さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

聖地 東伊豆ボート釣り

2019-11-18 | 釣り



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こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

本日は釣りのお話


行ってきました!

久々の聖地東伊豆のボート釣り

いつものように釣友のM君と繰り出したかったのですが、お互いなかなかの多忙で、日程が合いません…

残念ながら今回は単独釣行


朝、3時半起床、一路東伊豆目指して車を走らせます

ボート屋さんのHPによれば、前々日までイナダがまだ結構釣れてるようで、今回は、回遊魚狙いのジギングと、冷凍イワシとホタルイカをエサにした根魚狙いの二本立て

途中、早川を過ぎたところで、いつも寄る『釣り侍』で、念のため、コノシロの切り身を購入、そこから海を見ますと海面は静か、ボートにはいいコンディションっぽい感じ

そこからさらに湯河原、熱海を抜け目的地へ

土曜日ということもあり混んでいるようです

できれば免許のいらない船外機付きのボートを借りたくて、前々日に予約の電話を入れたのですが、土日は一週間以上前に予約をしてもらわないと無理、だそうで…

うーーん、手漕ぎかあ、この歳になるときついんだよなあ、と思っていたのですが今日の海のコンディションなら手漕ぎでもまあいけるだろう

早速出航!!



いつも通り、沖の定置網を目指しますが、出航前、ボート屋の若い衆から、定置網の右半分、それから手前のイケス周りは全面的に釣り禁止ですとの注意を受けました

ここの場所は、手前のイケス周りの釣り、ってのが名物だったんですが…、マナーの悪い釣り客でもいたんでしょうか、残念です



ポイントへ向かう途中、一度漕ぐのをやめ、仕掛けを作ります

その間にボートがどちらへ流されるかを確認します

ベタナギでゆっくりですが、微妙に目指す沖の定置網の、釣り可の左側に向かって流れています

それならば、目的のポイントまで釣りながら流れに任せて行こうと決断

まずは根魚狙いの竿を出します

エサは、スーパーで買ったウルメイワシを上バリに、下バリにホタルイカをつけ落とします

実は以前、テレビの鉄腕ダッシュで、駄菓子のヨッチャンイカをエサにして、クロダイやイシダイ、カサゴだったかな、を釣っているのを見たんです!

結構な秘密兵器的なエサだそうで、近くのコンビニで買っていこうと思っていたのに…、忘れちゃったんです!!!!

途中のコンビニで売ってないかと探したんですが、ありませんでした…


根魚狙いの竿を置き、ライトジギングタックルに40グラムのメタルジグをセット、底まで落とします

水深は50mくらい、ボート釣りではなかなか狙えない深場です

いい感じで沖に流れながらジギング開始!

2、3回底からアクションを加えながら巻いてきますが反応なし

それにしても、疲れるな、ジギング、もう腕が痛い…


無反応のまま、沖の定置網付近に到着、根魚狙いの仕掛けを一度上げます



お!エサが両方ない!

アタリらしいものは一切なかったのですが、エサが盗られています、ウルメイワシは少々大き目だったんですが、一体何に盗られたんだろ…

定置網の左に回りこみ、再度仕掛け投入、ジギング開始

何度目かのジギングで、水面辺りまでカンパチがチェイスして来たんですが見切られヒットに至らず…

でも魚はいることはわかりました

なんて言っても回遊魚ですから、一昨日の釣果は良くても、今日はもういない、なんてこともあるわけで、とりあえず魚がいるのがわかったことはうれしいことです

このあたりは定置網のロープが縦横にたくさん入っていて、潮の速い日なんかですと、あんまり近づけないんですが、この日はベタナギ、網周りを攻めることができます

根魚狙いの竿にアタリ?

微妙…、カサゴ類だとガツガツ食い込む感じが竿先に出るんですが…、ちょっとキいてみます、うーーん…、微妙、でも少し重いような…、とりあえず巻いてみます

で、上がってきたのがこれ



あああああ、そうだ、キミもいたな、この海には…

どうなんでしょう、アミウツボだとずっと思っていたんですけど、正解かなあ

それにしても、仕掛けはぐちゃぐちゃ、この子も大変…、何とか救出してやろうとラインを切り、ほどきますが、うーん…、海に帰しますとゆらゆら底へ向かって泳いで行きましたが、大丈夫かな… ゴメンね

実のところ、オニカサゴなんかは、釣り禁止になった定置網の右側の方が実績があるんです

で、網の手前ならば右側で釣りしても良いみたいなので、少し右寄りに移動、またエサを落とします

ジギングも再開

置き竿にアタリ、ちょっと明確に出ます

少しキいてみると、弱い引き込み、ゆっくりとあわせます、少し重い、とりあえず乗ったようです

途中少しばかりの抵抗を見せます

少しでも食い込みの良いように、シーバスロッドを使ってたんですが、この竿でこの感じだと、いずれにしても大したことありません

上がってきたのは



あああああ、またキミかあああ!

ただ今度はあまりぐちゃぐちゃになっていないので、すぐに救出、海へ帰します

同じ場所で何度目かのジギング、結構巻き上げて来たところで

『ガッ』

いきなりライトジギングロッドが海中に突っ込みます、同時にドラグがうなります!

来た!!!

このいきなり持ってかれる感がたまりません!!

中々に走ります

中々のやり取りを楽しみながら無事タモ入れ成功、上げてみると

ん? ソーダ? ん?

ソーダガツオにしては黒光りしています

メジマグロか!!!

やったーーーー!と喜び、血抜き、クーラーボックスへ



この手の魚は大概群れていますので、すぐにジグを落とします

表層付近でのヒットだったので、中層まで落としてからすかさずシャクリ、トウィッチ、早巻き、で、やっぱり上の方で

『ガッ』

おおおお、いきなりドラグがうなり走り出します

しかもなかなか止まらない!

周りはロープだらけなので、そんなに好きに走らせるわけにもいきませんが止まりません!

ようやく走るのを止めさせ、巻いてきます、途中何度も竿が突っ込み根元から曲がります

今のやつより大きそうです

で、上がってきたのはまたしてもメジ!(正直普段釣り慣れていないので、メバチだかクロマグロだか、若魚だとわからない)

やったーーー!

この2尾で十分満足です

が、やはり根魚も一尾は欲しいところ

さらに、釣り禁止の手前ギリギリのところへ移動、エサを投下!

ジギングしながら竿先を見ていると、ようやく明確なガツガツしたアタリ、キキ合わせてみますと、まあいい感じで食い込むのが伝わります

上げてみますと



やりました!

少々小ぶりですが本命のオニカサゴです!!!

このあとも粘りましたが、エサはとられるものの、アタリもなくジギングも反応なしで納竿


この日の釣果






で、調理は!

オニカサゴは酒蒸し風にホイル焼き、メジは特に腹身が柔らかく、皮引きが難しいので、カツオのタタキ風に皮を炙り、背の身はそのまま生のお刺身で

両方の胃袋は串に刺してもつ焼き風に



まあ美味かったですよ!

大人のマグロに比べれば油は少ないですが、一度凍らせた安いマグロなんかよりはるかに美味い!!



いやいや、今回の釣行で感じたこと…

歳とったな!おれ!!

手漕ぎボートで一日、体中が軋んでる感じ…


来月は少しのんびりした釣り、久里浜のボートカレイにでも行けたらいいな



御免!



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インド放浪 本能の空腹⑥ 『 Blue Moon hotel 』

2019-11-14 | インド放浪 本能の空腹



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30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記からお送りいたしております

夜のカルカッタ、凄まじい喧騒と混沌に圧倒されなす術もない状況で現れた若い男、ラーム、サイタマに行ったことがあるというこの男に言われるままにビールをごちそうになり、言われるがままに紹介してくれるというホテルへ行く…


つづきです



***************************


 店の外へ出ると、ラームは目の前にいたリクシャ引き(リクシャーワーラー)のじいさんに声をかけた。これに乗って行こうと言う。
 そのリクシャは、人が直接引く、まさしく『人力車』タイプのものだった。この人力車タイプは、インドでもこのカルカッタくらいにしか残ってないそうだ。



 おれはラームにうながされ、座席に座った。続けてラームも乗り込んだ。じいさんは力強く前棒を下げ、すぐに走り出した。
 せまく暗い裏通りを、人や犬、ゴミの山を巧みにすり抜けながらじいさんはリクシャを引く。少し高いところからじいさんを見下ろしおれは思う。

 ああ、おれはこういうのはどうも苦手だ。おれの親父ほどの歳に見える小柄なじいさんが車を引き、世間知らずの若造が座席に座りそれを見下ろす…、とても心苦しく思うのだ。だが、そんなのはおれのちっぽけな感傷に過ぎない。じいさんにしてみれば、インドまで来ておきながら、そんな綺麗ごとを言ってねえでどんどん乗っておれを稼がせろ、と思っているに違いないのだ。
 小柄ながら、汚れたシャツ越しに見えるたくましいじいさんの背中を見ながら、そんなことを考えている間にリクシャは目的のホテルの前に着いた。
 
 ホテルの名前は 『 Blue Moon hotel 』
 
 わざわざリクシャに乗るほどの距離でもなかったように思えた。ひょっとするとラームが、この街に来たばかりのおれにリクシャを体験させてくれようとしたのかもしれない、そんなことを考えた。

 サダルストリートから通りを数本跨いだだけのように思えたが、このあたりは人通りもそんなに多くはなく、割と静かだ。ただ、汚い! カルカッタはとにかくゴミだらけだ、生ゴミもあれば紙くずやプラスチック類、よくわからない黒いもの、そんなものが地面を覆っているようだ、通りの角には山積みにされたゴミもある、それを犬や人があさっている。喧騒や混沌とはまた別な衝撃である。

 小さなホテルだった。入り口から直接せまい階段を上ると2階にフロントっぽいものがあった。
 ラームは従業員にヒンディー語だか、ベンガリー語だかで何かを言っている。従業員がまたあの仕草、アゴをプイっと横に振る。
『 150lupie 』
おれは従業員に150ルピー支払い、フロントの目の前の部屋へと案内してもらった。ラームも部屋へ入る。部屋は、せまいながらも外の光景からしてみれば、思いのほか清潔そうだった。部屋と同じくらいの大きさのシャワールームがとなりにあった。覗くと、昔の公衆便所のような消毒薬の匂いが鼻を衝く。ポツンと便器が一つ、それに円形のシャワーが壁から突き出ているだけの殺風景なシャワールームだ。

 『コヘイジ、キミはまだビールを飲みたいんじゃないか?』

 ラームが笑いながら言った。
 確かに、酒好きのおれには小瓶のビール一本だけでは却って中途半端だ。
『そうだね、もし飲めるならもう少し飲みたいかな…』
『OK!』
 ラームが従業員に何かを告げると、すぐに2本のビールとグラスを運んでくれた。ラームはおれのために再びグラスにビールを注いでくれる。そして色々なことをおれに話してくる。

