こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記をもとにお送りしております。
本日はインド放浪 本能の空腹⑳ コナーラクへ小旅行 をお送りいたします。
前回、キ〇タマの大合唱となった宴の翌日、朝からウ〇コの山を乗り越え散歩、ホテルへ戻るとバブーとロメオが私を待っていた、そして世界遺産の太陽神神殿 スーリヤ寺院へ行こうということになり、ベスパもどきのスクーターに3人乗りをして出発をした、というところまででした。
では、続きをどうぞ
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軽快とは言えない加速で走り出したスクーターであったが、徐々にスピードに乗るとなかなかに快適に風を切り始めた。
スクーターは街の東側の集落を抜け、荒涼とした赤茶けた土の広がる場所へ出た。そこから旋回するように海と並行する一本道へと出た。
その一本道へ入る手前に、山羊だか羊だかの大きな動物の死骸が半分腐りかけて転がっていた。やはりインドである。
見事なまでの真っ直ぐと続く一本道、快適だ。
右手には海があるが、道からは見えない、丈の低い草、高い草、が生い茂り、時折湿地などが顔を覗かせる。
左手には開けた土地が広がってみたり、森、というよりは密林、といった方がよさそうな森林が並んでいたりする。
一本道の両側には、時折土産屋、茶屋のようなものが建っていたりもする。
信号などは一つもないのでノンストップで進んでいく。
快適だ、快適…、のはずだった…。
男3人、体を密着させ、かなり窮屈な姿勢で乗っていた、真ん中のおれは特に窮屈な姿勢を強いられて、やがで座っていること自体がキツくなり、徐々にケツが痛くなり始めた。そしてその痛みは耐えられないほどになり、思わず声をあげた。
『ロメオ、ケツが… ケツが痛い…。』
『What?』
『ケツがいてーーーーー! 頼む! 止めてくれ!』
おれの悲痛な叫びを聞いて、ロメオは一件の茶屋の前でスクーターを停めた。
『どうした、コヘイジ』
この時おれは『I have a pain … My hip』というようなことを言ったと思うがどうも通じない… ジェスチャーでケツが痛い、ということをどうにか伝えた。
『OK、少し休憩しよう』
ようやくスクーターを降りることができた。バブーが店の奥で何かを買っている。何かを厚みのある葉で包んだよくわからないものだった。
バブーはその葉を口に入れてみろ、と一つをおれに渡し、一つを自分の口に入れた。
『コヘイジ、これをゆっくりと噛むんだ』
周りを見ると数人の男が同じように葉っぱを口に入れ、餌を口に入れたリスのように頬を膨らませている。
イメージ
これは…、きっと…、 噛みタバコ! と言うやつだ! よくプロ野球の助っ人外人が口にこれを入れて打席に立ち、凡退するとベンチの前で、ペッ! と吐き出しているあれだ!
おれは俄かに興味が湧き、バブーに言われた通りそれを口に入れ、軽く噛んでみる…、何か液状のものが口の中に広がる…。
… … … … … …
『オウゥゥゥゥエエエエエエエェェーーーーーー!!!』
たまらずおれは口の中のモノを吐き出した。
『なんだこれは!』
朝食ったボール状の揚げ物同様、おれの身体の全ての部位がこの『噛みタバコ』の液の香りの侵入を拒否した。
『オウゥゥゥゥエエエエエエエェェーーーーーー!!!』
口の中の残り香に、もう一度おれは嘔吐しそうになった。
その様子を見て、バブーもロメオも、周囲の男たちまでもが笑っている。
『バブー、これはボクには無理だ…。』
ちょっと興味があった噛みタバコであったが、散々なモノとしておれの記憶に刻まれた。
しばし休憩の後、再びコナーラクへ向けて出発、と、そのとき、ロメオから思わぬ提案があった。
『コヘイジ、この先はキミが運転してみないか?』
えっ! えっ、えっ!? いいの!?
