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画像引用元
(そうだ、世界に行こう インドの田舎村でホームステイしたらカルチャーショック祭りだった )
インド放浪 本能の空腹⑬ 『オーズビーに連れられて』
前回、超満員の夜行列車で、押し合いへし合いどうにか一晩かけてやって来たプリー、その南国情緒あふれる静かな田舎の街並み、オーズビーのスクーターに二人乗りして風を切り走り出す、カルカッタとは天国と地獄ほどの差を感じる、プリー、にすっかりご満悦な私、というところまででした
では、続きをお読み頂ければ幸いです
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閑散とした駅前からの一本道を南へ向かう、朝食(時間的に昼食?)の前に海を見に行こうとオーズビー、軽快にベスパもどきのスクーターを加速させる。
道の両側には広い湿地のような空き地や、地震や台風が来たらひとたまりもなさそうな掘立小屋がぽつぽつと建っている。
海にはすぐに着いた。
『海だ!!』
思わず叫ぶ言葉としては、これ以上浮かばないほどの真っ青な海! 白い砂! 左右遠くまで広がる海岸線!!
美しい海だ!
だが、もちろん海水浴客などで賑わってはいない。右側、おそらくは西、には、観光客らしきまばらな人影が海岸におりているのが遠くに見える、左側、おそらくは東、には、木端舟のような長細い小型の舟が無数に海岸に並んでいる。
それにしても美しい海だ、日本では沖縄、おれの住んでいる関東近辺では西伊豆の岩地や、南伊豆の弓ヶ浜のような美しさ、だが広さが違う、海好きのおれは、水中眼鏡を持って来なかったことを少し後悔した。
美しい海ではあるが、賑わいがないので少し寂しげでもある、夏休みの終わったばかりの海岸のようだ。
『ワタル、ワタル!』
オーズビーが目の前の海に向かって手を広げ何かを言っている。
『ワタル、ワタル!』
ワタル、ってなんだ?
おれたちの立つすぐ横に小さな流れ込みがある、ここを渡る、って日本語で言っているのか?さっぱりわからない。
『ワタル!ワタル!…☆※◆✖、…in Japanese? ワタル!ワタル!』
『…、ワタル?、日本語で?… ワタル、ワタル…』
とここでふとインド人はRをそのまま発音するのを思い出す。
『ワタル…、ワタル… ワター…、ワター…、 …
Water!!!』
なるほど!それでさっきからオーズビーは海に向かって手を広げていたわけだ。だがそれならwater、ではなくseaだろう、日本語で教えるにしても大きく意味が違ってしまう。
『Ah… Are you talking about a sea?』
『Yes!Yes!』
それならば、と、おれは海に向かって大きく手を広げオーズビーに言った。
『This is a
UMI!!!』
『UMI?』
『Yes!
うみ!!!』
『ウミ!!!』
オーズビーも嬉しそうに『ウミ!!!』と叫ぶ。
おれたちは再びスクーターにまたがり来た道を戻る、途中2階建てのコンクリート造りの小さな建物の小さな敷地へと入った。建物の前には開けっ広げのヤシの葉でできた掘立小屋が建っている。オーズビーはそこでスクーターを停めおれを促す。
掘立小屋にはみすぼらしいテーブルと椅子がある、ここで食事をするらしい。
掘立小屋の奥は小さいながらも厨房になっているようだった。オーズビーは奥にいる痩せた無愛想な店員に何かを告げる。ほどなくして運ばれてきたのはシンプルな卵焼きだった。
『食べよう』
オーズビーはそう言って皿に盛られた卵焼きを直接手づかみで口へ運ぶ、おれも倣って手づかみで口へ運ぶ。 美味い…。
そう言えば昨日の夜もあの二等車でぎゅうぎゅう詰めにされたまま何も食べてはいなかった。おれの森進一まで飛び出したあの15万の狂宴以来だ。
『コヘイジは酒を飲むのか?』
え? 酒?
またしても酒、だれだ、インド人はあまり酒を飲まないとか言っていたのは。
『飲みたいならそこが酒屋だから、50ルピーくれればボクが酒を買ってくるよ』
そう言ってオーズビーは背後のコンクリート造りの建物を指す。
ラームのように何でもおごってくれるわけではなさそうだ、おれとしてはその方がありがたい、だからと言っておれがおごる道理もないのだが、まあ今夜は家に泊めてもらうし、こうしてバイクにも乗せてもらっている、おれは気にすることもなくオーズビーに50ルピー手渡した。
オーズビーは見たこともない銘柄のウイスキーの小瓶を買ってきた。それを薄汚れた2つのグラスに注いだ。
そして… それからなんと!
そのウイスキーの注がれたグラスで、すぐわきにあった甕に貯めてある水を掬い水割りを作ったのだ!
おひおひ!! それはだめだろう!!
インドを一週間以上旅をして下痢をしない日本人はいない、と聞いていた。このころ胃腸には多少の自信のあったおれでも、水道の水などを口にはしないよう気を引き締めていた、なのに水道どころか、甕の水!!!それはいくらなんでも無理だろう、百発百中だろう。
『オーズビー、その甕の水はボクには飲めない』
と言ってみたが、オーズビーは不思議そうな顔をしているばかりだ。ペットボトルの水も切らしている、そこらにある屋台に買いに行こうかとも思ったが…。
まあいいか! めんどくさいし! アルコールがきっと消毒してくれるだろう!
おれはそれ以上何も言わず、グラスの水割りをグイッと喉に流し込んだ。
美味い…。昨晩の過酷な旅の疲れもあったろう、五臓六腑に染み渡るとはこのことだ。
それから1時間ほど、その掘立小屋で酒を飲み、まあ飲酒運転なんて関係ないのだろう、再びスクーターに乗りオーズビーの家へと向かった。
さて、プリーでの初日、一体どんな一日になるのだろう。
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甕の水を汲んで差し出されたときはさすがに驚きましたね。いや、彼らにとっては何でもないことなんでしょうけど、日本から来て間もない私には流石に…。でこの後のことですが、私はインドで一度も下痢をしておりません! 野生児か!!
※注Calcutta(カルカッタ) → 現Kolkata(コルカタ) 記事は30年近く前のできごとです。また、画像はイメージです。引用元を提示している画像はご了承を頂き掲載しております。 その他は無料画像です。