲。右端には昴が見えている。真ん中で存在を主張しているのはカシオペア座の二重星団だ。
さてそろそろ帰ろう。。明日は仕事だ。時刻は10時を過ぎている。屋根を閉めようと望遠鏡のロックを外したところで気が付いた。そうだ。赤道儀のバランスを取るのを忘れていた。重さに耐えかねたモーターが滑らかに回転できなくなっていただけなのだ。基本中の基本。ああ、馬鹿。ため息をつきながら丘を降りた。