こんにちは、小野派一刀流免許皆伝小平次です
小平次は、今の生業に就く直前、タクシードライバーを4年半ほどやっていたんです
その時のことを、インド放浪記風、日記調、私小説っぽい感じで記事にしていきます
本日は
『逃がした魚は大きかった』
乗車地 新富町
降車地 新栃木?
『げすな男』
乗車地 新橋付近
降車地 墨田区緑付近
のカップルがらみの2本立て
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『逃がした魚は大きかった』
ある日の深夜、丁度日付が変わったあたりの時間、おれは新大橋通りを水天宮方面へ向けて車を走らせていた。まだ銀座は乗禁時間帯、乗り場に並べば乗せられる確率も高い、それともこのまま水天宮の交差点まで行き、路地に付けて見るか、そんなことを考えていると、新富町の交差点で若いカップル、男の方が手を上げた。
『お待ちどおさまでした』
とドアを開ける、二人はすぐには乗り込んで来ず、男の方が顔だけ車内に入れておれに問いかけて来た。
『あの、ちょっと遠いんですけどいいですか? 栃木県の方なんですけど。。』
おれの体内に一気にアドレナリンが噴き出す。あまりタクシードライバーの仕組みがわかっていない人は、遠くまで行かせるのは悪いと思っているようだが、全く逆である。この頃、都内のタクシー、一日の平均運収が4万円ちょっとくらい、一日5万平均やれば手取りで30万程度を稼ぐことができる、遠方高額案件、横浜辺りまで行っても、この時間殆ど高速を使い往復で1時間半程度で1万円以上稼ぐことができる、とても効率が良いのだ、それが栃木ともなれば…
『大丈夫ですよ』
興奮して目がぎらついたりしないよう、努めて冷静に答える。
『新栃木駅のあたりなんですけど、50,000円で足りますか?』
5万!!
『少しお待ちください、今、ナビで距離を見てみますので』
おれは今にも震え出しそうな指先で行先を入力した。108キロ…
40キロで深夜ならば2万前後、そのくらいまでは予測できるが、それ以上は未知の世界だった。だが、以前先輩ドライバーから「100キロで大体4万くらいだ」と聞いていた。おれは答えた
『5万あれば足りると思います、もし、それ以上になりそうでしたらそこでメーター止めて走りますよ』
客を乗せて回送表示にするのは違反である、だがこれは、何気ないポイントにルアー投げて巻いていたら、いきなりメーターオーバーのランカースズキがヒットしたようなものだ、おれは絶対に逃したくなかったのだ。
男がドアから離れ、女の方へ振り返り、財布から50,000円出して女に渡している。
『50,000円で足りるって、もうこんな時間だから、本当に気をつけて帰ってね』
『うん、ありがとう。。』
女が乗り込んでくる、愛し合う二人が名残惜しそうにいているところ、おれは「ドアを閉めてよろしいですか」と確認し走り出した。
『この先、箱崎から高速に乗ります』
おれのドライバー生活における最大の大物だ。箱崎インターはすぐそこ、高鳴る鼓動、おれは顔がにやけそうになるのを必死に抑えた。と、その時、女が思いもよらぬことを言った。
『あの…、ここから上野駅までってどれくらいの時間で行けますか?』
『えっ!』
『今から行けば、もしかしたら最終電車に間に合うかもしれないんです…』
(えっ! えっ! 何言ってんだこの女。。最終電車って、なにそれ?)
おれは女の言葉に呆然としながらも、ウソを言うわけにも行かず、
『深夜ですので、秋葉原周辺や、上野駅付近が混んでいると思いますけど。。』
女に考え直してもらえないかと、いかにも時間がかかりそうな物言いをしたが、結局、
『そうですね、20分くらい見て頂ければ…』
『あ、それなら間に合います、上野駅に向かってください!』
『……か し こ ま り ま し た……』
上野駅にはすぐについた、料金は2,000円と少し…、4万越えのBig Oneが20分の1になってしまった…。この後は完全に脱力し、仕事にはならなかった。それにしてもあの女、タクシーで帰ったことにして電車賃の残りをポッケに入れてしまったのだろう、だって男は時間も遅くて電車で帰らすのは心配だったから5万も出してタクシーに乗せたのだろうに…。せめて「電車で帰れたよ!」と言って残りのお金を返していることを願うばかりだ。
『げすな男』
ある日の深夜、おれは虎ノ門方面から新橋駅の方へ向かって流していた。新橋駅のガード付近で若い男女が手を上げる。
『どちらまでですか?』
『新大橋通りから蛎殻町の方へ、そこで一人降ります、その後両国の方に向かってください…』
『かしこまりました』
行先を告げた男は、どこか覇気のない口調だった。そんな男に女の方が話しかける。
『ねえ、なんかさっきから元気ないけど大丈夫? 具合悪いの?』
『いや、ちょっと飲みすぎちゃったかな…』
『顔色もあんまり良くないよ、あのさ、別に変な意味じゃなく、ウチによって少し休んでいけば? 別に泊ってもいいよ』
『いや、そんなわけにはいかないから…』
『でも、ほんと具合悪そうだよ、私なら気にしないから、ウチによって休んでいきなよ』
(…… 変な意味、私なら気にしないから…、ああ、カップルじゃないんだな…)
人通りも少なくなり、道路を走っている車はタクシーばかりがやたらと目立つ時間帯、築地4丁目の交差点を過ぎ、ほどなくして蛎殻町付近に差し掛かる。
『次の信号で停めて下さい…』
男が相変わらず覇気のない声で言う。
『ねえ、やっぱり具合悪そうだよ、心配だから、ウチによって行きなよ』
女はどうにか自分の家に男を引き入れたいようだ。指示された信号に到着、車を停め、ドアを開ける、左に乗っていた女が降りる、降りてからも女は車内に首を突っ込み男に言う。
『ホント、大丈夫? それじゃ、私帰るからね、気をつけてね…』
すると男が突然、開けていたドアから滑るようにして外へ出る、外に出た男はいきなり女を抱きしめる、ミラー越しに全ては見えないが、男は抱きしめるや否や女にキスをしたようだ、そして女もそれを受入れているようだ。
『ご、ごめん…、なんか、おれ…、ごめん、ありがとう、今日はこのまま帰るよ…』
『う、うん…、き、気をつけてね』
男が再び車内に戻る。
『お客様、車を出してもよろしいですか?』
『あ、はい、お願いします』
男は窓越しに、どこかポーっとしているような女と見つめ合う、おれはゆっくりと車を出し両国方面へ向かった。
(セイシュンだなあ!!)
新大橋を渡り、左折、両国駅付近で京葉道路に出る。緑3丁目の交差点の少し手前で、男から路地を左に曲がるよう指示がある、指示通りに路地を左折、少し走ったところで車を停める。
料金の精算を済まし、男が外へ出る、すると停まったところの右手の路地から若い女、いかにも部屋着のような恰好の女が男の方に歩いてくる、男もその女の方に向かう、そして… ハグ&キス。。。♡
(あー、あー、あー!)
『遅かったじゃない!』
『ごめん、ごめん、先輩に付きあってて、少し飲み過ぎちゃって』
男が覇気の戻った声で女に答える、そして手をつなぎ、路地の中ほどにあるマンションへと入って行った。
(… … おーい、げすだなお前!)
まあ、おれも若い時分には似たような経験が無かったわけでもない、思わず苦笑いをしながら車を銀座方面へ向け走らせた。
つづく
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>>おれも若い時分には似たような経験が無かったわけでもない…
もちろん今は妻一筋ですw