風の記憶

the answer is blowin' in the wind

映画 『 山桜 』

2009-01-10 | 

 

 

映画『山桜』を見ました。
封切りは昨年の5月だったのですが見に行けず、12月24日のDVD発売を予約して買ったのですが、年末は忙しくてお正月休みでやっと見ることが出来ました。
私にとっては、巷の評判以上に、とても素晴らしい映画でした。

この映画『山桜』は同名の原作が『時雨みち 』(1981年青樹社、1984年新潮文庫)に収録されており、私は未だ読んだことがありませんでした。
昨年、映画化になると聞きつけてさっそく購入してじっくり読んだのですが、これがとても素晴らしい。(^^)
端正で品高い文章、美しい風景描写、温かい視線の人物描写、そんな藤沢小説のエッセンスが約20頁あまりの短編に見事に咲いていました。

そんな原作の映画化ですので、とても楽しみにしていたのですが、期待を裏切らない素晴らしい出来だと思いました。

藤沢さんのご長女である遠藤展子さんが「まるで父の小説を読んでいるような錯覚を覚える映画でした。本のページをめくるように父の原作の映画を観たのは初めての経験でした。」と感想を述べておられるとおり、まさに藤沢作品を読んでいるような詩情豊かな映画です。
決して声高にならず静かで淡々とした流れの中に、凛と真っ直ぐに立つ人間の気高さ、美しい北国の風景描写と人々の心情、そして少ない台詞の行間に溢れてくる美しい日本人の心。

東山紀之さん演ずる手塚弥一郎はほとんど台詞がありません。しかし、その無言で在ることの存在感、立ち居振る舞いの美しさ、そして殺陣の潔さが実に見事です。

藤沢さんの小説には必ず魅力的な女性が登場しますが、この映画でも女性がとても魅力的です。
野江を演ずる田中麗奈さんはもとより、野江の母親役の壇ふみさんの微笑みの温かさ、「あなたはほんの少し回り道をしているだけなのです」と言う台詞に、娘の気持ちを思いやる優しさが溢れています。
それと、ラストシーンの手塚弥一郎の母親役の富司純子さんが実に素晴らしい。
全てを肯定して包み込んでくれるような優しい微笑み。小説では野江のこのときの心情を「取り返しのつかない回り道をしたことが、はっきりとわかっていた。ここが私の来る家だったのだ。なぜもっと早く気づかなかったのだろう」と表現していますが、映画での富司純子さんにはこの野江の今までの思いや苦労、後悔、そういった全ての時間を肯定して迎え入れてくれている温かさが感じられました。
自分の全てを肯定してくれるような温かさに、野江は泣くのです。 その涙の美しいこと・・・。

そして映画はここで終わります。物語は最後、はっきりとした結末は示しません。
しかしこの先にどのような結末が待ち受けていようとも、彼らは自ら選び取った人生を決して後悔はしないだろう、という確信を残して映画は終わります。
この終わり方も実に見事な幕切れだと思います。

慎ましく控え目で、それでいてまっすぐな恋の物語、そして、この静寂の中に凛として佇むような感覚、久しぶりに日本の心の美しさと繊細さを感じさせてくれる素晴らしい映画に出会った、と感じています。


「山桜」の花言葉は、「あなたにほほえむ」そして「気高さ」です。





山形県遊佐町杉沢




山桜 [DVD]

バンダイビジュアル

このアイテムの詳細を見る




にほんブログ村 写真ブログ 風景写真へ

にほんブログ村 写真ブログへ 




コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする