蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

2007年冷たい宇宙第7部(転生の秘儀)をHPに掲載

2009年11月10日 | 小説
転生の秘儀とはなんとパン種に丸め込むのだと。

ジゾウの操るささ舟で多摩の朝川はとある地先に岡揚がりした若宮。焼き鳥主人のサブロの案内を受けて転生の場、安休斉の降霊道場にたどり着く。しかし安休斉は霊感が効く、ジゾウと若宮の気配を察知し、おのが降霊させたサクラ親王の霊かと喜びその姿を追跡する。逃げるジゾウ若宮、道場は霊と安休斉とのチェース場となった。以下は本文から、
=安休斉がジゾウと若宮の後を追う形になった。股下をくぐり抜けたあと廊下に出た霊二人は、這い蹲いのまま足音立てずにひたすら静粛に居間に向かう。
「痛い、膝がうごかない」若宮は痛む右の膝をおとし、四つん這いで停まってしまう。そこをジゾウが手を引いて
「ホレもう少し、あと一,二メートルだよ。ずりくり歩きで這い進めばいいのだ」
と励ます。安休斉の霊カメラがもう射程に入ってくる。中腰で追いかける安休斉の後ろから肩越しに覗きこむミドリ。この霊チェースに思わず「林太郎がんばれ、あと一メートル、もう五十センチで入口だ」とエールを送った。しかしそろり中腰歩きの安休斉が追いついた。「オッツ見えたぞ。この先に何者かがいるようだ、あーあ、消えてしまった、ではもっと近づこう、ほれ今見えたけどまた消えた」
元々霊なので見える訳がないのだ、しかし無機質のランタンガラスが無機の光線を結び、無機質のCCD結晶の上に像を結ぶ。さらに安休斉の丁寧な穢れ祓えで、有機質的汚濁、雑念が一切取り払われたデジタルカメラとなった。
そして街頭除霊では、肉眼で視認できない物体を幾度か確認したのだ。安休斉は「あの茫洋とした影が霊の実態なのだ」と信じている。ただし探知能力はすこぶる低い。
いま安休斉の道場、狭苦しく動くのも不自由な中で霊カメラの透視で霊を捜すのは、旧型のイラクレーダーがナジャフ砂漠上空で、ステルス戦闘機を追跡しているのと同じ条件である。偶然に最適な照射角度が機体を捉えると、ディスプレイ上チラリと光芒が一点映りすぐ消えてしまう。その後も見たり見えなかったりでノイズに埋もれてしまる=

安休斉は撮影こそ断念したが、透視でジゾウを視認した。しかし坊主頭に革ジャンパー姿のジゾウにがっかりする。「サクラ親王が現代化したのか、そんなはずはない」と。そこで優先順位の二位であった良子の降霊を一位に繰り上げた。
=今や良子は半裸体、しかし神の前である。何が恥ずかしくある物か。お前は儂の子、儂はお前の親じゃ」と手間勝手の屁理屈を呟きながらながら良子の尻に後ろ向きに乗っかり、茨と薊の幣を振り「たすけたまえ」でばしりと尻を撲つ。
「ヒャー安休斉、これは効きます、=中略=「良子のお前身体は女体の形態をほどよく形出している。成熟した女体である。膏混じりの肉が丸く張り、その胸の相丘は一の掌でようやく隠せるほどよい大きさ、臍からの下腹は丸く突出しているな。=中略=黒い茂みからはにじみ出る汗と脂の入り交じる臭気が漂う。ああ、なんていい臭い、儂もくらくらしてきた」
安休斉の良子の体評価を聞いて、ジゾウはいつの間にかその醜態の真横でくっつかんばかりの近さで見学始めた。まるで浅草ロック座のかぶりつきだ。そして
「早くしろ、もうすぐだぞ、宇宙予定の時間ではあと二分、安休斉は喋るのが多く実行に素早く行かないのが欠点なんだ」と、これは八つ当たり。
 全一九頁(原稿用紙で六二枚ほど)です。一気に立ち読み下さい。

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