 自分がブッダガヤーから、両親へのプレゼントを買うためにこのカルカッタに来ていること、学生であること、おれにも次々と質問を投げかけてくる、家族は何人だ、兄弟はいるか、結婚はしているか、彼女はいるのか、日本ではどんな仕事をしているのか、インドにはどれくらいいるつもりだ、カルカッタの次はどこへ行く予定だ、おれが一つ一つ答えていく、自然と会話も弾む。

 『コヘイジ、キミは何か宗教を信仰しているか?』

 『ボクはクリスチャンなんだ…』

 『クリスチャン!それは素晴らしい!ボクはヒンドゥー教徒だけど、 ボクはね、こう思うんだ、Jesus、Muḥammad、Buddha、信仰はいろいろある、神もいろいろある、ヒンドゥーの神々もたくさんいる、でもね、たくさんの神がいたとしても、ボクは神は一つだと思うんだ、神は同じだと思うんだ、みんな一つの神を信仰しているのに、宗教上で対立して、戦争をしたりすること、これはとてもばかげていることだって、そう思うんだ…』

 おれはそれを聞いていたく感動してしまった…、少し酔いも回っていたのだろう…。

 『ラーム!! キミは素晴らしい人だ! ボクもそう思うよ!』

 調子づいてそんなこと言う…。ラームは続ける…。

 『日本は…、ヒロシマ、ナガサキに『 atomic bomb 』をアメリカによって落とされた…、とても悲しいことだ…、でも、日本はまた立ち上がり、今の繁栄を得た、日本はアジアのリーダーだ、ボクはそう思う 』

 ラーム!お前ってってやつは!
 許してくれ!さっき一瞬でも君をポン引きの詐欺師ではないかと疑ったおれを! 許してくれラーム!

 おれは心の中でそう叫んだ。

 おれが二本目のビールを半分ほど飲んだころ、ラームは立ち上がり言った。
『コヘイジ、そろそろボクは自分のホテルへ帰るよ…、明日は、ボクが市内を案内してあげるから、それでキミの友人の待つSホテルへも行ってみよう、朝の8時に迎えに来るから待っていてくれ』
 おれの頭にはもはや、ラームを疑う気持ちなど微塵もなかった。
『コヘイジ、一つ約束をしてくれ、カルカッタはとても危険な街だ、キミはまだインドに慣れていない、だから今日は、ホテルから外へ出てはいけないよ、約束してくれ』
 ラームは真剣な表情でそう言った。
 おれのことを心配までしていてくれる…
 大丈夫、頼まれたって出やしない。
『わかっているよラーム、今日は外へは出ない…、約束するよ』
 ラームはにっこり笑ってもう一度明日の8時に迎えに来ることをおれに告げ、部屋を出て行った。

 一人だ…。日本を出てから初めて、一人だけの空間を得た。何か急速に安堵感に包まれた。同時に疲労感も押し寄せてきた。とにかく、シャワーを浴びよう…。おれは裸になってシャワールームへ向かう。予想していたことだがお湯は出ない…。インドも間もなく冬であったが寒くはなかった。おれはそそくさと水浴びを済ませ部屋へ戻り、ベッドに座る…。

 腹が減った…。そう言えば晩飯を食っていなかった。凄まじい喧騒と混沌、緊張して空腹も忘れていた。だが外へ出るわけにはいかない。ふと、千葉の伯母が、おれがインドへ一人旅に行くと言ったら、餞別だと言って金と一緒に送ってくれたピーナッツを持ってきていたことを思い出した。
 そうだ、あれを食おう…。バッグの奥から袋詰めのピーナッツを取り出し、一粒、二粒、と口に入れる…、うまい…。
 大体伯母やおふくろの年代の人は、インドへ一人で行くなんて言うと、もう二度と会えないのではないか、というくらいに心配をする…。
 おれは残りのビールを流し込み、ベッドへ横たわる。すぐに眠くなっった。つい今しがたの裏路地の光景を思い出す…。全ての指が溶けて蝋のようになった手、くぼんだ白目だけの少年、両足を付け根から失い、上半身だけで手作りのスケートボードのような板に乗って近づいてきたじいさん…。彼らが目まぐるしくおれの頭を駆け巡る。もう夢心地だ…。

 『ポーッ!ポーッ!』

 随分静かになったホテルの前の通りで誰かが叫んでいる…。

 『ポーッ!ポーッ!』

 その声がだんだんと近づいてくる…。

 『ポーッ!ポーッ!』

 なんだ?、なんかのまじないか…?

 『ポーッ!ポーッ!』

 なんだよ! 『ポーッ!ポーッ!』って!?

 夢心地から覚めたおれは、『ポーッ!ポーッ!』が気になり、起き上がって窓から外を覗く。

 薄暗い裏通り、通りの端にはうずくまって足を抱えてじっとしている人たちが幾人かいる、そして、通りの中央を、杖を突きながらヨタヨタと歩くじいさんがいる。

 『ポーッ!ポーッ!』

 じいさんが叫びながら歩いていたのだ。少しの間、おれはそのじいさんの後姿を眺め、また横になる。
 
 なんだよ…、『ポーッ!ポーッ!』って…。  再び眠くなる。夢心地になりながらおれは考える。

 たぶん、あのじいさんは目が見えないのだろう…、それで、自分が歩いていることを周りの人に知らせるために、『ポーッ!ポーッ!』と叫んでいるのだろう…、なぜかおれはそんな気がした。

 遠ざかる『ポーッ!ポーッ!』を聞きながら、ようやくおれは眠りについた…。


*********************** つづく



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インド放浪 本能の空腹 ⑤ 『 ラーム 』

2019-11-12 | インド放浪 本能の空腹




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30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記からお送りいたしております

夜のカルカッタへ到着

早速この街の洗礼、凄まじいポン引きと物乞いの攻勢をかわした先で現れた一人の清潔そうな身なりをしたインド人男…

続きです


インド放浪 本能の空腹 ⑤ 『 ラーム 』

※写真はほとんど撮りませんでしたので、画像はイメージです


*******************

 『サイタマ』

 という思いがけないローカルな地名を聞いておれは食い入るように睨んでいた地図から顔を上げた。
 この男が、もし、日本に行った時の街として、Tokyo、や、Osaka、と言っていたならば、おれは『 No thank you! 』を繰り返していただろう。Kyoto、Fukuokaでも同じだったかもしれない。だが、『サイタマ』という通常外国人の口からはあまり聞かれないような土地の名前に、何か妙にリアルなものを感じ、おれはこの男と話をする気になったのだ。つい今しがたの凄まじいポン引きと物乞いの攻勢に参ってしまっていたこともあったろうとは思う。

『ホテルを探しているのかい?』
『ああ…』
『今日カルカッタに着いたばかりかい?』
『ああ…』

 つい話を聞く気になっていたが、おれはまだこの男を信用したわけではなかった。早速ホテルがどうとか言っているのも怪しい気がしていた。男は、それを察したかのように言った。
『ボクのことが信用できない? 怪しいホテルへ連れて行こうとしてると思う?』
『い、いや…』
『そう!君の考えている通り、ボクは悪いインド人だ、だから簡単に信用してはいけないよ!』
『……、……、』

『ボクはね、日本のサイタマへ行ったとき、日本人にとても親切にしてもらったんだ、で、今、このインドで困っている日本人のキミを見て、ただ助けたいだけなんだよ…』

『うーーーん…』

『信用できないならボクはここを去るけど、キミは少し落ち着いた方がいいと思うよ、どうだい、チャイでも飲みながら少し話さないか』

『……、……、』

『さあ、行こう』

 黙ったまま突っ立っていたおれは、男に背中を押されながら、目の前にあったドアも壁もない開けっ広げの飲食店の中へと入った。
 店の奥の方にあった二人掛けのテーブルにおれたちは腰かけた。店内はとても騒がしかった。
『ボクはチャイを頼むけど、キミは?ビールがいいかい?もちろんごちそうするよ』

 ビール!?  ビール…、 ビール…、   ビール、 ビール、 ビール!?

 今日の朝からダッカの街を歩き、夕方に飛行機に乗りカルカッタへ、そしてタクシーで夜の市街へやって来た。つい先ほどまでその喧騒と混沌、ポン引きと物乞いの渦の中にいたおれは、今この街でビールを飲む、なんてことは考えてもみなかった。朝からの濃密な一日を思えば、今ビールを飲んだらさぞかし美味いことだろう。それでも、慣れないこの街で、今、目の前にいる男だってまだ信用できるかどうかわからない、そんな中で酔っぱらうなんてことがあってはならない、  はず、  だった、
  が、 『ビール』 と言われて一瞬、頭の中で思い描いてしまったグラスの中で泡立つ黄金色の液体、おれはその誘惑に抗うことはできなかった。

『そ、そう、だね、じゃあボクはビールをもらうよ』
『OK!』

 男は店員にチャイとビールを注文した。すぐにチャイとビール、グラスがテーブルに運ばれた。男はおれの目の前のグラスにビールを注ぎながら言った。

『ボクはラーム、と言うんだ、キミは?』

『ボクは…、コヘイジ…』

 ラームはどうぞ、というようにグラスの前に手の平を差し出した。あああ、ビール…、今日ビールを飲めることになるなんて思いもしなかった。おれはグラスのビールを一気に飲み干した。

『ウマイ!!』

ラームは2杯目のビールを注ぎながら続けた。

『ところで、キミは今日のホテルを決めているのかい?』
『……、』

 おれはK君とのいきさつをラームに話した。ダッカで知り合った友人と、別の便でこのカルカッタへ来たこと、Sホテルで待ち合わせをしていること、後から着いたおれがSホテルへ行かなくてはならないこと…。

『Sホテルだって!? あそこはダメだよ、ドラッグや売春の仲介をしている良くないホテルだ』

 え?

 おれは少々驚いた。Sホテルは地球の歩き方に出ていたホテルだ。口コミの評判も上々、値段も安宿の中では中堅、心配なさそうなホテルだと思って待ち合わせ場所をそこにしたのだ、なのに良くないホテル?

  
 『地球の歩き方』は、これまでにない画期的なガイドブックだった。特におれたちのような貧乏旅行をしよう、それも一人で、というような連中にとっては大変ありがたいものだった。普通のガイドブックには出ていない安宿、食堂、土産品、危ない体験談などなど、とても役に立つ情報が載っていた。だが反面、危険な場所を推奨しかねない、との批判もないではなかった。だからおれは、ラームがそう言うのもあり得ない話ではないのかもしれない、と思ったのだ。しかしそうであればなおさら、K君にそれを知らせなければ!

