蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

神話学裸の男フィナーレ終楽章について 5

2020年05月19日 | 小説
(2020年5月19日)
イシス神話に立ち戻ろう。ホームサイトで「裸の男」神話学第4巻を読む(2019年11月15日掲載)にて粗筋を紹介しているのでご参照を(検索Index頁から部族民サイト内検索のボタンを押すとGoogleEnhanced頁に入ります)。
レヴィストロースは神話(M529)紹介の後M1神話との共通性を解説している(本書30頁)。
1 近親姦が発端
2 バイトゴゴ、イシスともに「きらびやかな偉丈夫」の意味
3 岩壁に孤立(イシスは巨木に取り残され)
4 ハゲワシに一旦殺される(イシスは死の直前まで衰弱)
5 ジャガーに助けられる(イシスは蝶姉妹に)
6 村に戻り父と母を殺す(新たな世界の創造)、一方イシスも村に戻り義父を殺すが世界創造譚には結びつかない。

イシス神話を講義するレヴィストロース、コレージュドフランスの公開講座(1970年代初頭)ネットから採取

これら共通性を個々に見ると違いも散見する。それらを(...)として注を入れた。また1の近親姦ではM1は実母とバイトゴゴ、対してM529ではイシス嫁と義父(地霊神)かつ4世代の繰り返しとして語られる。この筋立ての複雑化は「神話から読み物Du Mythe au Roman」の一典型として理解できるからイシス嫁と義父の相姦が皮切りとなって冒険譚が始まると読める。
これらの共通性をしてレヴィストロースは「イシス神話はバイトゴゴ神話の再生reproduction」としている。この言をIdentique同一と捉える。同一であるとは神話の構成となる(1~6)。要素と筋立てにおいてidentique、同一性を持つとする意味である。レヴィストロースは第一巻(生と料理)最初に「序曲ouverture」を載せているが「神話とはarmature構成とscheme全体思想の対峙である」と説明している。するとarmatureにおいて同一であり、inverse逆立するはsignification意味合いで、それはschemeスキームとなる。
小筆は上1~6で見逃せない差異を取り出したい。それらが神話意味の逆立につながるはずだ。
発端の近親姦は両者で異なる。

写真黒板上に「Aishisyuイシス」が原板で読めるがブログ上の再掲では見にくい

イシス嫁と義父の姦淫は「近親姦」ではない。地霊神とイシスの関係がそもそも義父と養子である。ゆえにイシス嫁と義父の関係は血縁ではない。二人は制度としての婚姻を保っていた。イシスは実の兄妹の夫婦から生まれたけれど、その彼らにしても「密通」などしていない。制度として(共同ぢて生活する)婚姻関係を築いていた。一方、バイトゴゴと実母の姦淫は「密通」、ふとした過ち、出来心である。制度として共生する意志はそこになかった。
前者は制度として禁じられている、Prohibition(禁止)がその言葉である。後者の密通にprohibitionなる語は適用されない。禁忌tabooのviolation(犯し)が適正であろう。一方は制度を破り、片方は禁忌犯し。近親姦を巡る逆立と言えないだろうか。
両者とも「偉丈夫」とされる。その由来が逆立している。バイトゴゴは裸のまま(通過儀礼前なので服飾の着しはできない)放逐され死ぬ。生まれ変わって復讐してのち偉丈夫となる。イシスは成長し、偉丈夫となる。立派な服装を脱いで裸になれと義父が命じ、彼は巨木に取り残される。服飾の様(先住民はこれを人の格付けとする)が逆である。
バイトゴゴは火と狩りの技術(弓矢)を盗み人に与え、水を創造した。自身も偉丈夫に成長し、服飾コード(金剛インコの頭飾りなど)を編み出した。文化を創造したヒーローである。イシスは狩りに立派な腕前を持ち、服飾の様にも秀でていた(5人の嫁を持つから手の込んだ服を着せる)。裸に戻って遺棄され蝶姉妹に助け出された。快復の途上、ヤマアラシを生け捕り、その棘毛を用いて新たな服飾コードを生みだした。前から知る狩りの技術も蝶の村に伝えたが、己の村に戻っては養父を殺しただけで、その後に放浪する(別神話)。その村に文化を与えなかった。文化創造の逆立と言える。
神話北上説、もう一つの傍証は「神話が逆立し、意味合いは同一」の例。これをモンマネキ神話(南米Tucuna族)と月の嫁神話(北米アラパホ族)の相関を探しながら検証しよう。 続く
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