「電話の後、見たこともない3人連れの奥さんがやってきたんだ。豆腐もあぶらげもないっていうと、オカラがあるじゃない。タダって書いてあるわと気付いて3人揃ってごっそりもってたんだ。豆腐買わずにオカラだけは歓迎しないのだが」
「いつもなら手間がかからないって喜ぶんですけど」
「そのうちの一人、中年の眼鏡が店の出際に、あんたんとこ豆腐屋やめてオカラ屋にしたら、嫌み言うのだ。客商売だからワッハッハと堪えたが」
「カラ屋に徹する、今夕は、それでしか生きるツテがない」富雄くんだってこの先の道程の苦しさをぐっと抑えた。
虎の子のコロドーを載せて販売車は丘陵を走る。坂道は登り、そのハナで止まって「トウフ~」。豆腐がないからコロドーが売れまくった。残りはコロ3ドーが2の目玉になった。さあ、最後の丘陵中腹だ。イヤな予感を富雄くんは覚えた。「ト~」も終わらないうち、最初はやはりK、飛び出して転がるかの如く走り寄ってきた。言われたら言い返せばいいや、富雄くんは腹をくくった。
「遅かったな、でも来てくれるだけで許す。ホイ、豆腐だ、この陽気なら絹ごしだね。ヒッヤとしたヤツでいい、一丁くれ」
春先、湿気のないさわやかな一日だった。コロナを忘れてしまえばさらに良かった。
「すみません旦那、売り切れちゃったんで、陽気のセイだね」
仕込みに誤算、トンカツ誤りには最後までシラを切ると決めた。
「そんなら木綿ごしで妥協する、オレって柔軟性があるのだ」
「ジューナンだってぇ、気付かなかったなァ。そいつはさっきまでよういできたんですがね。あったんですがね、木綿最後の1丁がこのすぐの下で売れちまった。残念だったなァ、私も」
すぐの下…がしらばっくれ。「トオフ~」と拡声器で案内したからの豆腐屋はったりにもつながる。
「豆腐を持たないのか、なればアブラゲだ。ふっくらしたのを直火でパチパチ~ン、ちょいと炙ぶってショウガオロシをパラリと降らして醤油を垂らしてな、さらに追求すると山椒だ、掌においたら恥ずかしがるほどの若葉をハッシと叩いてフワッとのっける。粋なサカナだよ。おいらみたいな粋人にピッタシ合うね」
「スイジンですかい、そっちも知らなかった。
旦那さん、今日はゴソッとアブラゲを仕込んだんです。しかしこのところ大量に買う人が増えましたね、特に川原の辺り、そこいらでウナギ登りの評判が豆腐の尾張屋。アブラアゲ取り合戦で、ご老人、あなたは先駆けを取られてしまった」
「生揚げ」
「そいつが今日はバカ売れ、寄るとさわると皆みんな、ナマアゲ~って大騒ぎになっちまって」
「ガンモ」
「知ってますかい、ウチのガンモには他店には絶対にないネタが入ってるんです、なんとお不動ギンナン、こいつがよその店との味の違いを絶妙に演出する」
「そいつだ、3枚くれ」
「あなたは粋かも知れないが聞き分けがないお方だね。不動ギンナンなる営業秘密までバラした訳とは…」
「訳とは一体」
「売り切れって言ってるんです。店を出たとたん、郵便局の裏あたりで完売ですわ。あっちにもガンモ喰らいの粋なお方が多いって噂です」
「ウウムゥ…」
豆腐屋の品揃えをすっかり言ったからには、もはや言葉がでない。故に一旦、息を止めて富雄主任を見つめてKは、
「豆腐もアゲも何もない、それじゃ尾張屋よ、何を持ってきてるのだ」
問いつめ口調にはKの絶望が滲む。
「旦那さんにぴったりの逸品、豆腐界で注目の的、尾張屋シニセのチョー傑作」
「いいからそれを出せ」
「これですわ」ガラスの蓋を開けた。豆腐とは全く違った焦げ茶の揚げ物がそこにあった。
「なんだいこれは」
「コロとドー」
コロとはオカラコロッケ、ドーがオカラドーナツと説明をKが受けた。しかしコロドーはこの場では全くもって理不尽だ。
「豆腐屋がトーフもアブラゲも用意せず、タダのオカラを売るとは、詐欺だー」
「詐欺でも今日は、この夕は、このオッツアンの前ではカラ屋に徹するのだ」
口には出さず、しかし富雄くんは、詐欺呼ばわりに歯を食いしばって耐えた。
一方K、おカンムリの極みだが、何かを買わなければ食い物がない。気を取り戻し確かめ口調の言い振りは、