 『大丈夫だよ、今日来たばかりの日本人にいきなりそういうものを紹介したりはしないから、それより、こんな夜になってからキミがそこへ行くことは、ボクはあまり勧められない、どうだろう、せっかく知り合ったんだし、明日、昼間の明るいうち、ボクが市内を案内してあげるから、その前にSホテルへ連れて行ってあげるよ、だからキミには安全で清潔なホテルをボクが紹介するから、今日はそこに泊まるといい、一泊150ルピー、それ以上お金はかからない。』

 おれは少し考えた。まだこのラームという男を完全に信用しきれてはいない、かと言って、今ラームの提案を断れば、おれはまたあらためてあの喧騒と混沌、ポン引きと物乞いの渦の中に放り出されることになる、Sホテルを探そうと思えば、またあのスケートボードじいさんのいる暗い路地を引き返すことになる…、ただでさえビビりまくり、そのくせビールなんか飲んでしまったおれには少々荷の重いことに思えた…。


 
 『OKラーム、キミにお願いするよ、よろしく』
『そうか!よし、それなら早速ホテルへ向かおう!』

 おれはグラスに残ったビールを喉に流し込み、ラームに続いて店の外へと出たのであった。



****************つづく

※注Calcutta(カルカッタ) → 現Kolkata(コルカタ) 記事は30年近く前のできごとです。また、画像はイメージです

令和元年 今の自分自身の感想
なぐり書きのような日記を、一応の文章にしていくというのは、思いのほか、なかなかに楽しいことです。ただ、自分としては今回もう少し後のできごとまで書きたかったのですが、ここまでで結構な文字数になってしまいましたのでまた次回ということで。このままですと帰国まで結構長くかかりそうです。時折別な記事などを書きながらゆっくりやって行きたいと思います。最後までお付き合いいただければ幸いに存じます。





 
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インド放浪 本能の空腹 ④ 『サダルストリート』

2019-11-08 | インド放浪 本能の空腹


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30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記からお送りいたしております

今回は

インド放浪 本能の空腹 ④ 『サダルストリート』


*******************

『Sudder Street(サダルストリート)…。』

 運転手は車を止めた。
 どうやら着いてしまったらしい…。
 大して広くもない通りであるが、喧騒と混沌が渦巻いている。
 
 止まるやいなや、おれの乗ったタクシーは数人の男に取り囲まれた。

 『☆※◆✖▼△¥%★
 『☆※◆✖▼△¥%★
 『☆※◆✖▼△¥%★


 開いているドア窓の向こうから、男たちはおれに向かって何か喚いている。早速始まったようだ。ここに着くまでに見た凄まじい喧騒と混沌に泣きそうになっていたおれは、着くやいなやこうして取り囲まれてしまい、相当に怯んでいる。

 『☆※◆✖▼△¥%★
 『☆※◆✖▼△¥%★

 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL


 『ん? ホテル?』

 そうか、こいつらは皆どこかのホテルのポン引きなのだ。旅行者をホテルまで案内し、そのホテルから手数料か何かをもらっているのだ。ガイドブックに出ているホテルでボッタクられる典型的なパターンだ。

 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』

 だが怯んでいてこのままタクシーに乗っているわけにもいかない、意を決し外へ出ようとすると、運転手が声のトーンを一段下げて、まるで脅すかのようにおれに言う。

『C hip!』

 外の男たちまで運転手に金を払え!と喚いている。こういうことを避けたかったから空港のタクシー予約所で金を払ってきたのに…。
こんなことではいくら金があっても足りない。

『空港で金は払った!』

外で喚いている男に伝えると
『空港で払ったのか、それならばOKだ、降りろ』
と言って一人の男がドアを開けた。おれは荷物を肩に担ぎ車を降りた。降り際に運転手の舌打ちが聞こえた、ような気がした。

 外へ出たら出たで、車を取り囲んでいた男たちに、今度は直接取り囲まれてしまった。

 内心相当にビビりながらも、おれは努めて冷静を装い辺りを見回した。
 わからない…、一体おれがサダルストリートのどこに立っているのかわからない…。地球の歩き方のサダルストリート付近の地図が出ているページに人差し指を差し込み右手に持っていたが、開くことができない…、こんなところで地図なんか開いて見ていたら、それこそオノボリさん感丸出しである、道がわからなくて困っている感満載である、よけいにポン引き達を引き寄せてしまうだろう。

 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』

 とにかく、まずはインド博物館だ、そこまで行けば自分がどこにいるのかがわかる、そしてそこから歩けばK君が待っているSホテルまでは、一度右に曲がるだけでたどり着けるはずだ。とにかくおれは歩き出した。

 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』

 ポン引き達もおれにまとわりつくように歩き出す、しつこい、しつこいしつこいしつこい!
 試しにポン引きの一人に、インド博物館はどこかを訊いてみたが、『インド博物館はもう閉まっている、行きたいのなら明日にしろ、それよりおれのホテルへ来い!』 

 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』

 全く無駄であった。

 『No thank you!』『No thank you!』『No thank you!』

 どうにかポン引きたちを振り払おうとひたすら『No thank you!』を繰り返し、おれはどこに何があるかもわからず歩いていく。

 『Money…』

 
 ポン引きたちだけではない、日本からのオノボリさんを見つけた物乞いたちも動き出す。右から左から手が出てくる。

 『Money…』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『Money…』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 
 もう何が何だかわからない…、おれは今どこなのだ、少しだけ地球の歩き方を開いてみる、だめだ、さっぱりわからない…

