さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

インド放浪 本能の空腹:21 インドで1番恐ろしいモノ

2020-08-17 | インド放浪 本能の空腹

画像引用元 (そうだ、世界に行こう インドの田舎村でホームステイしたらカルチャーショック祭りだった )


こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記をもとにお送りしております。

前回、バブー、ロメオと共にスクーターに乗り、真っ直ぐと続く一本道をコナーラクまで走り、私も運転をさせてもらい、とても気分が良かった、と言うお話と、そして、『どこか海辺の街で、しばらくそこの住人のようになって過ごしたい』 という私のインドの旅の漠然とした目的を果たす街をこの時にいたプリーにしよう、と決意したというところまででした。

さて、これまでは日記の通り、連続した毎日を書いてきたのですが、実際目的のない放浪の旅、というのは思いのほか退屈なもので、日記も、『何もない1日だった』とか、『昼飯に〇〇を食べた』などとしか書かれていない日も多くなります。

そういうわけでここからは、印象的なエピソードを抜粋し、多少時系列も前後しますが、『ある日のこと』としてプリーでの日常をお送りいたします


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 おれは自分のインドの旅の目的である

『どこか海辺の街で、しばらくそこの住人のようになって過ごす』

その『どこか海辺の街』をこのプリーに決めてから、目的のない放浪の旅、というのは結構退屈なものだ、ということを思い知らされていた。

 バブーやロメオが遊びに来るときは、まあ、退屈もしないのだが、彼らが来なければ、本当にすることが何もないのだ。

 ある日のこと、おれは街の東地区の方へ行ってみよう、そう考えて一人ホテルを出て歩き出した。
 東地区には、おれのような貧乏旅行者向けの安宿が何軒かあり、飯を食える店もあるようだった。だがおれはこれまでこの東地区に行くことを敢えて避けてきた。
 
 そこへ行けば各国のバックパッカー、もちろん日本人も多少はいるはずだった。普通、おれのような貧乏旅行を好む奴は、そういった同じ目的を持つ者同士、宿をシェアし合ったり、旅の情報交換をしたり、フレンドリーに交流を持つものだ。だが、おれはそれがイヤだったのだ。

 特に日本人とは会いたくなかった。大体この頃、インドを一人旅するヤツなんてのは日本人ではあまりいなかった。大学生の卒業旅行だとか、バブル景気だとか、海外旅行が一般庶民の楽しみとして定着はしていたが、およそ旅先は欧米諸国がほとんどであった。そんな中でインドを旅先に選ぶヤツなんてのは偏屈なヤツに決まっているのだ。世の中斜に構えて変わり者を気どっているようなヤツに違いないのだ。

『今、自分の人生を見つめなおすため、自分探しの旅に来たのだ』
『今、日本は豊な国になった、しかし本当の豊かさとはなんだろう、おれはそれを探しに来た』

 そんな連中と触れ合うのは真っ平ごめんだったのだ。
 だが、長く一つの街にいようと思えば、自分から行動しなければ本当に退屈なだけになってしまう、のんびりと過ごす、それだけでも価値のある時間だとは思うが、若いおれにはやはり物足りなくなってしまう、そう思い、すこしずつでも東地区に進出して行こう、そう考えたのであった。

 インドを一人旅する、そう言った時、母、伯母、彼女のK子、特に女性陣は過剰なほどに心配をしてくれた。
 しかし、一体何が心配なのだろう…。インド、という国を良く知らない…、それが一番だろう。
 だが、おれにしてみれば、例えば強盗や殺人、そういったことにさらされる危険はインドよりもよほど欧米先進諸国の方が怖い、と思っていた。アメリカのニューヨーク、拳銃を持っているヤツが普通にいる、その方がずっと怖いと思っていた。インドで強盗や殺人に日本人であるおれが巻き込まれる危険性はほとんどない、と言ってよかったろう。まあ、詐欺師の数は半端ないとは思うが…。

