月は昇ってしまった。まだ、観測デッキからはその姿が拝めないが、大型の双眼鏡を通してみても、もう星雲は幽かにしか見ることが出来ない。後見るものといえば、真南に輝く木星と星団くらいしかない。おまけに北西の季節風が強くなり始め、望遠鏡で拡大した木星はせせらぎの中だ。厳しい寒さをしのぐために竹取庵の屋根をぎりぎりまで閉じ、後は時折星を眺めながらたこ焼きやお汁粉を楽しむことにした。
空が次第に明るくなってゆく。消えかけていた薄暮が、今度は東のほうから息を吹き返してくる。その中で木星だけが存在を主張しているようだった。結構楽しんでもらえたようだし、ここまでかな。荷物をまとめて丘を降りる僕らを、十七夜が見送ってくれた。