 おれはこのような場面を想定して、金持ちに見えないよう、自分なりになるべく汚いシャツを着て来ていた。インドへ旅立つ直前までやっていた、遺跡の発掘のアルバイトの作業着にしていたものだ。洗濯しても落ちなくなった泥や土の付いた汚いシャツだ。だが、布きれ1枚腰に巻いただけの、裸同然のような連中がたくさんいるこの街では、なんの効果もないのであった

 
 『Money…』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『Money…』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』

 前方から小さな男の子を連れた女の物乞いが近づいてくる、手を引かれている子供の顏を見たら、両目が奥へくぼみ、小さな白目だけでおれを見つめている。

  『No thank you!』『No thank you!』『No thank you!』

 おれの頑なまでの『No thank you!』に、何人かのポン引きと物乞いが諦めて戦列を離れたが、新たに加わる者がいるのでその数は減らない。

 とにかく一度落ち着きたい、落ち着いた場所でゆっくり地図を確認したい、だがそんなことができそうな場所はどこにもない

 
 『Money…』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』
 『Money…』
 『☆※◆✖▼△¥%★ HOTEL!』

 おれは思わず逃げるように細い路地を右に折れた。薄暗い路地だった。道の両側にうなだれるように座っていた物乞いが一斉に
『Money…』
と手を出してきた。その内の一本の手には、指がなかった。すべての指がなかった。まるで溶けた蝋のようになっている。
 らい病を患った人たちが多いと聞いていた。そんな風に足や手を失った人がカルカッタには大勢いると聞いていた。マザー・テレサの死を待つ人々の家はこのカルカッタにある。

 前方から子供ほどの背丈の者が近づいてくる… 子供…?… いや子供ではない…、 長い白髪と髭の老人だ。両足のない老人だ。それも付け根から両足がない、だから一瞬下半身がないように見えた。その老人が、手作りのスケートボードのようなものに乗り、杖のような長い棒で、船を漕ぐようにやって来て、『Money…』と手を出した。
 おれは、悲鳴を上げそうになった、が飲み込んだ、と言うより、もう声も出なかった…。

 どうにかその路地を切り抜け、少し開けた通りに出た。サダルストリートよりは少し落ち着いている感じがした。ここならば地図を広げられるかもしれない、いや、もうとにかく地図を広げるしかない。おれは立ち止まり、再び意を決して地球の歩き方を開いた。すぐにだれかが声をかけて来たが無視して地図を睨んだ。
 何か、目印になるもの…、ん…? 消防署? 消防署ならばさっき見えた!サダルストリートをポン引きたちを引き連れ歩いているとき、確かに見えた、数台の消防車が止まっていたのを!だがわからない…、あまりに目まぐるしいポン引きと物乞いの攻勢に、どっちの方に消防署が見えたのかわからない…。

 『Any problems?』

また誰かが声をかけてくる。

『No thank you!』

『君は困っているように見えるよ…』

『No thank you!』

『ボクはね、日本に行ったことがあるんだよ…、サイタマだよ…』
『埼玉!?』

 思いがけないローカルな地名を聞いておれは思わず顔を上げた。
 そこには、これまでおれにまとわりついて来たポン引きや物乞いとは違った、清潔そうな服装の若い男が立っていた。

 さて、この男は一体…、凄まじい喧騒と混沌の街で、次々と現れるポン引きたち、どうにかかわしたと思ったところで現れた男…

 それは次回でまた

*****************続く
※注Calcutta(カルカッタ) → 現Kolkata(コルカタ) 記事は30年近く前のできごとです。また、画像はイメージです

令和元年の今、自分の感想
この時の日記を読み返してみますと、ほんとビビッてたんだなあ、と言うのが伝わり笑えます。私はこの6年後に再びカルカッタを訪れていますが、物乞いの人たちはずいぶん少なくなっていたように感じました。それについて、あるインド人からとんでもない話を聞いたことがありましたが、それはまた日記の中で


 

 
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思わず笑ってしまったニュース 韓国私費旅行促進 愛媛知事「何が問題なのか」有識者「職員の忖度問われる」

2019-11-07 | 思わず笑ってしまったニュース



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こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

本日はインド放浪記はお休みで

ちょっと気になるニュースを見ちゃったものですからご紹介

毎日新聞ニュース

韓国私費旅行促進 愛媛知事「何が問題なのか」有識者「職員の忖度問われる」

以下引用

愛媛県が松山―ソウル線の搭乗率を上げるため、部局ごとの目標人数を示して私費での韓国旅行を職員に促していた問題で、中村時広知事は5日、「何が問題なのか分からない。県民の皆さんにソウル線の利用を呼びかける我々が汗をかくということが大事だ」と述べ、ノルマやペナルティーはなく問題はないとの認識を示した。定例記者会見で質問に答えた。有識者からは「忖度(そんたく)の問題。職員も問われている」との指摘も出ている。【花澤葵、木島諒子】

中村知事は記者会見で「チェジュ航空と信頼関係を積み重ねて運航していることを、職員は知ってくれていると信じている。仲間の部局が苦境であるならば行ける人が行ってくれたらいい。それだけの話」と説明。「目標人数を掲げることは当たり前」と述べた。

利用予定者数を各部局から国際交流課に報告させたことについては「全体の人数を把握するため」とし、「強制ではなく、ノルマもペナルティーもない。税金を使うわけでもない。これで行き過ぎだと言われたら何もできない」と述べた。