「コロはカラコロだと、それはカラ国のコロナ、カラコロナでは無いのだな、オカラを高温の油で揚げて内に含まれているコロナを絶滅させたのだな。カラコロナにあらず、オカラコロッケであれば所望いたすぞ」
残った3枚から2枚が買えた。ドーはツマミに向かないから買わずオカラを一勺貰った。
Kは奥さんと2コロッケと一皿オカラを分け合う晩餐となったとさ。

竜田川のモミジ(写真は奈良県サイトから)
♪千早ふる神代も聞かず龍田川カラくれないに水くくるとは♪(在原業平、古今集)
正統な解釈は岩波古典全集とかネットとかで調べてください。部族民蕃神の心に残る異端ながらとっても斬新な解釈は、

岩波など権威ある書房から発行される書はモミジ風景の句とする例が多い。
龍田川は関取、このところ負けが込み苦しい。チハヤ(常磐津師匠)に振られた、カミヨ(割烹仲居)に言い寄ったが聞いてくれない。食うに困って豆腐屋に飛び込んで、カラをくれと乞う。主人は「豆腐を買う人にはタダで分ける、お前は豆腐を買わないからやれない」カラくれない空腹から水に飛び込んだ。
昔からカラはタダだった。しかしこのタダを規制するとは豆腐を求めた客のみにタダ。この近代的経済原則が古今集の昔、平安時代からあったと業平が教えている。
小さん師匠(先代)の十八番だった。 了
お知らせ)部族民の香港脱出について。脱出するのはサイトのドメインです。
13日の深夜からtribesman.asiaにはIndex頁のみを入れております。Googleの動きを測ると2のクローンサイトを検索することはなく、優位サイトのみを検索結果に出す(ようです)。昨日の「お知らせ」でtribesman.netが同.asia(DSNサーバーが香港に置かれる)を訪問者数で凌駕したので、Google上は.netを優先している。よって今後は.netにのみ記事を投稿します。
サイト訪問者数が急激に伸びました。ドメイン名に安心感がある強みかと思います(記事の中身の絶賛高評価があったかどうかは今のところ不明)。
.netをGoogle検索なさる方には>人類学哲学フランス語修辞、レヴィストロース紹介<の冠語をtribesman.netに置くと確実かと思われます。
よろしくホームサイトにもご訪問を。 蕃神
「いつもなら手間がかからないって喜ぶんですけど」
「そのうちの一人、中年の眼鏡が店の出際に、あんたんとこ豆腐屋やめてオカラ屋にしたら、嫌み言うのだ。客商売だからワッハッハと堪えたが」
「カラ屋に徹する、今夕は、それでしか生きるツテがない」富雄くんだってこの先の道程の苦しさをぐっと抑えた。
虎の子のコロドーを載せて販売車は丘陵を走る。坂道は登り、そのハナで止まって「トウフ~」。豆腐がないからコロドーが売れまくった。残りはコロ3ドーが2の目玉になった。さあ、最後の丘陵中腹だ。イヤな予感を富雄くんは覚えた。「ト~」も終わらないうち、最初はやはりK、飛び出して転がるかの如く走り寄ってきた。言われたら言い返せばいいや、富雄くんは腹をくくった。
「遅かったな、でも来てくれるだけで許す。ホイ、豆腐だ、この陽気なら絹ごしだね。ヒッヤとしたヤツでいい、一丁くれ」
春先、湿気のないさわやかな一日だった。コロナを忘れてしまえばさらに良かった。
「すみません旦那、売り切れちゃったんで、陽気のセイだね」
仕込みに誤算、トンカツ誤りには最後までシラを切ると決めた。
「そんなら木綿ごしで妥協する、オレって柔軟性があるのだ」
「ジューナンだってぇ、気付かなかったなァ。そいつはさっきまでよういできたんですがね。あったんですがね、木綿最後の1丁がこのすぐの下で売れちまった。残念だったなァ、私も」
すぐの下…がしらばっくれ。「トオフ~」と拡声器で案内したからの豆腐屋はったりにもつながる。
「豆腐を持たないのか、なればアブラゲだ。ふっくらしたのを直火でパチパチ~ン、ちょいと炙ぶってショウガオロシをパラリと降らして醤油を垂らしてな、さらに追求すると山椒だ、掌においたら恥ずかしがるほどの若葉をハッシと叩いてフワッとのっける。粋なサカナだよ。おいらみたいな粋人にピッタシ合うね」