おれの胸は高鳴った。
『インドで運転するためのライセンスは持っていないけど…』
『そんなことは気にすることはない』
そう、ここはインド、気にすることはない、おれははやる気持ちを押さえながらスクーターに跨った。大きさは、そう、125CCくらいだろう、日本でも車以外は原付の免許しか持っていなかったが、まあ大丈夫だろう。
『コヘイジ、やり方はわかるか?』
『ロメオ、大丈夫だよ、じゃあ、行くぜ!』
アクセルを軽く回す、ぼぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、運転はおれ、その後ろにぴったりと体を密着させバブー、一番後ろにロメオ、その重さから、やはり加速は悪いが、やがてスピードに乗る、快適にどこまでも続くかに見える一本道を走る。
ああ、いい! これはいい! インドでこんな経験ができるとは思っていなかった! これはいいぞ!
道の右側の茂みから不意に何かが飛び出してきた。
猿だ! 金色の猿が二頭、おれたちの目の前を横切り、左手の森へ走り抜けた。
『Monkey!!!』
おれたちは同時に叫んだ。 楽しい! 楽しいぞ!
ほどなくして、おれたちはスーリヤ寺院に着いた。立派な寺院だ。立派な寺院だが、若いおれたちにはさして感動はない。実はおれたちは同い歳であった。
おれたちは世界遺産をじっくりと鑑賞する、なんてこともなく、外壁をよじ登り、飛び回り、おれがロメオの親父にやったカメラで写真を撮ったりして遊んだ。
すぐに飽きて、寺院の向かい側にあったレストランへ入り、昼食。3人ともチキンカレーを頼んだ。スプーンも使わず、手でがっつくように食った。美味かった。
食事が終わると、ロメオがまたしても当然のようにおれに伝票を渡した。
おれは心に決めていた。このインドへやって来たおれの目的は、どこか海に近い街で腰を落ち着けて、そこの住人のように過ごしたい、そういう意味でこのプリーの街は申し分ない、漠然と思い描いていたのは南の大都市、マドラス近郊の街、であったが、特にこだわりがあったわけでもない。このプリーの街でその目的を果たす、そうなればこのロメオともしばらく友人として過ごしたい、友人である以上いつもおれが奢る、そんな関係ではいけない。
『ロメオ…、』
おれがその意思を伝えようとした瞬間…、バブーが険しい顔をして立ち上がった。
『ロメオ! どうして3人で食事をしたのに、その代金をコヘイジが出さなくてはいけないんだ! コヘイジは友人だ! 自分で食べた分は自分で出すべきだ!』
割と強いバブーの口調にロメオが怯んだ。そしてバツが悪そうに言った。
『OK、OK、バブー、わかったよ、そうだね、自分の分は自分で出すよ』
『一人12ルピーだ』
バブーはそう言ってロメオから12ルピーを徴収した。おれもバブーに12ルピーを渡した。バブーはニッコリと笑ってそれを受け取り支払いを済ませた。
インドではタクシーに正規料金で乗れたら奇跡だという、カルカッタの凄まじいほどのポン引き、物乞い、インド人の多くは日本人のおれの金を狙っている、そんな風にさえ思い始めていた中でのこのバブーの行動は、おれをいたく感動させた。おれは清々しい気持ちになって店を出た。
帰路は再びおれの運転から始まった。頬を撫でる風が心地よい。
この街で、住人のようになって過ごしてみよう、いつまでかはわからない、視界の前方、どこまでも続く一本道を走りながら、おれはそう心に決めた。
*********************** つづく
この時のバブーの行動が、6年後、再会するまでの間柄、親友となった決定的な事だったように思います。こののちも度々バブーは男気を見せてくれます。
※引用元を示し載せている画像は、撮影された方の了承を頂いた上で掲載しております。それ以外の「イメージ」としている画像はフリー画像で、あくまでも自分の記憶に近いイメージであり、場所も撮影時期も無関係です