1995年にアシアナ航空が就航したソウル線や、2004年に中国東方航空が就航した上海線の利用者の低迷が続いた際も、同様に職員に利用を呼びかけたという。

福知山公立大・富野暉一郎副学長(地方行政)は「微妙なケース。忖度の問題でいろんな所でありうる。組織文化をチェックする非常にいいケースだ。職員の主体的な判断や行動をしっかり認めるような組織かどうかを判断する『リトマス試験紙』になる。職員も問われているのではないか」と指摘する。

松山大法学部・妹尾克敏教授(地方自治法)は「過去にアシアナ航空が撤退した例を考えると非常に涙ぐましい努力だと思う。県職員はもちろん『(飛行機を)飛ばせ』といっていた経済団体も全面的な協力すべきだと思う」と肯定的な見方を示した。

ソウル線は、日韓関係の悪化の影響を受け、今年7月まで80%以上だった搭乗率が9月には63%にまでダウン。県国際交流課は10~12月に搭乗率10%増分として660人の目標を立てて各部局に割り振り、利用予定者数を報告させていた。部局ごとに数字を示し、利用予定者数を報告させる点について有識者からは「やりすぎだ」との指摘が出ていた。


引用ここまで




『強制ではなく、ノルマもペナルティーもない』



組織のトップからの指示で

『目標人数を掲げ、実績、または予定の数の報告をさせる』

世間一般的にはそれをノルマと言うのではないのかい?



松山―ソウル便の就航のプロセスとかを知りませんので何とも言えませんが…

その利用者が減っている…

それは単純に、今、韓国へ行きたいと思う人が少ないってことで、行きたくない、って人に汗までかかせて

まあ、個人的には好ましかないなあ、と思います



御免!







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インド放浪 本能の空腹③ 『市街へⅡ』

2019-11-05 | インド放浪 本能の空腹


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『インド放浪 本能の空腹 ③ 市街へⅡ』をお送りいたします

その前に、インドの最もポピュラーな乗り物をご紹介します



サイクルリクシャ

3輪自転車に座席をつけた乗り物です

『リクシャ、リキシャ』と言われ日本の『人力車』が語源だと聞いております

リクシャにはこの他文字通り人力のみで引くものもあり、カルカッタではよく見かけました



その他バイクに屋根つき座席をつけたオートリクシャもあります

街には非常にたくさんのリクシャが走り回っているのをイメージしながらお読み頂けると幸いです


では、日記より

******************************

 日本を発つ前に、成田で空港職員から、外務省からの注意書きのような書面を渡された。

 『インドを渡航する際の注意事項』

 ・カシミール地方では宗教上の対立が続き、テロなどが頻発しており、渡航は自粛してください。

  このことはおれもすでにわかっていた。だから行くつもりもない。

 ・カルカッタ、サダルストリート付近ではドラッグ、売春などの勧誘が多くそれに関連したトラブルや詐欺などが頻発しており、多数の邦人旅行者が被害を受けておりますので注意してください。

 大体そんな内容だった。

 『サダルストリート(Sudder Street)』
 
 は、さほど広くも長くもない小さな通りだが、激安の宿泊施設が多数ひしめいており、インドを旅する各国のバックパッカーにはちょっと有名な通りなのだ。
 おれがK君と待ち合わせを約束したSホテルも、地図によればこの通りから路地を少し入ったところにあった。

 外務省の注意書きを見るまでもなく、このサダルストリートには、マリファナ、売春、怪しげなホテルなどのポン引き、の他、物乞いも多数いることはガイドブックにも出ていた。だが、それを注意しろと言われても、なにしろ初めての街だ。タクシーでサダルストリートまで行ったとして、どこで降ろされたのかがわからなければ、そんな連中の蠢く場所で迷子になる危険がある。だからおれは、付近の地図を食い入るように見つめ、いきなりサダルストリートの中へは入らず、通りの入り口付近で降りられるよう、何か目標物にできるようなものを探していたのだ。

 『インド博物館』

 サダルストリートを縦線に、T字に交差する大通りに面してインド博物館がある。地図からでもなかなかに大きな博物館であることがわかる。
 これだ、このインド博物館を起点に歩き出せば、Sホテルまでは途中一度右に折れるだけでたどり着ける、ここしかない!

 そう考えておれは、タクシーの予約所の男に

『Indian museumまで』

と言ったのだ。
 なのに男は
『Indian museum?、OK、Sudder Street… 』
そう言って予約票のような紙切れに『Sudder Street』と書き込んだ。
『No,No,No,No…, I'd like to go to Indian museum 、Not Sudder Street!』
『Haan!?、Indian museum on Sudder Street!!』

 そんなことはわかっているのだ。わかっているが、サダルストリートの深いところではなく、入り口付近で降りたいのだ。

『I, I…、 get out of a taxi…、entrance of Indian museum.』

 予約所の男は、呆れてめんどくさそうに、入国審査官と同じようにアゴをぷいっと横に振り、『Sudder Street』と書かれたままの予約票を脇にいた若い男に渡し言った。

『60rupie!』

 おれは諦めて60ルピーを支払った。
 おれが金を支払っている間に、予約票を受け渡された若い男は、おれの荷物を肩に担ぎ、ついて来い、と言う仕草をしてさっさと歩きだした。

 空港の出口から外へ出る…。
 いよいよおれのインドの旅が、いやおうなしに始まるのだ。

 空港の前には多くのタクシーが列を作り…、いや、列なんか作っていない、たくさんのタクシーがそこに、無秩序に群れている…、そんな感じだ。
 若い男はその群れの外側の方に停車していた1台の黄色いタクシーまでおれを案内し、荷物をトランクに入れるかを尋ねてきた。おれはその必要はないことを伝え、荷物を受け取り、開けてくれた扉からタクシーに乗り込み運転手に告げた。