「スイジンですかい、そっちも知らなかった。
旦那さん、今日はゴソッとアブラゲを仕込んだんです。しかしこのところ大量に買う人が増えましたね、特に川原の辺り、そこいらでウナギ登りの評判が豆腐の尾張屋。アブラアゲ取り合戦で、ご老人、あなたは先駆けを取られてしまった」
「生揚げ」
「そいつが今日はバカ売れ、寄るとさわると皆みんな、ナマアゲ~って大騒ぎになっちまって」
「ガンモ」
「知ってますかい、ウチのガンモには他店には絶対にないネタが入ってるんです、なんとお不動ギンナン、こいつがよその店との味の違いを絶妙に演出する」
「そいつだ、3枚くれ」
「あなたは粋かも知れないが聞き分けがないお方だね。不動ギンナンなる営業秘密までバラした訳とは…」
「訳とは一体」
「売り切れって言ってるんです。店を出たとたん、郵便局の裏あたりで完売ですわ。あっちにもガンモ喰らいの粋なお方が多いって噂です」
「ウウムゥ…」
豆腐屋の品揃えをすっかり言ったからには、もはや言葉がでない。故に一旦、息を止めて富雄主任を見つめてKは、
「豆腐もアゲも何もない、それじゃ尾張屋よ、何を持ってきてるのだ」
問いつめ口調にはKの絶望が滲む。
「旦那さんにぴったりの逸品、豆腐界で注目の的、尾張屋シニセのチョー傑作」
「いいからそれを出せ」
「これですわ」ガラスの蓋を開けた。豆腐とは全く違った焦げ茶の揚げ物がそこにあった。
「なんだいこれは」
「コロとドー」
コロとはオカラコロッケ、ドーがオカラドーナツと説明をKが受けた。しかしコロドーはこの場では全くもって理不尽だ。
「豆腐屋がトーフもアブラゲも用意せず、タダのオカラを売るとは、詐欺だー」
「詐欺でも今日は、この夕は、このオッツアンの前ではカラ屋に徹するのだ」
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一方K、おカンムリの極みだが、何かを買わなければ食い物がない。気を取り戻し確かめ口調の言い振りは、
「コロはカラコロだと、それはカラ国のコロナ、カラコロナでは無いのだな、オカラを高温の油で揚げて内に含まれているコロナを絶滅させたのだな。カラコロナにあらず、オカラコロッケであれば所望いたすぞ」
残った3枚から2枚が買えた。ドーはツマミに向かないから買わずオカラを一勺貰った。
Kは奥さんと2コロッケと一皿オカラを分け合う晩餐となったとさ。

竜田川のモミジ(写真は奈良県サイトから)
♪千早ふる神代も聞かず龍田川カラくれないに水くくるとは♪(在原業平、古今集)
正統な解釈は岩波古典全集とかネットとかで調べてください。部族民蕃神の心に残る異端ながらとっても斬新な解釈は、

岩波など権威ある書房から発行される書はモミジ風景の句とする例が多い。
龍田川は関取、このところ負けが込み苦しい。チハヤ(常磐津師匠)に振られた、カミヨ(割烹仲居)に言い寄ったが聞いてくれない。食うに困って豆腐屋に飛び込んで、カラをくれと乞う。主人は「豆腐を買う人にはタダで分ける、お前は豆腐を買わないからやれない」カラくれない空腹から水に飛び込んだ。
昔からカラはタダだった。しかしこのタダを規制するとは豆腐を求めた客のみにタダ。この近代的経済原則が古今集の昔、平安時代からあったと業平が教えている。
小さん師匠(先代)の十八番だった。 了
お知らせ)部族民の香港脱出について。脱出するのはサイトのドメインです。
13日の深夜からtribesman.asiaにはIndex頁のみを入れております。Googleの動きを測ると2のクローンサイトを検索することはなく、優位サイトのみを検索結果に出す(ようです)。昨日の「お知らせ」でtribesman.netが同.asia(DSNサーバーが香港に置かれる)を訪問者数で凌駕したので、Google上は.netを優先している。よって今後は.netにのみ記事を投稿します。
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よろしくホームサイトにもご訪問を。 蕃神