 爆破テロ、こういったこともインドでは時折起きていたが、宗教上の対立の激しい地域、カシミール地方やパキスタン国境付近、そういうところへ行かなければ、よほど運が悪くなければ巻き込まれることはまずないだろう。

 インドで怖いモノ、それはやはり伝染病などの病気であろう。特にマラリアは恐ろしいものであった。だからおれは渡航前に予防接種を受けて来ていた。そう考えれば、母や伯母、K子がおれを心配するような危険はほとんどない、と言ってよかったが、一つだけおれが恐れていたものがあった。

『狂犬病』

である。

 インドにはとにかく痩せ細った汚い野良犬が無数にいるのである。当然狂犬病の予防接種などをあの野良犬たちが受けているはずもない、だから犬には気をつけなければいけない、そう思っていた。

イメージ
カトマンドゥにて撮影

 実際にインドで見かけた野良犬の多くは、上の画像の犬よりも痩せ細り、汚い犬が多かった。噛まれたりすれば百発百中で狂犬病になるのではないか、と思えるような犬ばかりであった。それが、決して道の隅などではなく、往来のど真ん中で寝ていたり歩いていたりするのだからたまらない。

 東地区を目指して歩き始めたおれは、ふっと、道の真ん中を歩いていた汚い野良犬と目が合ってしまった。おれは歩を止め、犬が去るのを待とうとした。だが、犬は去らずに、おれをじっと見つめている。心なしか怒りの目にも見える、うなり声を上げているようにも聴こえる…。

『マズイ!!』

 おれは悩んだ、このまま背を向けて走って逃げようとしたら追って来るかもしれない、かと言っておれを明らかに警戒しているように見える犬の横を何事もなかったように通り過ぎる、というのも危険なことのように思えた。

『どうする!!』

 おれは子供のころに読んだ釣りキチ三平のある話を思い出した。山で万一熊に遭遇したら、逃げたりせず、じっとして熊を睨みつける、熊は熊で人を警戒しているので、睨みつけることで自分よりも強い、と思わせるのが有効だ…、確かそんなことを言っていた。

 おれは往来のど真ん中で汚い野良犬と対峙し、目に力を込めて犬を睨みつけた。しばらく犬とおれの睨み合いが続く…、

 道行く人が、往来の真ん中で犬とにらみ合う日本人を見て『こいつは一体何をしてるんだ…、』と言うような表情で通り過ぎていく。

 
 よほどその光景がおかしかったのか、とうとう一人の男が声をかけて来た。

『What?』

『Dog!』
 

 男は、おれと前方の犬を交互に見て少し笑ってから犬へ近づいて行った。そして

『*%$##%&\¥+$▼!!!!』

 男は大声で犬を怒鳴り散らし、追っ払ってくれたのであった。そしてにっこりと笑って『もう大丈夫だ』と、手をゆっくりと振り、ジェスチャーで進んでかまわない、と合図してくれた。

 おれは男に一言礼を言ってその場を去った。急に何だかこっ恥ずかしくなった。

 おれの生涯、道の真ん中で立ち止まり、犬と睨みあったのは後にも先にもこの時だけである。


**************** つづく

冒頭でも述べた通り、いざ、一つの街に腰を落ち着けてみると、本当にすることがなく退屈なんです。仕事をしているわけでもなく、絵を描く、写真を撮る、美味い物を食べ歩く、そういった何かしらの目的がなければ放浪の旅は非常に退屈です。もちろん、プリーでのエピソードはたくさんありますので、今後ご紹介してまいりますが、退屈な日の日常、そんなつもりで今回の記事を書きました。

※引用元を示し載せている画像は、撮影された方の了承を頂いた上で掲載しております。それ以外の「イメージ」としている画像はフリー画像で、あくまでも自分の記憶に近いイメージであり、場所も撮影時期も無関係です。カトマンドゥで撮影、の黒い犬が寝ている写真は私自身が撮影したものです。





コメント (10)
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