『Indian museum…』
『OK、Sudder Street』

 無駄なようだ。

 開け放たれた窓の外から、たった今荷物を運んでくれた男がニコニコしながらおれを見つめている…

 『Hey,President…、Chip…、Please…、』

 やはりそう来たか…、まあ、荷物を持ってくれたのだから仕方ない…、勝手にだけど…。
 おれはどうもこのチップというのが苦手だ。いくら渡せばよいのかわからない…。少な過ぎてケチな日本人だと思われるのも少し嫌だ。おれはたった今両替したばかりの紙幣から20ルピーを取り出し、窓の外の男へ渡した。

 『Thank you President! Have a nice travel!』
 
 男は嬉しそうに去って行った
 この時渡した20ルピーというのが、チップとしてはかなり高額である、ということがわかるのはまた先の話である。

 いよいよタクシーは走り出す。
 空港の周りは、まだダッカで見たような喧騒も混沌もなく、だだっ広い空き地に、煤けて今にも朽ち果てそうなビルがぽつぽつと建っている。インドでもバングラデシュでも、およそ近代的な洗練されたようなビルは見かけない。大体が煤けて朽ち果てそうなビルばかりである。
 走り出すとややも経たないうちに辺りは暗くなった。
 夜だ。
 暗くなるのに合わせ次第に人や車が増えてくる、ビルなどの建物も増えてくる、増え始めたかと思うと、あっという間にダッカで見たような、いやそれ以上の喧騒と混沌の世界へ包まれていく。

 人!車!バイク!
 人!車!バイク!
 人!車!バイク!

 おそらくは3車線ほどの幅の道路に、次々と車が、バイクが、けたたましいクラクションを鳴らしながら割り込み割り込まれを繰り返し、無理やり5列ほどになって今にもぶつかりそうになりながら走っている。
 こんなにも無茶苦茶な交通量でありながら、信号一つ見かけない…、大きな交差点では車やバイクが警戒しながら、徐々に進出し、右へ左へ曲がって行く。
 道の端には多数の人、歩いている人、寝ている人、しゃがんで何かを煮炊きしている人、人、人、人!煮炊きしている煙と匂いが街に満ち溢れている。

 人!車!バイク!
 人!車!バイク!リクシャ!
 人!車!バイク!リクシャ!

 喧騒と混沌はとどまるところを知らない…

 人!車!バイク!リクシャ!
 人!車!バイク!リクシャ!犬!
 人!車!バイク!リクシャ!犬!

 薄汚れて痩せた野良犬もさまよっている…

 『うおーーーーーん…、うおーーーーーん…、うおーーーーーん…、』

 なんだ?

 何か怪物のうなり声のようなものが空から聞こえてくる。いくらインドだからと言ってそんなことはあるはずもないのだが、確かに聞こえてくる。

 『うおーーーーーん…、うおーーーーーん…、うおーーーーーん…、』

 あちこちの店や屋台から、独特の音階のインド音楽が大音量で鳴り響いている、それらの音楽が、ひとまとまりになって、まるで空から響いているように聞こえているのだ。

 人!車!バイク!リクシャ!犬!
 人!車!バイク!リクシャ!犬!羊!牛!
 人!車!バイク!リクシャ!犬!羊!牛!

 
 夥しい数の車やバイク、リクシャが行き交う大通りを、腰に布を巻いた羊飼いの男が、やはり薄汚れた十数頭の羊を引き連れ横断している。

 もう滅茶苦茶だ…。

 けたたましいクラクション、大音量のインド音楽、人々の大声、さまざまな音までもが、人、車、バイク、リクシャ、犬、羊、牛、それらとともに入り乱れている。

 ある人が、このカルカッタの街を評して言った言葉が地球の歩き方に出ていた。

 『都市文明化の失敗作の街』

 きっとそんな言葉も生ぬるい…。

 おれはなんだか頭がくらくらしてきた。

 あと十数分もしたら、おれはこの喧騒と混沌の渦の中に放り出されるのだ…。

 『無理だ…、この街を一人で歩くのなんて、今のおれには無理だ…。』
 
 ガイドブックには、初めてインドに行く日本人で、このカルカッタから入るとあまりの衝撃にホテルから一歩も外へ出られないような人がいる、と出ていた。おれもきっとそうなるに違いない…。

 おれはなぜだか謝りたくなった…。
 誰彼かまわず謝りたくなった…。

 ごめんなさい…

 ごめんなさい

 ごめんなさい、ごめんなさい!

 もう言いませんから…

 二度と言いませんから…

 インドへ行きたいなんて、そんな生意気なこと、二度と言いませんから!

 帰らせてください…、日本へ!

 後部座席の日本人が、今にも泣きそうになりながらそんな意味不明の謝罪を心の中で繰り返しているなどとは露程も思わず、おれをカルカッタの奥深くで放り出すために、ちょび髭のタクシー運転手は鼻歌を歌いながら車を走らせるのであった。


***************** つづく


※注Calcutta(カルカッタ) → 現Kolkata(コルカタ) 記事は30年近く前のできごとです。また、画像はイメージです

これまでこの旅を20数年前、と言ってましたが、自分の歳を考えると『30年近く前』と言った方がより正確でした。ある程度歳を重ねますと自分が何歳かすっかり忘れてしまうことがありまして(笑) 


コメント (6)
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