大工道具を片付けて竹取庵の階段を上がる。当然だが明かりを付けていない観測デッキは薄暗い。そこに一か所外の明かりが漏れている場所が有った。デッキを覆う屋根の南側、妻の部分に丸く穴が開いている。えっ。初め目を疑ったが確かに穴だ。直径は8センチくらいか。前の台風で何かが飛んできたのかと思ったが、板の他の部分は無傷だ。だとすれば弾丸ほどのスピードが無い限りこうはならない。キツネにつままれた様な気がして振り返るとなんと北の妻にも穴が開いていた。
なに!? 何かがここを高速で通過したのか?そんな馬鹿な。よく見ると穴の下に木屑が落ちている。それを見てやっと頭が働きだした。キツツキだ。以前どこかの高原に別荘を持つ人が、この世で一番恐ろしいのはキツツキだと話していたのを思い出した。その人は別荘全体を穴ぼこだらけにされたと言っていた。
やれやれ。夜になって気が付いたものも含めて穴は3つ。なんでこんなことを。中に虫がいるとでも思ったのだろうか。そう言えばキツツキは少し叩いて中が空洞だと知ると、虫がいると思って必死で穴を開けるらしい。どいつだろう。この辺りに居るのはコゲラかアカゲラくらいだ。アカゲラが竹取庵の妻を叩いて穴を開けているところ想像してみた。悔しいけれども可愛い。そうか、よしよし。仕方無いなあ。と言う気になる。彼が僕に「この世で一番恐ろしい」と言った理由はここだ。犯人はかわいいキツツキ。穴ぼこだらけにされたのに誰も同情しない。そればかりか、みんなにキツツキに建物を譲ってやれと言われたと言っていた。
確かにこれでは巣箱だ。雨が降る前に修理しなくては。それにしても板と板の境目をつつくから、一か所に付き2枚ずつ板を換えなければならない。この外壁は普通の板じゃないんだ。樹脂で固めた特殊な板。ああ、当面応急修理しておいて空気抜きの窓でも作るかな。いずれにしてもまた手間が増えた。